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第5章・結婚狂騒曲と、悪役令嬢と
第223話・鑑定眼ではなく、純粋に目利きの問題ですよ
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さて。
シャトレーゼ伯爵邸で今後の件を伝えました。
結婚相手であるエリー・マクガイアのたっての願いである『異世界風の結婚式』、そのプロデュースとしてフェイール商店に声がかかったのはよいのですけれど。
今の状態では私たちに任せる訳にはいかないというマクガイア子爵の策謀がスタートしたようです。
ですが、こちらとしても引くわけにはいきませんよ。
こちらには非は一切ありませんし、そもそも言いがかりレベルで従業員であるクレアさんをないがしろにしようとしているのですから。
「……それで。フェイール商店の希望はなんだ? そこまでじらしておいて、何もなくこれでおしまいということではないのだろう?」
はい、伯爵がようやく重い腰を上げてくれました。
「ちなみにですけれど。今回の引き出物につきましては、ハーバリオス王国の貴族には好きな商品を選んでもらおうと思っています。身分に関係なく、おひとり様一点のみ。自分の好きなものを選べるのですから、別に不平不満はないかと思います」
この提案には、伯爵も静かに頷いています。
「ですが、カマンベール王国では、招待側が来賓である貴族様に対して、自らが厳選した品をお渡しすることが慣習と聞いています。そのために、貴族について詳しい彼女を雇い入れたのですから」
「それについては、マクガイア家は執務官を一人、フェイール商店に派遣すると話していたが……まさかとは思うが、断わるのか?」
「はい。すでに当日にお配りする商品は全てこちらでご用意しています。そのうえで、今お話に上がった執務官と当店の従業員であるクレアの、どちらがより正しい目利きが出来るか審査させていただきます。参考までにお聞きしますけれど、引き出物の予算につきましてはハーバリオス王国の貴族分はシャトレーゼ伯爵が、カマンベール王国の貴族分につきましてはマクガイア家が用立てるということで間違いはございませんよね?」
ここが大切。
いくらおめでたい席とはいえ、予算には限りがあります。
それゆえに、予算の範囲内で購入できるようにと、商品は幅広く吟味させてもらったのですから。
「その通りだ。食材その他については両家で折半することになっている。今回も、娘のデビュタントの時に用意してくれたような食材があるのだろう?」
「はい。あの時よりもさらにグレードアップしたものを厳選してご用意します。では、先ほどの件、マクガイア家にもご連絡いただけますか? 審査の日時につきましては全てお任せしますと」
「よかろう。それで執務官よりもフェイール商店のクレア嬢が目利きについて上であった場合、私が文句を言わせないと約束しよう」
はい、言質とりましたー。
って柚月さんなら嬉々として喜んでいることでしょう。
そしてずっと私と伯爵の話を聞いていたクレアさんが、いきなり立ち上がって伯爵に頭を下げます。
「この度は、私のしでかしたことで伯爵にもご迷惑をお掛けしたことを、ここで深くお詫び申し上げます」
「ああ、それについては別に構わないよ。それに、カマンベール王国のマクガイア子爵家とフェイール商店、その二つを天秤に掛けさせてどちらを選ぶのかって私に話してきたときは、殴り飛ばそうかとも思っていたのでね……そんなの、フェイール商店を選ぶに決まっているじゃないかって笑って言いたくなったよ」
「そ、そうなのですか? カマンベール王国でも、マクガイア子爵家は商会関係にも幅広いつてを持っています。今後、フェイール商店がカマンベール王国まで足を延ばすこともあるのでしたら、私を切った方が話は早いと思っていたのですが」
うんうん、そんなことを考えていたのですか。
つまり話がこじれたら、そっと私の元から姿を消そうと思っていたのかもしれませんね。
でも、それは甘いです、甘すぎます。
ザッツ、スイートです。
「はっはっは。ハーバリオス王国王家ご用達にして勇者ご用達商人、さらには元アーレスト侯爵家の一人娘であるクリスティナ・フェイールと隣国の子爵家、どちらが大切かと考えたらクリスティナ嬢に決まっているさ。ガトーはエリー嬢を嫁として迎え入れるけれど、そのあとはシャトレーゼ伯爵家の人間になる。彼女には結婚後はハーバリオスの流儀にも慣れてもらうことになるだけだよ」
「え……クリスティナ店長が、侯爵家令嬢? しかもアーレスト家っていうと、勇者の血脈……」
――バタン
あ、クレアさんが真っ青な顔で倒れてしまいましたよ。
すぐさまノワールさんが容態を確認してくれまして、指で小さく丸を作ってくれました。
「あまりの出来事で、思考と感情が追い付いていないかと思われます。別室で休ませていれば大丈夫かと思いますので、ここは私にお任せください」
「はい、すみませんけれどよろしくお願いします。彼女の意識が戻るまでは、伯爵と引き出物以外の打ち合わせを続けていますので」
そう告げると、ノワールさんがクレアさんを連れて部屋から出ていきます。
それでは、今のうちに引き出物以外の話し合いを済ませてしまいましょう。
………
……
…
――二日後、シャトレーゼ伯爵家・大広間
クレアさんとマクガイア家に雇われた執務官、二人の目利きについての審査が始まります。
大広間に並べてある、シーツがかぶせられているテーブルの上には私が用意した様々な商品が並べてあります。そしてお二人にはカマンベール王国からの来賓リストを参考に、適切な商品を選んで手元に用意してある表に書き込んでもらいます。
それを私が確認して、どちらが適切かを両家の主人および新郎新婦も交えての決議をとりますが。
――ザワザワザワザワ
なぜか、大広間に集まっているのは私たちだけではなく、カマンベール王国の貴族の姿もあるのですが。
「あの~、マクガイア子爵。今回の結婚式の引き出物なので、当日まで内緒にしておきたかったのですけれど……彼らは何故、ここにいるのでしょうか?」
「ああ、公平さを増すために、彼らにはここで不正がないかどうかを見極めてもらうだけだ。それ以上の意味はない」
「そうですか……では、残念ですけれど商品を公開します!!」
――ブワサッ
ノワールさんとクリムゾンさんがシーツを取り外します。
そして並べられている商品を見て、来客だけでなくシャトレーゼ伯爵、はては新郎新婦も目を丸くしています。
「これらは全て、勇者さまのいらっしゃった異世界から独自のルートで仕入れることが出来た商人の方に用意してもらいました。その仕入れ先については一切御説明できません。また、ここにあるものは全てサンプルであり当日は必要な人数分をご用意できますので」
そう説明しますが、何名かの貴族がフラフラと商品に吸い寄せられるようにと通っていきますが。
「あ~、すまんが関係者以外は、そこに書いてある白線から中には入らないようにな」
「何故だ、我々は商品が適切であるかどうかを見極める必要がある!!」
「それを見極めるのは、クレアさんと執務官のみです。外野の貴族は黙っていてください!!」
そう告げてから、私はアイテムボックスから『勇者ご用達商人』と『王室ご用達』の紋章が刻まれている証書を取り出して提示します。
今の私の説明、そしてこの証書を見せてなお私の言葉を無視するというのならば、それはこの国の王家の定めに逆らうも当然……と、シャトレーゼ伯爵が教えてくれました。
「う……ううむ……この小娘が……」
「カマンベール王国に来たら覚えておけ」
そんな言葉も聞こえますが無視です。
「それでは、審査を始めます」
そう私が宣言すると、クレアさんと執務官のマスティという女性が来賓リストを確認します。
そして一つ一つの商品の前に歩いて行っては、それらを手に取って吟味していますね。
「鑑定……ふむ、なるほど……」
執務官は商品を手に取るたびに鑑定を使い、その結果を別に用意してあったらしい紙に書き留めています。
クレアさんも鑑定を使って吟味しているようですけれど、一つの商品を鑑定しては、リストの名前をじっくりと穴が開くのではないかという感じで見つめていますね。
そして1時間ほど経過して、執務官が装飾品の並べてある宝石箱を見た時、思わず絶句しているのに私は気が付きました。
「……いや、まさか……」
一つ一つの装飾品を鑑定しては、それを紙に書き込んでを繰り返し。
それまでの流れるような動作ではなく、息を呑むどころか涎でも流しそうなほどに破顔一笑。
「質問です。ここにある宝石箱、この中の装飾品も人数分、同じものを用意できるというのですか?」
「はい。不可能ではありませんけれど……」
「ですが、これはこのハーバリオスでも王家とその一部しか手に入れることが出来ないという『黒真珠』をあしらったものばかり……いや、この虹色のものはひょっとして?」
「はい。黒真珠のさらに上。虹真珠と呼ばれているものですが」
まるで何事もなかったかのように説明します。
ええ、新しく追加されていた『母の日のちょっと豪華な贈り物』というコーナーにあったのですよ、これが。
それはもう、国王様から御叱りを受けるかもしれませんけれど購入しましたよ、だって貴族に売らなければいいのですから。
「はぁ……このようなものが存在するなんて……これなんて、ピンク色に虹色の光沢が生まれていて……はぁぁ」
うっとりとした目で装飾品を眺めている執務官。
そして、その様子を見てマクガイヤ子爵に何かを耳打ちしているエリー嬢。
さて、何を話しているのでしょうかねぇ。
「確か、ローランド伯爵家は近々娘さんのデビュタントがあるので……それにも使えそうな装飾品に……でも、確か長女さんは私が国を追われた時には子供が生まれていたから……」
ブツブツと、一つ一つの商品を吟味しては書き込んでいるクレアさん。
そして装飾品から離れていっても、すぐに気になって仕方がないのか宝石箱の元に戻ってくる執務官さん。
うん、まさかマクガイヤ子爵の用意した執務官が女性であったとは予想外でしたけれど。
やはりそこに並べてある装飾品の魅力には、女性は抗えないのでしょうね。
その証拠に見届け人のように並んでいる貴族の中には夫人も帯同していたらしく、つま先立ちになって宝石箱をのぞこうとしていたり、前のめりになって必死に覗こうとしていますから。
そして執務官が手に取って自分の指に飾っているのを見て、ハァァァと甘いため息をこぼしています。
ええ、計算通りです!!
それからさらに1時間後。
すべてのチェックが終わり、双方ともに引き出物についてのリストが完成したようです。
「それではこれで審査を終わります。ご来場のみなさまは、しばし別室でお待ちください!!」
そう告げてからパチンと指を鳴らし、すべての商品をアイテムボックスに収納します。
その瞬間の、貴婦人の皆さんのため息ともおぼつかない小さな悲鳴は全て無視ですよ無視。
私たちも応接間に移動し、ここに記されている両家の商品が適切であるかどうかを審査しなくてはなりませんから。
シャトレーゼ伯爵邸で今後の件を伝えました。
結婚相手であるエリー・マクガイアのたっての願いである『異世界風の結婚式』、そのプロデュースとしてフェイール商店に声がかかったのはよいのですけれど。
今の状態では私たちに任せる訳にはいかないというマクガイア子爵の策謀がスタートしたようです。
ですが、こちらとしても引くわけにはいきませんよ。
こちらには非は一切ありませんし、そもそも言いがかりレベルで従業員であるクレアさんをないがしろにしようとしているのですから。
「……それで。フェイール商店の希望はなんだ? そこまでじらしておいて、何もなくこれでおしまいということではないのだろう?」
はい、伯爵がようやく重い腰を上げてくれました。
「ちなみにですけれど。今回の引き出物につきましては、ハーバリオス王国の貴族には好きな商品を選んでもらおうと思っています。身分に関係なく、おひとり様一点のみ。自分の好きなものを選べるのですから、別に不平不満はないかと思います」
この提案には、伯爵も静かに頷いています。
「ですが、カマンベール王国では、招待側が来賓である貴族様に対して、自らが厳選した品をお渡しすることが慣習と聞いています。そのために、貴族について詳しい彼女を雇い入れたのですから」
「それについては、マクガイア家は執務官を一人、フェイール商店に派遣すると話していたが……まさかとは思うが、断わるのか?」
「はい。すでに当日にお配りする商品は全てこちらでご用意しています。そのうえで、今お話に上がった執務官と当店の従業員であるクレアの、どちらがより正しい目利きが出来るか審査させていただきます。参考までにお聞きしますけれど、引き出物の予算につきましてはハーバリオス王国の貴族分はシャトレーゼ伯爵が、カマンベール王国の貴族分につきましてはマクガイア家が用立てるということで間違いはございませんよね?」
ここが大切。
いくらおめでたい席とはいえ、予算には限りがあります。
それゆえに、予算の範囲内で購入できるようにと、商品は幅広く吟味させてもらったのですから。
「その通りだ。食材その他については両家で折半することになっている。今回も、娘のデビュタントの時に用意してくれたような食材があるのだろう?」
「はい。あの時よりもさらにグレードアップしたものを厳選してご用意します。では、先ほどの件、マクガイア家にもご連絡いただけますか? 審査の日時につきましては全てお任せしますと」
「よかろう。それで執務官よりもフェイール商店のクレア嬢が目利きについて上であった場合、私が文句を言わせないと約束しよう」
はい、言質とりましたー。
って柚月さんなら嬉々として喜んでいることでしょう。
そしてずっと私と伯爵の話を聞いていたクレアさんが、いきなり立ち上がって伯爵に頭を下げます。
「この度は、私のしでかしたことで伯爵にもご迷惑をお掛けしたことを、ここで深くお詫び申し上げます」
「ああ、それについては別に構わないよ。それに、カマンベール王国のマクガイア子爵家とフェイール商店、その二つを天秤に掛けさせてどちらを選ぶのかって私に話してきたときは、殴り飛ばそうかとも思っていたのでね……そんなの、フェイール商店を選ぶに決まっているじゃないかって笑って言いたくなったよ」
「そ、そうなのですか? カマンベール王国でも、マクガイア子爵家は商会関係にも幅広いつてを持っています。今後、フェイール商店がカマンベール王国まで足を延ばすこともあるのでしたら、私を切った方が話は早いと思っていたのですが」
うんうん、そんなことを考えていたのですか。
つまり話がこじれたら、そっと私の元から姿を消そうと思っていたのかもしれませんね。
でも、それは甘いです、甘すぎます。
ザッツ、スイートです。
「はっはっは。ハーバリオス王国王家ご用達にして勇者ご用達商人、さらには元アーレスト侯爵家の一人娘であるクリスティナ・フェイールと隣国の子爵家、どちらが大切かと考えたらクリスティナ嬢に決まっているさ。ガトーはエリー嬢を嫁として迎え入れるけれど、そのあとはシャトレーゼ伯爵家の人間になる。彼女には結婚後はハーバリオスの流儀にも慣れてもらうことになるだけだよ」
「え……クリスティナ店長が、侯爵家令嬢? しかもアーレスト家っていうと、勇者の血脈……」
――バタン
あ、クレアさんが真っ青な顔で倒れてしまいましたよ。
すぐさまノワールさんが容態を確認してくれまして、指で小さく丸を作ってくれました。
「あまりの出来事で、思考と感情が追い付いていないかと思われます。別室で休ませていれば大丈夫かと思いますので、ここは私にお任せください」
「はい、すみませんけれどよろしくお願いします。彼女の意識が戻るまでは、伯爵と引き出物以外の打ち合わせを続けていますので」
そう告げると、ノワールさんがクレアさんを連れて部屋から出ていきます。
それでは、今のうちに引き出物以外の話し合いを済ませてしまいましょう。
………
……
…
――二日後、シャトレーゼ伯爵家・大広間
クレアさんとマクガイア家に雇われた執務官、二人の目利きについての審査が始まります。
大広間に並べてある、シーツがかぶせられているテーブルの上には私が用意した様々な商品が並べてあります。そしてお二人にはカマンベール王国からの来賓リストを参考に、適切な商品を選んで手元に用意してある表に書き込んでもらいます。
それを私が確認して、どちらが適切かを両家の主人および新郎新婦も交えての決議をとりますが。
――ザワザワザワザワ
なぜか、大広間に集まっているのは私たちだけではなく、カマンベール王国の貴族の姿もあるのですが。
「あの~、マクガイア子爵。今回の結婚式の引き出物なので、当日まで内緒にしておきたかったのですけれど……彼らは何故、ここにいるのでしょうか?」
「ああ、公平さを増すために、彼らにはここで不正がないかどうかを見極めてもらうだけだ。それ以上の意味はない」
「そうですか……では、残念ですけれど商品を公開します!!」
――ブワサッ
ノワールさんとクリムゾンさんがシーツを取り外します。
そして並べられている商品を見て、来客だけでなくシャトレーゼ伯爵、はては新郎新婦も目を丸くしています。
「これらは全て、勇者さまのいらっしゃった異世界から独自のルートで仕入れることが出来た商人の方に用意してもらいました。その仕入れ先については一切御説明できません。また、ここにあるものは全てサンプルであり当日は必要な人数分をご用意できますので」
そう説明しますが、何名かの貴族がフラフラと商品に吸い寄せられるようにと通っていきますが。
「あ~、すまんが関係者以外は、そこに書いてある白線から中には入らないようにな」
「何故だ、我々は商品が適切であるかどうかを見極める必要がある!!」
「それを見極めるのは、クレアさんと執務官のみです。外野の貴族は黙っていてください!!」
そう告げてから、私はアイテムボックスから『勇者ご用達商人』と『王室ご用達』の紋章が刻まれている証書を取り出して提示します。
今の私の説明、そしてこの証書を見せてなお私の言葉を無視するというのならば、それはこの国の王家の定めに逆らうも当然……と、シャトレーゼ伯爵が教えてくれました。
「う……ううむ……この小娘が……」
「カマンベール王国に来たら覚えておけ」
そんな言葉も聞こえますが無視です。
「それでは、審査を始めます」
そう私が宣言すると、クレアさんと執務官のマスティという女性が来賓リストを確認します。
そして一つ一つの商品の前に歩いて行っては、それらを手に取って吟味していますね。
「鑑定……ふむ、なるほど……」
執務官は商品を手に取るたびに鑑定を使い、その結果を別に用意してあったらしい紙に書き留めています。
クレアさんも鑑定を使って吟味しているようですけれど、一つの商品を鑑定しては、リストの名前をじっくりと穴が開くのではないかという感じで見つめていますね。
そして1時間ほど経過して、執務官が装飾品の並べてある宝石箱を見た時、思わず絶句しているのに私は気が付きました。
「……いや、まさか……」
一つ一つの装飾品を鑑定しては、それを紙に書き込んでを繰り返し。
それまでの流れるような動作ではなく、息を呑むどころか涎でも流しそうなほどに破顔一笑。
「質問です。ここにある宝石箱、この中の装飾品も人数分、同じものを用意できるというのですか?」
「はい。不可能ではありませんけれど……」
「ですが、これはこのハーバリオスでも王家とその一部しか手に入れることが出来ないという『黒真珠』をあしらったものばかり……いや、この虹色のものはひょっとして?」
「はい。黒真珠のさらに上。虹真珠と呼ばれているものですが」
まるで何事もなかったかのように説明します。
ええ、新しく追加されていた『母の日のちょっと豪華な贈り物』というコーナーにあったのですよ、これが。
それはもう、国王様から御叱りを受けるかもしれませんけれど購入しましたよ、だって貴族に売らなければいいのですから。
「はぁ……このようなものが存在するなんて……これなんて、ピンク色に虹色の光沢が生まれていて……はぁぁ」
うっとりとした目で装飾品を眺めている執務官。
そして、その様子を見てマクガイヤ子爵に何かを耳打ちしているエリー嬢。
さて、何を話しているのでしょうかねぇ。
「確か、ローランド伯爵家は近々娘さんのデビュタントがあるので……それにも使えそうな装飾品に……でも、確か長女さんは私が国を追われた時には子供が生まれていたから……」
ブツブツと、一つ一つの商品を吟味しては書き込んでいるクレアさん。
そして装飾品から離れていっても、すぐに気になって仕方がないのか宝石箱の元に戻ってくる執務官さん。
うん、まさかマクガイヤ子爵の用意した執務官が女性であったとは予想外でしたけれど。
やはりそこに並べてある装飾品の魅力には、女性は抗えないのでしょうね。
その証拠に見届け人のように並んでいる貴族の中には夫人も帯同していたらしく、つま先立ちになって宝石箱をのぞこうとしていたり、前のめりになって必死に覗こうとしていますから。
そして執務官が手に取って自分の指に飾っているのを見て、ハァァァと甘いため息をこぼしています。
ええ、計算通りです!!
それからさらに1時間後。
すべてのチェックが終わり、双方ともに引き出物についてのリストが完成したようです。
「それではこれで審査を終わります。ご来場のみなさまは、しばし別室でお待ちください!!」
そう告げてからパチンと指を鳴らし、すべての商品をアイテムボックスに収納します。
その瞬間の、貴婦人の皆さんのため息ともおぼつかない小さな悲鳴は全て無視ですよ無視。
私たちも応接間に移動し、ここに記されている両家の商品が適切であるかどうかを審査しなくてはなりませんから。
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