上 下
130 / 276
第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第182話・貴族に会ってみよう

しおりを挟む
 無事にバレンタインという異世界のイベントを終え。
 私たちを乗せた馬車はロシマカープ王国王都へと向かっていました。

 道中は色々な問題もありましたけれど、予定通りに一週間後には無事にロシマカープ王国王都のマツダズームへ到着しました。
 ええ、途中いくつかの国を中継して、道なき道をひたすら走り続ける日々。
 アイテムボックス内の整理をしているとバレンタインの時に箱に入れるはずだったメッセージカードが出てきた挙句、私にとっては禁句でもある告白メッセージの書き込んだカードがなくなっていたり、まさか柚月さんのたくらみかと疑いそうになりましたけれど私のアイテムボックスから出てきたので私のミスであったことが発覚したり。
 穴があったら入りたいです、穴を掘らせてください。
 花咲く乙女は庭に出て、一生懸命穴を掘らないとならないのですよ……。
 
「はわわわ……こ、この次にベルソナさんに会ったら、どんな顔で対応したらよいのですか……」
「にしし……朝便でクラウンさんに配達を依頼するといいし。そのうちほとぼりが冷めるから、それまでの辛抱だし」
「はふぅ……そうですよね。ま、まあ、仕事としての付き合いはまた別ですから、少しだけ様子を見てからまたいつものように接すればいいのですよね」

 そうです、一流の商人たるもの、仕事とプライベートは切り分けなくてはなりません。
 そんなことを柚月さんと話しつつ、馬車はエセリアルモードを解除して王都正門で入国手続きを。
 商業ギルド発行の身分証がありますので、入国税を人数分収めたのち、どうどうと正門を通過。

――フワァァァァァッ
 正門から中は、街道沿いに真っ赤なレンガの建物が立ち並んでいます。
 その赤い色に降り積もる白い雪。
 そして通りを彩る、様々な色彩の飾り旗バナーや馬車の数々。
 まさに、ヤジーマ連邦王国最大の王国にして、商業の中心地。
 道行く人たちも、それはもう笑顔に満ち溢れていましたよ。

「さてと。それじゃあ、さっそくだけれど商業ギルドに向かってもらえるかしら? 先に大バザールの店舗状況の確認と、仮押さえだけでもしておきたいからね」
「仮押さえって、そのようなことができるのですか?」
「う~ん、ダメもとでお願いしてみるわ。この王都にもボリマクール商会の支店はあるから、まあ、他の国よりもかなり小さいけれど、それなりに顔は利くから安心なさい」
「はい。よろしくお願いします」

 そのまま町の景色を眺めっつ、馬車は一路、商業ギルドへ。
 正門からじつに20分ほど走った先、商業区と呼ばれる区画の真ん中に、巨大な商業ギルドの建物がありました。
 そして馬車を出て、そのままエセリアルモードにして指輪の中に格納しますと、ボリマクールさんに案内されるがままにギルドの中へと向かいます。

「これは、ボリマクールさま。ご無沙汰しています」
「ええ。本当に久しぶりね。年に一度ぐらいしかここには来られないから、私の顔なんて忘れられちゃったと思っていたわよ」
「あはは。私たちがボリマクールさまを忘れるはずがないじゃないですか。それで、本日はどのような商品をお持ちになっていただけたのでしょうか」
「いえいえ、今日来たのはね。大バザールに彼女の商店を出してほしいと思ってね。それで、場所の仮押さえは効くかしら? 一応、キヌガッサのギルドマスターの紹介状は持ってきているし、この後はイマイ子爵のところに向かって、正式な紹介状も書いてもらう予定なのよ」

 淡々とギルドカウンターで話を進めるボリマクールさん。
 私のような小娘の言葉だと、信頼度はなかったかもしれません。
 けれど、ボリマクールさんが話を進めていていくるので、本当に助かります。

「フェイールさん、ギルドカードと紹介状を出してもらえるかしら?」
「はい、こちらがわたくしの、フェイール商店の登録証です。そしてこちらが、キヌガッサ王国のギルドマスターの紹介状です」
「はい。それでは確認のため、少々お時間をいただきます」

 臆することなく、どうどうと受付の方に登録証と紹介状をお渡しします。
 すると、それを持ってカウンターを離れていきました。

「さてと。それじゃあ後ろのテーブルで待っていることにしましょうかね。そこのテーブルは、商人同士が取引や雑談をするために解放されている場所なのよ。それで、話がある程度まとまりそうになったら、二階の個室に移るっていうわけ……ささ、柚月さんもノワールさんも、一緒にお茶でもしましょう」
「了解だし……それにしても本当に大きい場所だし。高校の校舎ぐらいあるし、でも、外見的には体育館だし」
「よく分かりませんが、とにかく大きいということですね。さ、クリスティナさまもこちらへ」
「は、はい」

 もう、なにもかも規模が大きすぎて、どうしたものかと。
 でも、建物の大きさについてはパルフェノンの商業ギルドよりも大きいのは事実です。
 まさかこれほどのものとは思っていませんでしたよ。

「それじゃあ、私がお茶を用意するので、クリスティナさんはお茶菓子をなにか見繕ってくれるかしら? お金は払うから、おいしいものをお願いね……」

 そう告げてから、ボリマクールさんが席を立って、どこかに行ってしまいました。
 
「おいしいものを見繕うといわれましても……ノワールさん、このあたりの王国でよく飲まれているものは、ハーブティーでしょうか?」
「いえ、このあたりではハーブはそれほど育たないのですよ。他の王国よりも高地であること、夏季と冬季の寒暖差が激しいこと、そして雪に強いハーブは殆ど存在しないということですので。このヤジーマ連邦あたりですと、よく飲まれますのはコルフィコーヒーですね。蜂蜜と山斑牛のミルクを混ぜるのが普通です」
「うん、聞いているだけで口の中が甘くなりそうなので、さっぱりとしたお茶菓子を……買い置きにありましたかどうか、怪しいところですけど……と、これかな?」

 アイテムボックスから取り出しましたのは、全国取り寄せグルメのページで見かけた、【マカロンラスク】という食べ物です。
 赤、白、黄色、こげ茶いろ、緑色とから不利な色合いの菓子でして、定番商品としていつでも帰るようになっているのですよ。
 まあ、効果であること、甘くておいしてけれど腹持ちが良くないこと、そしてなによりも小さすぎで満足するには量を食べないとならないということで、実は結構在庫が多かったりします。
 今取り出したのも、小さな箱に12個だけ入っていて、銀貨二枚ですからね。

「あ、銀座デリーユのマカロンラスクだし。へえ、こんなものもあったのか」
「ええ。結構前にまとめて買ったのですが、高くて少量なので人気がなかったのですよ。ということで、ここは奮発して出してみました」
「お待たせしました……って、あら、ずいぶんときれいなお菓子ね。これもフェイール商店の取り扱い商品なのかしら?」
「はい。在庫が結構だぶついていますので、融通できますよ」
「それじゃあ、少しだけティータイムを楽しむことにしましょう」

 ボリマクールさんが持ってきてくれた甘いコルフィと、私が用意したマカロンクッキー。
 これがまた、絶妙においしくてですね、相性も抜群です。
 一箱12個入だったのに、気が付くと二はコメに手が伸びていました。
 
 そして私たちのティーパーティーに気が付いた商人さんたちが、興味深々でこちらを見始めた時。

「フェイール商店のクリスティナさま。ボリマクール商会のボリマクールさまギルドマスターがおよびですので、こちらへどうぞ」
「あら、早かったわね。それじゃあ行きましょうか」
「はい。ええっとここを片付けてから」
「大丈夫よ、職員さんが片付けてくれるわ。これも仕事だからね」

 ちょうどやって来た職員さんに、ボリマクールさんが話しかけます。
 すると、にっこりと笑って。

「ええ。ここは商人の皆さんがわずらわしさを忘れ、一息つくための場所でもあります。片づけは私たちが行いますので」
「はい……と、それじゃあ、こちらをどうぞ。あとで食べてください」

 残ったマカロンクッキー6つを手渡して軽く頭を下げてから、私は先に歩いて行ったボリマクールさんの方に向かいました。そしてふと、ボリマクールさんが座っていたテーブルの前に銀貨が一枚、置いてあるのにも気が付きましたよ。

「心付けだし。うん、ボリマクールさんは、日本人の心を持っているし」
「うーんと。それって」
「やさしさというか、気配りができるひとだし。と、早くいくし」

 そうそう、まずは大バザールの場所を借りるための話し合いですよ。
 まずはスタートラインに立つところまで話を進めなくてはなりませんからね。
 
しおりを挟む
感想 648

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚
ファンタジー
 それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。  ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。  俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。  ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。  しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!   神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。  ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。 『オンラインゲームのアバターに変化する能力』 『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』  アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。 ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。  終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。  それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。 「神様、【魂の修練】って一体何?」  そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。  しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。  おいおい、これからどうなるんだ俺達。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】魔導騎士から始まる、現代のゴーレムマスター

呑兵衛和尚
ファンタジー
 異世界での二十五年間の生活を終えて、無事に生まれ故郷の地球に帰ってきた|十六夜悠《いざよい・ゆう》  帰還時の運試しで、三つのスキル・加護を持ち帰ることができることになったので、『|空間収納《チェスト》』と『ゴーレムマスター』という加護を持ち帰ることにした。  その加護を選んだ理由は一つで、地球でゴーレム魔法を使って『|魔導騎士《マーギア・ギア》』という、身長30cmほどのゴーレムを作り出し、誰でも手軽に『ゴーレムバトル』を楽しんでもらおうと考えたのである。  最初に自分をサポートさせるために作り出した、汎用ゴーレムの『綾姫』と、隣に住む幼馴染の【秋田小町』との三人で、ゴーレムを世界に普及させる‼︎  この物語は、魔法の存在しない地球で、ゴーレムマスターの主人公【十六夜悠】が、のんびりといろんなゴーレムやマジックアイテムを製作し、とんでも事件に巻き込まれるという面白おかしい人生の物語である。 ・第一部  十六夜悠による魔導騎士(マーギア・ギア)の開発史がメインストーリーです。 ・第二部  十六夜悠の息子の『十六夜銀河』が主人公の、高校生・魔導騎士(マーギア・ギア)バトルがメインストーリーです。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。