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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と
第148話・予想の斜め上……あ、勇者語録にありましたね。
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木造りの小屋の中。
その奥にある祠と、それを封じる精霊の術式。
そして、部屋全体を彩る、小さな装飾絨毯と、祠を守るように安置されている小さな彫像。
それはまるで、勇者の眠りを守る騎士や戦士のようです。
よく見ると、色褪せたタペストリーにも神官や巫女のような姿が描き込まれています。
「これは、あの祠にまつわるものなのですか?」
そうタカッツさんに問い掛けますと、彼もまた部屋の中を見渡してから頷いています。
「ええ。この祠には先代の里長が【保護の術式】を刻み込んであるんだ。そしてこの柔らか絨毯や彫像は、全てこの勇者の祠の中に安置されていたものでね。恐らくは儀式か何かで使用されていたもので、それをこの【保護の術式】の媒体に用いるために、ここに安置してあるんだよ」
「なるほど……物凄く感慨深いお話です。この祠は、いつ頃からここにあるのですか?」
「俺が知る限りでは、先代の里長が、ここまで逃げ延びて来た勇者のために行った儀式が最初らしいから、もう300年ほど昔なんじゃないかなぁ。それ以後、100年ごとに儀式を行い、祠の中から媒体となる装飾品や彫像を選別し、ここに安置して儀式媒体として使用しているらしい」
つまり、ここに安置されているものは全て、媒体として扱われていたものなのですね。
柚月さんも興味があったらしく、色褪せたタペストリーや彫像を見て頷いています。
「ん~、ホワイトとブラックだし。こっちはラストワン賞っぽいし」
「んんん? 柚月さんは、この彫像とかをご存知で?」
「いや、ご存知無いかというとありそうだし、でもぶっちゃけありえないし」
「はぁ。とにかく難しいものばかりなのですね?」
「そういうことにしておくと助かるし」
ふむ。
勇者のみぞ知る秘密、もしくは叡智の塊のような存在なのかもしれません。これは邪魔をしてはいけませんね。
「さて、そろそろ管理している神官が清掃に来るころだから、そろそろ良いかな?」
「はい、ありがとうございます」
「ん~。祠の扉の向こうが気になるし……」
「まあ、全てはこれからですわ」
ということで、今日のところはゆっくりとするしかありません。
明日にでも、サングラスの件が片付いたら、改めて里長に相談すると良いかもしれませんね。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──翌朝
朝六つの鐘が鳴る……なりません、ここには教会はありませんから。
柚月さんが持っているスマホ? とかいう魔導具がピピピピッと軽快な音楽を奏でて、私たちは目が覚めました。
「朝!!」
「う~、あと30分だし~ムニャ」
バタンと柚月さんは再度、眠りにつきましたが。私は急いで身支度を整えて、家の外へと飛び出します。
早朝便が到着するので、それの受け取りを行わなくてはなりません。
そう思って樹上住居から外に出ますと、すでに地上には見慣れ……ていないアルルカンさんの馬車と、その横で腕を組んで不機嫌そうなアルルカンさんが立っています。
「ハァハァハァハァ。すいません、遅くなりました」
「おせぇよ!! 俺を待たせるなんてどういう了見だ……ほら、とっとと納品処理をするから、荷物を受け取れ」
「は、はいっ!!」
いきなり怒鳴られたかと思ったら、不機嫌そうなままで馬車から荷物を下ろし始めます。それを受け取ってすぐにアイテムボックスへと収納しますけど、今日は荷物は少なめなのでそれほど時間は掛かりません。
「これで終わりだ。ほら、とっとと支払いを済ませて出かけるぞ?」
「出かける? はい?」
「はい、じゃねーよ、ほら、早くしろ」
慌てて【シャーリィの魔導書】を取り出して、チャージから支払いを終わらせます。
すると、アルルカンさんが私の腕をグイッと掴みました。
「あ、あの、力強すぎますし、出掛けるって何処にですか?」
「何処にだと? 俺が出掛けるっていうんだから、喜んでついて来たらいいんだよ。ったく、お前はな、この俺のフバシッ!」
──ゴワァァァダァァァン
突然、頭上から巨大な金属の桶が降って来て、アルルカンさんの頭に直撃しましたけど。
その一撃でアルルカンさんが地面に倒れて、あの、何がどうなったので?
「ブヒヒヒッヒンヒン」
「あの、エセリアルホースさん? 何が言いたいのでしょうか?」
「ブヒンヒン」
アルルカンさんの馬車のエセリアルホースさんが、頭を下げつつ何かを訴えるように話をしてから倒れているアルルカンさんの首根っこ、シャツの襟首を加えてぶら下げます。
そしてゆっくりと引き摺るように帰っていきましたけど、あの、アルルカンさんは何がしたかったのでしょうか。
今日は、少し怖かったですよ。
「あの、この金属製の桶は、どうしたら良いのでしょうか?」
馬車が消えてからも、桶は残ったまま。
とりあえずアイテムボックスに保管してから、今度ペルソナさんにでも聞いておくことにしましょう。
「クリスティナさま!! ご無事でしたか」
アイテムボックスに桶をしまったころに、ようやくノワールさんが姿を現してくれました。いつもなら納品の手伝いや護衛を引き受けてくれていたのに、今日はどうして姿が見えなかったのでしょう?
「まあ。見えない何かに助けられたような気がしましたが」
「申し訳ございません。まさかアルルカンの小僧が、認識阻害の効果を私たちにまで反映させてくるとは予想外でしたので」
「そうなのですか!! でも、どうしてノワールさんにまで効果があるレベルに設定したのでしょうか。まさか、それほどまでに強力な何かが、この辺りには存在しているとか?」
「……流石にそこまでは、私にも理解できませんが。アルルカンと二人の時に、何かありませんでしたか?」
「何か……そうですね……」
アルルカンさんが配達に来た時からのことを、ノワールさんに一通り説明します。すると、だんだんと彼女の目が座って来て、拳をペキペキと鳴らし始めましたけど。
「本当にあの小僧は、予想の斜め上のことをしてくれますね。では、次のペルソナの配達の時にでも、私からクレームを入れておきます。それと当面は危険ですので、早朝便の使用はお控えください」
「やはり、何か危険なものが近くにいたのですね?」
「ええ、とても危険な存在ですが、これにつきましては私からもペルソナに意見具申しておきますしておきます。あのヘタレペルソナめ……」
うわ、ノワールさんが本気で怒っています。
でも、なんでペルソナさんがヘタレ?
ヘタレってなんでしょう?
「それはそうと、この後、食後にでも里長の元へ向かいましょう」
「そうですね。その前に、商品の確認だけでも済ませておきますか」
『うわぁぁぁぉぁ、なんで寝坊したしぃぃぃぃぃ』
樹上の家から、柚月さんの悲鳴が聞こえて来ました。
「ノワールさん、柚月さんの寝坊の原因って、アルルカンさんの認識阻害効果の副作用というやつでしょうか?」
「新しい環境に興奮して遅くまで起きていただけですわ。では、柚月さんにも協力してもらって、サングラスの効果を確認しましょう」
「そうですね。運良く石化の魔眼を抑える効果が付与されていたら良いのですけれど」
こればっかりは、ランダム付与ですから分かりませんけれど。
ここはシャーリィさまに祈りましょう。
その奥にある祠と、それを封じる精霊の術式。
そして、部屋全体を彩る、小さな装飾絨毯と、祠を守るように安置されている小さな彫像。
それはまるで、勇者の眠りを守る騎士や戦士のようです。
よく見ると、色褪せたタペストリーにも神官や巫女のような姿が描き込まれています。
「これは、あの祠にまつわるものなのですか?」
そうタカッツさんに問い掛けますと、彼もまた部屋の中を見渡してから頷いています。
「ええ。この祠には先代の里長が【保護の術式】を刻み込んであるんだ。そしてこの柔らか絨毯や彫像は、全てこの勇者の祠の中に安置されていたものでね。恐らくは儀式か何かで使用されていたもので、それをこの【保護の術式】の媒体に用いるために、ここに安置してあるんだよ」
「なるほど……物凄く感慨深いお話です。この祠は、いつ頃からここにあるのですか?」
「俺が知る限りでは、先代の里長が、ここまで逃げ延びて来た勇者のために行った儀式が最初らしいから、もう300年ほど昔なんじゃないかなぁ。それ以後、100年ごとに儀式を行い、祠の中から媒体となる装飾品や彫像を選別し、ここに安置して儀式媒体として使用しているらしい」
つまり、ここに安置されているものは全て、媒体として扱われていたものなのですね。
柚月さんも興味があったらしく、色褪せたタペストリーや彫像を見て頷いています。
「ん~、ホワイトとブラックだし。こっちはラストワン賞っぽいし」
「んんん? 柚月さんは、この彫像とかをご存知で?」
「いや、ご存知無いかというとありそうだし、でもぶっちゃけありえないし」
「はぁ。とにかく難しいものばかりなのですね?」
「そういうことにしておくと助かるし」
ふむ。
勇者のみぞ知る秘密、もしくは叡智の塊のような存在なのかもしれません。これは邪魔をしてはいけませんね。
「さて、そろそろ管理している神官が清掃に来るころだから、そろそろ良いかな?」
「はい、ありがとうございます」
「ん~。祠の扉の向こうが気になるし……」
「まあ、全てはこれからですわ」
ということで、今日のところはゆっくりとするしかありません。
明日にでも、サングラスの件が片付いたら、改めて里長に相談すると良いかもしれませんね。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──翌朝
朝六つの鐘が鳴る……なりません、ここには教会はありませんから。
柚月さんが持っているスマホ? とかいう魔導具がピピピピッと軽快な音楽を奏でて、私たちは目が覚めました。
「朝!!」
「う~、あと30分だし~ムニャ」
バタンと柚月さんは再度、眠りにつきましたが。私は急いで身支度を整えて、家の外へと飛び出します。
早朝便が到着するので、それの受け取りを行わなくてはなりません。
そう思って樹上住居から外に出ますと、すでに地上には見慣れ……ていないアルルカンさんの馬車と、その横で腕を組んで不機嫌そうなアルルカンさんが立っています。
「ハァハァハァハァ。すいません、遅くなりました」
「おせぇよ!! 俺を待たせるなんてどういう了見だ……ほら、とっとと納品処理をするから、荷物を受け取れ」
「は、はいっ!!」
いきなり怒鳴られたかと思ったら、不機嫌そうなままで馬車から荷物を下ろし始めます。それを受け取ってすぐにアイテムボックスへと収納しますけど、今日は荷物は少なめなのでそれほど時間は掛かりません。
「これで終わりだ。ほら、とっとと支払いを済ませて出かけるぞ?」
「出かける? はい?」
「はい、じゃねーよ、ほら、早くしろ」
慌てて【シャーリィの魔導書】を取り出して、チャージから支払いを終わらせます。
すると、アルルカンさんが私の腕をグイッと掴みました。
「あ、あの、力強すぎますし、出掛けるって何処にですか?」
「何処にだと? 俺が出掛けるっていうんだから、喜んでついて来たらいいんだよ。ったく、お前はな、この俺のフバシッ!」
──ゴワァァァダァァァン
突然、頭上から巨大な金属の桶が降って来て、アルルカンさんの頭に直撃しましたけど。
その一撃でアルルカンさんが地面に倒れて、あの、何がどうなったので?
「ブヒヒヒッヒンヒン」
「あの、エセリアルホースさん? 何が言いたいのでしょうか?」
「ブヒンヒン」
アルルカンさんの馬車のエセリアルホースさんが、頭を下げつつ何かを訴えるように話をしてから倒れているアルルカンさんの首根っこ、シャツの襟首を加えてぶら下げます。
そしてゆっくりと引き摺るように帰っていきましたけど、あの、アルルカンさんは何がしたかったのでしょうか。
今日は、少し怖かったですよ。
「あの、この金属製の桶は、どうしたら良いのでしょうか?」
馬車が消えてからも、桶は残ったまま。
とりあえずアイテムボックスに保管してから、今度ペルソナさんにでも聞いておくことにしましょう。
「クリスティナさま!! ご無事でしたか」
アイテムボックスに桶をしまったころに、ようやくノワールさんが姿を現してくれました。いつもなら納品の手伝いや護衛を引き受けてくれていたのに、今日はどうして姿が見えなかったのでしょう?
「まあ。見えない何かに助けられたような気がしましたが」
「申し訳ございません。まさかアルルカンの小僧が、認識阻害の効果を私たちにまで反映させてくるとは予想外でしたので」
「そうなのですか!! でも、どうしてノワールさんにまで効果があるレベルに設定したのでしょうか。まさか、それほどまでに強力な何かが、この辺りには存在しているとか?」
「……流石にそこまでは、私にも理解できませんが。アルルカンと二人の時に、何かありませんでしたか?」
「何か……そうですね……」
アルルカンさんが配達に来た時からのことを、ノワールさんに一通り説明します。すると、だんだんと彼女の目が座って来て、拳をペキペキと鳴らし始めましたけど。
「本当にあの小僧は、予想の斜め上のことをしてくれますね。では、次のペルソナの配達の時にでも、私からクレームを入れておきます。それと当面は危険ですので、早朝便の使用はお控えください」
「やはり、何か危険なものが近くにいたのですね?」
「ええ、とても危険な存在ですが、これにつきましては私からもペルソナに意見具申しておきますしておきます。あのヘタレペルソナめ……」
うわ、ノワールさんが本気で怒っています。
でも、なんでペルソナさんがヘタレ?
ヘタレってなんでしょう?
「それはそうと、この後、食後にでも里長の元へ向かいましょう」
「そうですね。その前に、商品の確認だけでも済ませておきますか」
『うわぁぁぁぉぁ、なんで寝坊したしぃぃぃぃぃ』
樹上の家から、柚月さんの悲鳴が聞こえて来ました。
「ノワールさん、柚月さんの寝坊の原因って、アルルカンさんの認識阻害効果の副作用というやつでしょうか?」
「新しい環境に興奮して遅くまで起きていただけですわ。では、柚月さんにも協力してもらって、サングラスの効果を確認しましょう」
「そうですね。運良く石化の魔眼を抑える効果が付与されていたら良いのですけれど」
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