177 / 278
第5章・結婚狂騒曲と、悪役令嬢と
第229話・強欲貴族と、裏の住民
しおりを挟む
シャトレーゼ伯爵家長男の結婚式。
そのために今朝方まで、クリスティナさまは細かい打ち合わせと納品作業を続けましたわ。
昨晩は引き出物を管理するために一旦、クリスティナさまのアイテムボックスにすべての引き出物を収納したのですが、最後までエリー嬢が猛反発していまして、いえ、今でも文句を言っていますけれど。
「だから、とっととここに引き出物を持ってきなさいっていっているのよ。今回の結婚式の主役である私の言いつけを聞けないのかしら? フェイール商店なんていうチンケな商会なんて、取引停止にしても構わないのよ!!」
さて。
どうしてこの本家・悪役令嬢は私の宿までやって来て文句たらたらと話をしているのでしょうかねぇ。
出来るならば過去のように、頬を一つ二つ張り倒して、背中を向けて哀愁でも感じさせたいところですわね。
「ふぁ。では当家の主人からの伝言をお伝えしますわよ……『取引停止上等、その代わりすべてをあなたの旦那に言いふらす』。以上ですわ」
「なっ……そ、その態度はなによ、貴方が行ったこと、それをこのハーバリオス王国に言いふらしても構わないのよ!!」
「それこそ、どうぞお好きにですわね。もう、私は引くことを辞めましたの。この結婚式が終わったら、全てを真実の元にさらけ出すつもりですわ……ええ、それはもう、シャトレーゼ伯爵家の皆さんにもですわよ。幸せな結婚式を終わらせて、何事もなく穏便に過ごしたければ、その煩い口を閉じることをお勧めしますわよ」
まさか、わたしがそのようなことをいうとは思っていなかったのでしょうね。
目の前で呆然とした表示用で、口をパクパクと開いていますわ。
ええ、実家の庭にあった池に住んでいたガラマン・デルフェルルのようですわね。
ちなみにガラマン・デルフェルルは小さな水竜の名前ですわ。
私が小さなときに父上から贈られた手乗り竜です。
水棲なので池に住んでいましたけれど、私に文句があるときは水面から顔を出して、このように呆然とした顔で口をパクパクとしていましたわ。
「あ、あ、貴方がそんな態度に出るのなら、、こちらとしても考えがあるわよ……でせも、そうね……」
そこまで呟いてから、エリーは下卑た笑みを浮かべて一言。
「貴方が身に着けている、その黒水晶の填められているネックレス。それを寄越すのなら許してあげるわよ? それを断ったらどうなるか、貴方は判っているわよね?」
「おかえりはそちらですわ。どうやらエリー嬢は結婚式の前日ということで興奮して眠れないようで。あと、できれば寝言は寝てから言っていただけると助かりますわね。まあ、私は貴方と寝室をともにする気はさらさらないので、寝言は聞く事は出来ませんけれど……」
「その言葉、そっくり返してあげるわよ! 明日以降、静かに眠れる日が来るなんて思わないで頂戴ね!!」
――バタン
全力で扉を閉じて帰っていったようで。
「はあ、相変わらず、取り巻がいないとボキャブラリーが貧困ですわね」
ボキャブラリーというのは、異世界の勇者さまんが残した『勇者語録』に収められている様々な言葉の一つです。
例えば悪口をいうとしても、単純に『バーカバーカ』というよりも、『頭の中身が熟れ過ぎたハニージュのようで残念ですわね。甘さも極まってしまい、食べるに値しませんわよ』という感じに変換するそうです。
あとは、私は詳しくないのですけれど、うちの店長曰く、ボキャブラリーにも細かいジャンルがあるそうで、『渋い』『インパクト』『知性』『バカ』、この四つの分野のバランスが大切とか。
私の知らない勇者語録を知っているので、その点は尊敬に値すると思っていますわ。
「さてと。それじゃあ明日も早いので眠ることにしましょうか……」
アイテムバッグの中から魔導書を取り出し、それを開いてゆっくりと詠唱をはじめます。
部屋全体に結界を施し、私が認めた対象以外は入れない結界を構築。
そもそもわたくし、カマンベール王国の魔導学院では主席に近い成績を収めていましたわ。
このように『光の上位精霊書』との契約も出来るほど優秀ですわ。
――ブゥン
そして天井と床、前後左右の壁に結界の魔法陣が展開すると、これでようやく私は眠りにつくことが出来ます。
そもそも、これぐらいの実力が無ければ、何も知らない異国の地を旅するなんてできませんからね。
………
……
…
会場が割れんばかりの拍手喝采。
これで結婚式は全て終了です。
やがて私とノワールさん、執務官のマスティさんが待つ部屋の扉が開きます。
私たちは深々と頭を下げると、目の前にやって来た貴族の方に決められた引き出物が収められた箱をお渡しするだけ。
そして貴族の方も、私の顔を見て驚く人もいれば汚いものでも見るかのような視線を浴びせてくる人もいます。
そのような方には心の中で小指を立て、顔は笑顔でにっこりと対応。
それでもクレームを入れてくる貴族はいるようでして。
部屋を出て中身を確認してから、また戻ってくる貴族もいらっしゃいます。
「すまない。この引き出物は当家のものとは違うようだが?」
「いえ、そちらはトロトール子爵様用にご用意したもので間違いはありません。こちらに保管してある目録では、『異国のウィスキー』と『バラカのグラスセット』、この二点となっていますが」
「事前に聞いていた話では、エメラルドのネックレスと真珠の首飾り、それと金刺繍のローブと伺っていたが。まさか、マクガイア家で間違えているのではないのかね?」
ほら来た。
トロトール子爵家は、確か前回の審査会では姿を見せていなかったはず。
おそらくはどこかで引き出物は無料で配布されることを聞き及んで、このように無理難題を吹っ掛けてきたのでしょう。
「いえ、間違いはございませんわ。そのウイスキーとグラスのセットは、確か以前、トロトール子爵さまのお孫さんが生まれた時に、将来孫と一緒に飲む貴重な酒がないかなぁとおっしゃっていたとか。そのためにご用意した異世界のお酒です。まさか、トロトール子爵さまはお孫さんと飲むためにご用意した異世界の貴重な酒ではなく、宝石や装飾品などという俗物的なものがご入用でしたか?」
ちなみに出口の扉は開きっぱなし、入り口では次に入室予定の伯爵家の方が待機していますが。
「そ、そうか、これが異世界の酒なのか……」
脂汗を流しつつ、周囲をチラッチラッと見渡してトロトール子爵がつぶやきます。
「はい。ですがそれをお気に入りでないというのであれば、後日、改めてご用意しますのでそちらをお戻しください。当商店としても、そしてマクガイア子爵家としても装飾品をご用意するほうが予算的には助かりますので」
「待て、この酒はそれほど高額だというのか?」
「当然ですわ。異世界の商品を取り扱うフェイール商店が吟味した品々です。その中から、トロトール子爵がお喜び頂けるものをと思い、どうにか入手した品ですが……御気に入られないというのであれば、残念ですが」
親族がっかりしたような演技をして、子爵から箱を受け取ろうとしましたけれど。
子爵は箱を持つ手をすぐに引っ込めてしまいましたわ。
「い、いや、そうか、そのようなことまで考えてくれていたのか。では、これは将来、孫がわしと酒を酌み交わせるまでは寝かせておくことにしよう。ありがとう」
「いえいえ。今後ともフェイール商店をごひいきに」
にっこりと笑顔で見送りますと、次の伯爵さまが手を叩きつつ入室しました。
「見事ですね。相手のことを考えつつ、貴族の体面も潰さないようにとの心配り。この件は、貴方の父上にも報告しておくよ」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げ、伯爵さまにも引き出物の箱をお渡しします。
そのあともたまに因縁を吹っ掛けて来る貴族家はありましたけれど、どの家もエリー・マクガイアの取り巻き貴族家ばかり。
つまり、この場でも私に恥をかかせようという魂胆なのでしょうが全て時ほどのトロトール子爵家と同じ対応。
しかも、伯爵家を始めとした貴族の方々が私を褒めてくれているので、すぐに尻尾を巻いてすごすごと下がっていく始末。
「ふふ。クレアさんもすっかりフェイール商店の店員らしさが身についていますね」
最後の貴族が入室する前。
ノワールさんが私にそう話しかけてくれましたけれど。
私は、今回の結婚式を成功させるために必要な人員として雇われただけです。
最後の後片付けなどが終われば、私は解雇されます。
そういう契約ですから。
「ありがとうございます。でも、契約期間はもう終わりですから」
「それについては、クリスティナさまに相談してください……ほら、最後の方がいらっしゃいましたよ」
ノワールさんに促されて入り口を確認。
すると一人の貴族子女が入室してきました。
「……あら? ひょっとしてヴァネッサさん?」
「あ、あの……お久しぶりです」
かつてエリー・マグワイアに虐められていたヴァネッサさんが、私の前にやってきました。
「ああ、そうですわね。あなたの家、ブライト男爵家も招待されていたのですね。あれからエリーには虐められていませんか?」
そう近況報告的に質問をしたら、ヴァネッサさんが涙を浮かべます。
うん、わかっていますわよ。
「はい……今は学院を卒業して、父の商会の手伝いをしています。それでですね……お礼とご連絡をと思いまして」
そう告げてから、私に一通の手紙を差し出します。
「これは?」
「できれば、私がこの部屋を出てすぐにご確認いただけると」
「わかりましたわ。では、こちらがブライト男爵家用にご用意した引き出物ですわ。娘さんが結婚するとかで、こちらはその結婚式に娘さんに……そういうことでしたか、おめでとうございます」
はい。
よく考えてみますとブライト男爵家には、ヴァネッサさん以外には娘さんはいませんわ。
「ありがとうございます。本当ならクレアさんもご招待したかったのですけれど……」
「わかっていますわ。私を招待したら、貴方の家の商会にも色々と嫌がらせが始まる可能性がある。だから、そのお気持ちだけで十分ですわ」
そのあとも少しだけお話をしまして。謝罪もされましたけれど、私はその件については気にしていないのでと告げ、彼女を見送ってあげました。
これで引き出物は全てお渡ししましたので、私のフェイール商店での仕事はこれで完了ですわ。
「さて。そういえば、先ほどの手紙は何だったのでしょうか」
そう思って手紙を開きます。
『結婚式が全て終わったら、この街から逃げてください。ある侯爵家が、クリスティナさんと貴方の持つ黒真珠を狙っています。闇ギルドも加担しているそうですので』
「……ノワールさん、急ぎましょう!!」
「ええ、少々失礼します」
受け取った手紙をノワールさんにお渡しすると、彼女は私を抱きかかえて部屋から外に飛び出していきました。
そのために今朝方まで、クリスティナさまは細かい打ち合わせと納品作業を続けましたわ。
昨晩は引き出物を管理するために一旦、クリスティナさまのアイテムボックスにすべての引き出物を収納したのですが、最後までエリー嬢が猛反発していまして、いえ、今でも文句を言っていますけれど。
「だから、とっととここに引き出物を持ってきなさいっていっているのよ。今回の結婚式の主役である私の言いつけを聞けないのかしら? フェイール商店なんていうチンケな商会なんて、取引停止にしても構わないのよ!!」
さて。
どうしてこの本家・悪役令嬢は私の宿までやって来て文句たらたらと話をしているのでしょうかねぇ。
出来るならば過去のように、頬を一つ二つ張り倒して、背中を向けて哀愁でも感じさせたいところですわね。
「ふぁ。では当家の主人からの伝言をお伝えしますわよ……『取引停止上等、その代わりすべてをあなたの旦那に言いふらす』。以上ですわ」
「なっ……そ、その態度はなによ、貴方が行ったこと、それをこのハーバリオス王国に言いふらしても構わないのよ!!」
「それこそ、どうぞお好きにですわね。もう、私は引くことを辞めましたの。この結婚式が終わったら、全てを真実の元にさらけ出すつもりですわ……ええ、それはもう、シャトレーゼ伯爵家の皆さんにもですわよ。幸せな結婚式を終わらせて、何事もなく穏便に過ごしたければ、その煩い口を閉じることをお勧めしますわよ」
まさか、わたしがそのようなことをいうとは思っていなかったのでしょうね。
目の前で呆然とした表示用で、口をパクパクと開いていますわ。
ええ、実家の庭にあった池に住んでいたガラマン・デルフェルルのようですわね。
ちなみにガラマン・デルフェルルは小さな水竜の名前ですわ。
私が小さなときに父上から贈られた手乗り竜です。
水棲なので池に住んでいましたけれど、私に文句があるときは水面から顔を出して、このように呆然とした顔で口をパクパクとしていましたわ。
「あ、あ、貴方がそんな態度に出るのなら、、こちらとしても考えがあるわよ……でせも、そうね……」
そこまで呟いてから、エリーは下卑た笑みを浮かべて一言。
「貴方が身に着けている、その黒水晶の填められているネックレス。それを寄越すのなら許してあげるわよ? それを断ったらどうなるか、貴方は判っているわよね?」
「おかえりはそちらですわ。どうやらエリー嬢は結婚式の前日ということで興奮して眠れないようで。あと、できれば寝言は寝てから言っていただけると助かりますわね。まあ、私は貴方と寝室をともにする気はさらさらないので、寝言は聞く事は出来ませんけれど……」
「その言葉、そっくり返してあげるわよ! 明日以降、静かに眠れる日が来るなんて思わないで頂戴ね!!」
――バタン
全力で扉を閉じて帰っていったようで。
「はあ、相変わらず、取り巻がいないとボキャブラリーが貧困ですわね」
ボキャブラリーというのは、異世界の勇者さまんが残した『勇者語録』に収められている様々な言葉の一つです。
例えば悪口をいうとしても、単純に『バーカバーカ』というよりも、『頭の中身が熟れ過ぎたハニージュのようで残念ですわね。甘さも極まってしまい、食べるに値しませんわよ』という感じに変換するそうです。
あとは、私は詳しくないのですけれど、うちの店長曰く、ボキャブラリーにも細かいジャンルがあるそうで、『渋い』『インパクト』『知性』『バカ』、この四つの分野のバランスが大切とか。
私の知らない勇者語録を知っているので、その点は尊敬に値すると思っていますわ。
「さてと。それじゃあ明日も早いので眠ることにしましょうか……」
アイテムバッグの中から魔導書を取り出し、それを開いてゆっくりと詠唱をはじめます。
部屋全体に結界を施し、私が認めた対象以外は入れない結界を構築。
そもそもわたくし、カマンベール王国の魔導学院では主席に近い成績を収めていましたわ。
このように『光の上位精霊書』との契約も出来るほど優秀ですわ。
――ブゥン
そして天井と床、前後左右の壁に結界の魔法陣が展開すると、これでようやく私は眠りにつくことが出来ます。
そもそも、これぐらいの実力が無ければ、何も知らない異国の地を旅するなんてできませんからね。
………
……
…
会場が割れんばかりの拍手喝采。
これで結婚式は全て終了です。
やがて私とノワールさん、執務官のマスティさんが待つ部屋の扉が開きます。
私たちは深々と頭を下げると、目の前にやって来た貴族の方に決められた引き出物が収められた箱をお渡しするだけ。
そして貴族の方も、私の顔を見て驚く人もいれば汚いものでも見るかのような視線を浴びせてくる人もいます。
そのような方には心の中で小指を立て、顔は笑顔でにっこりと対応。
それでもクレームを入れてくる貴族はいるようでして。
部屋を出て中身を確認してから、また戻ってくる貴族もいらっしゃいます。
「すまない。この引き出物は当家のものとは違うようだが?」
「いえ、そちらはトロトール子爵様用にご用意したもので間違いはありません。こちらに保管してある目録では、『異国のウィスキー』と『バラカのグラスセット』、この二点となっていますが」
「事前に聞いていた話では、エメラルドのネックレスと真珠の首飾り、それと金刺繍のローブと伺っていたが。まさか、マクガイア家で間違えているのではないのかね?」
ほら来た。
トロトール子爵家は、確か前回の審査会では姿を見せていなかったはず。
おそらくはどこかで引き出物は無料で配布されることを聞き及んで、このように無理難題を吹っ掛けてきたのでしょう。
「いえ、間違いはございませんわ。そのウイスキーとグラスのセットは、確か以前、トロトール子爵さまのお孫さんが生まれた時に、将来孫と一緒に飲む貴重な酒がないかなぁとおっしゃっていたとか。そのためにご用意した異世界のお酒です。まさか、トロトール子爵さまはお孫さんと飲むためにご用意した異世界の貴重な酒ではなく、宝石や装飾品などという俗物的なものがご入用でしたか?」
ちなみに出口の扉は開きっぱなし、入り口では次に入室予定の伯爵家の方が待機していますが。
「そ、そうか、これが異世界の酒なのか……」
脂汗を流しつつ、周囲をチラッチラッと見渡してトロトール子爵がつぶやきます。
「はい。ですがそれをお気に入りでないというのであれば、後日、改めてご用意しますのでそちらをお戻しください。当商店としても、そしてマクガイア子爵家としても装飾品をご用意するほうが予算的には助かりますので」
「待て、この酒はそれほど高額だというのか?」
「当然ですわ。異世界の商品を取り扱うフェイール商店が吟味した品々です。その中から、トロトール子爵がお喜び頂けるものをと思い、どうにか入手した品ですが……御気に入られないというのであれば、残念ですが」
親族がっかりしたような演技をして、子爵から箱を受け取ろうとしましたけれど。
子爵は箱を持つ手をすぐに引っ込めてしまいましたわ。
「い、いや、そうか、そのようなことまで考えてくれていたのか。では、これは将来、孫がわしと酒を酌み交わせるまでは寝かせておくことにしよう。ありがとう」
「いえいえ。今後ともフェイール商店をごひいきに」
にっこりと笑顔で見送りますと、次の伯爵さまが手を叩きつつ入室しました。
「見事ですね。相手のことを考えつつ、貴族の体面も潰さないようにとの心配り。この件は、貴方の父上にも報告しておくよ」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げ、伯爵さまにも引き出物の箱をお渡しします。
そのあともたまに因縁を吹っ掛けて来る貴族家はありましたけれど、どの家もエリー・マクガイアの取り巻き貴族家ばかり。
つまり、この場でも私に恥をかかせようという魂胆なのでしょうが全て時ほどのトロトール子爵家と同じ対応。
しかも、伯爵家を始めとした貴族の方々が私を褒めてくれているので、すぐに尻尾を巻いてすごすごと下がっていく始末。
「ふふ。クレアさんもすっかりフェイール商店の店員らしさが身についていますね」
最後の貴族が入室する前。
ノワールさんが私にそう話しかけてくれましたけれど。
私は、今回の結婚式を成功させるために必要な人員として雇われただけです。
最後の後片付けなどが終われば、私は解雇されます。
そういう契約ですから。
「ありがとうございます。でも、契約期間はもう終わりですから」
「それについては、クリスティナさまに相談してください……ほら、最後の方がいらっしゃいましたよ」
ノワールさんに促されて入り口を確認。
すると一人の貴族子女が入室してきました。
「……あら? ひょっとしてヴァネッサさん?」
「あ、あの……お久しぶりです」
かつてエリー・マグワイアに虐められていたヴァネッサさんが、私の前にやってきました。
「ああ、そうですわね。あなたの家、ブライト男爵家も招待されていたのですね。あれからエリーには虐められていませんか?」
そう近況報告的に質問をしたら、ヴァネッサさんが涙を浮かべます。
うん、わかっていますわよ。
「はい……今は学院を卒業して、父の商会の手伝いをしています。それでですね……お礼とご連絡をと思いまして」
そう告げてから、私に一通の手紙を差し出します。
「これは?」
「できれば、私がこの部屋を出てすぐにご確認いただけると」
「わかりましたわ。では、こちらがブライト男爵家用にご用意した引き出物ですわ。娘さんが結婚するとかで、こちらはその結婚式に娘さんに……そういうことでしたか、おめでとうございます」
はい。
よく考えてみますとブライト男爵家には、ヴァネッサさん以外には娘さんはいませんわ。
「ありがとうございます。本当ならクレアさんもご招待したかったのですけれど……」
「わかっていますわ。私を招待したら、貴方の家の商会にも色々と嫌がらせが始まる可能性がある。だから、そのお気持ちだけで十分ですわ」
そのあとも少しだけお話をしまして。謝罪もされましたけれど、私はその件については気にしていないのでと告げ、彼女を見送ってあげました。
これで引き出物は全てお渡ししましたので、私のフェイール商店での仕事はこれで完了ですわ。
「さて。そういえば、先ほどの手紙は何だったのでしょうか」
そう思って手紙を開きます。
『結婚式が全て終わったら、この街から逃げてください。ある侯爵家が、クリスティナさんと貴方の持つ黒真珠を狙っています。闇ギルドも加担しているそうですので』
「……ノワールさん、急ぎましょう!!」
「ええ、少々失礼します」
受け取った手紙をノワールさんにお渡しすると、彼女は私を抱きかかえて部屋から外に飛び出していきました。
16
お気に入りに追加
5,321
あなたにおすすめの小説
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。