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第5章・結婚狂騒曲と、悪役令嬢と
第228話・ここにきて兄の襲来……よかった、太くないほうです。
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シャトレーゼ伯爵家長男の結婚式。
そのために今朝方まで細かい打ち合わせと納品作業を続けまして。
昨晩は引き出物を管理するために一旦、私のアイテムボックスに収納したのですが、最後までエリー嬢が猛反発。
カマンベール王国側の引き出物は全て、マクガイア家が管理するから寄越せと言い出す始末。
ええ、それには当店も反対いたしまして、すみやかに私が預かりましたよ、ええ。
そもそもですよ、引き出物の引き渡しの際はクレアさんがノワールさんと共に担当となっていますのに、どうしてこのぎりぎりで信頼できないとか言い始めるのやら。
マクガイア家当主はクレアさんに謝罪したのに、なぜあなたはそこまで意固地なのかと小一時間問い詰めたくなってきましたわ。
「はぁ。今頃は結婚式も盛り上がっているのでしょうねぇ……」
「お、姐さんも結婚したい年頃か? それなら俺からもペルソナに話を通してフベシッ!」
──スパァァァァァァン
まったく。
猫の手も借りたいぐらい忙しいということで、伝説のユニコーンの手も借りているのに。久しぶりに会ったブランシュさんの言葉がそれですか。
「いってぇぇぇぇぇ。あ、姐さん、その凶悪な武器はなんなんだ!!」
「これはですね。ガンバナニーワ王国が皇太子であるチャーリィさまから承った、王家伝来の『ミスリル製ハリセン』というそうです。痛覚遮断、プライド粉砕、あといくつかの効果が付与されているとかで。これも実は、カナン・アーレストさまが製造方法を伝授した武具だそうです。それとも、こっちのミスリル製の二枚重ねの灰皿『ミスリル製ポコポコヘッド』の方が良かったですか?」
「な、なんていう凶悪な……と」
──ワァァァァァァァァ
会場から割れんばかりの喝采が聞こえてきました。
これはあれですよ、結婚式最後の『誓いのキス』ですよ。
契約の精霊エンゲイジさまに、夫婦ともに幸せな生活を送りますっていう誓いを立てるときの儀式です。
なお、これを破った場合はどうなるか……おそろしくて 口が裂けても言えません。
「これで一般式典は終わりか。参加した市民は、出口で引き出物袋を開け取るんだったよな? 担当は紅のじいさんだろう?」
「あとは、商業ギルドからも数名、人材をお借りしています。私たちはこちらの部屋で、ハーバリオスの貴族用の引き出物を選んでお渡しするだけです。向こうの部屋では、ノワールさんとクレアさん、あとはカマンベール王国の方が決められた引き出物をお渡しするころで……」
──ガチャッ
扉が開き、身なりのいい貴族の方が入室してきました。
はい、ここからはブランシュさんの出番です。
身分を盾に二つ寄越せとかいってくる貴族に睨みを聞かせるのがお仕事ですから。
「こちらで引き出物なる記念品が頂けると聞いた……と、おお、このテーブルの上のものがそうであったか。よし、全て一つずつよこせ」
「あー、貴方はドライセン男爵家の方ですね。男爵家と子爵家の方には一品のみという決まりがございまして。どれでもお好きなものを選んでください」
「お、そういうルールか。では、そうだなぁ……」
意外と物分かりが良くて助かりました。
まあ、ブランシュさんが部屋全体に『沈静化』の魔術を施してくれているので、話がスムーズに進んだようでなによりです。
このあとも次々と貴族家の方がいらして、引き出物を受け取っていただきましたが。
「ごほん……ここで引き出物を受け取れると聞いたが」
「はい、これはアーレスト伯爵。お元気そうでなによりです」
グラントリ兄さまがやってきましたが。
まあ、懇意にしているシャトレーゼ伯爵家の結婚式ですから、来るのは当然。
そして父は封領されている身ですから、当主である兄がくるのも当然といえば当然ですね。
「クリスティナも元気そうだな。たまには実家に顔を出してくれるか。最近の父は、めっきり老け込んでしまってな……まだ隠居するにも早いといいたいところだが、私が継いでからはもう、商売の方にも興味が無くなったようでな」
「あは、あはは……では、近いうちにお時間を作って伺うことにします。では、伯爵家の方は、こちらから二つ、引き出物を選んでいただきますが」
「そうだなぁ……」
おや、迷うことなくアメニティセットと高級ワインを手にしましたか。
「それと、父がたまに飲んでいた永命酒というのが切れてしまってな。少し融通してくれると助かるが」
「では、商人の方に届けて頂けるように手配をしておきます」
「そうか……それは助かる。では、またな。アーレスト領に来たときは、商会にも顔を出してくれ」
「はい、それでは」
うん、兄は相変わらずですね。
あのオストールとは雲泥の差ですが、そういえばずっと姿を見せていませんが。
あの性格ですから、なんだかんだといちゃもんを付けて顔を出すかと思って警戒していましたのに。
ってあれ? ブランシュさん、腕を組んで頭を傾げていますけれど、どうたのですか?
「どうしました?」
「いや、うーん。あいつの魂の色が濁っていてな。悪事を働いたか、それを指示したタイプのように濁っている。それに周りの精霊も注意しろっていうんだけれど……姐さんに対しての感情とかは白、つまり純粋に妹として接しているんだよなぁ……」
「つまり、兄が裏で悪事を働いていると?」
そう問いかけると、さらにブランシュさんが腕を組んで天井を見上げています。
「それがなぁ……過去にそうだったって感じで、最近はまともらしいんだよなぁ……取り巻きの精霊も、最近はずっと真面目だけれどっていう感じで話しかけてくるし……わからねぇなぁ」
「まあ、大手商会となりますと、裏で賄賂とか脱税とかご禁制の商品に手をだしたとか、そういう話は聞いたことがあります。没落しかかっているアーレスト商会と領地を護るために、裏に手を出したという可能性はあるかもしれませんね。でも、ブランシュさんの話では、それは過去の話ですよね?」
そう問いかけると、頭をバリバリと掻きむしっています。
「そうなんだよなぁ……まあ、今はまじめということで許していいのやら、よく分かんねえや。でもまあ、姐さんに対しては危害を加えようとかいう感情はないから、この話はこれでおしまいだ。ほら、次の貴族が扉の隙間からこっちを見ているぞ」
「はわわわわ!! ど、どうぞこちらへ。バラール子爵さまですね、こちらから一品、お好きなものをお選びください」
はぁ、まあ、ブランシュさんの話も気になりますけれど、今はこっちの仕事が最優先です。
クレアさん、うまくやっていますかねぇ。
そのために今朝方まで細かい打ち合わせと納品作業を続けまして。
昨晩は引き出物を管理するために一旦、私のアイテムボックスに収納したのですが、最後までエリー嬢が猛反発。
カマンベール王国側の引き出物は全て、マクガイア家が管理するから寄越せと言い出す始末。
ええ、それには当店も反対いたしまして、すみやかに私が預かりましたよ、ええ。
そもそもですよ、引き出物の引き渡しの際はクレアさんがノワールさんと共に担当となっていますのに、どうしてこのぎりぎりで信頼できないとか言い始めるのやら。
マクガイア家当主はクレアさんに謝罪したのに、なぜあなたはそこまで意固地なのかと小一時間問い詰めたくなってきましたわ。
「はぁ。今頃は結婚式も盛り上がっているのでしょうねぇ……」
「お、姐さんも結婚したい年頃か? それなら俺からもペルソナに話を通してフベシッ!」
──スパァァァァァァン
まったく。
猫の手も借りたいぐらい忙しいということで、伝説のユニコーンの手も借りているのに。久しぶりに会ったブランシュさんの言葉がそれですか。
「いってぇぇぇぇぇ。あ、姐さん、その凶悪な武器はなんなんだ!!」
「これはですね。ガンバナニーワ王国が皇太子であるチャーリィさまから承った、王家伝来の『ミスリル製ハリセン』というそうです。痛覚遮断、プライド粉砕、あといくつかの効果が付与されているとかで。これも実は、カナン・アーレストさまが製造方法を伝授した武具だそうです。それとも、こっちのミスリル製の二枚重ねの灰皿『ミスリル製ポコポコヘッド』の方が良かったですか?」
「な、なんていう凶悪な……と」
──ワァァァァァァァァ
会場から割れんばかりの喝采が聞こえてきました。
これはあれですよ、結婚式最後の『誓いのキス』ですよ。
契約の精霊エンゲイジさまに、夫婦ともに幸せな生活を送りますっていう誓いを立てるときの儀式です。
なお、これを破った場合はどうなるか……おそろしくて 口が裂けても言えません。
「これで一般式典は終わりか。参加した市民は、出口で引き出物袋を開け取るんだったよな? 担当は紅のじいさんだろう?」
「あとは、商業ギルドからも数名、人材をお借りしています。私たちはこちらの部屋で、ハーバリオスの貴族用の引き出物を選んでお渡しするだけです。向こうの部屋では、ノワールさんとクレアさん、あとはカマンベール王国の方が決められた引き出物をお渡しするころで……」
──ガチャッ
扉が開き、身なりのいい貴族の方が入室してきました。
はい、ここからはブランシュさんの出番です。
身分を盾に二つ寄越せとかいってくる貴族に睨みを聞かせるのがお仕事ですから。
「こちらで引き出物なる記念品が頂けると聞いた……と、おお、このテーブルの上のものがそうであったか。よし、全て一つずつよこせ」
「あー、貴方はドライセン男爵家の方ですね。男爵家と子爵家の方には一品のみという決まりがございまして。どれでもお好きなものを選んでください」
「お、そういうルールか。では、そうだなぁ……」
意外と物分かりが良くて助かりました。
まあ、ブランシュさんが部屋全体に『沈静化』の魔術を施してくれているので、話がスムーズに進んだようでなによりです。
このあとも次々と貴族家の方がいらして、引き出物を受け取っていただきましたが。
「ごほん……ここで引き出物を受け取れると聞いたが」
「はい、これはアーレスト伯爵。お元気そうでなによりです」
グラントリ兄さまがやってきましたが。
まあ、懇意にしているシャトレーゼ伯爵家の結婚式ですから、来るのは当然。
そして父は封領されている身ですから、当主である兄がくるのも当然といえば当然ですね。
「クリスティナも元気そうだな。たまには実家に顔を出してくれるか。最近の父は、めっきり老け込んでしまってな……まだ隠居するにも早いといいたいところだが、私が継いでからはもう、商売の方にも興味が無くなったようでな」
「あは、あはは……では、近いうちにお時間を作って伺うことにします。では、伯爵家の方は、こちらから二つ、引き出物を選んでいただきますが」
「そうだなぁ……」
おや、迷うことなくアメニティセットと高級ワインを手にしましたか。
「それと、父がたまに飲んでいた永命酒というのが切れてしまってな。少し融通してくれると助かるが」
「では、商人の方に届けて頂けるように手配をしておきます」
「そうか……それは助かる。では、またな。アーレスト領に来たときは、商会にも顔を出してくれ」
「はい、それでは」
うん、兄は相変わらずですね。
あのオストールとは雲泥の差ですが、そういえばずっと姿を見せていませんが。
あの性格ですから、なんだかんだといちゃもんを付けて顔を出すかと思って警戒していましたのに。
ってあれ? ブランシュさん、腕を組んで頭を傾げていますけれど、どうたのですか?
「どうしました?」
「いや、うーん。あいつの魂の色が濁っていてな。悪事を働いたか、それを指示したタイプのように濁っている。それに周りの精霊も注意しろっていうんだけれど……姐さんに対しての感情とかは白、つまり純粋に妹として接しているんだよなぁ……」
「つまり、兄が裏で悪事を働いていると?」
そう問いかけると、さらにブランシュさんが腕を組んで天井を見上げています。
「それがなぁ……過去にそうだったって感じで、最近はまともらしいんだよなぁ……取り巻きの精霊も、最近はずっと真面目だけれどっていう感じで話しかけてくるし……わからねぇなぁ」
「まあ、大手商会となりますと、裏で賄賂とか脱税とかご禁制の商品に手をだしたとか、そういう話は聞いたことがあります。没落しかかっているアーレスト商会と領地を護るために、裏に手を出したという可能性はあるかもしれませんね。でも、ブランシュさんの話では、それは過去の話ですよね?」
そう問いかけると、頭をバリバリと掻きむしっています。
「そうなんだよなぁ……まあ、今はまじめということで許していいのやら、よく分かんねえや。でもまあ、姐さんに対しては危害を加えようとかいう感情はないから、この話はこれでおしまいだ。ほら、次の貴族が扉の隙間からこっちを見ているぞ」
「はわわわわ!! ど、どうぞこちらへ。バラール子爵さまですね、こちらから一品、お好きなものをお選びください」
はぁ、まあ、ブランシュさんの話も気になりますけれど、今はこっちの仕事が最優先です。
クレアさん、うまくやっていますかねぇ。
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