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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第170話・比率に合わせた還元は当たり前ですよね?

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 フォートレスタートルさんがゆっくりと立ち上がり、山の麓へ向かって進み始めたのを確認してから、私たちも超隊商エクソダスの待つ街道へと戻ります。
 そして私たちが到着するのを待っていた大勢の商人さんや他の隊商キャラバンの人たちの歓声に迎えられ、ようやくこの場所から移動できるようになったと感謝を伝えられました。

「それで、その、あの肉は全てフォートレスタートルが食べてしまったのか?」
「もしも残っているのなら、それを買い取りたいのだが」
「流石に私のアイテムボックスは時間緩和の効果も掛かってはいるが、ヤジーマ連邦までは鮮度を保てないからなぁ……」

 などなど、あちこちの商人さんから話しかけられましたけれど。
 当然、このような事態になることぐらいは想定済みです。

「いえいえ、余った分については代金は頂きません。その代わり、受け取った寄付金に合わせた比率で、サーロインは分配しますから少しお待ちください」
「「「「「「なんだって!!」」」」」

 はい、集まった皆さんの絶叫が聞こえます。
 
「そ、それはまた……そうか、比率等分するのか……ううむ」
「余ったのなら売ればよかったものを、正直すぎる商人は、あまり儲けられないぞ?」
「そ、そんなぁ……比率等分だって分かっていたら、もっと投資するべきだった」
「はいはい、ここは素直に待っているし。あとであーしたちが配りに行くから、今のうちに出発準備をするし」
「そういうことですので、後ほどお配りしますので少々お待ちください!」

 さあ、ここからは大忙しです。
 超隊商エクソダスの出発準備ができ、先頭からゆっくりと走り出しても私たちの場所のところまで順番が来るのは少し先。
 馬車が何十台も連なる超隊商エクソダスですから、準備だけでも大忙しのようですから。

………
……


「それで、この残りの肉を分けるのですね?」
「はい。比率を出しますので、少々お待ちを。ノワールさんはバナヤンの葉を用意しておいてください。柚月さんは、私が指定する分量にお肉を切り出してもらえますか?」
「畏まりました。では、わたくしはキッチンへ」
「わかったし!!」

 それでは、【世界樹の算盤】を取り出しまして、計算を開始します。
 かなり細かい計算になりそうですけれど、全て算盤に読み上げていくことで計算してくれます。
 あとは、お腹を測るだけ。

「……クリスっち、いつのまにキッチンスケールを買ってあったし?」
「細かいものまで測れると書いてありましたので。香辛料などを正確に測るのに必要かもと思いまして、オーウェンにいた時に購入したのですけど、それっきりアイテムボックスの中にしまってあったのですよ」

 試食用の食べ物を測ったりするのにも使ってましたので。
 ええ、デンチとかいう魔石みたいなものが必要なのは知っています。
 それもしっかりと購入してありますよ。
 これは非売品として私が使うためのものですので、欲しいと言われましてもお断りするようにしていますか。
 そんなこんなで一時間ほどで、サーロインのお裾分け分は全て切り出し完了。
 少しずつですがハムやベーコンもおつけして、バナヤンの葉で包んで紐で縛って完成です。

「それじゃあ、それぞれの包みには札が付いていますから、書いてある商人さんの元へ配達することにしまじゃ……お?」

──ガタン
 突然、エセリアル馬車が走り出しました。
 どうやら前の馬車も動き始めたようです。

「夜になったら、また休息を取ると思われますから。その時にでも配ることにしましょう」
「そうですね。では、これは一旦、私のアイテムボックスに納めておきます」

 折角ですが、配達は一旦保留。
 フォートレスタートルさんに道を塞がれていた時間を取り戻すべく、ほんの少しだけ早い速度で馬車は走ってます。 
 そして夕方には超隊商エクソダスも止まりましたので、サーロインのおすそ分けを配ることにしました。

 それはもう、とにかく熾烈な戦いでして。
 配った先から、他の商人さんが交渉を持ちかけていましたよ。
 私たち三人は分担して配達をしていたのですけれど、いつの間にか私の後ろには、商人さんたちがついてくるようになっていまして。
 そして配る先から、買取交渉を持ちかけたりしていまして。

「なあフェイールさん、もう在庫はないのか?」
「あれっぽっちじゃあ、俺たちの腹に入っておしまいなんだよ。ほら、も上手く街道も雪が積もり始めているだろ? これだけ寒いなら保存が効くんだよ」
「頼む。うちの商会が独占したいんだ、継続的に卸してくれないか?」

 などなど。
 商人さんにサーロインを渡します。
 ↓
 受け取った商人さんと、他の商人さんが交渉します。
 ↓
 取引の成立、不成立に関わらず私との交渉が始まります。
 ↓
 お断りして、次の方のところへ向かいます。

 以後、振り出しに戻る……うん、私のところがこれなのですから、柚月さんやノワールさんも大変そうですよね。
 ちなみに、クリムゾンさんが護衛に出て来てくれていますので、私の身の安全は保障されていますし。
 強面のクリムゾンさんが同行していますから、無理な交渉もなく一時間ほどで配達は全て完了。私たちはようやく、馬車に戻ることが出来ました。

「では、また指輪に戻りたいところじゃが。少しだけ腹ごしらえをさせてくれぬか? 久しぶりに日本酒と、先ほど配っていた肉を焼いて欲しいのじゃが」
「あら? 私も少し休みたいのですけど?」
「そうか。では、ノワールが指輪に戻ると良い。流石の黒神竜も寒さには弱いと見たが」
「え、ノワールさんは寒さは苦手なのですか?」

 思わず問いかけましたけど。
 なにやらノワールさんは、恥ずかしそうに頷いています。

「そもそも、冬山をテリトリーとしているスノードラゴン種でないと、私たちは冬山なんて生活の拠点にすることはないのです。種によって、得意な生活環境と不得意な生活環境があるのですから」
「そうなのですか。では、ノワールさん、ありがとうございました。ここからはクリムゾンさんに代わってもらってください」
「そうね。では、そうさせて貰います。まあ、何かありましたらすぐに駆けつけますので、ご安心ください」

──シュンッ
 一瞬でノワールさんが指輪の中に戻りました。
 それと入れ違いに、柚月さんがクリムゾンさん用の酒の肴というものを用意して、リビングに戻って来ましたよ。

「あれ? ノワっちは?」
「クリムゾンさんと交代ですよ」
「へぇ。それじゃあ、またよろしく頼むし」
「任せるのじゃよ。荒事なら得意じゃからな」
「うん、まあ、よろしく……あの、クリスっち、ブランシュはまだ帰ってこないし?」

 ん?
 ブランシュさんですか?
 
「確か、ヘスティア王国の配達担当とペルソナさんが教えてくれましたから。追加で配達員が増えない限り、暫くは戻ってこないかと」
「ふ、ふぅ~ん。そっか、そうか」

 あれれ?
 心なしか柚月さんが寂しそうですよ?

「そこ、あーしを見てニヤニヤしないし。それよりも、この調子で進むと、ヤジーマ連邦に着く頃には2月になるし。そうなると、また新しい商品のことも考えないとならないし」
「それだ、そうなのですよ。柚月さん、【バレンタイン】というのはなんですか? ほら、来月の期間限定品のコーナーが、【バレンタインギフトコーナー】って書いてあるのですよ。ここまで大々的なイベントとなりますと、フェイール商店も乗らないわけにはいきませんよ?」
「あ~。もうバレンタインだし。それじゃあ、バレンタインについて説明してあげるし……」

 そのまま今日は、柚月さんからバレンタインについての説明を受けました。
 なるほど、恋人たちの祭典でしたか。
 好きな人にチョコレートを贈る風習で、男性から贈るのもありと。
 それで、この大量のチョコレートギフトというページがあるのですね。
 いつものお菓子のコーナーではなく、ピンクのハートマークがあしらわれたラッピングが行われるのも特徴であると。

「……こ、これは流行りますよ!! 異世界の恋人たちのお祭り。愛しい方にチョコレートを贈って告白する。これはいけますよ!」
「うんうん。クリスっちもペルソナに贈るといいし」

──カァァァァァァァツ
「な、な、な、何故、ここでペルソナさんの名前が出るのですか!」
「おやおやぁ? クリスっちの顔が真っ赤だし。耳まで赤いし」
「そういう柚月さんこそ、カタログギフトでブランシュさんに贈ればいいじゃないですか!」
「はぅあ!! 飛び火して帰ってきたし……でも、カタログギフトには、バレンタインコーナーはなかったはずだし」

 そう言いながら、柚月さんが自分の型録ギフトを開きましたが。

「あれ? トップページが変わっているし」
「ほら、あれですよ……以前、ペルソナさんが話していたアップデートですよ」
「へぇ。魔導具で自動アップデートって凄いし……でも、チャージがかなり減っているし。武田っちたちにも色々と送ってあげたから、そろそろ新しい型録ギフトを買った方が良いかもしれないし」
「では、次の配達の時に発注しておきますね」
「三冊ほど頼むし」

 柚月さんは、他の勇者さんたちにも優しいのですよね。
 さて、それじゃあバレンタインコーナーを眺めながら、次の商品のことを相談することに……ん、そういえば以前、ヘスティア王国で出会ったベルメさんからも、季節のお菓子とかいうものを買い取りましたよね?
 その中にも確か……あれ?

 節分ってなんでしょうか?
 それよりも、この【煎り大豆】って食べ物ですか?
 オーガキラーという効果が付与されていますが、これはなにものでしょうか?
 
 
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