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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第151話・やっぱり出ましたか。そしてお約束通り……ですよね。

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 勇者の祠の最下層、ショク・ヒンガーイ区画。
 そこにある秘宝を手に入れるために、私たちは未知の領域へとやってきました。
 そして、初代勇者から祠の管理を任された里長の子孫、ワカマッツさんよりとても貴重な秘宝を譲り受けることができました。

「イチダース? あ、この一箱のことですか。これに何本入っているのですか? 見たところ、紙製のしっかりとした箱に収められているようですけれど」

 ワカマッツさんが持ってきてくれた箱。
 それはシャーリィから荷物が届けられる時に用いられる『ダン・ボール』製に間違いはありません。その中にはカンショー材とかいうものが敷き詰められており、振動などにも耐えられるように厳重に梱包されているのですから。
 
「この箱一つに50本ほど納められています。流石に何箱もお渡しすることはできませんけれど、貴重な魔導具を譲っていただいたお礼です。それに、そちらの勇者さまのお話では、フェイールさんは勇者の子孫というではありませんか。つまり、これの所有権はあなたにあります!!」
「いえ、それはダメですわ。ここはご先祖さまがあなたたちにお渡しした遺跡、それを管理しているのはあなたたちなのですから。でも、この一箱だけは受け取らせていただきます」

 貰うものはしっかりと貰います。
 でも、ここを管理しているのはワカマッツさんたちなのです。

「そ、そうなのですか」
「ええ。初代大賢者カナンさまが、皆さんのためにここに遺跡を発見した……のですよね?」
「ん~、そのあたりはあやふやだし。召喚したかもしれないし、発掘したかもしれないし」
「ま、まあ、そんな事ですので、今後もこちらの村のために役立ててください」
「畏まりました」

 さて、これで話し合いも終わりです。
 受け取ったエネルギードリンクはアイテムボックスに納めて、地上へと戻る事にしましょう。

………
……


 ゆっくりと螺旋階段を登ります。
 もう、かなり上ったと思いますけれど、いまだにゴールである扉までは届きません。
 私の前を歩いている柚月さんもそろそろ限界のはず……あれ?

「ゆ、柚月さん? どうして飛んでいるのです?」
「階段上がるの疲れるし。それなら飛んでいる方がマシだし?」
「クリスティナさま、よろしければこのノワールが抱っこして差し上げますが?」
「だ、抱っこは恥ずかしいから勘弁してください……それと飛行魔術って、そんな便利なものがあったのですね?」 
「にしし。大魔導師だし。ほれ、クリスっちにも付与してあげるし」

──パチン
 そう話しつつ、柚月さんが私に向かって右手を伸ばします。
 そして指を鳴らしたかと思いましたら、私の身体が、フワリと、宙に。
 ウェイクアップな状態ですけれど、どうやら私の意思に合わせて体は自由に動くようですが。

「な、慣れるまで大変そうですね」
「まあ、あーしもなれるまでは大変だったから……ってなに?」

──ダダダダダダダダッ
 階段の上から大勢の人が駆け降りてくる音が聞こえてきます。
 ワカマッツさんも驚いて数歩下がりますと、踊り場に六人ほどのエルフが姿を現しました。
 みなさん、手に手に武器を構えてこちらに向けています。
 しかもよく見たら、そのうちの数人は私たちが里に来た時に攻撃してきたエルフではないですか!

「よぉ、ワカマッツさん。ようやくここを開けてくれたな」 
「お前がここを開くまで、ず~っと待っていたんだ、悪いが、この中の秘宝は全て我々が頂いていく」
「ついでに、そこのお嬢ちゃんたちも大人しくしているんだな。まあ、運が良ければ金持ち貴族に買われるだろうからさ。あまり抵抗して傷物になったら、変態伯爵に売り飛ばす事になる。だから大人しくしていろよ?」

 ニヤニヤと笑いつつ、男たちがゆっくりと階段を降りてきます。
 それに合わせて私たちも下がりますし、ワカマッツさんも抵抗せずに階段を降り始めました。

「な、なぜお前たちがここに入ってきたんだ、それに秘宝を頂くだと? お前たちが我々の里に来た目的は、はなから秘宝狙いだったというのか?」
「はっはぁ……大正解。そうじゃなきゃ、こんな辺鄙な場所の里になんかくるわけねーだろ。俺たちはな、秘宝を手に入れて贅沢な暮らしがしたいんだよ」
「それによ、ガンバナニーワの商人が、秘宝を発見してきたら高く買い取ってくれるって話していたからなぁ。という事だ、鍵は渡してもらうぞ」

──スッ
 ノワールさんが階段にしゃがみ込みます。
 そして柚月さんも男たちを睨みつけました。

「クリスっちは後ろに。ワカマッツさんを守ってあげて」
「ふぇ? 私が守るのですか?」
「……こんな感じ。聖女の結界アイアンメイデン

──パチン
 柚月さんが指を鳴らすと、私とワカマッツさんの周りに結界ができます。

「お、おお? ねーちゃんたちはやるっていうのか?」
「その細腕で、俺たちを相手にしようってか?」
「真・竜神拳……」

 ノワールさんが超低姿勢から、階段を上がるほどギリギリな角度で男たちに向かって飛び跳ねます。
 そして低軌道からのアッパーカットが、一人の男のこ、こ、こ、股間にダイレクトアタック!!
 そのまま抉るように回転しつつ男を撃ちあげました。

「そこの二人!! ぬいぐるみだし!!」

──パチパチン
 柚月さんは二人の男めがけて両手を伸ばします。
 そして指を鳴らした途端、二人の男が小さなぬいぐるみに変化しました。
 この不意打ちに驚いた男たちがナイフや剣を構えて、柚月さんたちに向かって駆け降りてきます。

「こ、このクソアマぁぁぁぁ」
「売り飛ばすなんてことはしねえ、お前ら二人は死ねぇぇぇ」

──ガイン
 一人の男がノワールさんめがけて剣を振り下ろします。
 ですが、左腕を竜のように変化させて鱗を立てると、ノワールさんは剣を受け止め、さらに鱗で挟んでからパキィィィィッと剣をへし折りました。

「な、な、なんだと!!」
「ん~、甘いとっても甘いし。そんな攻撃、緒方っちの本気の剣戟に比べたら月とスッポンだし」

 もう一人の攻撃をひょいひょいと交わしつつ、柚月さんは隙を見て男めがけて右手を伸ばし。

──パチン
 はい、ぬいぐるみが一つ増えました。

「こ、こ、この化け物がぁぁぁ。大気と炎の精霊よ、かのものを滅ぼす竜巻となれ! ファイヤーストーム!」

──ゴゥゥゥゥゥ
 最後の一人が踊り場で術式を完成させました。
 それは燃え盛る炎を召喚する精霊魔術、それもかなり高位の術式です。
 渦巻く炎が唸り声を上げつつ、私たちに向かって飛んできます。

「わ、わ、わわわ!! 光の精霊よ、かのものをなんとかして!」

 慌てて光の精霊にお願いします。
 すると、私の目の前にポン? と小さな光の精霊が姿を現しました。

『リフレクション』

 そう光の精霊が呟くと、炎の竜巻は一瞬で起動を変更し、男目がけて突進していきます。
 そして全身を包み込むと、衣服と頭髪を燃やして消滅しました。

「変なもの見せるなだし!! キルティング」

──パチン
 最後の指パッチン。
 残りの男たちも全てぬいぐるみに変化すると、どうやら階段を降りてきた暴漢たちの姿はいなくなりました。

「……まさか、こいつらが秘宝を狙っていただなんて……」
「まあ、その辺りのことはワカマッツに任せるし。それよりも早く祠の外に出ないと、また変な輩が来ると厄介だし」
「全くですわ。クリスティナさまの教育によろしくない男たちなんて、もげて仕舞えばよいのです。奴隷にするだなんて言語道断、このぬいぐるみは奴隷商にでも売り飛ばせば良いのです」
「いやいや、せめて法のもとで処分するのが良いかと思いますよ?」
「では、犯罪奴隷として、責任を持って奴隷に落とします」

 ワカマッツさんも怖いことを話しています。
 そしてぬいぐるみたちは紐でまとめて引き摺るように移動。
 階段を登ってどうにか勇者の祠から外に出ることができました。
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