型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第174話・バザールでございます。

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 感極まって気絶しているクリムゾンさんには馬車で留守番をお願いして。

 急遽、ノワールさんが指輪から出てきてくれましたので、昼前には商業ギルドでボリマクールさんとの商談を終わらせます。
 今回の納品につきましては、予め希望の商品のリストを受け取ってから納品可能な商品をこちらで用意するスタイルで行いましたので、納品時には再度、リストを確認しながらの説明となりました。

「部分も……さすがはフェイール商店ね。こちらの希望の中でも、特に欲しかったものを厳選して納品してくれるなんて」
「いえいえ、たまたま在庫があっただけですから」
「そうなの? まあ、とにかくありがたいわよ。でも……」

 納品チェック後の支払いを終えてから、ボリマクールさんがため息混じりに話を始めました。

「やっぱり、武具関係は取り扱っていないのよね」
「ええ、そこは譲れませんし。そもそも、そういった商品を取り扱っている問屋さんや鍛治師にツテもないのです。だから、こればかりはたとえ国王からの頼みだったとしても無理なのですよ」
「それは私たち、ボリマクール商会も同じなのよね。やっぱり大手の武具商人やお抱えの鍛治師を囲っている商会には叶わないっていうことよね……でも」

──ズイッ
 いきなりボリマクールさんが、顔を近づけるように前のめりになります。

「フェイールさんの護衛のクリムゾンさん、彼の方は鍛治職人じゃないの?」
「それは違いますね。紅は生粋の戦士ですよ? それにつきましては古い付き合いである私が保証しますわ」
「あら、そうなの? それじゃあ仕方ないわね……それじゃあ、私もそろそろバザーに向かわないといけないから、これで失礼するわね。今回も良い取引を、ありがとうね」 
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

 最後はガッチリと握手をしてお別れ。
 このあとはボリマクールさんもバザーに向かうそうなので、私もバザーの仕組みの確認のため、一階の受付カウンターへと向かいました。
 そして確認したところ、バザーの場所は一回の契約につき最低三日は店を出さないとならないそうです。
 遅れを取り戻すために急ぎ次の国へと向かう必要があるのですが、どうやら超隊商エクソダスもここで三日間の休憩を挟むそうです。
 長旅の場合、道中の街で情報を集めることもありますし、何よりバザーがありますのでここで積荷の一部を販売したり、空いた二台に載せられる商品を探すそうなのです。

「それで、クリスティナ様はどうなさいますか?」
「三日ぐらいなら、十分間に合うと思うし……あーしは、この街に滞在することにほ賛成だし」
「そうですね。確かに、馬車の乗り心地も悪くはありませんが、やはりのんびりと体を休めたいというのもありますね。では、バザーの個人商隊トレーダー区画を一つ、お借りしたいのですが」
「はい。大型店舗用はすでに空きがありませんが、個人用でしたらまだ大丈夫ですよ。場所はこちらでよろしいですか?」

 カウンターの上に地図を広げ、空いている場所を教えてもらいます。
 残念ですが端っことか個人店の集まっている場所ではなく、大手商会に挟まれるような形になりましたが。
 それでも一箇所借りることができましたので、今日から三日間はフェイール商店の臨時営業です。

「では、こちらで……」
「はい。それではこの割符をお持ちください。それではお気をつけて」

 さぁ、この街でも稼ぎますよ!!


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


──アイアーン・バザール
 馬車に一旦戻ったものの、意識を取り戻したクリムゾンさんがダマスカス製三徳包丁を眺めてニマニマしていましたので、私たちだけでバザーに向かうことを告げてきました。
 あんなクリムゾンさんは初めてなので、もう少しだけ放置することにしましょう。ええ、おそらくは今日明日ぐらいは護衛をお願いでも上の空のようですから。
 そのままバザールの指定場所に向かいましたけど。
 普通の街の露店とは異なり、この街のバザーとは小さな店舗が連なったような形です。
 私が借りた場所は、外に向いた大きなカウンターがある場所でして、商品を並べるカウンターはそれほど大きくありませんが、後ろのスペースが大きく在庫商品などを開けるほどの大きさがあります。
 まあ、今は全くと言って良いほど隙間がありませんけど。

──ゴッチャァァァァ
 はい、私たちの場所に大量の荷物が置いてあります。

「あっちゃあ……多分、隣の荷物だし」 
「そのようですわね。では、私が抗議をしてきましょう」
「あ、私もついていきますよ。柚月さんはここでお留守番をお願いしていいですか?」
「おっけーだし」

 そのまま隣の商会に向かい、責任者らしい人を探しますと。

「おや? お嬢さんは確か、俺たちの超隊商エクソダスについてきたフェイールさんじゃないか。こんなところで何か探しているのか?」

 ん?
 責任者らしい人は、私からサーロインステーキをはじめ、ハムやベーコンを購入していた方です。
 名前は……聞いていないからわかりませんが、普通に商談ができた人です。

「その節はお世話になりまして。あの、隣の店舗を借りたのですが、こちらの荷物が運び込まれているようなので移して欲しいのですが」
「隣? ちょっと待ってくれな……うぉい!! 隣の店舗に勝手に荷物を押し込んだ阿呆は誰だ!! 急いで片付けさせろ!!」

 うわ、いきなり叫んだかと思ったら、何人かの店員さんが大慌てで飛び出してきました。そして私のことをチラリと見て頭を下げてから、荷物の移動を始めてくれましたよ。
 
「いや、済まなかった。在庫は裏に纏めるようにって話していたんだが、どうやら手抜きをしていたようだな。あとからキツ目に説教しておくから」
「ありがとうございます。まあ、話し合いで解決できて助かりました」
「良いってこと。悪いのはウチなんだからさ。それじゃあ、商売、頑張ってな」

 ニカッと笑う責任者さん。
 では、私たちも早速、お店の準備を始めましょう。
 雪国なので、アイスクリームとかの冷たいものは御法度、むしろ体を温められるようなものが好まれるかと思いますので。

「ん? 何を売るし?」
「寒いですからね……これを販売しましょう!」

 取り出したのは、プレミアムなスープギフト。
 これは粉末状に加工されたもので、厚手のカップに入れてからお湯を注ぐだけで作れるという、豪華な商品です。
 これもアイテムボックスの中で、予め購入しておいた小さな壺に詰め替えられますので、包装紙とか異世界の紙のような筒におさまった状態ではなく、私たちの世界の壺ごと売れるようにしましょう。

「では、私は試飲用に使うお湯を用意しましょう。柚月さん、魔法で種火をお願いできますか?」
「それなら、ズンドウに水を張ってあーしが魔法で温めるし。クリスっち、ズンドウをいっぱい出して欲しいし」
「はい、これを使ってください」

 大きな鍋をいくつか取り出して柚月さんにお渡しします。
 あとは試飲用のカップと大きめの壺に用意したスープの素もお渡しします。
 私とノワールさんは商品販売、柚月さんには試飲のお手伝いをお願いします。
 
──パン
「フェイール商店の開店です!! 本日は温かいスープをご用意しました。試飲もできますので、宜しければ立ち寄ってください!!」
「こちらで試飲できるし。カップは返して欲しいし!!」

 私の掛け声で人々が立ち寄ってくれました。
 そして柚月さんが試飲のスープを差し出しますと、お客さんも恐る恐ると一口……。

「うんまぁぁぁぁぉぁぁい!! なに、これ、こんなに美味いものがバザールで売っているのか? え? 貴族の御用達じゃなく?」
「お、おれ、もう一杯飲みたい、くれ!!」
「試飲はお一人一回だし。あーしは人の顔を覚えるのは得意だから、こっそり紛れ込んでもダメだし。気に入ったら、隣で売っているから買ってくれると嬉しいし」

 はい。
 最初に試飲した方の絶叫が、通りを歩いている人たちの関心を誘ってくれました。

「温かいスープ?」
「試飲ってなんだ?」
「え、無料で少しだけ飲ませてもらえるのか?」
「貴族のスープだって?」

 どんどんと試飲目当ての人が集まってきて、ついでに購入してくれる人も現れましたよ。これは、良い感じです。

「んんん、このスープは無料だにゃ?」
「ええ、そちらで試飲をしていますから宜しければどうぞ!」

 あれ?
 この獣人の方はどこかで見たことがあるような?
 そう思っていましたら、彼女の後ろから冒険者さんたちが姿を現しました。
 盾戦士、魔導士、あとは剣士の方。
 うん? 
 どこかであったかもしれない風貌ですけど、どこでしたか?

「タクマぁぁぁ、無料でスープを配っているにゃ!!」
「無料だと? それは重畳……よし、そこの女、俺にもスープを……って、貴様ぁぁぁぁ!!
あの時の商人か!!」
「え、誰……って、まさか勇者だった人?」

 え?
 タクマって、宿まで乗り込んできてブランシュさんから勇者の資格を奪われた方?
 しかもノワールさんと柚月さんまで警戒しましたよ。
 こ、これは一波乱ありそうで怖いのですけど。

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