型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

文字の大きさ
上 下
185 / 286
第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第237話・海は広くて大きくて、そして危険がいっぱいですね

しおりを挟む
 私たちが、商用大型帆船ブルーウォーター号の甲板に転移してから一週間。

 食料と水を補給するために、ミュラーゼン連合王国諸島の小さな島に立ち寄ることになりました。
 ここはミュラーゼン連合王国の玄関口と呼ばれているヘルヘイブン王国、海上にうかぶ大小合わせて20の島からなる王国です。
 ここで2日間停泊したのち、残り5日の航海でフォンミューラー王国の港町バンクーバーへとたどり着きます……と、船長さんが説明してくれました。
 私とクレアさんも船から降り、久しぶりの大地を噛みしめている真っ最中。

「ああ……地面が揺れていない……生きているって素晴らしいわ」
「クレアさんってば、大袈裟ですよ。まあ、私もその件については 同意しますけれど」
「それに、この街で少しでも商品を仕入れておかないとならないのでしょう? そろそろペットボトルの水も、レトルトの食料も足りなくなってきたのでしょう?」
「ええ。でもそれは明日ですね。ここまで配達してくれるかどうか、それも確認しないとならないのですから」

 ここ、大切です。
 ちょっと心配になったので、【シャーリィの魔導書】の一番後ろのページに書いてあった『サポートセンター』というところに連絡を書き込んでおいたのです。
 現在向かっているミュラーゼン連合王国まで、商品の配達は可能かどうか。
 その返事が今朝方になって届いたのですが、距離の関係のか配達は週一回の定期便になること、旅行券は効果を発揮しないことなどが浮かび上がっていました。
 ですので、この街で仕入れを行い、次の仕入れはバンクーバーで数日たってからということになります。

「まあ、とっとと宿に行きましょう? この港町での宿代も、当初の旅費の中に含まれているのよね?」
「そのようですよ。ええっと、この先にある大きな宿が、ブルーウォーター号の指定宿らしいので」
「それじゃあレッツゴー。この国でも勇者丼が食べられるのかしら? 港町サライでは新鮮な魚介類が手に入るから食べられたけれど、ここはどうなのかしらね?」
「う~ん。実は、ハーバリオス王国のあるヤーパニウム大陸以外のチリや歴史には、私はあまり詳しくはないのですよ。まあ、こっちの大陸にも魔族は居たそうですけれど、歴史がどうだったのかまでは詳しくないので」

 ええ、勇者丼、すなわち海鮮丼は300年前に勇者さまたちが広めた料理です。
 それが海を渡ったこっちの国々まで浸透しているかどうかは、私も分からないのですよ。

「まあ、それならそれでいいわ。どのみち、船の上の保存食とか、鮮度の下がった食事にはうんざりしていたからね」
「あはは~」

 それでも、朝晩の食事の際には、レトルトのハムやソーセージ、缶入りスープとかを食べていたので、それほどうんざりした様子はありませんでしたけれど。
 でも、あのカチカチに硬くなっていたパンや塩漬けから戻した葉野菜のサラダからは開放されるようなので、一安心です。

――ドガッ
 そんな他愛ない話をしていると、突然、後ろから誰かがぶつかりました。
 勢いが強すぎたのでそのまま私とクレアさんが突き飛ばされるような形になってしまいましたけれど、どこも怪我もなく無事のようです。

「すまねぇ、急いでいるんだ!!」

 そう走りつつ叫ぶ人物。
 帽子をかぶっていましたので顔はよく判りませんけれど、声から察するにそれほど歳をとっているような雰囲気ではありませんね。

「はぁ? 人にぶつかっておいてなによ、あの態度は……もう、とっとと宿に向かいましょ……ってあれ? 私のカバンがない!!」
「ほぇ?」

 慌てて周囲を探しますけれど、何処にもカバンが落ちていないようですし。
 
「さっきの男、きっとあいつが盗んでいったのよ!! どこに行ったのよぉぉぉぉ!」

 慌ててクレアさんが走り出したので、私も後を追いかけます。
 こんなどこになにがあるのか分からないような場所で、一人で走り回ったりしたら道に迷ってしまうじゃないですか。
 それこそ人攫いとか、禄でもない奴らに付き纏わられたりしたら大変ですよ!!

「ちょ、ちょっと待ってくださいクレアさん!! 一人で走っていったら危険ですってば!!」
「わかっているわよ……まったく、何処にいったのかしら……」

 立ち止まって周囲を見渡すクレアさんですけれど。
 どうやら、盗人はどこかに逃げてしまったようです。
 そもそも、ここはどこでしょうか?
 周りを見渡しますと、先ほどまで歩いていた商店街のような場所ではなく、うらびれてさびれている建物が密集しているような場所なんですけれど。
 これって、かなり危険な場所じゃないですか?
 護衛もなく、こんな場所にうら若き乙女が二人。
 はい、危険以外の何物でもありませんよ。
しおりを挟む
感想 656

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。