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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と
第239話・力強い味方というか、要領の良い方というか
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疲れ切った体を宿で休めた翌日。
私とクレアさんは、朝食の席でソーゴさんと合流しました。
昨晩の雰囲気とは打って変わって、ソーゴさんは貴族のよう身なりのいい衣服を身に付けています。
長い銀髪と切れ長の目、細身の体と雰囲気的には商人というよりも貴族の御曹司です。
「昨日はありがとうございましたる私はクレア・アイゼンボーグと申します。カマンベール王国はアイゼンボーグ家の長女でして、分け合って商人としての旅をしている最中です。あなたのお名前を教えて頂いてよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……ちょっと待ってくれるか? 先に朝食を取りたいのでね」
「はい、待ちます、とっても待ちますわ!! クリスさん、私たちも朝食をとらなくてはなりません、ソーゴさまと同じテーブルで!!」
「え、そうなのですか?」
気のせいかしれませんが、つい先ほど、クレアさんがソーゴさんの姿を見て以来ずっとこのようにアゲアゲテンションなのですが。
あ、アゲアゲテンションというのは勇者語録ではなく柚月さんから教えてもらった異世界の言葉ですね。
気分が高揚して、普段よりもテンションが高いということをアゲアゲテンションというそうです。
うん、柚月さんの間言葉ということは、すなわち勇者語録。
私は今、新たな勇者語録の誕生に立ち会っているのかも知れません。
そんなこんなでクレアさんと一緒に私も朝食をとりまして。
そしてソーゴさんも食後のコッフィを楽しんでいるようです。
異世界で言うところのコーヒー、このヘルヘイブン王国本島で栽培されている飲み物の原料だそうで。
とっても苦いのです。
だから私は、アイテムボックスから『ムーンバッカスのクリーム』と『明和堂のはちみつ』なるものを取り出し、それを少量ずつ混ぜて飲みます。
これも以前、柚月さんがいた時に【型録通販のシャーリィ】で購入したものの残りです。
柚月さんに頼まれて購入した『ムーンバッカスのコーヒーギフト』なるものに入っていたものですね。
「ク、クリスさん……私にもそれを」
「はい、流石に苦いですからね。ハーバリオスで流通していたコッフィよりも濃くて苦いので、つらいですよね」
「うんうん……」
そう頷きつつクレアさんがドバドバと蜂蜜とクリームを大量に入れ、混ぜて飲んでいます。
そしてようやく人心地が付いたころ、ソーゴさんが話を始めました。
「しっかし、どうしてフェイールさんたちは護衛もなしにミュラーゼンに来たんだい? バンクーバーならまだ治安も落ち着いているけれど、このヘルヘイブンのスラムとかは危険だからね」
「ええ、実は話せば長い事なのですが……」
とりあえず、私たちは馬車に乗って移動中に何者かに襲われ、海の上に転移してしまったことを説明します。
出来る限り【型録通販のシャーリィ】の事は隠していますけれど、そもそもその部分については関係ないようなので敢えて割愛しました。
「ということで、私たちはノワールさんたちとも逸れてしまいまして。とりあえずはバンクーバーまで向かい、そこでこれからどうするか考えることにしました。それで、ソーゴさんはどうしてここに?」
「どうにもこうにも。俺の故郷はミュラーゼン連合王国のフォンミューラー王国だからな。ハーバリオスじゃあ商人としての修行をしていたところだ。それでちょいと野暮用でね、久しぶりに故郷に帰る途中だっていうことだ」
「なるほど、そうでしたか……」
そう私が頷いていると、クレアさんが私の耳元に口を寄せて。
「クリスさん、この方に護衛をお願いしてはいかがでしょうか? 昨日の私たちを助けてくれた手腕といい、実力は十分かと思われますわ」
「ええ、そうなの? そっか、実力は十分なのですか……」
いえ、決してソーゴさんが弱いということではありまらんよ。
普段からブランシュさんやノワールさん、そしてクリムゾナンさんを見ていたせいか、強さの基準が高くなっているのかも知れません。
そんなことを考えていますと。
「フェイールさんは、どの船に乗って来たんだ?」
「私たちは、ブルーウォーター号に乗ってきました」
「ふむ……ということは、出発は明日か。よし、フェイールさん、俺をバンクーバーまでの護衛として雇わないか?」
「はい、よろこんで!!」
ってえええ、そこでどうしてクレアさんが返事をするのですか?
両手を組んで瞳をキラキラさせて。
「あ、ああ、こっちのクレアちゃんは大賛成のようだが、どうする?」
「そうですね……」
冷静に考えましょう。
昨日の件、私たちは危ないところをソーゴさんに助けてもらいました。
もしもこれが見も知らない人でしたら、出来レースじゃないかって疑ってもいい状態なのですが。
そもそもソーゴさんとはあちこちの町でであっていますし、なんどか取引もしています。
商人ギルドの身分証も確認していますので、身元はしっかりとしています。
ということで、怪しいという部分は排除しておきましょう。
「ちなみに、護衛をお願いした場合の費用はいかほどで?」
「そうさなぁ。フェイールさんはまた、色々な商品をアイテムボックスに収めてきているんだろう? バンクーバーに到着したら、そこから10品、好きなものを割引で売って欲しい。あとは金貨4枚ってところか。冒険者の護衛契約の相場ってところでどうだ?」
「乗りました!!」
スッ、と右手を差し出します。
するとソーゴさんが私の手をがっちりと握ってくれました。
これで契約は成立、あとは出発の日である明日までに、仕入れを終わらせる必要があります。
「それじゃあ、俺は今のうちに船をキャンセルしてブルーウォーター号の乗船許可を取ってくる。もしも仕入れにいくのなら、俺が戻ってくるまで待っていてくれるか?」
「昨日のごろつきがうろうろしている可能性がある、ということですね?」
「そういうことだ。女の子二人で仕入れに行くよりは、軽装戦士の護衛が付いていると思わせた方が安全だからな。それじゃあ、またあとで」
そう告げてから、ソーゴさんが立ち上がって外に向かって走っていきます。
「それじゃあ、私たちはもう少し部屋で休んで居ましょうか」
「そうですね」
ということで、従業員の方にソーゴさんか来たら連絡を頂けるようにと銀貨を渡し、私たちは部屋へと戻っていきます。
さて、クレアさんが一緒だと、【型録通販のシャーリィ】に追加注文をすることもできないので色々と不便ですよね。いくら魔導書に認識阻害の効果があるとはいえ、危険なことはしない方がよいかと思います。
まあ、海の上での配達なんて、いくらペルソナさんでも難しいでしょうから。
それにしても、陸に上がった瞬間に゜こんな事件に巻き込まれるなんて……ひょっとしてこれからの旅葉、前途多難なのでしょうか。
私とクレアさんは、朝食の席でソーゴさんと合流しました。
昨晩の雰囲気とは打って変わって、ソーゴさんは貴族のよう身なりのいい衣服を身に付けています。
長い銀髪と切れ長の目、細身の体と雰囲気的には商人というよりも貴族の御曹司です。
「昨日はありがとうございましたる私はクレア・アイゼンボーグと申します。カマンベール王国はアイゼンボーグ家の長女でして、分け合って商人としての旅をしている最中です。あなたのお名前を教えて頂いてよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……ちょっと待ってくれるか? 先に朝食を取りたいのでね」
「はい、待ちます、とっても待ちますわ!! クリスさん、私たちも朝食をとらなくてはなりません、ソーゴさまと同じテーブルで!!」
「え、そうなのですか?」
気のせいかしれませんが、つい先ほど、クレアさんがソーゴさんの姿を見て以来ずっとこのようにアゲアゲテンションなのですが。
あ、アゲアゲテンションというのは勇者語録ではなく柚月さんから教えてもらった異世界の言葉ですね。
気分が高揚して、普段よりもテンションが高いということをアゲアゲテンションというそうです。
うん、柚月さんの間言葉ということは、すなわち勇者語録。
私は今、新たな勇者語録の誕生に立ち会っているのかも知れません。
そんなこんなでクレアさんと一緒に私も朝食をとりまして。
そしてソーゴさんも食後のコッフィを楽しんでいるようです。
異世界で言うところのコーヒー、このヘルヘイブン王国本島で栽培されている飲み物の原料だそうで。
とっても苦いのです。
だから私は、アイテムボックスから『ムーンバッカスのクリーム』と『明和堂のはちみつ』なるものを取り出し、それを少量ずつ混ぜて飲みます。
これも以前、柚月さんがいた時に【型録通販のシャーリィ】で購入したものの残りです。
柚月さんに頼まれて購入した『ムーンバッカスのコーヒーギフト』なるものに入っていたものですね。
「ク、クリスさん……私にもそれを」
「はい、流石に苦いですからね。ハーバリオスで流通していたコッフィよりも濃くて苦いので、つらいですよね」
「うんうん……」
そう頷きつつクレアさんがドバドバと蜂蜜とクリームを大量に入れ、混ぜて飲んでいます。
そしてようやく人心地が付いたころ、ソーゴさんが話を始めました。
「しっかし、どうしてフェイールさんたちは護衛もなしにミュラーゼンに来たんだい? バンクーバーならまだ治安も落ち着いているけれど、このヘルヘイブンのスラムとかは危険だからね」
「ええ、実は話せば長い事なのですが……」
とりあえず、私たちは馬車に乗って移動中に何者かに襲われ、海の上に転移してしまったことを説明します。
出来る限り【型録通販のシャーリィ】の事は隠していますけれど、そもそもその部分については関係ないようなので敢えて割愛しました。
「ということで、私たちはノワールさんたちとも逸れてしまいまして。とりあえずはバンクーバーまで向かい、そこでこれからどうするか考えることにしました。それで、ソーゴさんはどうしてここに?」
「どうにもこうにも。俺の故郷はミュラーゼン連合王国のフォンミューラー王国だからな。ハーバリオスじゃあ商人としての修行をしていたところだ。それでちょいと野暮用でね、久しぶりに故郷に帰る途中だっていうことだ」
「なるほど、そうでしたか……」
そう私が頷いていると、クレアさんが私の耳元に口を寄せて。
「クリスさん、この方に護衛をお願いしてはいかがでしょうか? 昨日の私たちを助けてくれた手腕といい、実力は十分かと思われますわ」
「ええ、そうなの? そっか、実力は十分なのですか……」
いえ、決してソーゴさんが弱いということではありまらんよ。
普段からブランシュさんやノワールさん、そしてクリムゾナンさんを見ていたせいか、強さの基準が高くなっているのかも知れません。
そんなことを考えていますと。
「フェイールさんは、どの船に乗って来たんだ?」
「私たちは、ブルーウォーター号に乗ってきました」
「ふむ……ということは、出発は明日か。よし、フェイールさん、俺をバンクーバーまでの護衛として雇わないか?」
「はい、よろこんで!!」
ってえええ、そこでどうしてクレアさんが返事をするのですか?
両手を組んで瞳をキラキラさせて。
「あ、ああ、こっちのクレアちゃんは大賛成のようだが、どうする?」
「そうですね……」
冷静に考えましょう。
昨日の件、私たちは危ないところをソーゴさんに助けてもらいました。
もしもこれが見も知らない人でしたら、出来レースじゃないかって疑ってもいい状態なのですが。
そもそもソーゴさんとはあちこちの町でであっていますし、なんどか取引もしています。
商人ギルドの身分証も確認していますので、身元はしっかりとしています。
ということで、怪しいという部分は排除しておきましょう。
「ちなみに、護衛をお願いした場合の費用はいかほどで?」
「そうさなぁ。フェイールさんはまた、色々な商品をアイテムボックスに収めてきているんだろう? バンクーバーに到着したら、そこから10品、好きなものを割引で売って欲しい。あとは金貨4枚ってところか。冒険者の護衛契約の相場ってところでどうだ?」
「乗りました!!」
スッ、と右手を差し出します。
するとソーゴさんが私の手をがっちりと握ってくれました。
これで契約は成立、あとは出発の日である明日までに、仕入れを終わらせる必要があります。
「それじゃあ、俺は今のうちに船をキャンセルしてブルーウォーター号の乗船許可を取ってくる。もしも仕入れにいくのなら、俺が戻ってくるまで待っていてくれるか?」
「昨日のごろつきがうろうろしている可能性がある、ということですね?」
「そういうことだ。女の子二人で仕入れに行くよりは、軽装戦士の護衛が付いていると思わせた方が安全だからな。それじゃあ、またあとで」
そう告げてから、ソーゴさんが立ち上がって外に向かって走っていきます。
「それじゃあ、私たちはもう少し部屋で休んで居ましょうか」
「そうですね」
ということで、従業員の方にソーゴさんか来たら連絡を頂けるようにと銀貨を渡し、私たちは部屋へと戻っていきます。
さて、クレアさんが一緒だと、【型録通販のシャーリィ】に追加注文をすることもできないので色々と不便ですよね。いくら魔導書に認識阻害の効果があるとはいえ、危険なことはしない方がよいかと思います。
まあ、海の上での配達なんて、いくらペルソナさんでも難しいでしょうから。
それにしても、陸に上がった瞬間に゜こんな事件に巻き込まれるなんて……ひょっとしてこれからの旅葉、前途多難なのでしょうか。
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