型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第188話・話は早くて助かりますが

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 ミヅキさんの装備を整えるために、私たちはボリマクール商会へと向いました。

 この町の武具については、どこかの貴族が買い占めをしてしまったらしく、今ではほぼ入手不可能なのですよ。
 そしてクリムゾンさんの知り合いということで私も一肌脱いで、あらかじめ受け取ってあった地図を頼りにボリマクールさんのもとに向かいました。
 もっとも、無事に大バザールの場所を借りることができたので、そのお礼もかねてご挨拶に行きたかったというのもありますけれど。
 そして無事にお礼も告げられましたし、武具関係についても幸いなことに護衛や警備の方々のためにストックしてあったものを少し融通してもらい、事なきを得ました、めでたしめでたしというところですね。

「まあ、今回の件については、クリスティナさんからはお代はいただけないわね。だからあなた、しっかりと稼いでツケの分を支払うように。本当なら見ず知らずのあなたに後払いで武具を売ってあげる義理はないのだけど、クリスティナさんの頼みだから……ね?」

 軽くウィンクをしてそう告げているボリマクールさん。
 はい、そのあたりはしっかりと回収して構いませんよ。
 私も彼女の武具の代金を肩代わりするようなお人よしではありませんので。

「はい、お任せください。一回戦で私の全財産を私自身に賭けます!!」
「……どっちかっていうと、クリムっちに全額かけた方が確実だし」
「そうね。私もそうさせてもらうわ。紅なら決勝までは勝ち上がれるって思うから」
「……フェイールさんは、私に掛けてくれますよね?」

 期待に満ちた目で私を見るミヅキさんな。
 はい、私もクリムゾンさんに賭けますよ。
 そもそも、私は貴方の実力については知らないのですからね。

「クリムゾンさんに掛ける予定ですけれど。クリムゾンさん? ミヅキさんの実力はどんな感じなのですか?」
「ふむ。そうじゃなあ……対戦相手によっては、勝てるやもしれぬというところか」
「はあ……やっぱり信用ありませんよね」
「いや、おぬしの扱う武器はピーキーなのでな。間合いを取って戦えなくなった時点で、予備武器がないおぬしは負けるぞ」
「あうあう……」

 ま、まあ、クリムゾンさんもそのぐらいで。
 ミヅキさんが涙を浮かべているじゃないですか。

「それじゃあ、私もこれから打ち合わせがあるので失礼するわね。ハーバリオスに戻る前には、一度お店によらせてもらうわね」
「はい、いつでもどうぞ。新商品の販売も予定していますので」
「うふふ、それなら大会が始まる前にでも伺うわ。またね」
「はい、ありがとうございました」

 ボリマクールさんが店舗奥へと戻っていったので、私たちも宿へと戻ることにします。
 明日からは、店舗準備などもありますので忙しくなりそうです。

………
……


――翌日・大バザール
 王都中央の大商業区、その一角に作られている大闘技場から歩いて5分。
 アーケードと呼ばれているらしい巨大な屋根のかかっている通りに面して、いくつもの商店が立ち並んでいます。
 一つのアーケードの長さは90メートル、それが通りを挟んで三つ連なっています。
 第一アーケドは地元大手商会が選挙しているらしく、私たちは第二アーケードの一角を割り当てられています。
 なお、第三アーケードについても地元の中小商店のために割り当てられているらしく、住宅区からすぐ来れる場所でもあるために繁盛しているそうです。
 そして私たちフェイール商店の場所に到着しますと、すでに商業ギルドの方々が店舗の前で待っていましたよ。

「おはようございます。フェイール商店の方ですか?」
「はい、クリスティナ・フェイールです。こちらが商業ギルドの身分証です」

 しっかりと連絡が届いていたらしく、私の身分証を確認してからギルドの方がカギを渡してくれました。

「店舗二階は居住スペースですので、もしもこちらに泊まるのでしたら宿を引き払ってくることをお勧めします。入り口は表と裏に一つずつあります。裏手には共有厨房もありますので、そちらも使っていただいて構いません……」

 一つ一つの設備について説明を受けてから、ようやく私たちは荷物を二階へと移動させます。
 といいましても、そもそも手荷物など各自がアイテムボックスに収めているため、殆どありません。

「それじゃあクリスさま、私とクリムゾンで掃除をして仕舞いますので、商品のチェックなどをお願いします。柚月さん、クリスさまの手伝いをお願いして構いませんか?」
「了解したし。ということでクリスっち、ここじゃ何を売る予定だし?」
「そうですねぇ……寒い地域ですから、体が温まるものなどもいいかもしれませんけれど、そもそも防寒着とかは地元でかなり出回っているでしょうからそれはなしですね」

 さて、困ったときの【型録通販のシャーリィ】です。
 今月の限定商品、お勧めの商品など確認して。

「あ~、ホワイトデーだし、あとは彼岸の入りも近いから、お彼岸商品も結構あるし。あとは……新生活フェアもはじまったのか~」
「んんん? ホワイトでーといいますと、バレンタインデーのお返しのやつですよね? それはまあ、こっちでは一般的ではなさそうですから置いておきましょう。それよりもヒ・ガーンって何でしょうか?」
「ヒ・ガーンじゃなくて彼岸。ご先祖様に感謝をささげるための日だし。お墓を掃除したり、ご先祖様にお供えをして手を合わせる日だし」

 詳しく聞きますと、異世界ではなくなった方やご先祖様を供養するのがお彼岸だそうです。
 そして今月、つまり3月は彼岸の入りということで、そのための商品が型録通販のシャーリィにもあるようです。
 ちなみに新生活フェアとは、4月がちょうど季節の変わり目に当たるそうで、就職したり新社会人になった人が、新しい土地で生活するために便利な商品を扱っているそうでして。

「……ふむふむ。でも、お彼岸というのは私たちの世界ではあまり日常的ではありませんけれど……」

 商品を確認しますと、お線香やろうそくがメインでして。
 あとはお供えのために日持ちのいい菓子なども好まれているようです。
 
「ろうそく……うーん。物は試しに『ろうそくとお線香のセット』を少し買っておきましょう。あとは、このお供え用の期間限定菓子なども……」

 北方の地では、冬になりますと果実などの甘味が少なくなるそうです。
 つまり、シャーリィから日持ちのいい菓子類を購入しておくのはありです。
 
「この定番ギフトの商品は? ネズミとかアヒルとかの獣人の絵柄の……え、そこには触れるな?」

 おや?
 柚月さんか慌てていますけれど、ここは触れてはいけないものなのですね。
 あとは新生活フェア……はい、このあたりも攻めてみましょう。
 基本的にはろうそくなどは売れるでしょうし、このお線香だって、多分特殊な効果が……あれ、【アンデットの浄化】って、お線香にそのような効果があるのですか。

「あ~、シャーリィの商品って、こっちの世界にくるときは特殊な効果が付与されるの忘れていたし。こっちのお線香は結界のような作用があるし、こっちはリッチロードも天に召されるかもしれないし。それよりも、寒い地域だから、入浴剤で心も体もあっためたほうがよさそうだし」
「入浴剤といいますと、この【温泉100選】というやつですね?」

 柚月さんのお勧めもあって、発注書には次々と商品が書き込まれていきます。
 これから春まで、この地方で生活をするのですから私たちが普段使いするものも買っておく必要もありますよね。
 そんなことを考えていますと、手元の発注書が切れてしましましたよ。

「ふう。今日のところはいったん、これで発注しておきましょう。明日の朝にはクラウンさんが持ってきてくれると思いますから、届いてから何を並べるかとか考えましょう」
「そのほうが楽しいけど……多分、明日はクラウンじゃなくペルソナがくるし」
「そうなのですか?」
「にしし。絶対にペルソナだから、楽しみに待っているし」

 ふむ。
 シフトが変わったのでしょうか、それともペルソナさんでなくてはならない用事があるのでしょうか。
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