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第5章・結婚狂騒曲と、悪役令嬢と

第212話・のんびり旅に戻りましたが

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 逃げるように、隠れるように、逃げ出した王都。
 エセリアル馬車でのんびりと移動しつつ、当初の目的であるオーウェン領へと向かいます。
 王都にはアーレスト家の別邸はもう存在しないため、長期間の宿泊は商業ギルドお勧めの宿で長期連泊をしていたのですけれど。宿代も半端じゃなくなっていましたから、そろそろ潮時かなということて、まずはシャトレーゼ伯爵領の交易都市メルカバリーへ。
 そこの商業ギルドに露店を申請し、三日ほどここでのんびりと商売を行う予定です。
 道中はあちこちの村や町に立ち止まり、子供たちの好きな駄菓子などを販売、ようやくメルカバリーに到着したところまでは良かったのですけれど、ここで大きな問題に激突。 
 
「……はぁ、露店の空きがないのですか?」
「はい。すでにフリーで使用できる露店の場所は全て埋まっていますね。さすがに今回はタイミングが悪かったようです」 

 商業ギルドに向かい露店申請を行ったところ、空いている場所がないと。
 以前でしたら、露店の場所は半分ぐらいは空いているのですよ。
 まあ、街の中心部ではなくはずれの方とか、そういう人気のない場所でもよければっていう話ですけれど、今回はそれも全て埋まっているようで。
 
「町のはずれとかもないのですか?」
「そうですね……だいたい一週間程度の予約が入っていますし、継続される可能性もありますので」
「何かあったのですか? いつもなら空いていそうな場所まで埋まっているなんて」
「ここ数か月は、カマンベール王国の商会が露店の申請を行う場合が多くてですね。今回もカマンベール王国の6つの商会がこぞって場所取りをしたようで。残念ですけれど、今現在は空いている場所がないということです」
「はぁ……ここ数か月って、この街で何かあったのですか?」
「実はですね……」

 詳しい説明が行われましたが、ことのおこりはシャトレーゼ伯爵の長男であるガトー・シャトレーゼさまが隣国カマンベール王国のとある貴族の子女と結婚することが決まったそうで。
 その準備のためにカマンベール王国からいくつもの商会がやって来て、自分たちを必死に売り込んでいたそうです。
 他国に商会の窓口を作れる可能性があるということで、それはもう必死に名前を売ろうとあちこちの露店で商売を始めたとか。

 商業ギルドのルールでは、商会は本店がある自国以外の国に支店を設置する際、その国もしくは領地の責任者の許可がなくてはなりません。
 今回のケースですとシャトレーゼ伯爵の許可を取ることが出来れば問題はないのですけれど、この街というところがネックになっていて、許可がなかなかおりないそうです。
 交易都市メルカバリーには、隣国の商会支店が幾つも存在していまして、逆にここに新しく支店を置くとなると他の商会との軋轢が生じる場合もあるとか。
 特に西方のカマンベール王国、北西のグレートリング連合王国、北方のオリオンマリン共和国の三つの国からも、いくつも商会が支店を出しているそうで。

 それら他国の商会支店は自国の商品の流通の柱として機能しているそうなのですが、今回はもともとメルカバリーに支店を出しているカマンベールの商会と、今回あらたに進出しようとしている商会とが犬猿の仲。
 それでこの機会に支店を出すべく、元々あった支店をつぶしてしまおうと画策しているのではというのが、商業ギルドとしての意見だそうで。
 なお、ギルドとしてはそんなことは勝手にやってくれ、他国の支店を巻き込むなという通達はすでに行っているらしく。
 現在は、もともとメルカバリーで商売をしていたノルマンディ商会と、新進気鋭のパステゥリザ商会が喧嘩をしているそうで。

「つまり、私はそのくだらない喧嘩に巻き込まれて、露店が開けないということなのですか……」

 説明を聞いて、あきれるしかありません。
 
「それでは、私たちはメルカバリーでの商売は見合わせるしかありませんか……失礼します」
「誠に申し訳ありません」

 まあ、無理してこの街で商売をしなくても、港町サライまで戻って露店を開いた方が楽そうですね。
 ですが、カマンベール王国からやってきた商会とというのも気になります。
 どのような商品を取り扱っているのか、気になりますよね。

「それで、お嬢はどうするつもりなのじゃ?」
「今日明日は町の中を見て回ることにしましょう。そして明後日にでも、サライまでなんか……って、ちょっと待ってくださいね」

 馬車に戻ってから、【シャーリィの魔導書】を開きます。
 今月はそれほど目新しいイベントはないようですけれど、一応確認のため……。

「うん、来月なら限定商品があるようですけれど……まだ、それについての型録は到着していませんよね。そろそろペルソナさんが持ってきてくれるのかな?
「ほほう、それなら今日の夕方にでも、届けて貰えばよいのではないか?」

 そう告げつつ、横で見ていたクリムゾンさんが発注書の一か所を指さしています。
 そこには『最新型録』という文字が記されていて、ここにチェックを入れることで一番新しい型録を届けてくれるようです。

「ははぁ、なるほど。それじゃあいくつか仕入れるついでに、最新版の型録を届けてもらいましょうか」
「それがよい。ちなみに金は払うから、酒と肴を仕入れてくれるとありがたい」
「はいはい。ちょっと待っててくださいね」

 よく見ると、お酒のコーナーは新しくなっていました。
 クラフトビールの『大蛇』、徳利に入った麦焼酎、金賞受賞酒の呑み比べセット……。
 以前はなかった商品が増えていますね。
 それにお酒に合うおつまみも増えていますよ。
 いぶりがっこのクリームチーズ和え? おうちで居酒屋セット? スモークサーモンは以前も購入したのような……骨付き生ハム? ハムって燻製ですよね、生なのですか?
 ひとつひとつ確認していますと、クリムゾンさんがあちこち指さしているじゃないですか。

「これとこれ、これも買ってくれ!! 支払いなら大丈夫だ、ロシマカープ王国で貰った報奨金がまだある!!」
「それを全て酒代にするっていうのはちょっと問題ありませんか? まあ、いつも頑張ってくれているので今回は私からのお礼ということで」
「そ、そ、それじゃあロマネ・コンテ……」
「それは無理ですね。そんなものを買ったらノワールさんに怒られますよ?」
「くぅぅぅぅぅぅぅ」

 はいはい。 
 それじゃあとっとと注文してしまいましょう。
 今からなら、今日の夕方便で間に合う筈ですからね。
 それにしても、ペルソナさんに会うのも久しぶりな気がしますね。
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