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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と
第155話・暗躍したもの、しているもの
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ガンバナニーワ王国王都・商業ギルドサイバシ屋本店。
間も無く行われるチャーリィ王子の生誕祭へ向けて、サイバシ屋の職員一同は最後の準備に追われていた。
王城大広間にて行われるパーティー、そこで王子へ直接手渡される祝いの品々。これがチャーリィ王子の目に止まれば、現在急遽開発が進められている中継都市カンクーでの商業権利どころか、このガンバナニーワの商業ギルドの全権を握ることができる。
そうなれば、長年の仇敵であったナンバ屋も解体。
奴らのギルドに登録している商人や商会全てが、サイバシ屋の配下に加わることになる。
「……それで、ナンバ屋が勇者の秘宝を手に入れたというのは事実なのだな?」
サイバシ屋本店奥にある支配人室。
そこでギルドマスターであるセイブ・エイリ子爵は、目の前で正座している部下からの報告を聞いている。
届けられた報告は、ナンバ屋にフェイール商店が接触したこと、そこから出てきた勇者の一人が秘宝を手に入れたと宣言したこと、そしてサイバシ屋が入手した聖剣が偽物であると叫んだこと。
これに伴い、サイバシ屋下部組織は口止めを行うためにフェイール商店の馬車を強襲、しかもあっさりと逃したという。
ギルドマスターであるルナパークはフェイールの馬車ともども行方不明となり、勇者の秘宝がどこにあるのかさえ見当がつかなくなっていた。
「へぇ。闇ギルドの連中が手柄を焦ってフェイールを襲撃したってことで手は打ってあります。巡回騎士たちにも鼻薬を嗅がせてありますが、所詮は下っ端、どこまでしらを切り倒せるかはわかりやせん」
「闇の連中とうちの繋がりについては、口の軽い奴らは全て処分しましたので漏れることはありません。また、貴族院のフィクサ伯爵にもこのことは報告済みでして、騎士関係に着いてはどうにか手を回してくれると」
「全く……余計な借りを作りたくはないのだがなぁ……まあいい。次の手は打ってあるのだろう?」
エイリ子爵が机の上から葉巻を手に取る。
それを咥えて指を鳴らし、火をつけて軽くふかし始めると、部下の一人が口を開いた。
「高くつきましたが……ルナパークのやつは、自分宛の書類は毎日必ず確認しています。どこかに書かれているのだと思いますが、何らかの理由で書類を回収するはずだって、あの女も話していましたから」
「その手紙の中に、闇の精霊を封じてあります。契約内容は『手紙を開いたやつ、その近くにあるやつを全て殺せ』。まあ、いつもの手ですが……あと始末についてもいつも通りです」
その言葉に満足したのか、エイリ子爵は満面の笑みを浮かべる。
この国では、突然人が居なくなるなんてことはよくある。
そして数日後には、郊外の森の中で無惨な死体として発見される。
それでも発見されたなら運が良い方であり、最悪は行方不明のままで処理される。
全ては、サイバシ屋と闇ギルドの暗躍によるものであり、目の上のコブは全て同じように排除してきた。
莫大な上納金の代わりに、フィクサ伯爵は常にサイバシ屋の不正は握り潰してくれている。
今回の件もこれで解決と、満足していた。
「下がってよし。あとはまあ、どこかで酒でも飲んでこい」
──ジャラッ
それなりに詰まった小さな袋を部下の方に投げると、男たちは頭を下げながら部屋から出ていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──フェイール商店・エセリアル馬車の中
テーブルの上の一通の手紙。
封蝋が施されているそれを、クリスティナたち四人は静かに眺めていた。
「や、闇の精霊ですか?」
「うん。あーしは武田っちから聞いたことがあるし。多分、ここに封じられているのは闇の上位精霊・シャドウバインダーだし。まあ、開けてみないことにはわからないから」
──チャキッ
柚月さんが可愛いハサミを取り出して、書簡を開封します。
そして中に収められていた手紙を取り出して開いた瞬間!!
──プシュゥゥゥゥゥ
手紙から黒い霧が噴き出して人の形を形成し……たまでは凄いのですが、その瞬間にノワールさんに襟首を掴まれて床に押さえ込まれています。
『ば、バカな、上位精霊の私を押さえ込むだと!!』
「そうね。私はクリスティナさまの護衛なので。この程度のことはできないと、お役目御免になりますのでね」
「そんじゃ、話を聞かせてもらうし…… 術式展開、呪縛の魔法陣よ、かのものに憑りついている悪しき精霊をその場に縛り上げるし……強度10!!」
──シャキーン
部屋全体から白い鎖が噴き出し、シャドウバインダーを縛り上げます。
そして部屋全体から伸びる鎖によりしっかりと固定しました。
「さーてと。何もかも話してもらうし」
『我は闇の精霊。契約者の不利益になることなど話すことはない』
「あっそ。ノワっち、方法は?」
「そうねぇ……契約者ということは、貴方は誰かに使役されているのよね? つまり貴方を殺したら、契約者にもそれなりになにか起こるわよね?」
──ビクッ
シャドウバインダーが怯みました。
下級や中級の精霊にはあまりない『個としての感情』。それが大きく揺らいだのです。
「ねぇクリスっち。使役以外には何があるし?」
「精霊魔術師は盟約により心を通わせ、双方なりになるように力のやり取りをしますよね? でも使役は一方的に相手を支配します。それには多大な代償を伴うのでして、最悪の場合は使役された精霊の消滅により使役者の命が奪われることもあります」
「使役したものを維持するための代償?」
「まあ、そのようなものです。強力な精霊を使役するためには、かなりの代償が必要になりますから」
それにしても、私たちの命まで奪おうとするとは、今回の件はかなり根が深さそうです。
そしてノワールさんが、シャドウバインダーに話しかけています。
「簡単な質問よ。貴方の雇い主は? 見た感じでは、貴方を殺したあとは、おそらくは契約者も死ぬわね。でも、先に契約者が死んだのなら、貴方は解放されるのじゃない?」
『ふはははは。そのような世迷言に耳を貸すと思うか。闇の精霊を舐めるな、殺すなら殺せばいい』
「だって。柚月さん、それじゃあ封印してもらえます?」
『なに、封印だと? この上位精霊である私を封じれるはずが』
自信満々なシャドウバインダーですけれど、柚月さんは頷きながら印を組み始めました。
「大賢者の武田っちから聞いているし。送還の魔法陣よ、かのものに憑りついている悪しき精霊を、かのものに封じるし」
──ジャラララララっ
今室内の鎖が全てシャドウバインダーに絡みつきます。
そして柚月さんはアイテムボックスから小さな小瓶を取り出して、それを掲げました。
『な、な、なんだとォォォォォ』
「闇の精霊は、負の感情がある場所で再生するし。でも、封じられたら再生不可能、おやすみだし」
『おのれぇぇぇぇぇぇ!!』
──シュポッ
あ、小瓶に吸い込まれました。
そして魔力を集めた呪符を作り出して、それを貼り付けています。
「はい、おしまいだし。ちょうど空になった香水の瓶があったから助かったし」
ポイっと封印した小瓶をアイテムボックスに放り込んでいます。
これで、闇の精霊のことはクリア。誰が放ったかなどはわかりませんけれど、今のところは一安心です。
「……」
あ、私たちのことを部屋の隅に逃げていたルナパークさんが見つめて……。
「気絶していますよ!! 急いで薬を飲んで貰わないと」
「ここにある秘薬を使うし」
「了解です」
大急ぎで勇者の秘薬を口の中に含ませます。
そして意識が少しだけ戻ってくると、慌ててそれを飲み干しています。
あまりにも現実的でないことが起きたので、意識がついてこなかったようですけれど。
「こ、これはまさか勇者の秘薬……私が飲んだので……きゅぅ」
あ、また気絶しました。
ま、まあ、薬の効果もありますから、少し寝かせてあげましょう。
間も無く行われるチャーリィ王子の生誕祭へ向けて、サイバシ屋の職員一同は最後の準備に追われていた。
王城大広間にて行われるパーティー、そこで王子へ直接手渡される祝いの品々。これがチャーリィ王子の目に止まれば、現在急遽開発が進められている中継都市カンクーでの商業権利どころか、このガンバナニーワの商業ギルドの全権を握ることができる。
そうなれば、長年の仇敵であったナンバ屋も解体。
奴らのギルドに登録している商人や商会全てが、サイバシ屋の配下に加わることになる。
「……それで、ナンバ屋が勇者の秘宝を手に入れたというのは事実なのだな?」
サイバシ屋本店奥にある支配人室。
そこでギルドマスターであるセイブ・エイリ子爵は、目の前で正座している部下からの報告を聞いている。
届けられた報告は、ナンバ屋にフェイール商店が接触したこと、そこから出てきた勇者の一人が秘宝を手に入れたと宣言したこと、そしてサイバシ屋が入手した聖剣が偽物であると叫んだこと。
これに伴い、サイバシ屋下部組織は口止めを行うためにフェイール商店の馬車を強襲、しかもあっさりと逃したという。
ギルドマスターであるルナパークはフェイールの馬車ともども行方不明となり、勇者の秘宝がどこにあるのかさえ見当がつかなくなっていた。
「へぇ。闇ギルドの連中が手柄を焦ってフェイールを襲撃したってことで手は打ってあります。巡回騎士たちにも鼻薬を嗅がせてありますが、所詮は下っ端、どこまでしらを切り倒せるかはわかりやせん」
「闇の連中とうちの繋がりについては、口の軽い奴らは全て処分しましたので漏れることはありません。また、貴族院のフィクサ伯爵にもこのことは報告済みでして、騎士関係に着いてはどうにか手を回してくれると」
「全く……余計な借りを作りたくはないのだがなぁ……まあいい。次の手は打ってあるのだろう?」
エイリ子爵が机の上から葉巻を手に取る。
それを咥えて指を鳴らし、火をつけて軽くふかし始めると、部下の一人が口を開いた。
「高くつきましたが……ルナパークのやつは、自分宛の書類は毎日必ず確認しています。どこかに書かれているのだと思いますが、何らかの理由で書類を回収するはずだって、あの女も話していましたから」
「その手紙の中に、闇の精霊を封じてあります。契約内容は『手紙を開いたやつ、その近くにあるやつを全て殺せ』。まあ、いつもの手ですが……あと始末についてもいつも通りです」
その言葉に満足したのか、エイリ子爵は満面の笑みを浮かべる。
この国では、突然人が居なくなるなんてことはよくある。
そして数日後には、郊外の森の中で無惨な死体として発見される。
それでも発見されたなら運が良い方であり、最悪は行方不明のままで処理される。
全ては、サイバシ屋と闇ギルドの暗躍によるものであり、目の上のコブは全て同じように排除してきた。
莫大な上納金の代わりに、フィクサ伯爵は常にサイバシ屋の不正は握り潰してくれている。
今回の件もこれで解決と、満足していた。
「下がってよし。あとはまあ、どこかで酒でも飲んでこい」
──ジャラッ
それなりに詰まった小さな袋を部下の方に投げると、男たちは頭を下げながら部屋から出ていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──フェイール商店・エセリアル馬車の中
テーブルの上の一通の手紙。
封蝋が施されているそれを、クリスティナたち四人は静かに眺めていた。
「や、闇の精霊ですか?」
「うん。あーしは武田っちから聞いたことがあるし。多分、ここに封じられているのは闇の上位精霊・シャドウバインダーだし。まあ、開けてみないことにはわからないから」
──チャキッ
柚月さんが可愛いハサミを取り出して、書簡を開封します。
そして中に収められていた手紙を取り出して開いた瞬間!!
──プシュゥゥゥゥゥ
手紙から黒い霧が噴き出して人の形を形成し……たまでは凄いのですが、その瞬間にノワールさんに襟首を掴まれて床に押さえ込まれています。
『ば、バカな、上位精霊の私を押さえ込むだと!!』
「そうね。私はクリスティナさまの護衛なので。この程度のことはできないと、お役目御免になりますのでね」
「そんじゃ、話を聞かせてもらうし…… 術式展開、呪縛の魔法陣よ、かのものに憑りついている悪しき精霊をその場に縛り上げるし……強度10!!」
──シャキーン
部屋全体から白い鎖が噴き出し、シャドウバインダーを縛り上げます。
そして部屋全体から伸びる鎖によりしっかりと固定しました。
「さーてと。何もかも話してもらうし」
『我は闇の精霊。契約者の不利益になることなど話すことはない』
「あっそ。ノワっち、方法は?」
「そうねぇ……契約者ということは、貴方は誰かに使役されているのよね? つまり貴方を殺したら、契約者にもそれなりになにか起こるわよね?」
──ビクッ
シャドウバインダーが怯みました。
下級や中級の精霊にはあまりない『個としての感情』。それが大きく揺らいだのです。
「ねぇクリスっち。使役以外には何があるし?」
「精霊魔術師は盟約により心を通わせ、双方なりになるように力のやり取りをしますよね? でも使役は一方的に相手を支配します。それには多大な代償を伴うのでして、最悪の場合は使役された精霊の消滅により使役者の命が奪われることもあります」
「使役したものを維持するための代償?」
「まあ、そのようなものです。強力な精霊を使役するためには、かなりの代償が必要になりますから」
それにしても、私たちの命まで奪おうとするとは、今回の件はかなり根が深さそうです。
そしてノワールさんが、シャドウバインダーに話しかけています。
「簡単な質問よ。貴方の雇い主は? 見た感じでは、貴方を殺したあとは、おそらくは契約者も死ぬわね。でも、先に契約者が死んだのなら、貴方は解放されるのじゃない?」
『ふはははは。そのような世迷言に耳を貸すと思うか。闇の精霊を舐めるな、殺すなら殺せばいい』
「だって。柚月さん、それじゃあ封印してもらえます?」
『なに、封印だと? この上位精霊である私を封じれるはずが』
自信満々なシャドウバインダーですけれど、柚月さんは頷きながら印を組み始めました。
「大賢者の武田っちから聞いているし。送還の魔法陣よ、かのものに憑りついている悪しき精霊を、かのものに封じるし」
──ジャラララララっ
今室内の鎖が全てシャドウバインダーに絡みつきます。
そして柚月さんはアイテムボックスから小さな小瓶を取り出して、それを掲げました。
『な、な、なんだとォォォォォ』
「闇の精霊は、負の感情がある場所で再生するし。でも、封じられたら再生不可能、おやすみだし」
『おのれぇぇぇぇぇぇ!!』
──シュポッ
あ、小瓶に吸い込まれました。
そして魔力を集めた呪符を作り出して、それを貼り付けています。
「はい、おしまいだし。ちょうど空になった香水の瓶があったから助かったし」
ポイっと封印した小瓶をアイテムボックスに放り込んでいます。
これで、闇の精霊のことはクリア。誰が放ったかなどはわかりませんけれど、今のところは一安心です。
「……」
あ、私たちのことを部屋の隅に逃げていたルナパークさんが見つめて……。
「気絶していますよ!! 急いで薬を飲んで貰わないと」
「ここにある秘薬を使うし」
「了解です」
大急ぎで勇者の秘薬を口の中に含ませます。
そして意識が少しだけ戻ってくると、慌ててそれを飲み干しています。
あまりにも現実的でないことが起きたので、意識がついてこなかったようですけれど。
「こ、これはまさか勇者の秘薬……私が飲んだので……きゅぅ」
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