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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と
第238話・スラムというのは犯罪の温床ですね
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クレアさんのマジックバッグが盗まれた件について。
私とクレアさんは盗人を追いかけて町のなかを走り回っていました。
そしてふと気が付くと、街の表通りではなく裏通り、それも人気のない場所に紛れ込んでしまいましたよ。
「……クリス店長……ここってやばいところだよね? 私の国でもさ、スラム街っていう貧困層や犯罪者の巣窟になっているところがあって、貴族の子女は決して近寄るなって言われていたのよ」
「そうですね。私も小さい頃、父に聞いたことがあります。ハーバリオス王都でも、北西地区は近寄ってはならないって。身なりのいい服装をした貴族の子供なんて、誘拐されて腹いせに嬲りものにされるか、もしくは身代金請求されるとか政敵に売り飛ばされるって……」
──ガサゴソッ
あちこちの建物から、なにやら音が聞こえてきます。
普段ならノワールさんやクリムゾンさんが助けに来てくれるのですが、今はクレアさんと私の二人のみ。
これは、覚悟を決めなくてはなりませんね。
「へぇ、ずいぶんと身なりのいい……ん、よく見たら一人はつぎはぎだらけの服じゃねえか。でもそっちの子は金持ちのようだなぁ」
「そこのお前が連れてきたのか? それなら金貨5枚で買い取ってやるよ、だからとっととその女を置いていきな」
「それとも、お嬢ちゃんも一緒に売り飛ばされたいかな?」
一人、また一人と建物の中から姿を現してきました。
よく言えば食い詰めて落ちぶれた低ランク冒険者、悪く言うと犯罪者という感じの男たちがゆっくりと私たちの周りに集まってきました。
「ふぅ……クレアさん、覚悟を決めてください」
──スッ
アイテムボックスの中から、一本のショートソードを取り出します。
これは普段は使うことが無い、護身用に所持していたもの。
以前、パルフェランで商売をした時、念のために購入してあったのですが。
そもそも、護身術なんて学んでいたこともありません、全てクリムゾンさんやノワールさんが戦っていた姿を、見様見真似程度に覚えただけです。
「まあ、仕方がないわねぇ……折角だから、私も相手をしてあげるわよ」
クレアさんも覚悟を決めたような顔つきで、両手で印を組み始めます。
魔導書もなく、発動媒体である杖もない状態での魔術詠唱。
その発動率が著しく低下しているのは私も基礎知識としては知っています。
けれど、クレアさんが印を組みだした瞬間、男たちが少しずつ下がり始めました。
「ま、待て待て、魔術師だと?」
「ガキかと思っていたら、お前は魔術師なのかよ……」
「ええ。私はこの方の護衛をしている魔術師のクレメンスよ。命が惜しかったら、下がりなさい!」
クレメンス……って、いきなり偽名ですか。
では、私も光の精霊をショートソードの刀身に集めます。すると男たちはさらに後ずさりを始めましたが。
「おいおい、お前ら、こんな餓鬼どもにビビっちまっているのかぁ?」
そう呟きつつ、レザーアーマーらしき防具に身を包んだ巨漢がこちらに歩いてきます。
そして私たちを見た瞬間、背中から巨大な両手剣を引き抜いて身構えました。
「お嬢ちゃんよぉ……もしもそれがはったりだったら、すぐに降参するんだな。もしも本気だっていうのなら、一人はぶっ殺して一人は売り飛ばす。そうさなぁ……そっちの栗色の髪の嬢ちゃんはぶっ殺すか。魔術師は高く売れるからな……」
「は、は、はったりかどうか、試せばわかるんじゃない?」
クレアさんが声を震わせつつ、そう呟きます。
顔色も悪くなり、体も震え始めました。
これは急いで逃げないと、二人とも危ない。
そう思ったものの、私の身体も震えています……。
足が思うように動かない、手も震えている、剣を持つ力も抜けてくる。
そんな私たちの事を見て、巨漢がゲラゲラと笑い始めました。
「そら見ろ。こんな餓鬼が戦えるはずなんてない。どうせ物見雄山雄山かなにかで来て、護衛手瀬も巻いてきたんだろうさ。ほら、とっとと捕まえちまえ」
「へ、へい」
「それなら……」
ゆっくりと男たちが付か寄ってきます。
駄目、体も動かない、声も震えて……。
「あ、あ……」
ノワールさん、クリムゾンさん
助けて。
ブランシュさん……ペルソナさん……。
柚月さん……。
「た、たすけ……て……」
勇気を振り絞って出たのは、小さな声。
横でしゃがみこんでしまったクレアさんも、涙を流しています。
「……うん、まあ……助けてやるのは構わないんだが……高くつくぜ」
私たちの後ろから聞こえてきた声。
どこかで聞いたことがあるような。
でも、今はなりふりなんて構っていられない。
「た……助けて……」
「了解。ということで、すまないけれどあんたたちは振り向いてさよならだ。命が惜しかったらな」
「はぁ? どこの誰だか知らないけれど、この俺様を誰だと思ってフベボシュッ」
両手剣を構えて叫ぶ巨漢。
だけど、私の後ろから走って来た男性らしきひとが、巨漢の顔面に力いっぱいの膝蹴りを叩き込みました。
深々とフードを被っていたので、顔はよく判りません。
けれど、軽装の皮鎧とレイピアを携えていたのは見えました。
──グハァッ
そして、顔がつぶれ大量の血を流して後ろに倒れる巨漢。
一体何が起こっているのか、私にはよく分かっていません。
ただ、彼が私たちを助けてくれた、そのことは理解できます。
「ほら、とっとと逃げるぞフェイールさん。そっちの嬢ちゃんも立てるか!!」
「あ、は、はい。クレアさん、逃げよう!」
「……はい」
どうにか立ち上がるクレアさん。
そして男に手を引かれ、私とクレアさんはこの見知らぬ路地から走り出します。
背後で男たちが怒鳴り散らしているようですけれど、追いかけて来る様子もないので今は全力で逃げましょう。
そして、何処をどう逃げていたのか私もクレアさんも覚えていません。
ただ、男の人に手を引かれてて無我夢中で走っていただけ。
そして気が付くと、私たちの宿泊する予定の宿の近くまでたどり着いていました。
「ハアハアハアハア……」
「あ、ありがとうございます……」
ようやく走るのを止めた私たちは、改めて男性にお礼をと思い声を掛けました。
「いや、まあ、フェイールの嬢ちゃんには借りがあるからなぁ」
「え……私に借りですか……」
そう問いかけると、男性はフードをゆっくりと取って顔を見せてくれました。
「ほら、覚えていないかな? 以前、ハラタキっていう宿場町で、珍しい調味料を売って貰ったじゃねーか。その前はメルカバリーでも会ったことがあるよな?」
「あ、た、旅商人のソーゴさん?」
「ご名答。と、ほら、このバッグはそっちの嬢ちゃんのだろう?」
そう告げつつ、ソーゴさんは腰に下げていたポーチから、クレアさんのアイテムバッグを取り出して渡してくれました。
「これは私の……」
「やっぱりか。実はな、俺もこの街に来て盗人に荷物を盗まれてな。それを追いかけていたら、ドジな女の子からバッグを盗んだっていう小僧を見つけてよ。このあたりで盗みを生業としている餓鬼どもだったらしく、問い詰めて話を聞きだしたらフェイールさんたちが裏道まで盗人を追いかけていったっていうじゃないか……」
実はその盗人も囮だったらしく、裏道まで女性を引き付けたら、あとはボスたちが捕まえて売り飛ばしているということだそうで。
「まあ、今頃はこの街の騎士団が動いているだろうさ。途中で俺が通報したからな」
「そ、そうでしたか……」
ああっ、いきなり緊張の糸が切れたのか、私も体の力が抜けていきました。
「まあ、今日のところはゆっくりと休みな。この宿だったら俺も泊っているから、明日の朝食の時にでも色々と話を聞かせてくれ。見た感じ、あの魔術師ブランシュとかいう護衛もいないようだから」
「はい、今日はありがとうございました」
「私のカバンまで取り返してくれて……本当に助かりました」
私もクレアさんも深々と頭を下げます。
するとソーゴさんは気にするなとだけ告げて、宿に入っていきました。
「あの、クリス店長……本当にごめんなさい」
「いいよいいよ。とりあえず無事だったからさ。でも、今度からは気を付けないとね。さ、
さ、今日はゆっくりと休みましょう」
「はい」
ということて゛さっそく宿にチェックイン。
もうすっかり疲れていたので、シャワーを浴びてとっとと眠ることにしましたよ。
私とクレアさんは盗人を追いかけて町のなかを走り回っていました。
そしてふと気が付くと、街の表通りではなく裏通り、それも人気のない場所に紛れ込んでしまいましたよ。
「……クリス店長……ここってやばいところだよね? 私の国でもさ、スラム街っていう貧困層や犯罪者の巣窟になっているところがあって、貴族の子女は決して近寄るなって言われていたのよ」
「そうですね。私も小さい頃、父に聞いたことがあります。ハーバリオス王都でも、北西地区は近寄ってはならないって。身なりのいい服装をした貴族の子供なんて、誘拐されて腹いせに嬲りものにされるか、もしくは身代金請求されるとか政敵に売り飛ばされるって……」
──ガサゴソッ
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普段ならノワールさんやクリムゾンさんが助けに来てくれるのですが、今はクレアさんと私の二人のみ。
これは、覚悟を決めなくてはなりませんね。
「へぇ、ずいぶんと身なりのいい……ん、よく見たら一人はつぎはぎだらけの服じゃねえか。でもそっちの子は金持ちのようだなぁ」
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一人、また一人と建物の中から姿を現してきました。
よく言えば食い詰めて落ちぶれた低ランク冒険者、悪く言うと犯罪者という感じの男たちがゆっくりと私たちの周りに集まってきました。
「ふぅ……クレアさん、覚悟を決めてください」
──スッ
アイテムボックスの中から、一本のショートソードを取り出します。
これは普段は使うことが無い、護身用に所持していたもの。
以前、パルフェランで商売をした時、念のために購入してあったのですが。
そもそも、護身術なんて学んでいたこともありません、全てクリムゾンさんやノワールさんが戦っていた姿を、見様見真似程度に覚えただけです。
「まあ、仕方がないわねぇ……折角だから、私も相手をしてあげるわよ」
クレアさんも覚悟を決めたような顔つきで、両手で印を組み始めます。
魔導書もなく、発動媒体である杖もない状態での魔術詠唱。
その発動率が著しく低下しているのは私も基礎知識としては知っています。
けれど、クレアさんが印を組みだした瞬間、男たちが少しずつ下がり始めました。
「ま、待て待て、魔術師だと?」
「ガキかと思っていたら、お前は魔術師なのかよ……」
「ええ。私はこの方の護衛をしている魔術師のクレメンスよ。命が惜しかったら、下がりなさい!」
クレメンス……って、いきなり偽名ですか。
では、私も光の精霊をショートソードの刀身に集めます。すると男たちはさらに後ずさりを始めましたが。
「おいおい、お前ら、こんな餓鬼どもにビビっちまっているのかぁ?」
そう呟きつつ、レザーアーマーらしき防具に身を包んだ巨漢がこちらに歩いてきます。
そして私たちを見た瞬間、背中から巨大な両手剣を引き抜いて身構えました。
「お嬢ちゃんよぉ……もしもそれがはったりだったら、すぐに降参するんだな。もしも本気だっていうのなら、一人はぶっ殺して一人は売り飛ばす。そうさなぁ……そっちの栗色の髪の嬢ちゃんはぶっ殺すか。魔術師は高く売れるからな……」
「は、は、はったりかどうか、試せばわかるんじゃない?」
クレアさんが声を震わせつつ、そう呟きます。
顔色も悪くなり、体も震え始めました。
これは急いで逃げないと、二人とも危ない。
そう思ったものの、私の身体も震えています……。
足が思うように動かない、手も震えている、剣を持つ力も抜けてくる。
そんな私たちの事を見て、巨漢がゲラゲラと笑い始めました。
「そら見ろ。こんな餓鬼が戦えるはずなんてない。どうせ物見雄山雄山かなにかで来て、護衛手瀬も巻いてきたんだろうさ。ほら、とっとと捕まえちまえ」
「へ、へい」
「それなら……」
ゆっくりと男たちが付か寄ってきます。
駄目、体も動かない、声も震えて……。
「あ、あ……」
ノワールさん、クリムゾンさん
助けて。
ブランシュさん……ペルソナさん……。
柚月さん……。
「た、たすけ……て……」
勇気を振り絞って出たのは、小さな声。
横でしゃがみこんでしまったクレアさんも、涙を流しています。
「……うん、まあ……助けてやるのは構わないんだが……高くつくぜ」
私たちの後ろから聞こえてきた声。
どこかで聞いたことがあるような。
でも、今はなりふりなんて構っていられない。
「た……助けて……」
「了解。ということで、すまないけれどあんたたちは振り向いてさよならだ。命が惜しかったらな」
「はぁ? どこの誰だか知らないけれど、この俺様を誰だと思ってフベボシュッ」
両手剣を構えて叫ぶ巨漢。
だけど、私の後ろから走って来た男性らしきひとが、巨漢の顔面に力いっぱいの膝蹴りを叩き込みました。
深々とフードを被っていたので、顔はよく判りません。
けれど、軽装の皮鎧とレイピアを携えていたのは見えました。
──グハァッ
そして、顔がつぶれ大量の血を流して後ろに倒れる巨漢。
一体何が起こっているのか、私にはよく分かっていません。
ただ、彼が私たちを助けてくれた、そのことは理解できます。
「ほら、とっとと逃げるぞフェイールさん。そっちの嬢ちゃんも立てるか!!」
「あ、は、はい。クレアさん、逃げよう!」
「……はい」
どうにか立ち上がるクレアさん。
そして男に手を引かれ、私とクレアさんはこの見知らぬ路地から走り出します。
背後で男たちが怒鳴り散らしているようですけれど、追いかけて来る様子もないので今は全力で逃げましょう。
そして、何処をどう逃げていたのか私もクレアさんも覚えていません。
ただ、男の人に手を引かれてて無我夢中で走っていただけ。
そして気が付くと、私たちの宿泊する予定の宿の近くまでたどり着いていました。
「ハアハアハアハア……」
「あ、ありがとうございます……」
ようやく走るのを止めた私たちは、改めて男性にお礼をと思い声を掛けました。
「いや、まあ、フェイールの嬢ちゃんには借りがあるからなぁ」
「え……私に借りですか……」
そう問いかけると、男性はフードをゆっくりと取って顔を見せてくれました。
「ほら、覚えていないかな? 以前、ハラタキっていう宿場町で、珍しい調味料を売って貰ったじゃねーか。その前はメルカバリーでも会ったことがあるよな?」
「あ、た、旅商人のソーゴさん?」
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そう告げつつ、ソーゴさんは腰に下げていたポーチから、クレアさんのアイテムバッグを取り出して渡してくれました。
「これは私の……」
「やっぱりか。実はな、俺もこの街に来て盗人に荷物を盗まれてな。それを追いかけていたら、ドジな女の子からバッグを盗んだっていう小僧を見つけてよ。このあたりで盗みを生業としている餓鬼どもだったらしく、問い詰めて話を聞きだしたらフェイールさんたちが裏道まで盗人を追いかけていったっていうじゃないか……」
実はその盗人も囮だったらしく、裏道まで女性を引き付けたら、あとはボスたちが捕まえて売り飛ばしているということだそうで。
「まあ、今頃はこの街の騎士団が動いているだろうさ。途中で俺が通報したからな」
「そ、そうでしたか……」
ああっ、いきなり緊張の糸が切れたのか、私も体の力が抜けていきました。
「まあ、今日のところはゆっくりと休みな。この宿だったら俺も泊っているから、明日の朝食の時にでも色々と話を聞かせてくれ。見た感じ、あの魔術師ブランシュとかいう護衛もいないようだから」
「はい、今日はありがとうございました」
「私のカバンまで取り返してくれて……本当に助かりました」
私もクレアさんも深々と頭を下げます。
するとソーゴさんは気にするなとだけ告げて、宿に入っていきました。
「あの、クリス店長……本当にごめんなさい」
「いいよいいよ。とりあえず無事だったからさ。でも、今度からは気を付けないとね。さ、
さ、今日はゆっくりと休みましょう」
「はい」
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