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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第246話・海洋国家の売れ筋商品とは

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 突然、朝から始まった臨時フェイール商店。

 宿屋の主人に場所代を支払い、宿屋前の路上にて露店を開くことになりました。
 ここは宿屋の敷地の中であり、公共の場ではないので商業ギルドへの報告は閉店後でも構わないそうです。
 ということで、朝からとんでもない状態になりしまたけれど。
 
「この紅茶の壺を二つ頂けるかしら?」
「これは、ハーバリオスの装飾品なのね、へぇ、他のお店よりもかなりやすいのね」
「ねぇ、食器は売っているかしら? 金属製や木製のものじゃなくて、陶器のやつなのですけれど」
「どうしても鉄器は錆びちゃってねぇ。かといって銀食器なんて普段使いには向いていないし、湿気のせいで木製の食器もあまり長持ちしないのよ」

 などなど、どうやら海洋国家では陶器関係は高価であまり出回っていないようです。
 ハーバリオス西方にある諸島国家では、木製の器に薬を塗って保存性を高めた漆器なるものがあるそうですけれど、そのようなものはミュラーゼン連合王国では出回っていないそうです。
 そして島国ということもあり、この国では上質な陶器は作られていないとか。
 つまり稼ぎ時なのですが、午後にはこの国を離れ、バンクーバーへと向かいます。

「ぐぬぬ……折角のもうけ話がぁ……ということで、それは次の港で考えましょう。確かメルカバリーの結婚式のために購入したカトラリーが残っていたはずです、クレアさん、これを並べてください、値段表はこれを!!」

 急ぎアイテムボックスからカトラリーの収めてある箱と値段表を取り出し、クレアさんに手渡します。
 
「はいっ、さあ、追加の商品が届きましたわ!! 奥様、こちらはいかがでしょうか!! 異世界の勇者さまが使用していた食器の数々、鉄器でありながら魔法が施されたかのように錆びることがない一品ですわ!!」
「もらうわ、うちには3セットお願い!!」
「うちは6人家族なので6つよ」
「フェイール商店の商品を購入の際は、おひとりさま5点となっています。買い占めは禁止していますので、後ろで算盤をはじいている商人さんたちはご遠慮くださいませ!!」

 とっさに機転を利かし、商談に持ち込もうとしている商人に対して注意喚起を行うなど、流石はクレアさんですね。
 これは私も、負けてなんていられません!

「こちらは本日、たった今限定の氷菓子、アイスクリームです。商品についてはアイテムボックスで時間を止めてありますが、暑い地方では溶けてしまうので冷たいうちに食べてください。これは試食用ですので、お好みの味を申し付け下さーーーい」

 ふっふっふ。
 南国島国と言えば暑い。
 つまり、キーーーンと冷たいアイスクリームセットは売れること間違いなし。
 49ersというメーカーのカップアイスですよ、私が【型録通販のシャーリィ】で初めて購入した商品ですよ。その味といい舌ざわりといい最高の逸品と私は思っています。
 だから商品以外にも、個人的に大量にストックしていますからね。
 そして小さいカップにスプーン一匙ずつ掬っていれたものを試食用として配布。

「これはににかしら……ってうわぁぁぁぁ」
「冷たああああい、甘ああああああああい」
「これも商品なの? ねえ、この色が違うのは味が違うのかしら?」
「はい、この白いのがバニラ、これはチョコレート、こちらはチョコミントで、これはミックスですね。残念なことに、こちらは溶けてしまうとおいしくないので、ご購入の際は冷たいうちにお食べください」
「買うわ、全種類頂戴!!」
「ありがとうございまーす」

 ふっふっふ。
 ハーバリオスでは一番人気のなかったチョコミント味、このミュラーゼンでは大人気ですよ。
 食べた方の感想をちょっと聞いていますと、食べた瞬間のスーッとした感覚がたまらなく涼しげだそうで、試食もチョコミントだけが次々と消えていくじゃあーりませんか!! ってあれ、チャーリィ皇子の口癖が映ったのかな?

「はいっ、これにて商品は完売でございます!! 次にこの国に来るのはいつになるか分かりませんが、またの機会がありましたらよろしくお願いします!!」

 そして気が付くと、出航1時間前。
 お昼ご飯を食べる暇もなく、ずっと商売に専念していましたよ。
 そろそろ撤収する時間なので本日の営業はこれにて終了、片づけを始めたところまでは良かったのですけれど。

「……買い物籠?」
「ん? クリス店長、買い物籠がどうかしたの?」

 そう、買い物を終えた人々は、みな風見草という樹木の枝や川をなめした繊維で編み込んだ籠に購入したものを入れて帰っています。
 これはハーバリオスでもそうなのですが、実は【型録通販のシャーリィ】では、ある特殊な籠が売っていまして。トートバッグと言いまして、丈夫な布で作られた折り畳み出来るカバンなのですよ。
 メルカバリーやサライでは、ほんの少しだけ販売したことがあるのですが、あれならもっと手軽に買い物を楽しめるんじゃないかなぁと思いまして。

「いえ、結構大きくて嵩張るものを使っているんだなぁと思っただけですよ」
「それって当たり前じゃないの? 籠は大きくてかさばるもの、そうでないと荷物や野菜なんて大量に運べないじゃない」
「まあ、そうなのですけれどね……ほら、こういうタイプのバッグなら、手軽に持ち運べていいんじゃないかなぁと思っただけですよ」

 そう告げながら、私はアイテムボックスからトートバックを一つ、取り出しました。
 【型録通販のシャーリィ】でも高級品に属する商品でして、とにかく丈夫。
 だって、この布地には『帆布』が用いられているのですから。
 私たちが乗っていた大型帆船にも使われている帆布、それを惜しげもなくカバンに使うなんて正気の沙汰とは思えません。
 
「あああ、店長がたまに使っているバッグね。これって貴族が使っている高級カバンなのでしょう? 値段も高そうですし、ちっょと庶民には手が届かないんじゃないですか?」
「んんん? これ、普通に販売できる値段だと思うんだけどなぁ……」

 思わず頭を傾げてしまいますけれど、クレアさんと私では価値観が少し異なっているのかもしれませんね。

「まあ、急いで船に戻りましょう。ちょうどソーゴさんも迎えに来たようですから」

 ふと見ると、大量の荷物を背負ったソーゴさんがやってきました。
 普通に旅をする商人のスタイルです、あの姿が基本なのです。

――シュルルッ
 露店に広げていた商品すべてをアイテムボックスに収めると、普段使いの肩下げカバンを担いでソーゴさんと合流。そのまま乗船許可証を見せて商用大型帆船ブルーウォーター号に乗船し、あとは部屋でのんびりとした時間を過ごすことにしましょう。
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