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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と
第186話・計算と勝負とライバルの出現ですか?
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イマイ子爵の出した課題。
それは、商会主たるもの数字に強くなくてどうするのかという、まさにお約束であり当たり前の課題です。
そして受け取った問題集を確認したところ、加減算だけでなく乗除算の問題もありましたし、なによりも商業ギルドに収めるための税率を始め、商会クラスに展開している各支店をとりまとめた収支から納税金額、特別減税商品などの取り扱い、そして税率の違う他国での商売による収支報告書とまあ、商人として学ぶべきものがすべて記されていましたよ。
「……ほっとしましたわね。どれだけ難しい問題が待っているのかと思いましたけれど、この程度なら暗算でどうにでもできるレベルですよ。まず最初が……水不足による小麦の作付け面積の減少と、それに伴う納税額、そして減税分と……」
様々な条件下での税率とか、掛け売りの回収難易度まで計算しなくてはならないとは、これはかなり実践的な問題ですよ。
まるで、イマイ子爵が自領での収支計算が面倒になって、課題という名目で私たちにやらせているようにも思えてきました。
「ふふん、ここはひっかけ問題ですね。ガンバナニーワでの綿羊の取り扱いには、特別減税はありませんわ。魔物に牧場が襲われての収穫減少とか、品質低下による売り上げの減少……うんうん、この程度なら王都で学んだ範囲内ですしハーバリオスで起こった事でもありますから」
サクサクッと計算を終わらせて、ふと外を見てみますと。
すでに日が暮れ始めていましたよ。
教会の夕方六つの金はまだですけれど、このあたりは日が沈むのが早い地域なのですね。
「それじゃあ、さっさと終わらせて部屋に戻るとしましょうか」
──カラーン、カラーン……
基本的な部分を先に全て終わらせ、あとは簡単な応用問題だけ。
それもどうにか終わったころ、ちょうど夕方六つの鐘がなりました。
すっかり外も真っ暗になってしまったので、解答用紙を持って隣の部屋へ。
イマイ子爵の試験はこれでクリアできるといいのですけれど。
………
……
…
隣の部屋へ戻っていくと、そこではノアールさんと柚月さん、そしてイマイ子爵と見ず知らずの女性一人の四人で、のんびりとティータイムを楽しんでいました。
「お、クリスっち、お帰り。無事に試験は終わったし?」
「クリスティナさま。お疲れ様です」
「まあ、日も暮れたことだし今日のところはこれまでのようだな。まあ、あの問題すべてを終わらせることなど不可能だとは思っていたが、どこまで解けたか見せて貰おうかな」
何か大物感を溢れさせているイマイ子爵。
ですが、あの程度の問題なら、そんなに時間は必要としませんよ。
「はい、こちらが解答用紙です。とりあえず全ての解答蘭は埋めてみましたけれど」
「埋めた……ですって? そんなのありえないわよ!!」
イマイ子爵の斜め向かいの女性が、そう叫びながら立ち上がりましたけど。
あなたは、どちら様でしょうか?
「あの、貴方は?」
「おお、フェイール嬢にも紹介しておこう。こちらは、貴方が借りたいといっていた店舗を仮押さえしたいと申しこんできた商会の責任者だよ。名前は……」
「初めまして。わたくしは、ベイスタ王国の王室ご用達商人、タカネ・シマヤと申します。今回は、このロシマカープ王国の大バザールの店舗を借りるためにやってきました……それで、フェイールさん、あなたは先ほど、その問題すべての解答を終えたと申しましたわね?」
ベイスタ王国と言えば、東方諸国最大の港湾都市ハマスタを保有する、大陸の玄関とも呼ばれている王国です。
そんなすごい王国の王室ご用達商人が、大バザールで店舗を出すなんて凄いことじゃないですか……って、ちょっと待ってください、それって私が借りる予定の場所ですよね?
「ええ、すべて終わらせましたけれど?」
「ふふん、それは嘘ね。私もあの試験を受けさせてもらいましたけれど、一日で終わらせられる量ではありませんでしたわ。つまり、適当な嘘をついて、時間を稼ごうっていうことなのですよね?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。それにほら、イマイ子爵が答え合わせをしているようですけれど?」
傍らのテーブルでは、イマイ子爵の家宰の方が、解答用紙に○×チェックをしてくれています……って、何箇所か×が付いていますね、やっぱり満点は無理でしたか。
「ま、まあ、この私でも不合格になってしまうほどの難易度ですわ。西方のぽっと出の商人ごときにクリアできるはずがありませんわね」
「うーん。ぽっと出については否定できませんけれど……でも、あの程度の基礎問題、普通に商売をしていれば簡単じゃないですか? それに税率云々も、普段から商業ギルドに出入りして流通関係をしっりかりと確認したり聞いていれば、それほど難しくはありませんよ」
「ぐ、ぐぬぬ……」
そう告げましたら、何故か全力で睨みつけられていますが。
「まあまあ、フェイールさん、実は彼女はベイスタ王国でも老舗のシマヤ商会の跡取りらしくてね。今回、この大バザールで店舗を取り仕切って、しっかりと商才があることを証明しなくてはならないらしいんだよ。商会ギルドの推薦状もあるし、ベイスタ王国のアメゴンド伯爵の紹介状もあるんだが……まあ、あとはお察しの通りだ。それで先日、フェイールさんと同じように試験を受けてね、その結果を聞きに来たということなんだが……」
イマイ子爵が申し訳なさそうに説明してくれています。
やはり、異国の伯爵家の紹介状の方が強いのですか。
「うーん。クリスっちは、ナチュラルに相手を煽っているし」
「まあ、私もクリステイナさまの天然ぶりには時折、考えさせられますけれど……」
「え、私、また何かやらかしましたか?」
「「はい」」
「うぇぇ……」
タカネさんは先ほどからずっと、親指の爪をガシガシとかじりつつ私を睨みつけていますし、採点中の家裁の方も時折、ほう、とかふむふむ、とか、何か相槌のようなものを打っているようです。
「イマイさま、採点が終わりました」
「ご苦労……と、なるほど、こうきましたか」
家宰の方から採点表を受け取り、イマイ子爵がなにか満足そうにうなずいています。
「これであなたも不合格ですと、今回の申し込みのあった12組の商会全てが失格となりますわ。そうすれば再試験ですから、この私にも勝算はありますわよ」
「いえ、フェイール嬢は合格ですね。正答率88%、ミスした部分については北方諸国特有の商品についての知識が足りなかっただけですね。まあ、最初の問題の税率については、自国と他国との距離の計算が甘かったということで」
おおっと、隊商の必要経費の見積もりが甘かったということですか。
では、ちょっと検算させてもらいましょう。
――シュンッ
アイテムボックスから『精霊樹の算盤』を取り出して、再度、問題とにらめっこ。
はい、これは確かにわたくしの凡ミスです、冬の長い北方の地域での冬季間の燃料費の見積もりが甘かったようです。
「うそよ……どうしてこんな商人が、伝説の精霊樹の算盤を持っているのよ……どうして私が不合格なのよ……」
「シマヤさんのミスは二つ。仕入れ関係をすべて専門分野に任せっぱなしにして商品についての基礎知識を身に着けることを怠ったこと、計算その他の会計関係も任せっぱなしだったこと。ということですので、大バザールの店舗は、フェイール商店にお任せしましょう」
「ありがとうございます!!」
「認めませんわ……フェイールさん、このわたくしと勝負なさい!!」
え~。
どうして決着がついたことを反故にしてまで、私が貴方と勝負をしなくてはならないのですか。
「あ、お断りします。私にとっては利が全くありませんので」
「まあ、そうなるな。では明日の正午にでももう一度、来たまえ。それまでに必要な書類はすべて用意しておこう」
「はい、それでは失礼します」
ずっと立ったまま、私を指さして口をパクパクとしているシマヤさん。
このまま何事もなければよいのですけれど。
「今、クリスっちが余計なフラグを立てたような気がしたし」
「ええ、やっぱりクリスティナさまは生粋の天然ですから……」
あら、何か私の評価、下がっていませんか?
それは、商会主たるもの数字に強くなくてどうするのかという、まさにお約束であり当たり前の課題です。
そして受け取った問題集を確認したところ、加減算だけでなく乗除算の問題もありましたし、なによりも商業ギルドに収めるための税率を始め、商会クラスに展開している各支店をとりまとめた収支から納税金額、特別減税商品などの取り扱い、そして税率の違う他国での商売による収支報告書とまあ、商人として学ぶべきものがすべて記されていましたよ。
「……ほっとしましたわね。どれだけ難しい問題が待っているのかと思いましたけれど、この程度なら暗算でどうにでもできるレベルですよ。まず最初が……水不足による小麦の作付け面積の減少と、それに伴う納税額、そして減税分と……」
様々な条件下での税率とか、掛け売りの回収難易度まで計算しなくてはならないとは、これはかなり実践的な問題ですよ。
まるで、イマイ子爵が自領での収支計算が面倒になって、課題という名目で私たちにやらせているようにも思えてきました。
「ふふん、ここはひっかけ問題ですね。ガンバナニーワでの綿羊の取り扱いには、特別減税はありませんわ。魔物に牧場が襲われての収穫減少とか、品質低下による売り上げの減少……うんうん、この程度なら王都で学んだ範囲内ですしハーバリオスで起こった事でもありますから」
サクサクッと計算を終わらせて、ふと外を見てみますと。
すでに日が暮れ始めていましたよ。
教会の夕方六つの金はまだですけれど、このあたりは日が沈むのが早い地域なのですね。
「それじゃあ、さっさと終わらせて部屋に戻るとしましょうか」
──カラーン、カラーン……
基本的な部分を先に全て終わらせ、あとは簡単な応用問題だけ。
それもどうにか終わったころ、ちょうど夕方六つの鐘がなりました。
すっかり外も真っ暗になってしまったので、解答用紙を持って隣の部屋へ。
イマイ子爵の試験はこれでクリアできるといいのですけれど。
………
……
…
隣の部屋へ戻っていくと、そこではノアールさんと柚月さん、そしてイマイ子爵と見ず知らずの女性一人の四人で、のんびりとティータイムを楽しんでいました。
「お、クリスっち、お帰り。無事に試験は終わったし?」
「クリスティナさま。お疲れ様です」
「まあ、日も暮れたことだし今日のところはこれまでのようだな。まあ、あの問題すべてを終わらせることなど不可能だとは思っていたが、どこまで解けたか見せて貰おうかな」
何か大物感を溢れさせているイマイ子爵。
ですが、あの程度の問題なら、そんなに時間は必要としませんよ。
「はい、こちらが解答用紙です。とりあえず全ての解答蘭は埋めてみましたけれど」
「埋めた……ですって? そんなのありえないわよ!!」
イマイ子爵の斜め向かいの女性が、そう叫びながら立ち上がりましたけど。
あなたは、どちら様でしょうか?
「あの、貴方は?」
「おお、フェイール嬢にも紹介しておこう。こちらは、貴方が借りたいといっていた店舗を仮押さえしたいと申しこんできた商会の責任者だよ。名前は……」
「初めまして。わたくしは、ベイスタ王国の王室ご用達商人、タカネ・シマヤと申します。今回は、このロシマカープ王国の大バザールの店舗を借りるためにやってきました……それで、フェイールさん、あなたは先ほど、その問題すべての解答を終えたと申しましたわね?」
ベイスタ王国と言えば、東方諸国最大の港湾都市ハマスタを保有する、大陸の玄関とも呼ばれている王国です。
そんなすごい王国の王室ご用達商人が、大バザールで店舗を出すなんて凄いことじゃないですか……って、ちょっと待ってください、それって私が借りる予定の場所ですよね?
「ええ、すべて終わらせましたけれど?」
「ふふん、それは嘘ね。私もあの試験を受けさせてもらいましたけれど、一日で終わらせられる量ではありませんでしたわ。つまり、適当な嘘をついて、時間を稼ごうっていうことなのですよね?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。それにほら、イマイ子爵が答え合わせをしているようですけれど?」
傍らのテーブルでは、イマイ子爵の家宰の方が、解答用紙に○×チェックをしてくれています……って、何箇所か×が付いていますね、やっぱり満点は無理でしたか。
「ま、まあ、この私でも不合格になってしまうほどの難易度ですわ。西方のぽっと出の商人ごときにクリアできるはずがありませんわね」
「うーん。ぽっと出については否定できませんけれど……でも、あの程度の基礎問題、普通に商売をしていれば簡単じゃないですか? それに税率云々も、普段から商業ギルドに出入りして流通関係をしっりかりと確認したり聞いていれば、それほど難しくはありませんよ」
「ぐ、ぐぬぬ……」
そう告げましたら、何故か全力で睨みつけられていますが。
「まあまあ、フェイールさん、実は彼女はベイスタ王国でも老舗のシマヤ商会の跡取りらしくてね。今回、この大バザールで店舗を取り仕切って、しっかりと商才があることを証明しなくてはならないらしいんだよ。商会ギルドの推薦状もあるし、ベイスタ王国のアメゴンド伯爵の紹介状もあるんだが……まあ、あとはお察しの通りだ。それで先日、フェイールさんと同じように試験を受けてね、その結果を聞きに来たということなんだが……」
イマイ子爵が申し訳なさそうに説明してくれています。
やはり、異国の伯爵家の紹介状の方が強いのですか。
「うーん。クリスっちは、ナチュラルに相手を煽っているし」
「まあ、私もクリステイナさまの天然ぶりには時折、考えさせられますけれど……」
「え、私、また何かやらかしましたか?」
「「はい」」
「うぇぇ……」
タカネさんは先ほどからずっと、親指の爪をガシガシとかじりつつ私を睨みつけていますし、採点中の家裁の方も時折、ほう、とかふむふむ、とか、何か相槌のようなものを打っているようです。
「イマイさま、採点が終わりました」
「ご苦労……と、なるほど、こうきましたか」
家宰の方から採点表を受け取り、イマイ子爵がなにか満足そうにうなずいています。
「これであなたも不合格ですと、今回の申し込みのあった12組の商会全てが失格となりますわ。そうすれば再試験ですから、この私にも勝算はありますわよ」
「いえ、フェイール嬢は合格ですね。正答率88%、ミスした部分については北方諸国特有の商品についての知識が足りなかっただけですね。まあ、最初の問題の税率については、自国と他国との距離の計算が甘かったということで」
おおっと、隊商の必要経費の見積もりが甘かったということですか。
では、ちょっと検算させてもらいましょう。
――シュンッ
アイテムボックスから『精霊樹の算盤』を取り出して、再度、問題とにらめっこ。
はい、これは確かにわたくしの凡ミスです、冬の長い北方の地域での冬季間の燃料費の見積もりが甘かったようです。
「うそよ……どうしてこんな商人が、伝説の精霊樹の算盤を持っているのよ……どうして私が不合格なのよ……」
「シマヤさんのミスは二つ。仕入れ関係をすべて専門分野に任せっぱなしにして商品についての基礎知識を身に着けることを怠ったこと、計算その他の会計関係も任せっぱなしだったこと。ということですので、大バザールの店舗は、フェイール商店にお任せしましょう」
「ありがとうございます!!」
「認めませんわ……フェイールさん、このわたくしと勝負なさい!!」
え~。
どうして決着がついたことを反故にしてまで、私が貴方と勝負をしなくてはならないのですか。
「あ、お断りします。私にとっては利が全くありませんので」
「まあ、そうなるな。では明日の正午にでももう一度、来たまえ。それまでに必要な書類はすべて用意しておこう」
「はい、それでは失礼します」
ずっと立ったまま、私を指さして口をパクパクとしているシマヤさん。
このまま何事もなければよいのですけれど。
「今、クリスっちが余計なフラグを立てたような気がしたし」
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