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第3章・神と精霊と、契約者と

第136話・ペルソナの帰還

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 のんびりとした露店。

 今日はハンドクリームとか飴が結構売れました。
 依頼関係の販売を停止しているせいか、女性のお客様や貴族の方はあまり多くありませんが、代わりに街の人たちや船でサライまでやって来た近隣諸国及び海洋諸島国家の人々が多くいらっしゃっています。
 あと数刻で夕方六つ、久しぶりの夕方配達便が到着しますので、ちょっとわくわくしています。

「クラウンさん、また配達人に戻って来ますかね」
「う~ん。話を聞いている限りだと、すぐにって言うのは無理だと思うし。逆に、朝の配達担当のアルルカンっていう人がくる可能性の方が高いし」
「それはまあ、まあ……うん」
「なんじゃ、お嬢はあの男が苦手か?」

 苦手……まあ、そうかもしれません。
 仕事については特段、問題があるかとは思いませんが。
 その、態度というか口調と言いますか。
 仕事だから最低限のことしか話をしない、それは別に構わないのですよ。
 でも、それだって配達する方が笑顔で配達してくれる方がいいですよね。
 気のせいかも知れませんが、嫌々ながら配達をしている感じがするのですよ。

 『なんでこの俺様が、こんなチンケな露店の配達担当なんだ』

 そんな感じ、しませんか?

「店長、クッキーの箱を三つお願いします」
「はい、少々お待ちを」

 サライ伯爵邸に勤めているメイドさんが、クッキーアソートの缶を買っていきます。
 あの方、定期的にやって来てはクッキーアソートを三缶ほど買ってくれます。
 お客様にお出しするとかで、来客の方にも評判が良いそうで。
 何度も入手先を尋ねられたそうですが、秘密にしてくれまして。
 いえ、そこはフェイール商店で購入したと伝えてくれて構わないのですよ?
 なんですか、その優越感のようなものは。

 まあ、そんな話をしていますと、初めて見るタイプの馬車が少し先に停まりました。
 貴族の馬車ならば扉には貴族かの家紋と国章の二つが記されているはず。
 それが貴族院の決まりであり、西方諸国連合での統一貴族法でも決定されています。
 目の前の馬車には見たことのない家紋とカマンベール王国を示す国章が記されていますが、あのキザお兄さんイオ・ジュピトリア家の紋章ではありません。
 すると場所から細身禿頭で口髭を蓄えた壮年の男性が出て来ます。
 その横には、深々とフード付きローブを着たニヤリ笑いの女性が同行しています。

「柚月殿、少しだけ警戒を」
「ん、あーしもそう思ったし」
「え、クリムゾンさん、柚月さん、何かあったのですか?」
「あの女性、恐らくはカマンベール王国の二等宮廷魔導師じゃな。胸元の紋章でわかったぞ」
「あーしもここなら王宮の宮廷魔導師に聞いたことあるし。死霊使いネクロマンサーっていう、魔族側の魔法の使い手だし」

 魔族……。
 でも、魔族ならこの国には結界が施されているので、入れませんよね?
 そう考えた私の心を察したのか、柚月さんが補足を加えてくれました。

死霊使いネクロマンサーのチャラン・ポラン。魔王国に単身向かい魔族の魔導師に師事した、人間側から見たら忌むべき存在……」

 その柚月さんの声が届いたのか、チャラン・ポランさんがムッとした顔をしています。

「ハーバリオスの勇者さん。私の名前はミスティア・マーキュリー。あなたには特別に、ミスティア斗呼ぶことを許してあげるわよ」
「それは自称で、あなたの名前はチャラン・ポランだし」
「……ま、まあいいわ。さて、今日、この露店に来た理由は簡単よ……」

──ゴクッ
 勿体ぶって話を始めるチャランさんと、腕を組んで品定めをしている男性。
 これは、また一波乱起こりそうですよ。

「こちらはカマンベール王国のアクシア商会代表、アスラン・ダイワ・カーン。このサライでの商取引を終えてカマンベール王国へと帰る前に、この店に売っている面白いお土産を買っていこうとおもったのよ!!」
「ありがとうございます。それで、どのような商品をお求めでしょうか?」

 チャランさんのお相手は柚月さんがしてくれるそうなので、私はアスランさんの接客を始めます。

「なに、ここが異世界の商品を取り扱っていると聞いてな。そうだな、妻に買って帰りたい何かを探している。四十代の女性が喜びそうなものはあるかな?」
「そうですね……例えばこちらは?」

──シュッ
 アイテムボックスの中から、いくつかの装飾品などを取り出します。
 まず最初にお見せしたのはオーバルスタンドミラー。
 卓上鏡なのですが、実はこれ、裏側にも魔法の鏡がついていて、なんと二倍の大きさに映し出すことができるのです。
 素材その他一切不明、私たちの世界にある銀盤研磨鏡などとは比較にならない反射力です。

「それを貰おう。他には何か?」
「か、懐中時計などは? こちらは女性仕様のものでして、銀の鎖がついていますが?」
「それも貰おう。あとは?」
「そうですね……奥方は、どのような趣味をお持ちですか?」

 そうです。
 奥方の趣味のものをお土産にすれば、それはたいそう喜ばれるのではないでしょうか。

「近隣の奥方たちとお茶会を定期的に取り行っている」
「お茶会でしたか!! それならこちらはいかがでしょうか?」

 取り出しましたる二つの箱。
 一つはマルコフレールとか言うメーカーさんの商品で、中に二個の缶入り茶葉が入っています。
 そしてもう一つは、ハーブティーではありませんが、ちょっと趣向を凝らした逸品。

「こちらは一つの箱に二つの缶入りハーブティーが収められています。そしてもう一つは、ちょっと不思議なお茶です。こちらは試飲出来ますので、試していきませんか?」
「ほう? 見せてもらおうかな?」
「かしこまりました」

 すぐさま見本の箱から、細長い紙の筒に入った粉末茶葉を取り出します。
 そしてマグカップにそれを注ぐと、すぐに柚月さんが魔法でお湯を用意してくれました。
 あとはお湯を注いでスプーンで混ぜるだけ。

「こちらは銀のスプーンです。毒が入っていないことをご確認ください」
「……うむ、確かに。それで、これはなんなのだ?」
「あーしの世界では定番の、スティックコーヒーだし。カフェオレが二種類と紅茶オレ、ココア・オレ、抹茶オレの六種類が一つになったギフトセットだし。それはスタンダードなカフェオレ、あーしのおすすめはココア・オレだし」

 柚月さんの説明を聞いて、アスランさんは少しだけ戸惑いつつも、ゆっくりと飲み始めます。
 そして目を閉じ、何かを確認するかのように頷いていますが。

「どちらも貰おう」
「ありがとうございます。これで四品ですので、あと一品になりますが」
「そうだな……例えば、彫像のようなものは取り扱っていないか?」
「彫像ですか?」

 さて、急いでアイテムボックスの羊皮紙を取り出します。
 あまりにも色々なものを買いすぎたので、在庫が把握しきれていないものがあったはずです。
 わかっているものは区分されていて、わからないものは『それ以外』というタグをつけた場所に放置していました。
 これは、年末だから一度しっかりと確認する必要があります。
 なんといっても異世界からの取り寄せ品、魔法によるなんらかの効果が付与されたいるものですから。

「あ~、ありましたが、これはかなり高額ですが」

 取り出しましたのは、【暗黒卿騎士鎧】なる摩訶不思議な商品。
 5月5日の日が子供の成長を祝う日だとかで、その日に家の居間に飾り来客を迎えて宴会をするそうで。
 こちらは金貨3枚という、私の仕入れの中でも最高のロス商品でしたが。

「……え? ゴーレム? なんでこんな魔導具が売っているのよ?」
「いえいえ、そんな強力な力はありませんよ。この人形を贈られた子供の言葉にしか反応しませんし、子供ぐらいの力しか出ないって説明されていましたから」

 ええ、鑑定眼ではそのように記されています。

「カーン卿。私としてはこの人形を全て買い取りたいのですが?」
「よかろう。それで、これは何体あるのかな?」
「これ一つだけです。それに、期間限定なので今は在庫がありません」
「ふむ、それは残念だ……では、今出してくれた5品を買おう」
「ありがとうございます」

 さすがは隣国の貴族、実に太っ腹!!
 全て買い込んだのち、チャラン・ポランさんが肩から下げていたバッグに全て収納されましたよ。
 あの収納の魔導具、いいですよね。

「さて、それでは急ぐので失礼する」

 それだけを告げて、カーン卿は帰っていきました。
 うんうん、いい仕事をしていたと思ったら、ちょうど夕方六つの鐘がなります。
 マキさんとケイトさんには先に宿の食堂でご飯を食べてもらい、私は夕方納品の馬車を待ちます。

──ガラガラガラガラ
 すると、ゆっくりと実体化して姿を現したシャーリィの配達馬車がやって来ました。
 し、しかも!!

「白い馬車! 御者台に座っている人って、まさか!」

 はい、私が間違えるはずがありません。
 久しぶりに、ペルソナさんが私の前に帰って来てくれました。
 ああ、本当に、今日こそしっかりと謝らなくてはありません。 
 それにしても、無事に戻って来てくれて嬉しいです。
 
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