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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第248話・イブさんのカバンと、今後について考えてみよう

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 コンコンコンコン

 バンクーバーまであと一日。
 順調な航海もまもなく終わりを迎えます。
 そのあとのスケジュールについては、まだ全く未定状態、まずは港町バンクーバーの精霊の祠か、ネプトゥス教会の大聖堂でシャーリィ様とアゲ・イナリ様に無事を告げなくてはなりません。
 追加のお稲荷さんもしっかりと準備したいところですが、船内に備え付けてある厨房は借りることが出来ないため、今回は出来合いのものをお供え用としてご用意しました。
 
 タイミングが合うのなら、港町に到着してすぐの納品になるかと思いますので、その足で大聖堂へ向かうことにしましょう。

「クリス店長、お客さんのようですわよ?」
「はいはい、今行きまーす」

 ベッドに横たわって型録を読んでいる場合ではありませんね。
 クレアさんは床一面に購入した使用品を並べてリストを作っている最中ですので、ここは私が。

──ガチャッ
「はい、なにか御用で……って、イブさん、それとソーゴさんまで、どうかなさいましたか?」

 扉の向こうには、ソーゴさんとカバン職人のイブさんが待っていました。

「俺は、バンクーバーについてからのスケジュールの確認に来ただけだが。彼女については直接聞いてくれるか?」
「私はですね、ちょっと見て貰いたいものがあったのですよ!!」
「なるほど。とは言っても、女性二人だけの部屋に殿方を招きいれるというのも問題でしょうから」

 そう呟いて後ろを見ると、クレアさんが頷いています。
 
「それじゃあ、普段、露店を出しているところでも構わないよ。まだ日が暮れるまでは時間があるようだし」
「同じく。それじゃあ先に行って待っているから、準備が出来たら来て欲しい」
「かしこまりました。では、急ぎ準備をしますので」

 そのまま二人を見送ると、クレアさんも荷物を順番にアイテムバッグに収納している真っ最中。

「さて。こっちは準備できましたわよ」
「それじゃあ行きましょうか?」

 ということで、甲板まで移動すると、ちょうど二人も露店に使わせてもらっているマストの近くに待っていました。

………
……


「それでは、まずはイブさんの御話を伺いますね」

 立ち話もなんでしたので、露店に使っているペルシア絨毯と折り畳み座椅子を取り出して並べます。
 普段はエセリアル馬車の中で使っているのですけれど、当面は使えそうもないのでアイテムボックスに移してありました。
 そしてローテーブルを引っ張り出して、沸騰したお湯の入っているポットとマグカップ、あとはインスタントのカフェオレが入っているスティックを取り出して簡単なティーパーティーモードの出来上がりです。

「ねえクリス店長、これって商品じゃないの?」
「商品はこちらですね、箱に納めてありますよ。こっちは私が普段使いで飲んでいるやつですから、ご安心ください。あとは……お茶菓子もあった方がいいですよね?」

 お茶菓子は千寿会のスウィートポテトパイ。
 まだ結構な在庫はありますので、少しぐらい食べても問題はありませんよね。

「うっはぁ……私はただ、これを見てもらったうえで、ちょうどいい留め金を売っていないか確認したかっただけなのにぃぃぃ」

 そう小声で叫びつつ、イブさんが小さなバッグを取り出しました。
 うん、どこかで見たことがあるようなデザインですけれど。

「これって、昨日購入して頂いた帆布製のトートバッグですか?」
「そういうことだね。一日かけて型紙を起こして、寝ないでここまで仕上げたんだよ。まあ、流石に帆布なんて持っていないからメリメリ羊の腹皮を使ってみたんだけれど、どうかな?」

 手渡されたバッグを開けてみたり、肩から下げてみたりと色々と見てみました。
 うん、すごくいい仕上がりで、これなら商品として行けそうな気がしますよ。
 ただ、バッグ自体の容量は小さく、買い物とかに使うには物足りなさそうです。
 それでも、革製のバッグでこのデザインのものは一般的には出回っていないどころか、イブさんも初見だったそうで。

「うん、すっごくいいと思いますよ。ただ、もう少し入り口が大きくて容量があったほうが、買い物用にも持ち運べるかと思います。デザインも素敵ですよね」
「そ、そうか……そういってもらえると、うれしいねぇ」
「でも、先ほどのお話では、金具がどうとか仰っていましたわよね? このバッグは金具を必要とするようには見えませんけれど?」

 うん、クレアさんナイスつっこみです。
 でも、慌てることなくイブさんが、もう一つのバッグを見せてくれました。

「こっちが本命。ちょっと硬めの皮を使った物て、ほら、ショルダーバッグっていうのが賞品であったじゃない? あれをイメージして作ってみたんだけれどさ……蓋の部分をどうしようか考えていたんだよ」
「ショルダーバッグ……これでしょうか?」

 うちの売れ筋商品の一つ、貴族のご婦人にお勧めしているショルダーバッグです。
 入り口はファスナーというもので閉じられており、さらに装飾用の蓋が付いています。
 この蓋はジジリウム?  あ、ネオジム磁石とかいう摩訶不思議な意思によって閉じられていまして、これは磁石単体では販売していません。

「そうそう、このひっつき石の金具が欲しいんだけれど、取り扱っている?」
「これ単体は無いはずですけれど……そうですね、代わりになりそうなものを調べておきますよ。まあ、すぐには入荷できませんけれど、バンクーバーでうちと懇意にしている商人の方に問い合わせてみますので」
「え? 問い合わせって……その商人ってバンクーバーにいるのか?」

 そりゃあ驚くでしょう。
 でも、これは企業秘密です。

「それは秘密ですよ。ほら、勇者語録にもあるではないですか、蛇の道は蛇って」
「クリス店長、それは『病んでは治療師に従う』ですよ、蛇の道に蛇が出るのは当たり前ですからね」
「あれ、そうでしたっけ。ちょっと間違えましたね」

 ふむ、こっちの大陸の勇者語録は、ハーバリオスに出回っているものとは異なるのかもしれませんね……って、クレアさんのツッコミですから、多分ですがカマンベール王国限定かもしれません。

「まあ、それならそれでいいか。別のバッグの金具も見せて欲しいんだけれど、いいかな? 手荒に扱わないからさ」
「まあ、サンプルとして用意しているものはありますから、そちらでよろしければ構いませんよ」

 いくつかのバッグを取り出してイブさんの目の前に並べます。
 すると一つ一つをチェックしつつ、細かいメモを取り始めました。
 あの目も用紙はカヤツリ紙、ハーバリオスでもちょっと高価なものじゃないですか。
 こっちでは、これが一般的なのかもしれませんね。

「さて、それじゃあ次は俺の話だけれど。フェイールの嬢ちゃんたちとの護衛の約束は、この船がバンクーバーに到着するまで。なんなら、そのあとも護衛を続けてやろうかっていうことなんだけど」
「はい、ぜひともよろしくお願いしますわ!!」

 クレアさんが瞳をキラキラと輝かせて懇願していますけれど。
 そもそも、ソーゴさんの今後のスケジュールを確認しないとならないのでは?

「クレアさん、早い、早すぎますってば。ちなみにですが、ソーゴさんはバンクーバーから先は、どこかの町に向かうのでしょうか? 確か、故郷に帰る途中と伺いましたよね?」
「故郷というか、生まれはフォンミューラー王国の王都、ヤンバリツヒだからなぁ。バンクーバーからは馬車でも30日、道中にある宿場町やいくつかの領都を経由するからもう少しかかる。まあ、急ぎじゃないので、一週間程度は護衛を続けても構わないし、なんだったら王都まで一緒に行って、観光案内をすることもできるが、どうよ?」

 ふむふむ。
 この国の王都に向かうのですか。
 それはそれで楽しそうですよね。
 ただ、それをすぐに決定するのは早急すぎると思います。
 さて、どうしたものか。
 
 

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