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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第191話・大バザールが始まりました。

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 さて。

 気を取り直して、フェイール商店の準備をしなくてはなりません。
 急ぎ商品の陳列を行おうとしましたのですが、既に終わっているのですけれど。
 しかも、おすすめ品コーナーとか、温かい飲み物の試飲コーナーなども準備されていて、今は柚月さんとノワールさんが商品の値付けの準備をしていますよ。
 はぁ。
 店長として不甲斐なし、穴があったら入りたい。

「あ、クリスっちが戻ってきたし。妄想タイムは終わったし?」
「も、も、妄想ってなんですか!! 私はペルソナさんから頂いたプレゼントについて、どうお答えするべきか考えていただけで、妄想なんてしていませんよ!」
「本当?顔がまだ赤いし。それに、さっきからペルソナさんから貰ったプレゼントを、大切そうに抱きしめているし。それ,食べ物なら溶けているかも知れないよ?」
「はぅあ!! そ、それはいけません!」

 慌ててアイテムボックスを開いて、急ぎ【大切なもの】フォルダーを作ります。
 そこにペルソナさんから受け取ったプレゼントを仕舞っておきます。
 何が送られてきたのか気にはなりますけれど、今はお店の準備をしなくてはなりませんからね。

「クリスティナさま。こちらの試飲コーナーですけれど、どちらを使用しますか? いつものように異世界の紅茶とやらで宜しいので?」
「ちょっと待ってくださいね。身体の芯から暖まる飲み物を注文していたのですよ」

 こんなこともあろうかと。
 勇者語録にあるサナダさんの名言です。
 異世界では『備えあれば憂いなし』という諺がありまして、それを簡単に説明するための言葉が、先程の『こんなこともあろうかと』だそうです。
 はい、ノワールさんも柚月さんも笑っていませんから、これは本当ですね。
 
「ええっと……そうそう、これですよ、これ!!」

──シュンッ
 アイテムボックスから取り出したのは、『里中養蜂場ハチミツ漬けレモン』と『トワイライト・ティーセット』、そして『AGDのスティックカフェ・オ・レ』です。

「ん? これはいつもの物と違うのですね?」
「はい。まずは木のマグカップにハチミツ漬けをスプーンでひと匙いれまして。そこにティーセットのスティックティーの中身を一本入れてから、熱々のお湯を注いでクルクルと」

 説明しつつ実演しますと、紅茶とレモンの香りが店内に広がっていきます。
 その匂いに釣られてなのか、店の前には人が集まり始めていますよ。
 そして販売前に鑑定眼で確認したところ、【型録通販のシャーリィ】から購入した商品ですから、やっぱり魔法的効果も付与されていました。

「ふむ、こちらの効果は『保温』と『安眠』、それと『身体活性化・小』ですね。それに少しだけ『鎮静化』も付与されていますから、飲むだけで心も身体も落ち着き、暖かい気持ちになるようですよ」

 とりあえず私と柚月さん、ノワールさんの分を作って手渡します。
 クリムゾンさんの分も作ろうと思ったのですけれど、店内には見当たりません。
 今の説明も木札に書き込んで商品と一緒に置いておけば、買いやすくなりますよね。

「そういえば、クリムゾンさんはどちらへ?」
「大武道会の本戦のために、鈍った体を鍛え直すとかで冒険者ギルドに向かいましたわ。本当に、護衛の立場もすっかり忘れて……あとでしっかりと〆ておきますので」
「あはは~。ま、まあ、クリムゾンさんの目的は優勝ですから、少しだけ大目に見てあげてください。大切なものを取り返すためですから、寧ろ応援してあげないと」
「にしし。クリスっちの言う通りだし。それよりも、こっちのスティックカフェ・オ・レも一緒に販売するし?」

 そう聞きながら、柚月さんがお代わりとしてスティックカフェ・オ・レを作っています。
 
「ええ、そうですけど? なにか特殊な効果とかありましたか?」
「んー。カフェオレって、そもそもコーヒーが原料でね。あーしたちの世界では眠気や疲労感を取り除いたり、あとは集中力を高めたり……それと運動機能を高めるっていう効果があるんだけれど……それがもろにでているし。多分、他のメーカーよりも成分が強いんじゃないかとおもうし」
「ふむふむ、つまりは?」
「戦闘時にバフがかかるし。具体的には、身体能力が2割ほど高くなるってかんじだし」
「ええっと……まあ、冒険者さんが飲むぶんには気にしないでよいかとおもいますし……効果時間はどれぐらいかな……と、へ?」

『身体機能の活性化および能力向上20%アップ、疲労軽減、魔術の発動率上昇、睡眠障害。効果時間は6時間』

 あ~、これはいけませんね。
 販売するときは注意しないとならない代物ですよ。ということで、初日のラインナップからは外しましょう。
 
「はい、商品棚から全て撤去です、代わりにエンゼルココアを販売しましょう。ミルクを買ってきて温めて、それでココアを溶かすとよいそうですから」

 はい、カフェオレからミルクココアに変更です。
 ですが、今の私たちの話を聞いていたらしいお客さんが、どこかに走っていきましたよ。
 ええ、これは嫌な予感しかしませんね。

「ココアなら、血行が良くなって体温の保温効果とかも高まるし、ちょうどいいかもしれないし」
「はい、決定です。では、試飲およびホットドリンクは蜂蜜レモンいり紅茶とココアで!! あとは普段通りの食品とか衣料品、装飾品の販売で!!」
「かしこまりました」
「了解だし」

 これでどうにか商品も決定しまして。
 ようやく開店準備も完了し、ロシマカープ王国王都でフェイール商店の営業開始です。
 あとはクリムゾンさんが無事に優勝できたら万々歳ですね。

………
……


──王都・冒険者ギルド
「おいおい、あの話を聞いたか?」
「ああ、なんでも大バザールにできた新しい店で、ブーストポーションが販売されているらしいぞ」
「ブーストポーションだって? あれを作るための素材は、もうこの北方じゃ手に入らないんじゃないのか? ヴェルディーナ王国でしか栽培されていない特殊な植物を使うんだろ?」
「ああ。うちのメンツがな、その店の前で聞いてきたから間違いはない。そのポーションを買い占めて横流ししたら、一攫千金間違いないんじゃないか? その店だってそんなに多く売っているとは思えないからな」
「そうそう。それによ、大武術会に参加する、ほら、隣国の王子だったか? あいつが優勝するために良質な武具を求めているっていうじゃないか。そいつに売り飛ばせば、もっと稼げるとは思わないか?」

 そんな噂が、冒険者ギルドのあちこちで広がっている。
 そしていち早く手に入れようと考えた冒険者がフェイール商店を訪れても、販売されているのは保温効果ある飲み物とかばかりで、ブーストポーションというものは販売していなかった。
 そしてこの噂が、王都に根付いている闇ギルドに届くまではそれほど時間は必要なかったという。
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