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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第159話・王子は予想外にまともな方でした。

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 チャーリィ王子の誕生パーティーの会場で、まさかの宰相と宮廷魔導師長の謀叛が発生。
 それを阻止した柚月さんとノワールさん、そして私は国王陛下からありがたいお言葉をいただき、速攻で逃げるように転がるようにこの場から逃走しましたけれど。

 何故か、チャーリィ王子が馬車に乗り込んでしまいましてそのままナンバ屋まで移動してくることになってしまいました。

「る、ルナパークさん……私たちって、王子誘拐犯じゃないですか??」
「いえ、あの場では仕方がないことですし、王子も私たちが攫ったのではなく自分から乗り込んできたことを証明してくれますでしょうか?」
 
 この件について王子に問いますと。

「ナンバ屋の職員に事情を説明して、王城へと走らせると良いですよ。私が自分の意思でここに乗り込んだことは、父も見ていましたから大丈夫です。それよりも、この馬車は何なのですか? 伝承にある勇者の馬車そのものじゃ、あ~りませんか」

 その質問に、ルナパークさんがチラッチラッとこちらを見ています。

「これは、私がとある方から受け取った馬車です。他人に譲渡することはできませんし、私以外では使うこともできません」
「つまり、君は勇者の血筋ということで間違いはないんだね?」

 え?
 思わずノワールさん、柚月さんと顔を見合わせてしまいます。

「それはどういうことでしょうか?」
「いや、ガンバナニーワ王家に伝わる伝承にも、このような馬車が存在していただけで。勇者にしか使えないということらしいが、君は商人なので使える理由を考えていたら、必然的にそうなっただけだよ」
「う……」

 詳しい事情を説明するにも、契約の精霊エンゲージとの約束があるので。

「クリスティナ様にも事情がありますので、お察し頂けますと助かります。それよりも、王子が何故、この馬車に乗り込んできたのか、その事情をご説明いただけると助かるのですが」

 ノワールさんが問いかけますと、チャーリィ王子は真面目な顔で頭を下げる。

「まあ、いくつか理由があるが、まずは私と父の命を救ってくれたことに感謝する。今回の献上品の件、全ては宰相派の貴族による利権絡みであった事までは確認できているのだが、その裏で何者かと連んでいるところまでは掴むことができなかった。その上で、敢えてサイバシ屋には自由に動くように監視だけをつけ、カンクーの件でサイバシ屋と繋がり利権を得ようとしているものたちを炙り出すのが目的であった」

 かなり危険なことをしていますよね?
 それに巻き込まれたナンバ屋さんについては、どのような保障があるというのでしょうか。

「それで、魔族の介入や貴族同士の裏取引まで見えていたようですけれど。巻き込まれたナンバ屋さんにぐらいは、事情を説明しておいても良かったのでは?」
「それはダメだな。どこでどのように情報が筒抜けになるかわからない。現に、ナンバ屋の副統括もエイリ子爵の手のものだからな」
「そんなまさか」

 驚くのも無理はないのでしょう。
 
「それで、この件について王家で裏で動いていたということだ。巻き込んでしまったというのもあり、その件も踏まえて謝罪したかったのが一つ。二つ目が、ナンバ屋が持ち込んだ勇者の秘宝の件だ。あれは一つしかないのか?」
「いえ、まだ多少は持ち合わせています。ですが入手経路についてはフェイール商店しか知りません」
「ではフェイール殿。あの秘宝は定期的に納品可能か?」
「それは無理です。そもそも秘匿されていたものであり、それを公にする気もありません」

 堂々と返答します。
 あれを表に出してしまうということはすなわち、あれがどれだけの利益をもたらすかということを商人たちにも教えるようなものです。
 そうなりますと、入手方法や製造可能なのかということも聞き出そうとする輩も出て来ますから。
 特に上級貴族である伯爵家以上の身分の方なら、持てる財と権力を振り翳して聞き出しに来るのは見えています。

「そうか、実に残念であった。まだ多少の在庫があるのなら、売って欲しかったのだが」

 その言葉で、ルナパークさんがこちらを見ます。
 彼女が持っている在庫を売って良いか? そんな顔ですので私も静かに頷きました。

「そうですね。まだフェイールさんが在庫をお持ちですので、彼女から売ってもらうとよろしいのでは?」
「えええ!! 私の方なのですか? 今の顔は『私の在庫を売ってよろしいですか?』ではないのですか?」
「私の在庫は緊急時用にストックしたいのですわ」
「つまり、ルナパークとフェイール商店、どちら在庫を持っているということか。まあ、必要になったらルナパークに頼み込むとしよう。そして最後は願いなのだが」
「願い?」

 はい、柚月さんとノワールさんが警戒しました。
 この流れはもう私にも予想がついています。

「フェイール商店を、王家御用達に指定したい。必要ならば商会登録も行う、そのための土地店舗人材も全て用意しよう。どうだ?」

 やはり。
 でも、これは受けることはできません。

「残念ですが、それはお断りします。私はハーバリオス王家所属勇者御用達の指定を受けています」

 以前。
 柚月さんの宣言により、フェイール商店は勇者御用達となりました。
 それ故に、他国の王家御用達に収まることはできません。

「そうか、残念であった……では、また明日、改めて私の誕生パーティを執り行う。その場には参加してもらえるか? せめてもの御礼をしたいからな」
「その件でしたら、喜んでお受けします。それではチャーリィ王子さま、明日のパーティーの料理なのですが、当フェイール商店はこのようなものをご用意できますが、如何でしょうか?」

 さあ、ここからは私のターンです。
 商売相手は王家の第一王子、商品は在庫のオードブルとおせち料理、そしてお酒です。
 これで在庫を全て一掃して、新年は新しい商品での商売を行いたいものです。

「では、それらの商品を確認したいところだが、今から用意できるのかな?」
「はい。少々お時間を頂ければ」

 一旦キッチンへ向かい、おせちとオードブルを少量ずつ別の皿に盛りつけなおします。
 お酒も試飲用のものを用意してから、改めてチャーリィ王子の前に全て並べました。

「鑑定が使用できるのでしたら、毒の有無などをご確認ください。その上でご試食していただけたら幸いです」
「うむ。それでは」

 まずは鑑定。
 そして静かに頷いてから、一つ一つの料理を口に運ぶ。
 
「それでは、料理の説明についてはあーしが担当するし。まずは これは、フライドポテトだし」
「うむうむ、これは美味い。しかし、こうも少量ずつだと、やはり物足りないな。先ほどのパーティは内通者などを炙り出すためのものであったから、酒に酔うわけにもいかず腹一杯になって動けなくなるのも不味かったからな」
「遠慮しないで、いっぱい食べていいし。おかわりもあるし」

──うんうん、ウマウマ。
 その言葉で、チャーリィ王子も満足そうな笑みを浮かべ、次々と試食の皿を空けていきます。
 最後はシャンパンをグイッと飲み干し、見事に完食。

「全て買おう。在庫を全て、明日の朝一番に王城まで届けるように。今から司厨長に渡したなら、研究解析のためにグズグズにされるだろうからな」
「ありがとうございます。それでは明日早朝、お届けに参ります」
「その前に、私を王城まで送り届けてくれると助かるが。近衞騎士も誰も連れていないので、単独で帰るにはいささか不安でな」
「かしこまりました。では、早速王城へ向かいます」

 そう頭を下げると、チャーリィ王子が右手を軽く上げて制します。

「まあ、折角だから、フェイール商店の他の商品も見てみたい。それぐらいの時間は構わないだろう?」
「そうですね。私も、勇者の秘宝以外の商品を知りませんから。クリスティナさん、宜しければお願いされてくれますか?」

 王子とルナパークさんの申し出となりますと、断るわけにはいきませんよね。
 さあ、臨時ではありますが露店をここで開くことにしましょう。
 本日はチャーリィ王子とルナパークさんの貸切です。
 存分にご堪能ください。
 
 
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