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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第154話・勇者の資質と聖剣の関係

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 無事に勇者の秘宝を入手した私たちは、ガンバナニーワ王都の商業ギルド、ナンバ屋さんへと戻ってきました。
 ですが、ナンバ屋さんはサイバシ屋によって監視されているらしく、あちこちに手下らしき人たちの姿が見えました。
 ですからこちらも一計を案じ実行。

 無事にギルドマスターのフローレンス・ルナパークさんの確保に成功しました。

 そのまま場所を変えて人気のないところに移動してから、私も馬車の中に入ってさっそく話し合いを始めたいと思います。

「……なに、これ? 馬車の中なのに、どうしてこのような部屋が……まさか、空間拡張?」
「はい。この馬車の中は空間拡張魔法が付与されていまして、ご覧の通り寝室もお風呂もあります。キッチンも完備していますので、食事を作ることもできるのですよ?」
「それと、中に入ることができるのは許可されたもののみ。付け加えて馬車自体が認識阻害効果により護られています」

 私とノワールさんの説明で、どうにか落ち着きを取り戻したルナパークさん。
 そこに柚月さんが飲み物を持ってきてくれました。

「ココアを淹れてきたし。どうぞ」
「ありがとうございます。参考までに、ココアとはどのような飲みものでしょうか?」
「あーしの世界の飲み物だし。つまり、勇者の愛飲しているノンアルコールでホットな甘い飲み物」
「ゆ、ゆ、勇者さまの飲み物!!」

 柚月さんの話を聞きながら飲もうとしていたようですが、口元で突然手が止まりプルプルと震えています。
 
「あ~、そういうのいいから、温かいうちに飲むし」
「ほ、はいっ、それでは頂きます……」

 そして一口。

「ほわぁぁぁぁ。甘い、そして少し苦味と癖になりそうな香り。これはまさに至高の飲み物、心なしか身体に力がみなぎってきます」
「それは良かったです」
「ええ、本当に、フェイール商店の皆さんがギルドの前で叫び出したと思ったら、いきなり襲撃されたりと大変でした。でも、この馬車の中なら、邪魔されずに取引は可能ということですわね?」
「はい。それでは、まずはこちらをどうぞ」

──シュルッ
 アイテムボックスの中から、ルーターの里で入手した勇者の秘宝を取り出します。そしてテーブルの上に置いて中を開くと、中から一本だけ取り出してルナパークさんの前におきました。

「鑑定をお願いします」
「はい。それでは失礼して……ヒッ!!」

──ガタッ
 突然、ルナパークさんが立ち上がって震え始めました。

「う、うそ、そんな事って……秘薬エリクシールよりも効果の高い魔法薬、しかもいかなる効果すら抹消し健康体へと回復させる……うわぁ、うわぁ……」
「ご理解頂けますか? こちらの魔法薬により大賢者カナンは一命を取り留め、反撃に出ることができました。それと同じもの、その当時のものをご用意しました」

──ゴクッ
 息を飲みつつ、ルナパークさんは瓶をテーブルの上に置きます。

「まさかとは思いますけれど、この残りのものも?」
「全て同じ効果です。ですが、今回は本数の指定はありませんでしたので、一本で宜しいですよね? 全てをお渡しして何かあった場合には困ることになりますから」
「え、あ、そうね、その通りね」

 これはノワールさんからの提案。
 納品後に何らかの妨害があり、秘薬が盗まれたり破壊された時に困らないようにと、ルナパークさんにお渡しするのは少量、それも一本のみ。
 何本も用意できたなんてことになりましたら、その出所を調べられたりする可能性もありますので。

「それで、先ほどの『サイバシ屋の用意した聖剣は偽物』って、どういう意味なのでしょうか? 噂では鑑定した結果は聖剣と表示されていた方ですけれど」
「それについては、大魔導師のあーしから説明するし。そもそも聖剣って……」

 柚月さん曰く。
 勇者の使用する聖剣とは、勇者自身がこの世界に召喚されたときに生み出されるものであり、召喚の儀式の直後にはすでに装備しているそうなのです。
 また、勇者の死後も聖剣は彼の意思を継いでこの世界に残り、その力はゆっくりと失われていくものの、聖剣としての役目は続くそうなのですが。

 問題なのは、勇者が勇者としての資質を失った場合。

 その場合も聖剣自体は残るそうなのですが、急速に力を失っていくそうです。
 これは『勇者との繋がりが絶たれるため』という事であり、やがて聖剣は何の力も持たない鉄屑のようになるそうです。

「あの、勇者さまって目的を達した場合、自分たちの世界に帰りますよね? その場合も聖剣は留まることは理解できますけれど。死んだら繋がりは消えませんか?」
「それがねぇ。勇者の死後、聖剣は彼の役割を次代に伝えるために自らの力を封じることになっているらしいし。だから、聖剣は聖剣のまま。だけど勇者タクマは、ブランシュがその力を封じたんだよね? つまり勇者ではなくなっているから彼が持っていた聖剣もいずれは鉄屑だし」

 な、なるほど。
 つまり、サイバシ屋さんの聖剣はやがて鉄屑になると?
 そんなものを奉納したら、面目丸潰れだということになりませんか?

「……問題は、二日後のチャーリィ王子の生誕祭。その日に王城謁見の間で行われるパーティの席で、サイバシ屋と私は勇者の秘宝をお披露目しないとならないのですよ」
「ん~。あと二日なら、ここに隠れていればいいし。二日ぐらいいなくなっても、業務に支障は出る?」

 柚月さんの大胆な質問に、ルナパークさんは顎に指を当てて考えています。

「簡単な指示はすべて出してありますし。急務の場合は、私の机の上にある箱の中に書類を入れておいてほしいと統括補佐のレーナには伝えてありますから。そこだけでも確認できれば、あとは隠れていても問題はありませんけれど」
「う~ん。それなら、箱の中身はあーしが確認してくるし。透明化の魔法で姿を消すだけだから、誰にも見つからないし」
「そうですわね。では、日が暮れてからでも確認してみてください。私とクリスティナさまは、ここで待機していましょう」

 私の護衛ですから、ノワールさんが私から離れることはありません。
 ということなので私たちは馬車で商業ギルドの前まで移動します。
 そして柚月さんが透明化の魔法を施してギルド内に侵入しますと、そのまま書類を確認しに行ってくれました。

「……それにしても。フェイール商店は、どれだけの財力をお持ちなのですか? このような魔導遺物品アーティファクトを所有し、勇者の秘宝などの伝説にも精通している。そして黒神竜さまと大魔導師さまが職員だなんて……どこの王族の皇女さまの道楽なのかと考えてしまいますね」
「あはは……まあ、商売上の秘密ということで。基本的には、フェイール商店の本店はハーバリオス王国のオーウェン領ビーショックにあります。私は個人商隊トレーダーとして、全国各地を旅しているようなものですから……」

 はい。
 まだまだ冬は始まったばかりです。
 オーウェンに戻るのは、もう少し先。
 そろそろ商品の在庫も考えて、発送しておいた方がよいかもしれませんね。
 
「そうでしたか。それで、今回は私とものために御助力を頂き、感謝します」
「いえいえ。こちらとしても、綿羊の綿毛でお世話になりましたから」

 あの時は本当に助かりましたよ。
 そんな話をしていますと、柚月さんが鼻歌交じりで馬車に戻ってきました。

「ルナパークさん、王城からの召集令状……って書いてある偽物の書類が届いていたし」
「王城から!! の偽物?」
「うん、これなんだけど」

 柚月さんが取り出した書簡。
 それをルナパークさんが受け取りますと、封蝋を確認しています。

「いえ、確かにこれは王家の宰相の封蝋です。国王が自らの印章を用いて封蝋を施すことはまずあり得ませんので、この場合は宰相のもので間違いはありませんよ?」

 そう説明してくれますけれど、ノワールさんがゆっくりと私の前に移動します。これは、その書簡に何か細工が施されているのかもしれません。

「鑑定したら、宰相さんが封じたもので間違いはないし。でも、その中に入っているのは、開封時に発動する『闇の精霊の召喚術式』の施された手紙だし」
「……そんなこと、わかるのですか?」
「開けなくても、魔法感知サーチマジックで魔法の反応がしたから、あとは魔法看破ディテクトマジックで魔法の種類を調べただけだし。だから内容とかは知らないし」

 その柚月さんの言葉で、馬車の中が沈黙しました。
 手紙、開けた方が良いのかどうか。
 そこが悩みどころですけれど。
 
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