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第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第145話・勇者の秘宝と、エルフの隠れ里

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 目的地であるチクペン大森林に向かうためには、領内を走る定期馬車を使い森の近くまで移動。
 そこから街道を抜けて森へと踏み込む必要があるそうです。
 参考までにと、停車場で目的地である森の近くまでの移動時間がどれぐらい掛かるのか聞きましたところ、なんと二日もかかるとの事。
 道中の安全を守るために、少し遠回りでも草原地帯を縦断する街道を移動するそうですので、どうしても時間が掛かってしまうそうです。

 それではいつも使っている切り札を切る事にしましょうと言う事で、人気の少ない場所へとそそくさと移動します。

「やはりここはエセリアルホースさんの出番ですわね?」
「それは構わないかと思いますけれど。柚月さんは初体験なので、かなり心臓に悪いかと思いますが」
「なになに? あーしの知らない秘密があるし?」
「はい、それはもう、目的地まで一気に移動するための時間短縮ですから」

 ちょうど倉庫外にやってきたようで道幅も広く、このあたりなら馬車が増えようが問題ありませんよね。
 認識阻害の効果もありますから、出して乗って仕舞えばこちらのものですけれど。

──ユラァ
 そんなことを話していますと。
 
「おや、おやおやおや? こんなところでお嬢ちゃん達は何をしているのかな?」
「この辺りは商業区の中でも、許可証がないと入ってはいけない地域だぜ?」
「ちょいと事務所まで顔を貸してもらえるかな? フェイールさんよぉ」
「なぁに、言うことを聞いてついて来てくれれば、反省房で一週間ほど反省してくれればあとは何もしないさ。それとも、この数の野郎を相手に対抗するとは思えないがなぁ」

 あちこちの建物の影から、ゾロゾロと人相の悪い人たちが出て来ました。
 しかも、そのうちの数人の方は以前、ドートン川の橋の上で揉めていた人たちです。

「あ、あなたたちはリューガ組の従業員ではありませんか。私たちに何をしようと言うのですか?」

 堂々と問いかけますと、男達は顔を見合わせてからケッケッケッと悪い下卑た声で笑っています。

「やれやれ。俺たちがリューガ組のものだとバレたのなら、黙って帰すわけにはいかないなぁ」
「どの子も別嬪さんだ。高値で買い取ってくれる変態貴族はごまんといるからなぁ……おい」

 男達の中心的な人物が、周りの手下らしき奴らに指示を出します。
 そしてゆっくりと近寄って来ますが。

「はぁ。やっぱりこうなりますよね。どうしますか?」
「なんならあーしに任せてくれても構わないし?」
「いえ、もう準備はできていますから」

──ポフッ
 アイテムボックスから取り出してあったエセリアル馬車を起動します。
 そして急いで御者台に飛び乗りますと、私たちの周りの男達が突然、慌て始めました。

「お、おい、そこの女たち、フェイールはどこに消えた!! 隠し事をするとタダじゃ済まされないぞ」
「あ、あれ? ひょっとしてそう言うことだし?」
「そのようで。では、私どもは失礼します」

 ノワールさんが後ろを向いて扉を開くと、柚月さんの手を掴んで馬車の中に引き込みます。

「エセリアル・フルモード!!」

──ブゥン
 これで認識阻害の最上位の効果は発揮されました。
 慌てて駆け寄って来た男達の体も、馬車を通り抜けて反対側へと走って抜けていきます。

「では、走り出しますのでご安全に!! 行きますよ、エセリアル」

──ブルルルッ
 ゆっくりと場所が走り出しましたけど、当然ながら私たちのことは誰にも見えていません。
 そのまま街の中を街道沿いに通り抜け、真っ直ぐに郊外へと加速します。

「クリスティナさま、御者の経験はおありですか?」
「手綱を掴んで念じれば良いそうですよ。私のエセリアルホースさんは、賢いのですから。私たちは……ええっと、ツバクロ大森林でしたっけ?」
「チクペンです。チクペン大森林ですよ?」
「そう、そこに向かいたいのです。道はわかりますか?」

──ブルルルッ
 頭を上下してくれましたので、道順はお任せします。
 では、最高速で行ってください!!

──ブヒヒヒィィィィィン
 私の言葉を理解してくれたらしく、エセリアル馬車は徐々に加速を開始。
 あっという間に街道から飛び出して草原地帯、そして森の中へと突入を始めました。

『ひょひょえええええええ!! 木が飛んでくるし、鳥が狐が変な狸やら狐まで一緒に飛んでくるし!!』
『ご安心を。この程度はクリスティナさまとの付き合いでは日常茶飯事ですので。むしろ、可能な限り平地を走っていますので、やさしいかと思います』
『初乗りだから、そんなの知らないし!! クリスっち、安全運転で走るし』

 はい、大丈夫です。

「柚月さんご安心を。エセリアルモードですから、障害物にはぶつかりません。また、透過不可能な障害物は避けて走ってくれますから」
『い、い、意味が分からないしぃぃぃぃぃ』

 絶叫が聞こえます。
 そういえば、以前シャトレーゼ伯爵様を乗せた時も、このように叫んでいましたよね。
 まあ、何にもぶつからないので安全ですから、大丈夫です。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


──チクペン大森林中央付近
 鬱蒼と茂った森の奥。
 クネクネと曲がることなく一直線にここまでやって来まして、ここでエセリアル馬車さんは止まりました。

──ガチャッ
 そして扉が開き、柚月さんが目をぐるぐると回したかのように出て来て、草むらに転がりました。

「柚月さん、大丈夫ですか!!」
「も、もう何も出ないし……クリスっち、しばらく恨む!!」
「えええ、私何かしましたか!!」

 よく見ますと場所に乗る時とは服装が違います。
 中にはお風呂もありますから、そこでゆっくりとしていたのかもしれませんね。だって、シャンプーと石鹸の良い香りがしていますから。

「それでクリスティナさま、ここが目的地なのでしょうか?」
「ここで止まりましたよ。つまり、ここから先が目的地なのでは?」

 慎重に足を進めまして。

──ゴッッ
 頭をぶつけましたが。
 目に見えない壁か何かが、ここにあります。
 恐らくはエセリアル馬車さんも、これをすり抜けることができないので止まったのでしょう。

「……なるほと、エルフの隠蔽術式と結界を組み合わせた壁のようですわね。動植物は通り抜け可能、だけど人間や亜人はこの結界に触れると、どこか別の場所に転移させるタイプですわね」
「あ、そういうタイプの……あれ? 私はぶつかりましたけど?」
「クリスティナさまはハーフエルフですから。結界には引っかかりましたけれど、強制転送はされないようです。それよりも、ここからはどうしますか?」
「う~ん。そうですね」

 中にエルフ達の集落があるのは間違いがなく。
 でも、かなり奥かもしれませんから、何かの方法で合図を送るなり呼び出すなりしないとなりません。

「この先にエルフの里があるのでしたら、呼び出し方はあるのですけれど」

 近くの木々に手を当てて、魔力を循環させます。
 その際に、私はお母さんの生まれ育った里で教わった、エルフの合図を試してみます。
 エルダーサインと呼ばれている、エルフ族の里ごとに定められた魔力紋章。それを木々を伝って森の奥へと送り出します。
 エルフならば、このサインに気がついてここまでやってくるかと思いますけれど。

──シュシュシュシュンッ
 奥の木の上から何かが飛んでくる音、そして素早く私の前に飛び出したノワールさんと柚月さんが、飛来するものに向かって手を翳しました。

──ガキガキッ
 高速で飛んできたのは三本の矢。
 そのうちの二本はノワールさんが手で握り締め、残りの二本は柚月さんが目の前に張り巡らせた魔法の盾で弾き飛ばしています。
 こ、これは凄い。

「そこの木の上の存在。クリスティナさまに攻撃をするとは命がいらないということでよろしいのですか?」
「いくら脅しで軌道を外しているとはいえ、あーし達に手を出すってことは覚悟ができているし?」

 森奥へと叫ぶ二人。
 すると、奥の方、木々の上を伝って三人のエルフが姿を現しました。
 ですが、彼らもまた警戒しているのか、弓を手放す様子もなくこちらを睨んでいます。
 これは最悪な状況かもしれません。
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