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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第190話・バレンタイン+ホワイト=?

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 朝6つの鐘の音が響き、通りには大勢の人の行き来が始まります。
 
 人々は朝の鐘の音と共に仕事に向かい、そして夕方の鐘の音と共に帰路へとつく。
 昔は朝の日の出から日が沈むまで、それが労働時間でした。
 けれど、勇者さまが世界を救ってからの300年は、【ブラック企業禁止】という言葉とともに、労働条件の改善などが行われ、今では7日に一度は休日を取るようにまで至りました。
 もっとも地方や田舎まではこの風習は伝わっていませんが、それもゆっくりと浸透しつつあります。
 昼休み、おやつの時間、たばこ休憩等々、勇者様は理由を付けて休憩を取っていましたけれど、それも短時間で仕事に集中するためといわれると納得がいきますよね。

 もっとも、たばこを吸う人だけがたばこ休憩を取れるということで、吸わない人たちからの不平不満が爆発、その結果としてとある国の貴族院の職員たちがストライキを決行。業務が一週間ほど停止したという事件まで起こったという話です。

──ガラガラガラ
「おつかれさま~!! 今日もシャーリィは定時にやって来たし。クリスっち、クラウンさんが配達にきたよぉ」
「はい、今行きますのでお待ちください!!」

 柚月さんが通りに顔を出して、手を振りながら馬車がくるのを待っています。
 そしていつも通りに、フェイール商店の前には黒いクラウンさんの馬車と白いペルソナさんの馬車……あれれ? どうして二台ですか? まさか荷物が多すぎたので二台での配達ですか……。

「お待たせしました。型録通販のシャーリィより、お荷物をお届けに参りました。まずは納品を行いますので、誠に申し訳ありませんが荷物を下ろすのを手伝って貰えますか?」
「了解だし。それで、どうしてペルソナさんまで朝の配達に来ているし?」
「あはは……」

 何か遠くを見るような、それでいて呆れているような顔で笑っているクラウンさん。
 
「今日は、私も配達員なので。まずは、普通の荷物を下ろす作業をしましょう。クリスティナさんと柚月さんは検品をお願いします」
「んんん? あーしは店員扱いだけど型録通販のシャーリィに関与する権利はないし?」
「本日付けで、柚月さんはフェイール商店の正規職員登録を行なっておきましたので、大丈夫ですよ。これが【型録通販のシャーリィ】の登録証です、貴方の魔導書に登録するだけですが……」

 そう柚月さんに説明してから、ペルソナさんが私の方をチラッと見ます。
 その視線は私と、そして魔導書に注がれていますけど……あ!!

「ペルソナさん、これが保留されていたレベルアップ分の効果ですか?」
「はい。カタログ通販会員7レベルの効果は、【追加雇用】です。ただし、これは誰でも可能ということではなくてですね、厳選な審査があります。それをクリアしたものにのみ、登録証をお渡しすることができるのですが……柚月さん以外にほ、この条件をクリアする方がいらっしゃらなくてですね」

 淡々と説明していたペルソナさんですけれど、だんだんと慌てた感じに話し始めました。
 最後の方は身振り手振りを交えて必死に説明してくれるので、私も思わずクスッと笑っていたかもしれませんね。

「ペルソナさん、柚月さんの商会登録、謹んでお受けします。それで柚月さんにはどのような特典がありますか?」
「はい。ではまず、クリスティナさんと柚月さんのアイテムボックスに【商会共有】というフォルダが増えます。これは【型録通販のシャーリィ】の商品しか入れることはできませんが、お互いに距離が離れていても出し入れ可能になっています」
「にしし、もう登録したし。クリスっち、今後とも宜しくだし」
「はい、これからも宜しくお願いしますね」

 さっそく柚月さんがアイテムボックスを確認していますが。

「あの~、それよりも検品を~」
「は、はい!!」
「あわわわ、今やるし」

 柚月さんの魔導書にも、納品書が添付されたようで。
 それを開きながら、一つ一つ確認しては共有アイテムボックスに放り込んでいます。
 今までは荷物を下ろしてもらうのを手伝ってくれていただけなのですが、これは効率がかなり高くなりましたよ。

「では、私も荷卸しを行いますね。私の分は柚月さんが、クラウンさんの分はクリスティナ様が検品をお願いします」
「ノワールさん、ありがとうございます。よし、とっとと終わらせることにしましょう!」

 次々と荷物を下ろしては検品を繰り返し。
 いつもよりかなり多めの荷物も、30分で終わりました。

「……レプトンティーセット……と、これでお終いだし」
「ありがとうございます!」
「では、支払いをお願いします。いつものチャージ払いで宜しいのですか?」
「はい、お願いします」

 クラウンさんに魔導書を提示して、無事に支払いも完了。
 仮初のレベル8でも、ようやく中身が7レベルまで追いつき始めました。

「あの……一つ教えて欲しいのですけど?」

 そうクラウンさんに問い掛けますと、彼女は頭を振って一言。

「それはペルソナに聞いていただけますか? 私は次の配達に……と、忘れるところでした」

 何かを思い出して、クラウンさんが荷台から大きな荷物を下ろします。

「こちらは、アルルカンからクリスティナさまへのお届け物です。ペルソナの話を聞いてから、ご確認ください」
「アルルカンさんから? はて? 何か注文しましたっけ?」
「さぁ? 私どもは荷物を届けるのが仕事です。細かいことにつきましては事務処理も兼任しているペルソナに問いかけてください。それでは、今後とも型録通販のシャーリィをご贔屓ください」

 丁寧に頭を下げるクラウンさん。
 私も同じように深々を頭を下げてから、走り去るクラウンさんを見届けます。

「さて、それではクリスティナさんの疑問を晴らすことにしましょうか」

 私とクラウンさんの話を聞いていたらしく、ペルソナさんが近くに来ました。
 それでは、疑問を解消してもらいましょう。

「あの、私の会員レベルは実質8レベルに届くまでは新しい加護を受け取ることはできなかったはずです。それがどうして、このタイミングで開放されたのでしょうか?」

 ええ、私がヘスティア王国の国王にカタログ通販の業務管理権限を与えるために、無理やり型録通販会員レベルを8レベルに引き上げたとき。
 途中経過分の加護は得られないと聞き及んでいます。
 でも、それがいきなりというのはどういうことでしょうか。

「いくつかの条件がありまして。一つは、会員として定期的に商品を発注してくれること、それとクリスティナさまの人柄についての査定値が規定を越えたこと。これにつきましては詳しい条件は業務上秘匿されていますのでご質問されてもお答えできませんので。あとはそうですね……ヘスティア王国の国王、そしてヴェルディーナ王国国王からのお礼状を受け取りまして、それらも考慮した結果ということです」
「な、成る程……それでしたら、喜んでお受けします」

 それでしたら、私も素直に受けられます。
 何も意味なくポン、と加護を上げますよと言われても困ってしまったかもしれませんし、それに。

「あとは……こちらは、私からクリスティナさんへ、個人的にお届けものです」

──スッ
 小さな箱と、一通の手紙。
 白いリボンが装飾されている……ふぁ?
 ま、まさかこれは、ホワイトデーの贈り物ですか!!

「……バレンタインデーのお返しです。私の気持ちを詰め合わせにしましたので、受け取って頂けますか?」

──ドクン
 あ、心臓がドキドキしていますよ?
 いきなり気持ちが詰まっていると言われましても、どうしていいか?
 いやいや、これは受け取る一択ですよ。
 
「はい。ありがとうございます……嬉しいでふ」

 噛んだぁぁぁぁ!!
 どうしてこのタイミングで噛むのですか!
 私の馬鹿ぁぁぁぁぁぁ。

 蒼思っていますと、いきなりペルソナさんが私を招き寄せて……。

──ギュッ
 抱きしめられたぁぁぁぁぁ。
 
「返事については、いつまでも、お待ちしています。それでは、また」

 そう囁いてから、ペルソナさんがスッ、と離れて行きました。

「そちらの荷物はアルルカンからの贈り物です。仕事上、配達は行わないとなりませんのでお届けしました。それでは、失礼します」

 丁寧に頭を下げて、ペルソナさんが馬車に乗って走り去りました。
 ふぁぁぁぁぁ、これはいけません。
 
「か、格好いい……」

 この一言に尽きますし、まだ頭がふわふわしていて心もフラフラしています。
 そしてふと気がつくと、後ろの方で柚月さんとノワールさんがニマニマと笑っていますよ?

「あ、あの、商品を並べておいてください!!」

 今の私、きっと真っ赤な顔。
 こんな顔じゃ恥ずかしくて、二人に見せたくありませんよ。
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