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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第185話・子爵の課題と、求めるもの

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 マツダズームの商業ギルドから、馬車の揺られて30分。
 目的地であるイマイ子爵の屋敷まで到着しました。

 ちなみにイマイ爵は王家から領地を預かっている封地貴族であるらしく、普段は直轄領にいらっしゃるそうです。
 参考までにご説明しますと、この国の貴族は三種類いるそうで。国王から直接陞爵する【封地貴族】と功績をあげて国から褒賞を頂く【法衣貴族】、そして国内の貴族院や元老院に勤務し、一定の成果を収めたものに称号として与えられる【法服貴族】があるそうです。
 面白いのは、全社の二つは爵位である身分が保証されるものであるのに対して、法服貴族は称号でしかなく、なんのに権利も持っていないということでしょう。
 ただし、法服貴族は貴族に爵位持ちの貴族に仕えたのち、功績を積むことで法衣貴族に推薦されることもあるそうで。
 爵位を継ぐことができない次男以下の子供たちは、法服貴族を経て法衣貴族へとなりあがろうとするものが多いとか。
 
「ふぅん。ただ貴族といっても、いろんな種類があるし。参考になったし」
「ハーバリオスは封地貴族と法衣貴族の二種類しかいませんから、この北方の風習と言いますか。独特な制度なのでしょう。家督を告げない子供たちの救済という意味合いが最も強いそうですけれど、そのかわり法服貴族にもなれない子供たちについては両親からの庇護も外されることが多いそうで、それはもう、必死だそうで」
「この国ではありませんけれど、法服貴族の称号は高値で売買されていますからね。こう、称号を得た際に授かる襟章がありまして、書状とセットで売買するものもいるそうですわ」
「お金で買うことができる爵位……うーん、なにかおかしいし」
「でも、役に立たない長男に家督を継がせるよりも、才覚ある次男に継がせた方がいいと思う親は一定数いらっしゃいますわ。まあ、長男相続が前提の国では、それもままならないと思いますけれど……」

 難しい話をしている最中に、目的のイマイ子爵の屋敷へと到着しました。
 そして門番の方に紹介状を所有していることを告げ、家宰の方に取り次いでほしいことを伝えますと、20分ほど待ったのちに私たちは屋敷の中へと案内されました。
 程よい感じに飾り付けられた、少し大きめの応接室に案内され、侍女たちが運んで来たハーブティーを嗜みつつ待っていますと、やがてイマイ子爵が室内にやってきました。

「お待たせしました。まずは紹介状を見せていただけますか?」
「はい、こちらです」

 自己紹介をする暇もなく、まずは書類の確認。
 このあたりの手順は、人によって様々なのでしょう。

「……なるほど、二つの商業ギルドとボリマクール商会の推薦ですか。では、皆さんの身分を証明できるものとを見せていただけますか? ここ最近は、自分の身分を偽って紹介状を書かせようとする輩が多いものでして、このように公的な証明書を確認してからでないと話を進めることはできないのですよ」
「はい、こちらが私の証明書ですわ」
「これはあーしのだし」
「では、私のものも」

 私のはハーバリオスの商業ギルドが発行したものです。
 裏面には、パルフェノンとガンバナワの証明印も記されていますし、パルフェノンが発行した身分証も所持しています。
 柚月さんのはハーバリオス王家が発行した勇者証明書、ノワールさんのはヘスティア王国発行のものだそうです。
 それらを確認しているイマイ子爵の顔色が、一瞬でサーーツと真っ青になりましたが。

「ゆ、勇者証明とヘスティアの精霊教会発行証ですと!! あ、こちらは三国の証明印付きですね、はいはい。では、みなさんの身分の確認は出来ましたので、ここからようやく話し合いを始めるとしましょう。私はウルティモ・イマイ。この国の国王より子爵位を授かっています。こちらの紹介状によりますと、大バザールの店舗を借りたいということですが、どれぐらいの期間、借り受けたいのでしょうか」

 柚月さんとノワールさんに向かって話を始めましたが。
 
「その前に、イマイ子爵、なぜ我が主人ではなく私たちに話を振るのですか?」
「借りたいのはフェイール商店であって、あーしたちは従業でしかないし。話し合いなら店長を通してほしいし」
「え? 商会は隠れ蓑とかじゃなくて? 本当にフェイール商店の店主が借りたいのですか?」
「……」

 うん、やっぱりそう思われましたか。
 無言でイマイ子爵をにらみつけるノワールさんと柚月さん、そして青を通り越して白い顔になって私と柚月さんたちを見比べるイマイ子爵。
 まあ、この手の対応についても慣れてきそうですわ。

「わたくしはクリスティナ・フェイールと申します。こちらの勇者・柚月さんから【勇者ご用達】の認定を受けています。理由わけあって、雪解け後にロッコウ山脈の精霊の祠へ向かう予定がありまして、それまでの間、こちらの国にて商いを行いたいと思ってやってまいりました」

 ゆっくりと丁寧に告げますと、イマイ子爵がゴホンと咳ばらいをしたのち、私の方を見て。

「これは大変失礼を。では、フェイール商店で大バザールの店舗を借りたい、期間は雪解けの春までということで間違いはありませんか?」
「はい。当面はこちらを拠点として、隣国などにも行商を行いたいと思っています」

 そう補足を加えますと、イマイ子爵は顎に手を当てて考えています。

「そうですか。では、他の『正当な手続きを行ってきた』商会と同じように、フェイール商店にも課題を出させてもらいます」
「課題……ですか?」
「はい。商人としての技量を見せてほしいということもありますし、何よりも商人は信用あってのこと。まあ、こちらの商会状を見せて貰った時点で、ある程度の信頼に値する方と思えましたので、信用については問題はないでしょう」

 笑顔でそう告げて貰えますと、こちらとしてもホッと胸をなでおろしてしまいます。

「では、次に商人としての技量を見せていただきたいのですが、それは構わないでしょうか」
「はい。それはどのようにでしょうか」
「少々、お待ちを」

 イマイ子爵が離席します。
 そして数分の地、少し集めの書類の束を手にして、戻ってきました。

「まあ、商いには計算は必須。商会主たるもの、数字に強くなくてはなりません。こちらは簡単な計算問題なのですが、クリスティナさんは隣室でこちらの問題を解いていただけますか?」
「はい、それは構いません」
「続いて従業員の方たちについても、商会に勤めるものとして商材についての知識を有している必要があります。こちらはお二人用の問題です。口頭にて答えを聞かせてほしいのですが、それは構いませんか?」

 私は計算を、ノワールさんと柚月さんには口頭試問ということですか。

「あーしは勇者なので、こっちの世界についてはあまり詳しくはないし」
「その分、私がサポートしますのでご安心ください。このわたくし、型録通販のシャーリィの店員としての厳しい修行も行ってまいりました」
「「おおお!!」」

 柚月さんと私の驚きの声。
 そしてノワールさんのどや顔。
 これは期待できそうですよ。

「では、口頭試問の前に、フェイール商店ではどのように商品を取り扱っているか教えていただけますか? それに合わせた問題を選ばせていただきますので」
「勇者ご用達品を始めとして、異世界の食品や嗜好品、衣類その他のものを取り扱っています。また、ハーバリオスの各地の特産品なども少量ではありますが扱っていますけれど」
「……はい、口頭試問は該当する問題がありませんので終了とさせていただきます。では、クリスティナさん、隣の部屋へどうぞ。問題が解き終わるまでは、お二人にはこれまでの行商について、簡単にお話を伺わせてもらいたいかよろしいでしょうか」
「はい。その程度でよろしければ」
「では、私は隣の部屋にいってきますね」

 計算問題は、私の得意分野ですわ。
 伊達に、アーレスト商会の南支店店長候補に選ばれたわけではありませんし、【精霊樹のそろばん】もありますからね。
 さあ、ちゃっちゃと終わらせることにしましょう!!
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