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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と
第242話・あ~ペルソナさんだぁ!!
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アゲ・イナリさまの加護により、私は理不尽にも宿に引きこもってしまうことになりまして。
食堂で夕食を取っていても、あちこちでひそひそと噂話が聞こえてきますし、もうね、あんなに派手に加護を与えてくれたアゲ・イナリさまには一度、きっちりとお話をしたいところですけれど。
でも、私のことを心配して加護を与えてくださったのですから、お小言のようにではなく相談程度に話をしてみた方が良いかと思います。
それに、明日の朝になりましたらペルソナさんの配達も到着しますので、今までに起こった出来事を全部話してしまいたい気持ちでいっぱいです……ッテ、ダメですよね、ベルソナさんはお仕事でここにくるのですから。
「はぁ……」
「ンンン、クリスちゃん、元気がないようだけれど大丈夫?」
「ええ、とりあえずはもうお腹がいっぱいです。そういえばソーゴさんは?」
「とっくに食事を終えて、部屋に戻っていきましたよ。明日の昼に出航じゃないですか、それまでに商品の仕入れを終えておかないとって話していましたから」
なるほど。
さすがはソーゴさん、あいも変わらず目利きが鋭いようで。
オーウェンでも、彼はいち早く調味料に目を付けていましたからね。
それならまあ、明日にでも一緒に船に向かうことにしましょうか。
「クレアさんは、もう仕入れとかは終わらせたのですか?」
「ええ、それはもう、しっかりと。この後はバンクーバーとかいう港町に行って、そこから……そこからどうするのですか?」
そこですよ、問題は。
折り返しの船に乗って、ハーバリオスまで戻った方が安全だということは理解しています。
でも、ちょっとだけ、異国での商売をしてみたいという気持ちもあるのですよ。
なにより、ここは諸島連合王国、港町サライなど比較になりないぐらいの海産物や特産品が目白押しですからね。
あ、目白押しというのは勇者語録にあったのですよ。
人が多くて押し合いへし合いしている様子を、『目白押し』というそうです。
確か、メジロという家のお嬢様が大好きなスイーツを買い占めるために大勢の使用人にスイーツ店に並ぶように命じたところ、それを見て大勢の客が殺到したことが由来だったはず……。
ちがったかな?
「……うん、その顔はまた何か考えているわよね」
「そうなのですよ。私としてはとっととハーバリオスに帰りたいという気持ちが高いのですけれど、商人としては、異国の商品や特産品などを色々と見て回りたいという気持ちがありまして。それで、明日まで少し考えさせてほしいのですよ」
「まあ、私は店長がハーバリオスに帰るって決めたら従うだけですけれどね。さすがに異国の地で一人っていうのはちょっときついかと思いますし」
「ええ、そのあたりも踏まえて、じっくりと考えてみましょう」
ということで、とっとと食事を終えて私たちは自室へ移動。
しっかりと鍵を掛けてからシャワーを浴び、来るべき明日のために体を休めることにしましたよ。
………
……
…
――翌朝
まだ朝6つの鐘が鳴る前。
私は身支度を整えて、宿の一階にある食堂で外を眺めていました。
シャーリィさまからのお告げでは、今日からペルソナさんの配達が再開されます。
突然の船の上への転移から始まったドタバタ騒動についても、ようやく彼にも話をすることが出来ます。
――ガラガラガラガラ
やがて、聞き覚えのある馬車の音が耳に届いたかと思うと、宿の前に白い馬車が到着しました。
扉についている紋章はまさしく【型録通販のシャーリィ】の精霊紋章。
そして御者台から飛び降りてきたペルソナさんは、穏やかでやさしそうな顔をこちらに向けています。
マスカレードタイプのマスクなので、初めて会った時よりも顔がはっきりとわかりますし、彼の姿を見た瞬間、私の目にも涙があふれてきまして……。
「クリスティナさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして馬車の扉が開き、ノワールさんが飛び出してきました。
え、どうしてそこにノワールさん?
「ご無沙汰しています……クリスティナさん、元気そうで私としてもほっとしていますよ」
丁寧に頭を下げるペルソナさん。
ええ、私もホツとしました。
「ありがとうございます。もう、色々なことがありまして、何処から説明をしたものかと考えていましたけれど……ノワールさんも無事だったようですね。本当によかったです」
「はい、私もクリムゾンも、クレアさんの従者の皆さんも元気です。今はメルカバリーでおクリスティナさまたちの帰還を待っている次第ですよ……」
「そうなのですか、それはよかった……」
「まあ、色々と積お話はあるでしょうけれど、まずは納品を終えてしまいましょう。ノワールさん、手伝っていただけますよね」
そうペルソナさんが告げると、ノワールさんが背筋をシャキーンと伸ばして馬車の後ろに向かいました。ふむ、なにか色々と訳がありそうですね。
そしていつものように納品作業をしていますと、宿の中や外に大勢の商人たちが集まってきました。
クレアさんとソーゴさんもこちらをじっと見ていますけれど、話しかけてくるようなそぶりはありませんね。
「ん~、フェイールさん、その馬車があれか? 巣国の商品を届けてくれる商人さんなのか?」
「「「え?」」」
突然のソーゴさんの言葉に、私だけでなくノワールさんとペルソナさんまで手が止まりましたよ。
ペルソナさんなんて、ポケットから小さな杖を取り出してなにか術式を唱えていますけれど、特に何も変わった様子はありません。
あれ……まさか、認識阻害の効果が薄まっているのでしょうか?
そう考えて周囲を見渡してみますが、其れらしいようすはありません。
ソーゴさんだけが、まるで何もなかったかのように話しかけてきたのですよ。
さて、この場をどう切り抜けましょうか。
食堂で夕食を取っていても、あちこちでひそひそと噂話が聞こえてきますし、もうね、あんなに派手に加護を与えてくれたアゲ・イナリさまには一度、きっちりとお話をしたいところですけれど。
でも、私のことを心配して加護を与えてくださったのですから、お小言のようにではなく相談程度に話をしてみた方が良いかと思います。
それに、明日の朝になりましたらペルソナさんの配達も到着しますので、今までに起こった出来事を全部話してしまいたい気持ちでいっぱいです……ッテ、ダメですよね、ベルソナさんはお仕事でここにくるのですから。
「はぁ……」
「ンンン、クリスちゃん、元気がないようだけれど大丈夫?」
「ええ、とりあえずはもうお腹がいっぱいです。そういえばソーゴさんは?」
「とっくに食事を終えて、部屋に戻っていきましたよ。明日の昼に出航じゃないですか、それまでに商品の仕入れを終えておかないとって話していましたから」
なるほど。
さすがはソーゴさん、あいも変わらず目利きが鋭いようで。
オーウェンでも、彼はいち早く調味料に目を付けていましたからね。
それならまあ、明日にでも一緒に船に向かうことにしましょうか。
「クレアさんは、もう仕入れとかは終わらせたのですか?」
「ええ、それはもう、しっかりと。この後はバンクーバーとかいう港町に行って、そこから……そこからどうするのですか?」
そこですよ、問題は。
折り返しの船に乗って、ハーバリオスまで戻った方が安全だということは理解しています。
でも、ちょっとだけ、異国での商売をしてみたいという気持ちもあるのですよ。
なにより、ここは諸島連合王国、港町サライなど比較になりないぐらいの海産物や特産品が目白押しですからね。
あ、目白押しというのは勇者語録にあったのですよ。
人が多くて押し合いへし合いしている様子を、『目白押し』というそうです。
確か、メジロという家のお嬢様が大好きなスイーツを買い占めるために大勢の使用人にスイーツ店に並ぶように命じたところ、それを見て大勢の客が殺到したことが由来だったはず……。
ちがったかな?
「……うん、その顔はまた何か考えているわよね」
「そうなのですよ。私としてはとっととハーバリオスに帰りたいという気持ちが高いのですけれど、商人としては、異国の商品や特産品などを色々と見て回りたいという気持ちがありまして。それで、明日まで少し考えさせてほしいのですよ」
「まあ、私は店長がハーバリオスに帰るって決めたら従うだけですけれどね。さすがに異国の地で一人っていうのはちょっときついかと思いますし」
「ええ、そのあたりも踏まえて、じっくりと考えてみましょう」
ということで、とっとと食事を終えて私たちは自室へ移動。
しっかりと鍵を掛けてからシャワーを浴び、来るべき明日のために体を休めることにしましたよ。
………
……
…
――翌朝
まだ朝6つの鐘が鳴る前。
私は身支度を整えて、宿の一階にある食堂で外を眺めていました。
シャーリィさまからのお告げでは、今日からペルソナさんの配達が再開されます。
突然の船の上への転移から始まったドタバタ騒動についても、ようやく彼にも話をすることが出来ます。
――ガラガラガラガラ
やがて、聞き覚えのある馬車の音が耳に届いたかと思うと、宿の前に白い馬車が到着しました。
扉についている紋章はまさしく【型録通販のシャーリィ】の精霊紋章。
そして御者台から飛び降りてきたペルソナさんは、穏やかでやさしそうな顔をこちらに向けています。
マスカレードタイプのマスクなので、初めて会った時よりも顔がはっきりとわかりますし、彼の姿を見た瞬間、私の目にも涙があふれてきまして……。
「クリスティナさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして馬車の扉が開き、ノワールさんが飛び出してきました。
え、どうしてそこにノワールさん?
「ご無沙汰しています……クリスティナさん、元気そうで私としてもほっとしていますよ」
丁寧に頭を下げるペルソナさん。
ええ、私もホツとしました。
「ありがとうございます。もう、色々なことがありまして、何処から説明をしたものかと考えていましたけれど……ノワールさんも無事だったようですね。本当によかったです」
「はい、私もクリムゾンも、クレアさんの従者の皆さんも元気です。今はメルカバリーでおクリスティナさまたちの帰還を待っている次第ですよ……」
「そうなのですか、それはよかった……」
「まあ、色々と積お話はあるでしょうけれど、まずは納品を終えてしまいましょう。ノワールさん、手伝っていただけますよね」
そうペルソナさんが告げると、ノワールさんが背筋をシャキーンと伸ばして馬車の後ろに向かいました。ふむ、なにか色々と訳がありそうですね。
そしていつものように納品作業をしていますと、宿の中や外に大勢の商人たちが集まってきました。
クレアさんとソーゴさんもこちらをじっと見ていますけれど、話しかけてくるようなそぶりはありませんね。
「ん~、フェイールさん、その馬車があれか? 巣国の商品を届けてくれる商人さんなのか?」
「「「え?」」」
突然のソーゴさんの言葉に、私だけでなくノワールさんとペルソナさんまで手が止まりましたよ。
ペルソナさんなんて、ポケットから小さな杖を取り出してなにか術式を唱えていますけれど、特に何も変わった様子はありません。
あれ……まさか、認識阻害の効果が薄まっているのでしょうか?
そう考えて周囲を見渡してみますが、其れらしいようすはありません。
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