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第5章・結婚狂騒曲と、悪役令嬢と

第234話・船上露店と禁断の商品

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 さあ、楽しい朝食タイムも無事に終わったので、ここからは私たちフェイール商店のターンです。
 確か勇者語録では、自分たちの出番の事をターンと呼ぶそうでして。
 この場合の使い方は適切なはずです、ええ、つっこみ担当のノワールさんたちがいないのでちょっと心配になってきますけれど。
 確か、このターンがいつまでも続いて疲労困憊状態になると、『もうお店の在庫はゼロよぉぉぉ』と止めてくれる店員がいるとか……いないとか……。いないですよね、そんな人は。

「うん、この表情はまた何かよからぬ考え事をしているのよね。ということで、とっとと露店の準備をしてください、クリス店長!!」
「ふぁぃっ。店長って、まあ、今は営業時間ですからそうですよね。では、クレアさんは衣類と装飾品を担当してください。私が日用雑貨と食料品を販売しますので」
「了解したわ」

 早速、私のアイテムボックスから衣類と装飾品を収めた箱を取り出します。
 これは【型録通販のシャーリィ】から商品が届けられるときに収められていた、段ボール箱というものでして。普段はアイテムボックスの中にまとめて収めてあります。
 今回のように商品を仕分けて手渡すときはとっても重宝しますし、柚月さん曰く何かあった場合でも、これを衣類の中に巻き付けておけばあったかいって教えてもらいましたから。

──シュンッ
「では、これをお願いします。すぐにアイテムバッグに収納しておいてください」
「まあ、この海上で盗み出すような人はいないと思うけれど。そうね、その方が安全よね」

 数着のドレスを見本としてハンガーに吊るしてから、クレアさんが残りの衣類を箱ごとバッグに収納。
 そして装飾品も宝石箱に小分けして手元に並べておくと、準備完了のようです。
 私はというと、缶入りスープとか保存用の缶詰、あとはアメニティ用品をいくつか並べておきます。

「それでは、只今よりフェイール商店の開店です。おひとり様五品となっていますので、ご購入の際はよく吟味してください!」

 私が立ち上がって声を出すと、あちこちの貴族の方がこちらにやってきました。

「ふぅん。こんなところで露店ねぇ。少しでも在庫を減らしたいっていうところでしょう?」

 そう呟きつつ、一人の貴婦人が私の前においてある箱を手に取ります。
 それはフェイール商店の定番商品の一つ、メルカバリーで披露宴の引き出物としても人気であった『ジャニュアリー・ハンドソープとフェイスタオル』のセットですね。
 仕入れ価格は銀貨3枚、鑑定した価値は銀貨7枚。
 ということですので値付けは特別サービスの銀貨6枚でのご奉仕です。

「これは・そうね、なかなかいい手触りね」
「ええ。綿花から紡いだ綿100パーセントのタオルです。ハンドクリームは肌荒れを防ぎますのので、この潮風で傷みつつある肌を優しくケアしてくれます」
「そ、そうなのね。二つほど貰えるかしら?」
「ありがとうございます」

 ほら、さっそく売れました。
 そして私のところでタオルセットを購入すると、次は隣のクレアさんのところでドレスと装飾品を吟味中。そちらはクレアさんが笑顔で接客してくれていますので、任せておいても大丈夫でしょう。
 以前よりも、本当に笑顔で接客しているようですし。
 なによりも、あの、なんというかツンデレ? ヤンデレ? そんな感じの刺々しい雰囲気もありませんので。

「あの~、ここでスープが売っていると聞いてきたのだが」
「スープですか……ってあれ、船長?」

 私がほほえましくクレアさんを見守っていますと、この船の船長が数名の水兵を伴ってやってきましたよ。

「ああ。フェイールさんよ、今朝の事なんだが、お前さんの部屋から美味しそうなスープの匂いがしてきたって聞いてな。それに、焼いた肉の匂いもしたとかで、一等船室と特等船室の客が怒っていてな。俺たちの部屋よりも安い部屋なのに、どうしてあっちの方がうまそうな匂いをしているんだって……」
「ああ、きっとこれですよね? 少々お待ちください」

 そう告げてから、私はアイテムボックスからカセットコンロとガスボンベ、鍋、そしてペットボトルに入っている水を取り出します。
 そして鍋の中に水を入れ、ガスボンベをセットしたカセットコンロの上に載せますと、いよいよ本日のメイン商品の出番です。

──シャキーン
 ホテルオークボのスープ缶、そして同じくホテルオークボのハムとソーセージのセットを取り出し、真空パックのまま鍋に入れます。
 この時点では匂いはしないため、船長さんたちは不思議そうな顔で私がしていることを黙って見ているだけですけれど。
 やがてぐつぐつとお湯も沸いてきたのでもう少しだけ放置したのち、トングで缶と真空パックを取り出し。
 あとはパッカーンとスープ缶を開けてお皿に注いで出来上がり。
 この瞬間に匂いが周囲に流れていき、一人、また一人とお客さんがやってきます。

「こ、これか?」
「ええ。私たちが船倉で嗅いだ匂いに間違いはありません。それに……」

 その説明のさなかに、真空パックからアツアツのソーセージとハムを取り出し一口大に切ると、爪楊枝という小さな木製の針にさしてさらに並べます。

「これです船長!! この匂いに間違いはありません!!」
「待て待て、匂いの元は分かった。あとはこれがどんな味なのか……」

 そう水兵さんたちの焦る気持ちを押さえつつ、船長が試飲&試食タイム。
 まずはスープを一口飲み、その味と香りを堪能。
 そのまま爪楊枝を一つ手に取り、ソーセージをパクッと一口で食べますと。

「……これは旨い。確かに客が匂いだけで騒ぐのも理解できるが……なあフェイールさん、これって温めないとうまくないのか? それよりもその魔導コンロはなんだ? 見たこともないし、そもそも小さすぎないか? 旅でも気軽に運べるサイズの魔導コンロなど見たことも聞いたこともないぞ? それに、その透明な水筒といい……」
「あは、あはは……これは非売品ですよ、フェイール商店の備品なのですから。商品はこのスープ缶とパックにはいっているソーセージとハムです。このスープ缶は……」

 スープ缶の仕入れ値が、14缶セットで銀貨9枚。
 そしてソーセージとハムのパックが、8パック800グラムセットで、同じく銀貨9枚。
 価値を鑑定して、売値がどちらも銀貨20枚ですか。
 
「ぎ、銀貨20枚だって……しかし、うーむ」
「あと、おひとり様5つのみですよ、仕入れに仕えませんので、大量購入して割引とか考えないでくださいね」
「そ、そうか……それにしても、うーむ」

 腕を組んで考える船長。
 
「あの、何かお困りですか?」
「火を起こす魔導具の取り扱いがなぁ……いや、商品でないというのなら、しっかりと管理してくれれば構わないのだが。ここが木造船の上であることは理解しているよな?」
「はい、ご安心ください!!」

 そう告げて、私は水が満杯にはいっている水がめをアイテムボックスから取り出します。
 これには船長も驚いているようです。

「御覧の通り、万が一にも火事が起きそうになったら瞬時に水を掛けて沈下します。あとはまあ、魔導コンロをアイテムボックスに収納しますから」
「そうか、まあ、それなら……うーむ。特別に許可をするから、5つといわず10、いや20セット売ってくれないか?」
「はい、魔導コンロの取り扱いの許可も得られるのなら、ここはドーンと30セット販売しましょう!!」
「よし、買った!!」

 ということで、ここでスープ缶とハム・ソーセージセットが30セット売れました。
 まあ、まだ20セットも残っていますので、私たちが食べる分には大丈夫ですし、ほかの種類のものもありますから。
 ということで、スープ缶とソーセージセットはこれで完売ということにして、あとはノンビリと雑貨を売っていることにしましょうか。
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