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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第235話・ちょっと舞台はメルカバリーへ

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──時間は少し戻って

 メルカバリーの市街地にて、突然姿を現した魔族によりクリスティナ達の乗っていたエセリアル馬車が急襲を受けてしまう。
 馬車を取り囲むのは戦士らしき装備を身に付けた魔族と、深々とローブを纏った魔導師、あわせて20人。
 そしてその中心的人物らしき魔族が、剣を構えているノワールに対峙していた。

「ほう。これは予想外ですねぇ。まさかエセルアルナイトがこの場に姿を現すとは」

 白地に金の刺繍を施したロープを纏ったリーダー格の人物。
 杖を片手にそう呟くと、コーンと杖を地面に打ち付け、巨大な魔法陣を構築した。

「それは私の言葉ですね。あの戦争で封じられているはずではなかったのですか? 狂気の魔術師・グリマルディ……」
「ええ、しっかりと封じられていましたよ、あの白き魔導師の封印術式によってね。ですが、長き年月を経て封印は弱り、そして私の再生に助力してくれたものがいるのでして……まずは手始めに、魔導師カナンの子孫であり継承者を始末するようにと告げられ……ってうわっ!」

──シュンシュンッ
 楽しそうにつぶやくグリマルディだが、途中からノワールが間合いを詰めてグリマルディを切り刻むべく剣を奮う。
 だが、その剣戟をいとも簡単に躱し続けると、ノワールたちを囲むように構えていたほかの魔術師たちが一斉に詠唱を始めた。

「その詠唱はまさか!!」
「ええ、貴方はご存じでしょう。なんの他愛もない転移術式ですよ、ええ……ただし、それがどこに向かうかは秘密です。遥か山奥、竜の住む聖域なのか、はたまた鳳凰の支配する炎の谷か。そうですね、竜神リバイアスの聖域たる深海というのもありでしょう。転移先で一瞬で死ねるようにしてありますので」
「ふざけるなっ!!」

──シュシュンッ
 グリマルディに素早く剣戟を叩き込み、左手から魔力を放出して詠唱中のほかの魔術師の意識を刈り取る。
 だが、それでも詠唱は留まることを知らず、やがてクリスティナとクレアの乗っている馬車が空高く浮かび上がると、魔法陣が馬車全体を包み込み、そして消滅した。

「クリスティナさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 地面に膝から崩れ落ち、絶叫するノワール。
 その姿をみてグリマルディはほくそ笑むと、こんどはノワールに向かって杖を構え。

──ズバァァァァァァァァァァァァァァッ
「あ、あれ?」

 突然、頭から真っ二つに切り捨てられるグリマルディ。
 その背後では、ダマスカスソードを構えたクリムゾンの姿があった。
 さらに危険を感じ取ったのか、クレアの部下であるカーリー・ファインズとラリー・パワードも剣を片手に魔術師たちの元に飛び込んでいくと、次々と一撃のもとに切り捨てていった。

「魔族の気配を感じたと思ったら……ノワールよ、何をボーッとしてる、まずはこの場を収めることに集中せい!! 」
「そ、そうね、そうよね!!」

 流れ落ちる涙をグイっと拭い、ノワールも立ち上がって反撃を開始。
 またたくまにその場を鎮圧したものの、気が付くとグリマルディの死体は転がっていない。

「どこに消えた!!」
「どこもなにもさぁ……どうしてここにタイタンまでいるんだよ」

 そう呟くグリマルディの声は、ノワールたちの頭上から聞こえて来る。
 真っ二つになったはずの身体は元通りに接合されていた。
 ただし、頭だけが少しだけずれていたので、それをぐいっと両手で元の位置に戻すと、グリマルディはニカッと笑った。

「ふん。そういえば貴様は不死身じゃったな、からくり仕掛けの魔族よ」
「ご明察。ということなので、僕はそろそろ退場するね。まずは一人、いや、勇者の血脈を二人も同時に始末できたのだからね……」
「二人だと? まさかクレアさんも勇者の血脈だっていうの?」

 そのノワールの問いかけに、グリマルディは肩をすくめてみせる。

「それなら、勇者のエセリアルナイトである君たちが感知しているだろう? もう一人の勇者の末裔は、別の四天王が始末したって念話が届いただけだよ。それじゃあね……」

──シュンッ
 それだけを告げると、グリマルディはその場から姿を消した。

「糞ッ……急いでクリスティナさまを探さないと」

 そう告げて背中にら翼を形成するノワールだが。

「まて、黒よ。何処を探すのじゃ?」
「どこって、それこそ世界中を探します。エセリアル馬車に乗っていれば、安全はある程度は保障されるわよ、でもそれだっていつまで続くかなんてわからないから」
「だから、ちょっと待てというのに。まずはヘスティア王国へ向かうべきじゃろ。お嬢が何を持っているのか、お前は知らない筈がないじゃろうが」

 そう諭されて、ノワールもハッと気が付く。
 クリスティナは常に、【シャーリィの魔導書】を所持している。
 あれがある限りは、クリスティナに加護を与えた精霊女王シャーリィならばどこにいるのかわかるはず。
 それを思い出すと、ノワールは数度、深呼吸をする。

「もしもクリスティナさんとクレアさまの居所に心当たりがあるのなら、私たちも同行させてください!」
「うちのクレアさまも、きっと心細くなって泣いているに決まっていますから」

 カーリーとラリーがノワールたちの前に並び、そう告げる。
 だが、二人を連れてヘスティアに向かうことはできない。
 あの国は、選ばれた人間しか連れていくことはできないから。

「二人はここで待っていなさい。いつでも連絡が出来るように、二人には精霊王国より使いを出します。そしてクリスティナさまたちの居所が判り次第、一緒に助けにいきましょう」
「「はい!!」」

 それだけを告げて、ノワールはクリムゾンを掴んで大空高く飛び上がる。
 メルカバリーからヘスティアまではかなりの距離があるが、そんなことはお構いなしにノワールは竜の姿に変化すると大空を駆け抜けていった。

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