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第5章・結婚狂騒曲と、悪役令嬢と

第222話・策を練るのは苦手ですがら、正攻法で参ります

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 クレアさんの魂の叫びを聞いた翌日、朝。

──ガラガラガラガラ
 昨日は寝る前に必死に発注書を用意して転送。朝一番に商品が届くように手配していました。
 そりゃあ、本日の作戦のためにもこれだけは用意しておかないとならないというものを大量に集めておきましたので。
 そして、その為にもクレアさんには今一度、真なる貴族令嬢として復活してもらう必要感あります。

「……はい、それでは確かにお支払いを確認しました。さらにしても……今回はとんでもない量の納品になりましたね。それもこんな大物ばかり……」
「あはは~。ちょうど大きな仕事が舞い込んだものですから。ほら、ブライダルギフトって、ギフトカタログでないと不便じゃないですか。かといってカタログギフトを販売するというのは……」
「ああ、確かに営業所扱いでないと心配ですよね。迂闊な人には型録ギフトはお渡しできませんから」

 さすがはクラウンさん。
 私の言いたいことをしっかりと理解してくれています。

「それで、この商品は梱包して配布するのですね? そのためのラッピングとリボンのセットということですか」
「はい。異世界では結婚式に参加した方には『引き出物』というものをお渡しするそうじゃないですか。だから、そのためにご用意しました」
「結婚式の引き出物……そうね、それじゃあ、貴方とペルソナの結婚式にはもっと豪華なものが用意されるのでしょうね……では、本日はこれで失礼します。今後とも【型録通販のシャーリィ】をどうぞご贔屓に」

 丁寧に頭を下げて、爆弾宣言を行ったクラウンさんが逃げるように馬車に乗って立ち去りました。
 
「ま、ま、待ちなさ~い!! どうしてそこでペルソナさんの名前が出るのですか!!』

 そう叫んでもクラウンさんの姿はすでに見えず。
 納品の手伝いはクリムゾンさんにお任せしていたので、彼にはお酒を一本サービスです。
 ちなみにうちの従業員に登録されたクレアさんですが、予想通り『認識阻害』の効果が発動していたらしく、私とクリムゾンさんのやり取りを黙って見ているだけでした。

「はぁ……柚月さんは勇者だったから認識阻害の効果が及ばなかったのを思い出しましたよ。さてと、それじゃあクレアさん。シャトレーゼ伯爵邸に向かいますので着替えをしましょうか?」
「んんん? 着替えっていっても、この衣服以外の予備なんて無いわよ? し,下着はあるけれどあとは昔着ていたボロボロのつぎはぎのやつしか」
「ええ、それでは貴族の方々にはお会いするのは憚られますので。だから、今回の仕事用に異世界のドレスをご用意しました。それじゃあノワールさん!! クレアさんを貴族令嬢のように仕上げてください!!」

──シュンッ
 私の声と同時に、ノワールさんがクレアさんの背後に姿を現します。

「さて。それでは参りましょうか?」
「え、あ、は、はい?」
「ご安心ください。それはもう、まるで貴族令嬢でも現れたかのように仕上げてご覧に入れますよ!!」

 そう告げつつ、クレアさんの背中を押していくノワールさん。
 ああ、『そもそも、私は貴族令嬢ですから!』という彼女の悲鳴も聞こえますご、それは置いておくことにします。

「さて。お嬢や、あの娘っ子を従業員に雇っているのはいささか不安ではないのか? いや、悪い子ではないとわしもノワールも魂の色で判別できたのじゃが……ほら、今回の仕事では、あの子には荷が重すぎではないのか」
「確かに、クレアさんが過去に行った所業は決して許されることではありません。ですが、それについてはすでに謝罪は終えていますし、なによりも両親が賠償金を支払うという形で双方合意のもとに全て終わっているはずです。にも拘わらず、このような仕打ちはフェイール商店といえど見過ごすことはできません」
「ふむ……ということは、お嬢には何か策があるということじゃな?」
「お任せください。相手が面子とプライドを重んじる貴族だからこそ、出来る事がありますので」

 まあ、これをやってしまうと、私も当面の間はまたハーバリオスから逃げることになるかもしれませんけれど……それはそれ、これはこれ。
 勇者語録にもあるじゃないですが、『旅は道連れ世は情け』ってね。
 そんな話をして居ましたら、しっかりと着飾ったクレアさんが堂々とやって来たので、それではこれよりシャトレーゼ伯爵邸へと向かうことにしましょう。


 〇 〇 〇 〇 〇

 
 のんびりとエセリアル馬車でシャトレーゼ伯爵邸へ。
 そして正門で手続きを取ったのち、馬車はいつものように指輪の中に収納するのではなく停車場へと移動します。

「それでは、カーリーさんとラリーさんはここで馬車の見張りをしていてください」
「ええっと、馬の面倒ではなく馬車の見張りですか?」
「はい、エセリアルホースは特に面倒を見るということはありません。餌も食べませんしなによりも、いつでも綺麗な毛艶のままですから。でも、これをたまに上げてくれると助かります」

 アイテムボックスから馬の手入れ用ブラシと、産地直送の人参を取り出して二人に渡しておきます。
 基本的には何も食べなくても平気だそうですけれど私はこうやって、定期的にブラシをかけてあげたり人参を差し入れしています。
 そうすることで、お互いの気持ちが繋がったようにも感じられますから。

「はい、それじゃあよろしくな」
「ブヒンヒン!!」

 頭を上下にしつつ軽く嘶いています。
 うん、これは大丈夫でしょう。
 そして正面玄関で待っているローズマリーさんの元に赴きますと、そのままシャトレーゼ伯爵に面会をお願いしましたが。

「すでに応接間でお待ちですよ。昨日はあれから大変だったのですから」
「はぁ、詳しいお話は中で直接、伺うことにしましょう。ということで行きますよ?」

 やや下を向いて暗い顔をしているクレアさん。
 その背中をトントンと叩いてから、私たちはローズマリーさんに案内されて、応接間へと移動。
 さて、複雑な表情のシャトレーゼ伯爵が待っていましたので、一礼して席に着くことにしました。

「本日伺ったのは、結婚式の引き出物についてのご相談などを行うためですけれど。伯爵、何かあったのでしょうか?」

 そう問いかけると、伯爵もハァ、とため息一つ。

「先日の件だ。君たちが帰ってから、マクガイア子爵からことの顛末を確認させてもらった。クレア・アイゼンバーグ君、君の行ったことについてだ」
「それでしたら謝罪も終わり、のちアイゼンバーグ家から賠償金を支払って全て終わったのではないでしょうか」
「表向きはな。だが、こその件でマクガイア子爵家はいまでもアイゼンバーグ家を恨んでいる。そんな状態では、フェイール商会に今回の件は依頼することが出来ないとおっしゃっていた」
「では、今回の件はなかったことでよろしいですか? 私どもとしましても、これ以上貴族の我儘に付き合う必要はないと考えていますけれど」

 きっぱりと私が告げると、シャトレーゼ伯爵は呆然とした顔で私を見ている。

「ち、ちょっと待て、今回の件では、そこのクレア君をフェイール商会から外せば話し合いに応じるとおっしゃっているのだぞ」
「外す気はありません。そもそも、今回の依頼につきましては、彼女の母国の貴族の趣味や嗜好などについて力添えを得るために雇ったこと。つまり、彼女が原因ということでしたら、私の人を見る目が無いということになります。そのような状態では、満足に結婚式のプロデュースをすることはできないかと思われますので、この件はこちらから辞退させていただいて構いませんね?」

 やっばり、彼女を外せという話になってきましたか。
 ここまでは予想通りです。
 
「いや、しかし……マクガイア子爵のエリーさんも、異世界の結婚式に憧れているというのだ。それに、すでにハーバリオス王国の勇者ご用達商人、フェイール商店が結婚式の協力をしていると先方は告知しているらしいのだ」
「はあ……私どもには関係がないこと。ということで、今回の件はご破算ということで先方にも報告をして頂けると幸いです。まあ、相手は子爵家、メンツの問題もありますけれど、こればっかりは縁が無かったことですから……」

 さて。
 まさかマクガイア子爵家がそんな暴挙に出ているとは予想外ですね。
 すでに私たちが協力するという噂を立てることで、こちらが引けない状況を作ったというところでしょう。
 これでフェイール商店が依頼を断ると、なんだかんだと悪評をばら撒く気なのでしょうけれど。
 この場合、どちらが痛い思いをするのかまでは理解していませんね。
 そして、私の目の前で腕を組んで渋い顔をしているシャトレーゼ伯爵。
 どうやら私の考えに気が付いたようですけれど、どう切り出してきますか?






  


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