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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第156話・探しているもの、真実を見るもの

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 謎の闇の精霊襲撃事件。
 
 そこはかとなく撃破してくれたノワールさんと柚月さんには感謝していますけれど、細かい事情その他をルナパークさんに説明するのには一苦労でした。
 そもそも闇の精霊は魔族の眷属、つまりはこのチャーリィ王子の生誕祭の裏で、サイバシ屋が魔族と接触していることは明白。

 明白ですよね?

 そういうことにしておいて、とりあえず今日のところは体を休めることにしました。
 客室はルナパークさんに使って頂いて、私と柚月さん、ノワールさんは応接間で布団を敷いてごろ寝です。
 この布団も【型録通販のシャーリィ】で結構前に購入したものでして、なんと言いますか、この柔らかい肌触りは一度でも体験したら手放したくなくなります。
 予備なども含めてそこそこな数を仕入れてありましたので、今日は柚月さんに教わった『カワノジ』に布団を敷いてゆっくりと体を休めることにしましょう。

………
……


 翌日。
 のんびりと朝食をとりつつ、昨日の出来事についての再考です。

「今回の中継都市カンクーの利権問題、その裏側に魔族が関与していることは間違い無いでしょう。あの土地を魔族が裏で牛耳るようになってしまったら、それこそ北方諸国は逃げ場を失うようなものです。唯一の救いでもあった南方ヴェルディーナ王国はすでに魔族により灰燼となり、今は人の命を奪う砂漠となってしまいましたから」
「あの砂漠は確かに危険です。私も空の上から見ていましたけれど、一歩でも足を踏み込んだら囚われてしまうかも知れませんから」
「え、空から?」

 ルナパークさんの説明に思わず相槌を打ったと思いましたが、やらかしたかも。

「まあ、その話は心の棚に置いておくことにして、今後の問題です」

──ガチャッ
 すると柚月さんがキッチンから朝食を持ってきてくれます。

「今日の朝食は、なんちゃってスパムおにぎりだし」
「おにぎり!!」
「へぇ。スパムとやらが手に入らないから、塩漬け豚肉を厚切りにしてソテーしたのですか。そして海苔もちゃんと巻いてあって、しっかりと再現されていますね?」
「ノワっち、随分と詳しいし」
「私はエセリアルナイトです。そう説明したら、柚月さんは理解していただけますよね?」
「納得だし」

 んんん?
 気のせいかノワールさんと柚月さんって、かなり仲良くなっていますよね。
 そして羽毛枕を抱きしめているルナパークさん、それを置いてくれませんか?

「な、な、なんですかあの布団は、それにこの枕も、その朝食も私の知らないものばかりです。これは全て、フェイール商店の仕入れルートから入手可能なのですか?」

 あ、目が商人です。
 さすがは商業ギルドマスター、このような未知の商材には飛びつくのはお約束ですよね?

「そうですね。可能かどうかと聞かれたら可能ですとはお答えできます。ですが、これをナンバ屋に卸せるかと問われたら不可能とお答えしますが」
「……はぁ、先に手を打たれましたか。まあ、ハーバリオスからの取り寄せとなりますと、時間もかなりかかるでしょうから。それに、サイバシ屋にカンクーの利権を奪われでもしたら、全てをあのギルドに接収されてしまうに決まっていますから」
「……早く食べないと冷めるし」

 テーブルを指でトントンと叩いている柚月さん。
 はい、それでは先にいただくことにしましょう。
 そしてしばらくは柚月さんの作ってくれた料理に舌鼓を打ちながらの雑談に花を咲かせます。

 そのあとは今後の計画について。
 どこでサイバシ屋の手が回るかわかりませんので、ギリギリまで表には出ないことになりました。
 明日の夕方、王城正面。
 そこまでエセリアル馬車で移動してから、柚月さんがルナパークさんの護衛として同行。
 万が一のために柚月さんのアイテムボックスにも、勇者の秘宝を幾ばくか預かって貰います。
 そして2人を下ろしてからは、私たちは再びエセリアルモードに変化して王城内部に突入、謁見の間で待機します。

 あとは出たとこ勝負。
 私はここにいる限り安全ですので、万が一の時にはノワールさんにも外に出てもらうことになります。

「ふむふむ……私、なんの役にも立っていませんね?」

 ここまでの計画で、私の出番はありません。
 勇者の秘宝の件についても、結局は柚月さんにお手伝いしてもらっていますし。

「ん? クリスっちが居たから、ここまで安全に話が進んでいるし?」
「そうですわね。クリスティナさまが依頼を受けたからこそ、この国の暗部が明るみになり始めているのではないかと私も思いますが」
「本当ですよ!! フェイール商店さんにはどれだけ頭を下げても足りないぐらいですから」

 私の一言に、三人が一斉に捲し立てるように話をしてくれます。
 えええ、そこまで褒められると嬉しいのですけど、どうしても不安なのですよ。

「そもそも。クリスっちは商人だし。今回みたいなあらごとは、勇者のあーしやエセリアルナイトのノワっちの仕事。ちゃんと適材適所で動いているんだから問題はないし」
「その通りですわ」
「う、うん、そうだよね!!」

 ギュッと拳を握り、二人に頷く。
 私にできること、商人の私に……。

──バサッ
 アイテムボックスを開いて羊皮紙を取り出します。
 そして今の在庫状況を確認、よし、クリスマス用の食品や自分たち用にストックしてあったおせち料理も飲み物もまだまだあります。
 今月分の型録にもそれらしい商品は掲載されていますし、この辺りのものを夕方便でペルソナさんに届けてもらうことにしましょう!!


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


──ガラガラガラガラ
 早朝。
 ハーバリオス王国オーウェン領、領都ビーショックのフェイール商店前に、アルルカンの馬車が到着する。

「……なんで、あの女のところじゃねーんだ?」
「はっはっはっ。クリスティナ様がビーショックの本店に指定配達をしたからに決まっていますな。さあ、急ぎ納品作業を行いますよ」

 ジョーカーは御者台から飛び降りて、なかば不貞腐れているアルルカンへ説明するとフェイール商店の扉をノックする。
 やがて扉が開かれると、一人の壮年の男性が姿を現した。

「これはこれは、いつもクリスティナさまからのお荷物をお届けいただき、誠にありがとうございます。本日は、あの仮面の方ではないのですか?」
「ええ。色々と訳ありまして、こちらへの配達は今後は彼が担当することに成りましたので、ご挨拶も兼ねて伺わせていただきました」

 クリスティナ家の家宰兼本店責任者であるマッハがジョーカーとたあいない話を進めている中、アルルカンはぶつぶつと文句を告げつつも荷物を下ろして店内へと運び込んでいる。
 型録通販のシャーリィの効果により、ジョーカーとアルルカンへの認識は『クリスティナに頼まれて荷物を届ける配達業者』というように書き換えられている。
 そのため、普通に荷物を下ろして受領証にサインをもらうと、二人は馬車に戻りゆっくりと姿を消していく。

「なぁ、まだあの女は俺に屈服する様子はないのか?」
「屈服? 何故です?」
「この俺が嫁にすると決めたんだぞ? 素直に頭を下げて俺の前に跪き、喜ぶのが当たり前だろうが。街の酒場の主人も、通っている娼館の女どもも皆、俺に屈服したぞ」
「はっはっはっ。そのような認識では、あの方の寵愛を受けるなど不可能でしょうな。それに、私はあなたのお目付役も任されたのですから、あまり余計なことはしないように願いたいものです」

 淡々と説明するジョーカー。
 するとアルルカンは窓の外を向いてぶすっとした表情になる。

「くそっ……とっとと帰るぞ、気分が悪い」
「そうですな。私もこのあとはヘスティア王国へ荷物を届けなくてはなりませんので、そちらの精霊の祠から戻ることにしましょう」
「好きにしろ」

 鼻歌まじりに御者を行うジョーカーと、不貞腐れたまま昼寝を始めるアルルカン。やがて馬車は霧の中へと消えていくと、ヘスティア王国王城前に姿を現わした。

 
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