型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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1巻

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 発注から四日後。
 早朝から一応見回ってはいるんですが、なかなか露店用のいい場所が空く気配もなく。
 商品が届くまでは特にやることもないんですよね。
 ということで、私は毎日露店の場所におもむいては、のんびりと魔導書を開いて商品の確認をしていました。
 気になったものは次々と発注書に書き込み、夕方にまとめて発注。
 この四日間、同じことを繰り返しています。
 そして今朝、いつものように露店で型録を開いていると、街道の向こうから見たことのある純白の馬車が走ってくるのが目に入りました。

「あの馬車は、型録通販のシャーリィの配達馬車。ようやく来ました!!」

 やがて馬車が露店の前に到着すると、一人の男性が馬車から降りて来ます。
 相変わらずの白ずくめの姿、そしてやっぱり素顔を隠すように仮面を着けています。

「お待たせしました、型録通販のシャーリィです。ご注文の品をお届けに参りました」
「ありがとうございます」

 そして次々と馬車から箱を降ろしているのですが、私の目の前にはなんと、馬車の荷台の三倍の荷物が積み上げられています。
 私も急いで検品を行い、次々と【アイテムボックス】に詰め込むこと三十分。
 ようやくすべての荷物が【アイテムボックス】に収まりました。

「それでは、お支払いはどのようにいたしますか?」
「今回もチャージでお願いします、それで大丈夫なのですよね?」
「はい、問題ありませんよ。それでは魔導書の提示をお願いします」

 その言葉で、私は彼の前にシャーリィの魔導書を差し出します。
 そして仮面の方が魔導書に手をかざした時。
 前回と同じようにチーンと音が鳴りました。
 確認してみると、しっかりとチャージが減っています。

「それでは、本日はこれで失礼します。次の納品は一週間後を予定しておりますので、よろしくお願いいたします」
「ええ、わかりました。それではお気をつけて」
「はい。またのご利用を心よりお待ちしています」

 先日のように深々と挨拶する仮面の方。
 そして馬車は走り出し、スッと消えました。
 そういえば、あの男性の名前を聞いていませんね。
 今度会ったら、しっかりとうかがわないといけません。

「ふぅ。何はともあれ、これでようやく開店ができますね」

 さっそく露店の準備です。
 今届いた荷物の中に入っている綺麗な絨毯じゅうたんを広げ、その上に商品を陳列ちんれつしていきます。

「ええっと、次はこれと……」

 私たちの世界では見たことのない衣類も購入したので、同じように注文していたハンガーラックというものに次々とかけていきます。
 あとはハンカチやネッカチーフ、腕輪や指輪などの装飾品も並べて。

「そしてこれが、フェイール商店のおすすめの商品!!」

 それはズバリ【とききざ魔導具まどうぐ】、すなわち時計。
 これは勇者様が所持していた時間を計る道具で、教会や王城などでもこれを基に作られた魔導具が使用されています。
 しかし、この時を刻む魔導具は、今では生産方法も術式も失われてしまい現存しているものが少ないのです。
 それがなんと!!
 シャーリィの魔導書の力で、色々な時計を仕入れることができました!!
 これらを一つずつ並べて……いえ、盗難防止のためにすべては出さないでおきましょう。
 いくつかのサンプルを見やすいように箱に入れ、綺麗に並べて。
 これで開店準備は完了です!!

「さぁ、フェイール商店の開店です!! よろしかったら見ていってください」

 元気よく叫ぶものの、ここは正門から入ってすぐの中央広場に通じる街道沿い。
 しかも左右は民家。
 そりゃあ、道行く人も立ち止まることなく通り過ぎていくわけでして。

「ん~。まあ、そうですよね。どこの誰ともわからない露店なんて、なかなか近寄ってもくれませんよね」

 こうなっては持久戦しかありません。
 のんびりとお客が来るのを待つことにします。
 しばらくすると。

「へぇ、こんな外れで露店ねぇ。何か珍しいものでも売っているのかい?」

 街に到着したばかりの馬車が、私の露店の前で止まりました。
 そこから出てきた男性が、物珍しそうに商品を眺めつつ問いかけてきます。

「そうですね。異国のドレスやスカート、アクセサリーを専門に扱っています。あとはこれでしょうか?」

 私は一つ一つ説明してから、最後に時計を入れた箱を取り出します。
 置き時計、柱時計、腕時計。
 銀の鎖のついた懐中時計というのもあります。
 電池式というのは寿命があるらしいので、今回は少し高価ですが手巻き式というものを購入し揃えてみました。

「……ん、これはひょっとして……時を刻む魔導具か? いや、こんな露店にそのようなものがあるはずはないよな。すまないが、これを鑑定させてもらって構わないか?」
「どうぞ。鑑定されて困るものは扱っていません」

 扱っていない……はず。
【商品知識】系のスキルでは、そのものの価値はわかるけれど生産地とかは読めないはず、ですよね?
 そしてドキドキしながら待つこと一分。
 男性が慌てて馬車に戻っていきました。

「あちゃあ。信用されませんでしたかね」

 少し落胆していたら、男性は金貨袋を手に再びこちらに走ってきます。

「この懐中時計とやらを買おう。値段はいくらだ?」
「ええっと。それは……金貨二枚です」
「そんなはずはないだろう? 少なくとも金貨二十枚の価値はある、本物の時を刻む魔導具じゃないか。さすがにこれを金貨二枚で購入したとなると、商人仲間から詐欺師さぎし呼ばわりされるからね」

 ジャラツと金貨を二十枚手渡して、男性は私をじっと見てきます。
 ここは、この商人さんのお心に感謝しつつ、金貨二十枚でお売りしましょう。

「あ、そうでした。隣の商品と間違えました。確かに金貨二十枚、お預かりしました」
「ありがとう!! 君はこの辺りで商売を?」
「はい、フェイール商店と申します。本日開店ですので、よろしくお願いします」
「わかった、また来る」

 そう告げて、男性は馬車へ。

「そうですよね。つい仕入れ値の二倍、原価率五割で話してしまいました。商品価値を考えると、もっとすごいのですよね」

 ここからは【万能鑑定眼】を駆使くししつつ、私たちの世界での価値を付加した値段設定に直しましょう。
 そして、鑑定眼を使って商品の価値をよく確認したところ。

「え? 魔術付与? なになに? なんですか?」

 私が型録通販のシャーリィから取り寄せた商品には、すべてなんらかの魔術効果が付与されていました。これはおかしな効果がないかどうか確認しなくては、迂闊うかつに販売することもできません。
 一旦露店は終わりにして、まずは露店に並べてある衣料品や日用雑貨、これらを調べていきました。
 結果から申しますと、衣類関係には【サイズ補正ほせい】【魅力上昇みりょくじょうしょう】【清潔感せいけつかん】【自動浄化じどうじょうか】【疲労軽減ひろうけいげん】のどれかがランダムに付与されています。
 さらに、アクセサリー系には【自動解毒じどうげどく】【酒豪しゅごう】【舞踏ぶとう】などの効果が付与されているものがありました。
 付与される数も効果もランダムで、最大三つ、最低一つ。
 日用雑貨は【耐久性上昇たいきゅうせいじょうしょう】【頑丈がんじょう】【味上昇あじじょうしょう】などの、それぞれの雑貨の効果を高めるものが付与されています。
 包丁なら【切れ味上昇】か【頑丈】が、ワインオープナーなら【熟成上昇じゅくせいじょうしょう】【まろやかさ上昇じょうしょう】などの味に関するものが。
 この確認作業だけで午前中は終わり、教会の正午の鐘の音が鳴り響きました。

「うん、一つは自分用で持っていていいですよね?」

 あまり華美かびでない腕時計を左手に着け、露店の荷物は最初に敷いた絨毯ごとまとめて【アイテムボックス】へ収納。
 さて、お昼ご飯にしましょうか。

「今日は、どこで食べようかなぁ」

 午後からは値段も変更しないといけませんし、しっかり休憩を取りましょう。


     ◇ ◇ ◇


「う~ん。確かここにいたはずなのに、今日はもう店じまいなのか……」

 今朝、商用でこのメルカバリーに到着した時、私は不思議な露店を発見した。
 見たことのない異国のドレス、装飾品の数々。
 私の持つ【商品知識】スキルで、それらの商品の一つ一つが金貨一枚以上の価値があることがわかった。
 それよりも驚くべきは、時を刻む魔導具が販売されていたこと。
 それも、見たことのない形状で、携帯に便利な大きさだった。
 試しにスキルを使って調べてみると、その価値は最低でも金貨二十枚から三十枚。
 そのようなものが露店で売られていいはずはない。一瞬盗品かと疑った。
 しかし私も商人。
 もうばなしにつながるのであれば、これを購入しなくてはならない。
 そして何よりも、店主殿と懇意になるべきであると、私の商人魂が告げていた。
 この街での仕入れ用に取っておいた金貨すべてで支払い、懐中時計というものを入手。
 あとは商業ギルドでフェイール商店の情報を仕入れたのち、この街まで運んできた荷物をギルドに納品して仕入れ用の金を用意した。
 それなのに。
 急いで戻ると、露店はすでに閉店していた。

「はぁ。また明日来るとするか。それまでに、仕入れ用の金をもっと増やさなくてはな……商会資産を少し下ろすことにしよう」

 懐から懐中時計を取り出して、針を見る。
 それがちょうど午後一時を差した時、教会からもカラーンと午後一時を告げる鐘が鳴り響いた。
 この懐中時計は本物だ。
 しかも、寸分の誤差もない。

「これは、まさしく伝説の魔導具。フェイール商店とはいったい、何者なのだろうか……」


     ◇ ◇ ◇


 ――午後一時半頃。

「ふぅ~。満腹満腹。午後は昼寝でもしたくなりますね」

 宿の女将おかみさんのおすすめの店で、楽しいランチタイムを堪能。
 午後からは細かい値付けをしてから食料品の販売ですよ!!
 お取り寄せの果物とか、保存の缶詰かんづめ? というもの。
 メロンというのもおいしそうでしたわね。
 あとは菓子!! 型録に載っていたケーキというものも……あ、要冷蔵ですね。まあ、【アイテムボックス】の中は時間を止められますから大丈夫です。
 そうだ、少しだけ切っておいて、試食してもらうというのはどうでしょう?
 食べ物については特段、おかしな付与効果はないようですから、安心して売ることができますね。
 さっそく呼び込みを開始します。
 でも街道を行く人々はちらちらと気にかけてくれていますが、見たことのない露店に時間を取られるよりも馴染みの店に向かってしまうようで……悔しいです!!

「よし。それじゃあ……そこの君たち!! いいものを食べさせてあげましょうか?」
「いいもの? お菓子?」
「お金ないよ?」
「大丈夫大丈夫。これは試食だから、一口だけ無料ですよ」

 近所の子どもたちを見かけたので、声をかけてみます。
 一口だけ無料。
 この殺し文句は、子どもたちにも通用しました。

「こっちの丸い菓子はシュークリームといってね、この褐色かっしょくの丸い粒はチョコレートっていうんですよ。あと、このチョコレートのかかった細長いのはエクレアで、これは……おはぎ? っていう和菓子です」

 どれも一口大に小さく切って、木をけずったスプーンのようなものに載せてあります。
 それを木製のトレーに並べると、子どもたちの目の前に差し出しました。

「ふぅん、知らないお菓子ばっかりだな」
「あ、これは王都で見たことある!! 凄く高級なお菓子で、貴族の人しか食べられないんだよ?」
「へぇ。シュークリームは王都にもあったのですか。私は食べたことないなぁ……これ……は、いちごのショートケーキですね。いちごって……あ、この果物のことですよ、これも食べていいですよ、試食ですからね」

 ワーッと殺到する子どもたち。
 その騒ぎが気になったのであろう人たちが、あちらこちらから見てきます。

「うんまぁぁぁぁぁい!!」
「これ、すっごく甘くておいしい!!」
「ね、ね、こっちも食べていい? こっちはまだ食べてない!!」
「はいはい。まだ食べてないものは食べていいよ!!」

 子どものパワー、おそるべし。
 一通りのスイーツを試食して、今はぼーっとしています。
 うん、頭の中でおいしさを反芻はんすうしているようですね。

「ふわぁぁぁぁ。お父さん呼んでくる!!」
「私も」
「我も~、我も~」

 元気よく子どもたちが、一斉に駆け出しました。
 うん、商売の基本は『損して得取れ』です。
 シャーリィの魔導書にも、商売のコツとして記されていました。
 そして、先ほどまでの子どもたちを見ていた人たちが、おそるおそる近寄ってきます。
 さあ、ここからは大人の時間です。
【アイテムボックス】から、次の試食用ケーキを取り出します。

「さあ、よろしければお味を見てください。味見用のケーキは無料です、お一人一口だけです!!」
「ふぅん。これ、子どもたちが嬉しそうに食べていたやつだよな?」
「はい、よろしければどうぞ!!」

 少し強面の男性が、近寄って来て問いかけるので、トレーに載せた試食用ケーキをすすめます。

「ふぅん。これがねぇ……」

 ――パクッ。
 おそるおそる食べて、そのまま腕を組んで考えています。
 おじさんには、甘いものはダメだったのでしょうか?
 そう考えていますと。

「これはしゅうくりぃむっていうやつか? 子どもたちがそう呼んでいたよな?」
「はい。お口に合いませんか?」
「四つもらおう。いくらだ?」
「一つ銀貨一枚ですので、銀貨四枚です」

 スイーツとしては、決して安くはありません。
 けれど、おじさんは財布から銀貨を四枚取り出して支払ってくれたので、私も【アイテムボックス】からシュークリームの入ったケースを取り出し、そこから四つを紙の箱に収めて手渡しました。

「はい、お待たせしました」
「うちのガキどもに、いい土産になる。明日もいるのか?」
「ええ、在庫がある限りは、ここで販売していますね」
「そうか、それじゃあまた明日」

 手を振って立ち去るおじさん。
 その様子を周りで見ていた大人たちが、試食品に殺到。

「ねーちゃん、このしゅうくりぃむっていうのを十個だ!!」
「こっちはえくれあ? とかいうのを五個。あとは……」
「はい、少々お待ちください。っていうか、並んでください!! そこ、試食品は持ち帰らないように!!」

 ここから先は、商人のターン!!
【アイテムボックス】には在庫は一杯ありますけど、すべてを今日で売り尽くすつもりはありません。
 子どもたちも欲しがりそうですし、何よりも次の仕入れまで時間がかかりますので。
 すべて買い占めようとしている商人さんがいらっしゃいますので、ここは個数制限をしなくてはなりませんね。

「誠に申し訳ありません。フェイール商店の商品につきましては、お一人様五品までとさせていただきます。買い占めは禁止ですので、ご了承ください」
「なんだって、一人五品かよ……」
「待て、待ってくれ、五品というのなら考え直す……」
「同じ商人のよしみで、仕入れということでなんとか……頼む」

 突然の個数制限で、お客さんたちは何を買うべきか熟考し始めました。
 まあ、明らかに大量仕入れを目論もくろんでいた商人さんたちはグヌヌという顔になっていますが、ここはゆずれません。
 そして夕方には、今日販売分のスイーツは完売しました。

「誠に申し訳ありません、本日分は完売しました。また明日ご用意しますので!!」
「そうか、それじゃあ仕方がないなぁ」
「また明日来るからな」
「じゃあな」

 品切れと言えば文句を言う人もいると思いましたが、今日は皆さん笑いながら帰ってくれました。
 さて、明日はどうしましょうか。


     ◇ ◇ ◇


 ――数日後の夕方。

「ふう……酒場のやつらの話では、ここで見たこともない商品を売っているということだったのですが」

 交易都市メルカバリーの領主であるシャトレーゼ伯爵。その第一執事のローズマリーは、街に流れている奇妙なうわさを聞きつけていた。
 いわく。
 伝説の勇者の魔導具が売られている。
 異国のドレスが売られていたが、その素材は不明である。
 王都でも滅多にお目にかかれない菓子が売られている。
 国宝級のような宝石が散りばめられたアクセサリーがある。
 聞けば聞くほど、信じがたい話だ。
 そんな御伽噺おとぎばなしに出てくるようなものがあるはずがない。
 ──酒場にいる吟遊詩人の戯言ざれごとでも信じた者がいるのでしょうか?
 ローズマリーは情報の出どころを確認し、くだんの商人がいる場所を訪れたのだが。
 時間が悪かったのか、それともガセネタであったのか、路地裏をのぞいても商人の姿はどこにもない。

「いませんね。しかし、商業ギルドの話では、確かにここでフェイールという商人が露店を開いているということだったはず」

 ギルドから受け取ったメモの情報は確かだ。
 だが、ここ最近は姿が見えず、かと言ってメルカバリーを出たと言う話もないという。

「お、そこの姉さんも、クリスちゃんの露店目当てか?」
「クリスちゃん? ここで露店を出していたフェイール商店の責任者の方はクリスというのですか?」

 通りすがりの冒険者らしい男性が、ローズマリーに声をかけてきた。

「あ~、そうだよ。そういえば、フェイール商店ですって自己紹介していたような。確か、明日か明後日までは休みとか話していたな」
「なんですって? それはまた、どうしてですか?」
「品切れって話だったよ。主力商品の菓子やドレスがすべて売り切れ状態。目玉商品の時を刻む魔導具は高すぎて売れないらしく、来る客すべてが菓子を求めてくるからって、休みにしたらしい」
「はぁ、そうでしたか。それでは仕方ありませんね……ありがとうございました」

 これは出直すしかない。
 ローズマリーは、主人であるスミス・シャトレーゼ伯爵によき報告ができないことを残念に思いつつも、帰路につくことにした。


     ◇ ◇ ◇


「あと二日。それで商品が到着する……」

 初日の売上を見て、もう少しこの街で商売を続けようと滞在日数を伸ばしたはいいものの。
 まさか、開店して三日ですべての商品が売り切れるなんて。
 おかげで初日に仕入れたアイスクリームと時計以外は完売ですとも。
 ですが予想外の売り上げにほくほく顔でいられるほど、私は甘くありません。
 商人が、商品がないという理由で店を休む羽目になったのですよ?
 これは明らかにミスです。

「はぁ。もう少し追加しておきますか。少なくとも、スイーツ系はこの前の二倍……は注文したので、あと二倍追加で……それと、ドレスも注文がありましたよね」

 シャーリィの魔導書を開き、後ろのページに挟まれている発注書を取り出して……って、え、最後の一枚?
 これは予想外でした。この数日で注文書の在庫が切れるほど発注していたとは。
 しかし、この街の住民だけでなく、冒険者、果ては遠方から訪れた同業者まで購入しに来るのはどういうことでしょうか。
 まさか、私から買い取ってどこかで高く売るとか?
 勇者語録にあった悪徳商人のテン・バイヤーさんですね?
 まあ、それも商人の在り方の一つですから気にはしません。
 けれど、あまり気持ちのいいことではありませんよね。

「まあ、それは悔しいけどいいでしょう。別に違法行為じゃないし、売った商人の評判が落ちるだけ……でも、どうしようかな」

 街外れの露天商である私は、この街の他の商人に軽く見られています。
 宿の食堂でも、こっそりと仕入れ先を教えてほしいとか、菓子の作り方を教えてほしいなどと話しかけてくる商人もいらっしゃいました。
 もちろん、おいそれと教えることなんてできません。
 けれど、そうなると今度は文句を言ってくる人がいたりして、大変だったのですよ。

「うん、この街ではそろそろ限界ですね。次の仕入れが終わった翌日にでも、メルカバリーでの露店は閉めましょう」

 そうなると、次はどこに向かいましょうか。
 ここメルカバリーは、ハーバリオス王国でも南方。
 温暖な気候のハーバリオスも、メルカバリーまで南下すると暑くなってきます。
 特にこの時期は気温が高くなりがち。
 試食品を出していると傷んでしまう可能性があります。
 ここから先、さらに南方に向かうのなら試食については短時間のみとして……いやいや、あの試食でこんな事態になったのですから、もう少し自重しなくては。

「はぁ。次の街では気を付けよう……」

 そう自分に言い聞かせつつ、今日はもう寝ます。
 明日も、食事の時間以外は部屋に引きこもらないとならないのですよ。


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