上 下
160 / 278
第5章・結婚狂騒曲と、悪役令嬢と

第212話・のんびり旅に戻りましたが

しおりを挟む
 逃げるように、隠れるように、逃げ出した王都。
 エセリアル馬車でのんびりと移動しつつ、当初の目的であるオーウェン領へと向かいます。
 王都にはアーレスト家の別邸はもう存在しないため、長期間の宿泊は商業ギルドお勧めの宿で長期連泊をしていたのですけれど。宿代も半端じゃなくなっていましたから、そろそろ潮時かなということて、まずはシャトレーゼ伯爵領の交易都市メルカバリーへ。
 そこの商業ギルドに露店を申請し、三日ほどここでのんびりと商売を行う予定です。
 道中はあちこちの村や町に立ち止まり、子供たちの好きな駄菓子などを販売、ようやくメルカバリーに到着したところまでは良かったのですけれど、ここで大きな問題に激突。 
 
「……はぁ、露店の空きがないのですか?」
「はい。すでにフリーで使用できる露店の場所は全て埋まっていますね。さすがに今回はタイミングが悪かったようです」 

 商業ギルドに向かい露店申請を行ったところ、空いている場所がないと。
 以前でしたら、露店の場所は半分ぐらいは空いているのですよ。
 まあ、街の中心部ではなくはずれの方とか、そういう人気のない場所でもよければっていう話ですけれど、今回はそれも全て埋まっているようで。
 
「町のはずれとかもないのですか?」
「そうですね……だいたい一週間程度の予約が入っていますし、継続される可能性もありますので」
「何かあったのですか? いつもなら空いていそうな場所まで埋まっているなんて」
「ここ数か月は、カマンベール王国の商会が露店の申請を行う場合が多くてですね。今回もカマンベール王国の6つの商会がこぞって場所取りをしたようで。残念ですけれど、今現在は空いている場所がないということです」
「はぁ……ここ数か月って、この街で何かあったのですか?」
「実はですね……」

 詳しい説明が行われましたが、ことのおこりはシャトレーゼ伯爵の長男であるガトー・シャトレーゼさまが隣国カマンベール王国のとある貴族の子女と結婚することが決まったそうで。
 その準備のためにカマンベール王国からいくつもの商会がやって来て、自分たちを必死に売り込んでいたそうです。
 他国に商会の窓口を作れる可能性があるということで、それはもう必死に名前を売ろうとあちこちの露店で商売を始めたとか。

 商業ギルドのルールでは、商会は本店がある自国以外の国に支店を設置する際、その国もしくは領地の責任者の許可がなくてはなりません。
 今回のケースですとシャトレーゼ伯爵の許可を取ることが出来れば問題はないのですけれど、この街というところがネックになっていて、許可がなかなかおりないそうです。
 交易都市メルカバリーには、隣国の商会支店が幾つも存在していまして、逆にここに新しく支店を置くとなると他の商会との軋轢が生じる場合もあるとか。
 特に西方のカマンベール王国、北西のグレートリング連合王国、北方のオリオンマリン共和国の三つの国からも、いくつも商会が支店を出しているそうで。

 それら他国の商会支店は自国の商品の流通の柱として機能しているそうなのですが、今回はもともとメルカバリーに支店を出しているカマンベールの商会と、今回あらたに進出しようとしている商会とが犬猿の仲。
 それでこの機会に支店を出すべく、元々あった支店をつぶしてしまおうと画策しているのではというのが、商業ギルドとしての意見だそうで。
 なお、ギルドとしてはそんなことは勝手にやってくれ、他国の支店を巻き込むなという通達はすでに行っているらしく。
 現在は、もともとメルカバリーで商売をしていたノルマンディ商会と、新進気鋭のパステゥリザ商会が喧嘩をしているそうで。

「つまり、私はそのくだらない喧嘩に巻き込まれて、露店が開けないということなのですか……」

 説明を聞いて、あきれるしかありません。
 
「それでは、私たちはメルカバリーでの商売は見合わせるしかありませんか……失礼します」
「誠に申し訳ありません」

 まあ、無理してこの街で商売をしなくても、港町サライまで戻って露店を開いた方が楽そうですね。
 ですが、カマンベール王国からやってきた商会とというのも気になります。
 どのような商品を取り扱っているのか、気になりますよね。

「それで、お嬢はどうするつもりなのじゃ?」
「今日明日は町の中を見て回ることにしましょう。そして明後日にでも、サライまでなんか……って、ちょっと待ってくださいね」

 馬車に戻ってから、【シャーリィの魔導書】を開きます。
 今月はそれほど目新しいイベントはないようですけれど、一応確認のため……。

「うん、来月なら限定商品があるようですけれど……まだ、それについての型録は到着していませんよね。そろそろペルソナさんが持ってきてくれるのかな?
「ほほう、それなら今日の夕方にでも、届けて貰えばよいのではないか?」

 そう告げつつ、横で見ていたクリムゾンさんが発注書の一か所を指さしています。
 そこには『最新型録』という文字が記されていて、ここにチェックを入れることで一番新しい型録を届けてくれるようです。

「ははぁ、なるほど。それじゃあいくつか仕入れるついでに、最新版の型録を届けてもらいましょうか」
「それがよい。ちなみに金は払うから、酒と肴を仕入れてくれるとありがたい」
「はいはい。ちょっと待っててくださいね」

 よく見ると、お酒のコーナーは新しくなっていました。
 クラフトビールの『大蛇』、徳利に入った麦焼酎、金賞受賞酒の呑み比べセット……。
 以前はなかった商品が増えていますね。
 それにお酒に合うおつまみも増えていますよ。
 いぶりがっこのクリームチーズ和え? おうちで居酒屋セット? スモークサーモンは以前も購入したのような……骨付き生ハム? ハムって燻製ですよね、生なのですか?
 ひとつひとつ確認していますと、クリムゾンさんがあちこち指さしているじゃないですか。

「これとこれ、これも買ってくれ!! 支払いなら大丈夫だ、ロシマカープ王国で貰った報奨金がまだある!!」
「それを全て酒代にするっていうのはちょっと問題ありませんか? まあ、いつも頑張ってくれているので今回は私からのお礼ということで」
「そ、そ、それじゃあロマネ・コンテ……」
「それは無理ですね。そんなものを買ったらノワールさんに怒られますよ?」
「くぅぅぅぅぅぅぅ」

 はいはい。 
 それじゃあとっとと注文してしまいましょう。
 今からなら、今日の夕方便で間に合う筈ですからね。
 それにしても、ペルソナさんに会うのも久しぶりな気がしますね。
しおりを挟む
感想 652

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。