型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第200話・魔族対策会議と、とんでもない方法

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 無事に検品も終えて。
 
 あとはペルソナさんは帰るだけなのですが、今日はまだこの場に留まっています。 
 いえ、私は早く帰って欲しいなんて思っていません、むしろ、今この時間が少しでも長く続いていたらなぁ……って。

 なぜか気になっていた人。
 最初の出会いの時は、マスクをつけた変な人だったのに。
 配達人と商人、それだけの関係ではなかったようで。
 いつしか、私はこの人を好きになっていました。

「……さて、惚けている姐さんは置いておくとして。今後の対策について考えてみるか。そこの騎士さんよ、すまないが治癒師をここにも回してくれないか? うちの黒だけじゃ手が足りないし、何よりも魔力を温存したい」
「そうね。ここから先は、この国のことだから私たちが手を貸す必要はないわ。あとは騎士達にお任せします、ここの守りもね」
「了解です。民間の方の御助力、誠にありがとうございました。すでに教会には連絡が届いています、あとは治癒師ならびに教会の治療担当者がここに到着する手筈になっています」

 ブランシュさんとノワールさんの問いかけに、この場の責任者らしい騎士が頭を下げて告げています。
 うん、この国の騎士達もしっかりと仕事をしています。
 国の剣となり、民を救うのが騎士の務め。
 人無くして国家無し、騎士が叙勲する際には、王家と国に忠誠を誓います。
 そして己の命をかけて、王家を、国を守るのが騎士。
 何処かの金のために聖剣を売り払う勇者とは雲泥の差です。

「さて。それじゃあこれからどうするかだが。姐さん、何かいい作戦は無いか?」
「ブランシュさん、いきなりそのようなことを言われましても、私は一介の商人であって作戦参謀とか軍師ではありませんよ? 今のこの状況を打破するといいましても、今回大量購入したお線香と蝋燭をどう使うかぐらいしか考えられません」

 ええ、もしも私にそのような才能がありましたら、家を放逐されることも義絶されることもなかったかもしれません。
 アーレスト家は商人の家系なので、軍務系の役職についても家督を継ぐことはできませんから。
 そう思いつつ、私なりに色々と策を考えていますと。
 ペルソナさんがそっと小さく右手を上げました。

「ちょっと、実験してみませんか?」
「実験、ですか?」
「ええ。今回の大量の注文、その殆どがお線香と蝋燭ではないですか。これはアンデット対策用に購入したということで、間違いはないのですよね?」

 いきなり核心をついてくるペルソナさん。
 ええ、その通りです。

「はい、ですが、お線香も蝋燭も、燃え尽きるまでの時間が早くて。それに持ち運ぶにも、線香はまだ大丈夫ですが蝋燭はちょっとしたことで火が消えてしまいますから。今は、ここの結界維持と緊急時用にと考えています」
「なるほど……」

 顎に触れながら、ペルソナさんが何かを考えています。

「ブランシュ、魔術の効果範囲拡大は使えますよね? あと風精霊に働きかけることも可能ですか?」
「お、おおう。その程度なら朝飯前だけど、どうするんだ?」
「まあ、ものは試しです。普通には考えられないかもしれませんが、私たちなら可能な方法がありますから。ちょっと失礼しますね」

 そう説明してから、ペルソナさんが近所の雑貨屋へ向かいます。
 そこで大きな金盥を購入してきますと、店の前に止めてある馬車の後ろ、荷台の部分に積み込みました。

「さて。クリスティナさん、お線香を一箱、お借りして構いませんか?」
「はい、どうぞ」

 今仕入れたばかりのお線香をアイテムボックスから取り出して手渡します。
 それを開いて火を付けると、金盥の中に並べ始めました。

「それじゃあ、ブランシュは後ろの席に乗ってください。そして風精霊に働きかけて、煙をできる限り広範囲に届けてもらえますか?」
「まあ、その程度なら。それで、範囲を広げるっていうのは?」
「クリスティナさん、金盥の中に蝋燭を並べて、火を灯してください。その浄化の力を広範囲に広げるだけですよ」

 その説明を聞きつつ、私は蝋燭も取り出して火を灯し、金盥の中に並べます。
 そして一通りの準備が終わりますと、ペルソナさんは御者台に飛び乗って、ゆっくりと走り出しました。

「では、この周辺と正門あたりまで走ってみますか。これに成功したら、あとはクリスティナさんが自分の場所で試してください。では行きますよ」

 すぐさま馬車が走り出します。
 ちなみに馬車が止まっている間は,認識阻害の効果が働くので誰も私たちに声をかけたりはしませんが。
 場所が走り去ってからは、騎士たちも集まってきて状況を説明してほしいと問いかけてきました。

「このお線香には、アンデットの怒りを鎮める作用があります。そして蝋燭は彼らを冥府へと導くそうで……」
「それを騎士団で一括購入することは可能かな?」
「それはできません。いえ、全くダメというのではなく、今はペルソナさんが実験をしていますので。それが成功しましたら、騎士団の皆さんにもお任せしたいと思いますから。結果をお待ちください」

 丁寧に説明をして頭を下げます。
 すると騎士達も理解してくれたようで、ペルソナさんの帰還待ちとなりました。
 何事もなく、無事に終われば良いのですが。
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