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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と
第198話・炊き出し、治療、そして時は動き出す
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港町サライのお祭りで使った炭焼き道具一式。
大バザール内の雑貨屋さんで購入した大鍋と、それを吊るための道具一式。
さらに試飲コーナーで使っていたコンロとヤカンを次々と店の前に並べていきます。
先ほど走り去っていった騎士の話を聞いたのか、町の人が次々とこの場所に避難してきます。
中にはけがを負っている人の姿もありますけれど、そういった方はすぐにノアールさんとブランシュさんが治療魔法で手当てを行ってくれていますので。
「よし、私にできることは炊き出しです!! ノブレスオブリージュではありませんけれど、商人としてやるべきことをなすだけです」
商売抜きで商品を提供すること。
それが商人としてのあるべき姿ではないという方も多くいらっしゃいますし、おそらくはそれが正解なのでしょう。
採算度外視など、商人としてあってはならないこと。
でずか、それは先見の明のない商人の言葉であり、先を見通す商人は、そんなことを気にしません。
商人、商会にとって最も大切なものは採算ではなく信用。
それを得るためならば、どれだけ商品を放出しても構わない時があります。
そして今が、そのタイミング。
王都が魔族の侵攻にあい、逃げ場を失ったものやけが人が多く逃げてきたこの場所でなすべきことは、人々に安心を与えることですから。
その証拠に、フェイール商店以外のお店も自発的に割引セールや無料提供を行っています。
汚れた衣服の交換、空腹を紛らわすための露店。
商店の警備を行っている人たちも大バザールの出入り口に回り、周囲を警戒中。
早くすべてが終わるといいのですけれど。
「姐さん、怪我人の治療にめどがついたから、こっちを手伝うわ」
「そうなのですか? それに結界の維持にも魔力とか集中力が必要ですよね?」
「いやいや、そんな半端な結界を俺が作るはずないだろうが。最初に作るときに持続時間延長の効果を付与するだけだから」
「なるほど。柚月さんの魔法とは違うのですね」
「あっちは黒魔法、俺のは精霊魔法だからさ。強度という点では、あいつの方が強いんじゃないかな」
なるほど。
魔術区分にも色々とありますけれど、一長一短があるということですか。
そして柚月さんを『あいつ』呼ばわりですか。
恋人同士にしか分からない何かですね?
「……なんだろう、その姐さんのニヤニヤ顔が鼻につくんだけれど……」
「いえいえ、柚月さんとの恋仲が進んでいるようで何よりですねぇ……と思っただけです」
いけないいけない、ニマニマしてしまいました。
ということで、炊き出し作業再開です。
だんだんと日が暮れてきましたので気温も一気に下がってきます。
ブランシュさんの結界の効果なのか、寒さについては多少は楽ではありますけれど。
それでもこの寒さでは、迂闊に眠ってしまったら飛んでもないことになりそうです。
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
そんなことを考えていると、闘技場からひときわ大きな爆発音が響きます。
「あれは!!」
「どうやら、あそこに今回の侵攻の司令官がいるようだな。クリムゾンの反応を強く感じる」
まだ、クリムゾンさんたちは戦っているのでしょうか。
無事に帰ってきてくれればいいのですけれど。
そう思って、両手を組んで精霊に祈りを捧げます。
(精霊女王のシャーリィさま。どうかクリムゾンさんが無事に帰ってこれますように……)
――フワァッ
そう祈りを捧げますと、右手の指輪が青く光り輝きました。
「な、なにが起こったのですか!!」
「姐さん、そいつはアーレストの秘儀だ。俺たちエセリアルに精霊の加護を授ける力ってやつだが……姐さん、いつの間に使えるようになったんだ?」
「わ、分かりません!! こんなの初めてですし、誰か説明してくれませんか!!」
いえ、誰かと言いましても、この場の誰も判っていないと思いますが。
ブランシュさんかノワールさんなら、判っているのかもしれません。
「……いや、姐さんの加護って微妙なんだよなぁ」
「クリスティナさまは、精霊魔術を修めていませんので。なんといいますか、直接目に見えるような加護ではないように感じますけれど」
「そうなのですか……」
わかりません。
でも、先ほどの爆発音が響いてから、この大バザールにさらに大勢の人たちが集まってきています。
この近くの人たちや闘技場から逃げてきた人たちの一部も、ここに避難してきたようです。
そして、数名の騎士もここにやってくると、周辺警護を始めてくれました。
「騎士さま、私たちはどうなるのですか」
「王都は魔族に滅ぼされるのでしょうか……」
多くの人たちが騎士たちに詰め寄っていきます。
やっばり皆さん不安なのです。
私だって、まさか魔族の襲撃を受けるだなんて思ってもいませんでしたから。
「現状、魔族の侵攻を押さえて気います。城壁には神聖魔法により守護も行われていますので、もうしばらくはこの場所に避難していてください」
騎士が説明すると、まだ不安は残っているようですけれど従うしかありません。
それなら。
「はーーーい、フェイール商店の炊き出しができました~。小さな子供、お年寄りから先に並んでくださーい。それと、寒さ対策に毛布も配布しますので、食事の前に取りに来てくださいね~」
ヴェルディーナ王国の正教会へと送り届けようとしていた避難物資。
食料品などはもう殆ど残っていませんけれど、まだ衣類と毛布などの雑貨類は豊富に余っています。
これはもう、全部放出するしかありません。
「ノワールさん、毛布と衣類の配布のお手伝いをお願いします」
「かしこまりました」
店舗の一角に大量の衣類と毛布を山積みに。
「あの、手伝わせてください」
「私も、じっとしていても辛いだけなので、手伝わせて貰っていいでしょうか」
一人、また一人とお手伝いを願ってくれます。
それならば、ここは彼女たちにお任せして私は炊き出しに戻っても大丈夫ですよね。
「それでは、ここはお任せします。足りなくなったらまた声をかけてください」
「はい、わかりました」
「お任せください……って、これ、こんな高級な服や毛布を配布していいのですか」
すべて、型録通販のシャーリィで購入したものばかり。
確かに私たちの世界の基準で考えますと、貴族家などで使われていてもおかしくないこの手触り肌触り。
しかも保温効果も抜群で……って、魔力付与で【保温】が毛布に付与されているじゃありませんか。
これは渡りに船です……あれ、渡りに哲也だったかな?
困ったときにこの人物が、とか困ったときにこのタイミングという感じの意味だったはずです。
「はい、全て無料配布ですのでよろしくお願いします。自分たちの分も確保しておいてくださいね」
「ありがとうございます」
「はい、家族分を確保してもよろしいですか?」
「当然です。遠慮なくお持ちください」
そう告げますと、嬉しそうに自分たちの分も確保してくれました。
さあ、あとは明日の朝までこの極限状態を乗り切って、大量のお線香とろうそくが届くのを待つばかりです。
大バザール内の雑貨屋さんで購入した大鍋と、それを吊るための道具一式。
さらに試飲コーナーで使っていたコンロとヤカンを次々と店の前に並べていきます。
先ほど走り去っていった騎士の話を聞いたのか、町の人が次々とこの場所に避難してきます。
中にはけがを負っている人の姿もありますけれど、そういった方はすぐにノアールさんとブランシュさんが治療魔法で手当てを行ってくれていますので。
「よし、私にできることは炊き出しです!! ノブレスオブリージュではありませんけれど、商人としてやるべきことをなすだけです」
商売抜きで商品を提供すること。
それが商人としてのあるべき姿ではないという方も多くいらっしゃいますし、おそらくはそれが正解なのでしょう。
採算度外視など、商人としてあってはならないこと。
でずか、それは先見の明のない商人の言葉であり、先を見通す商人は、そんなことを気にしません。
商人、商会にとって最も大切なものは採算ではなく信用。
それを得るためならば、どれだけ商品を放出しても構わない時があります。
そして今が、そのタイミング。
王都が魔族の侵攻にあい、逃げ場を失ったものやけが人が多く逃げてきたこの場所でなすべきことは、人々に安心を与えることですから。
その証拠に、フェイール商店以外のお店も自発的に割引セールや無料提供を行っています。
汚れた衣服の交換、空腹を紛らわすための露店。
商店の警備を行っている人たちも大バザールの出入り口に回り、周囲を警戒中。
早くすべてが終わるといいのですけれど。
「姐さん、怪我人の治療にめどがついたから、こっちを手伝うわ」
「そうなのですか? それに結界の維持にも魔力とか集中力が必要ですよね?」
「いやいや、そんな半端な結界を俺が作るはずないだろうが。最初に作るときに持続時間延長の効果を付与するだけだから」
「なるほど。柚月さんの魔法とは違うのですね」
「あっちは黒魔法、俺のは精霊魔法だからさ。強度という点では、あいつの方が強いんじゃないかな」
なるほど。
魔術区分にも色々とありますけれど、一長一短があるということですか。
そして柚月さんを『あいつ』呼ばわりですか。
恋人同士にしか分からない何かですね?
「……なんだろう、その姐さんのニヤニヤ顔が鼻につくんだけれど……」
「いえいえ、柚月さんとの恋仲が進んでいるようで何よりですねぇ……と思っただけです」
いけないいけない、ニマニマしてしまいました。
ということで、炊き出し作業再開です。
だんだんと日が暮れてきましたので気温も一気に下がってきます。
ブランシュさんの結界の効果なのか、寒さについては多少は楽ではありますけれど。
それでもこの寒さでは、迂闊に眠ってしまったら飛んでもないことになりそうです。
――ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
そんなことを考えていると、闘技場からひときわ大きな爆発音が響きます。
「あれは!!」
「どうやら、あそこに今回の侵攻の司令官がいるようだな。クリムゾンの反応を強く感じる」
まだ、クリムゾンさんたちは戦っているのでしょうか。
無事に帰ってきてくれればいいのですけれど。
そう思って、両手を組んで精霊に祈りを捧げます。
(精霊女王のシャーリィさま。どうかクリムゾンさんが無事に帰ってこれますように……)
――フワァッ
そう祈りを捧げますと、右手の指輪が青く光り輝きました。
「な、なにが起こったのですか!!」
「姐さん、そいつはアーレストの秘儀だ。俺たちエセリアルに精霊の加護を授ける力ってやつだが……姐さん、いつの間に使えるようになったんだ?」
「わ、分かりません!! こんなの初めてですし、誰か説明してくれませんか!!」
いえ、誰かと言いましても、この場の誰も判っていないと思いますが。
ブランシュさんかノワールさんなら、判っているのかもしれません。
「……いや、姐さんの加護って微妙なんだよなぁ」
「クリスティナさまは、精霊魔術を修めていませんので。なんといいますか、直接目に見えるような加護ではないように感じますけれど」
「そうなのですか……」
わかりません。
でも、先ほどの爆発音が響いてから、この大バザールにさらに大勢の人たちが集まってきています。
この近くの人たちや闘技場から逃げてきた人たちの一部も、ここに避難してきたようです。
そして、数名の騎士もここにやってくると、周辺警護を始めてくれました。
「騎士さま、私たちはどうなるのですか」
「王都は魔族に滅ぼされるのでしょうか……」
多くの人たちが騎士たちに詰め寄っていきます。
やっばり皆さん不安なのです。
私だって、まさか魔族の襲撃を受けるだなんて思ってもいませんでしたから。
「現状、魔族の侵攻を押さえて気います。城壁には神聖魔法により守護も行われていますので、もうしばらくはこの場所に避難していてください」
騎士が説明すると、まだ不安は残っているようですけれど従うしかありません。
それなら。
「はーーーい、フェイール商店の炊き出しができました~。小さな子供、お年寄りから先に並んでくださーい。それと、寒さ対策に毛布も配布しますので、食事の前に取りに来てくださいね~」
ヴェルディーナ王国の正教会へと送り届けようとしていた避難物資。
食料品などはもう殆ど残っていませんけれど、まだ衣類と毛布などの雑貨類は豊富に余っています。
これはもう、全部放出するしかありません。
「ノワールさん、毛布と衣類の配布のお手伝いをお願いします」
「かしこまりました」
店舗の一角に大量の衣類と毛布を山積みに。
「あの、手伝わせてください」
「私も、じっとしていても辛いだけなので、手伝わせて貰っていいでしょうか」
一人、また一人とお手伝いを願ってくれます。
それならば、ここは彼女たちにお任せして私は炊き出しに戻っても大丈夫ですよね。
「それでは、ここはお任せします。足りなくなったらまた声をかけてください」
「はい、わかりました」
「お任せください……って、これ、こんな高級な服や毛布を配布していいのですか」
すべて、型録通販のシャーリィで購入したものばかり。
確かに私たちの世界の基準で考えますと、貴族家などで使われていてもおかしくないこの手触り肌触り。
しかも保温効果も抜群で……って、魔力付与で【保温】が毛布に付与されているじゃありませんか。
これは渡りに船です……あれ、渡りに哲也だったかな?
困ったときにこの人物が、とか困ったときにこのタイミングという感じの意味だったはずです。
「はい、全て無料配布ですのでよろしくお願いします。自分たちの分も確保しておいてくださいね」
「ありがとうございます」
「はい、家族分を確保してもよろしいですか?」
「当然です。遠慮なくお持ちください」
そう告げますと、嬉しそうに自分たちの分も確保してくれました。
さあ、あとは明日の朝までこの極限状態を乗り切って、大量のお線香とろうそくが届くのを待つばかりです。
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