型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

文字の大きさ
上 下
78 / 286
第3章・神と精霊と、契約者と

第130話・ガンバナニーワは、距離が分かりません

しおりを挟む
 商業ギルドでの話し合いの後、露店の引き継ぎを柚月さんとマキさん、ケイトさんにおまかせしました。
 可能ならば午前中にガンバナニーワ王国に向かい、綿羊の綿毛を仕入れたかったのですけれど、ちょっと打ち合わせに時間が掛かってしまいました。

 話し合いの中では、裁縫ギルドのトゥーレさんの顔が途中からヒクヒクを引き攣っていました輩は急いで仕入れてこないとさらに機嫌が悪くなりそうです。
 恐らくですけれど、頼みの綱が私だけになったのに、未だ自分の露店の準備で時間がかかったりしていて気が気ではないのでしょうね。

「お嬢や、我々は監視されているようじゃが……」
「恐らくは、裁縫ギルドの方でしょう。私が早く仕入れに行かないか、それを見ているのかもしれませんよ。とはいえ、街の中では旅行券を使うのは」
「認識阻害の効果があるから、魔力を込めた時点で周囲の人々には察知されない筈じゃろ? 使った瞬間に姿は消えるが、見ていた人々はどこかに行ってしまったと考える筈じゃないのか?」

 そうですよ。
 それならば、深く考える必要はないです。
 そうと決まったら、早速転移しましょう。
 アイテムボックスから旅行券を取り出して魔力を込めると、いざ、転移開始!!

──シュパパピパパッ
 気がつくと、橋の上。

 ガンバナニーワ王都『ブラッサマダ』、その中心部に流れるドートン川。
 巨大な川を繋ぐ橋の真ん中に、私は立っていました。

「おうおうおう!! まだお前らはこの辺で商売しとるのかい!! とっとと畳んでここ街から出ていけヤァ!」
「ナンジャコラァ!! 貴様らこそあれやろ、カンクーで手広くやりたいから、うちらにいちゃもんつけとるだけじゃろが!!」
「なんじゃと?」
「なんやて!!」

 あ、喧嘩です。
 橋の真ん中で大勢の人が集まっています。 
 着ている服を見た感じ、二つの勢力がぶつかり合っているようですけど、これは巻き込まれないようにしないといけませんね。

「おうおうおう、怪我しないうちにとっとと出ていけヤァ!! マシマ先生、お願いします」
「おう、どこのどいつを捌いたらいいんじゃ!」

 先生と呼ばれて出てきたのは、ま、まさかのジャイアント族。
 蛇柄のレザージャケットにアイパッチと髭、いかにも柄の悪そうな先生が姿を現しましたよ。

「まてや、うちにも先生はおるわ。リージャー先生、宜しく頼みます」
「おう、ここは任せておけや。久しぶりに腕がなるわ」

 今度はエルダーノームですよ!!
 私よりも小柄な方ですが相手はエルダー、つまり古代精霊種です。
 しかも魔導師のようで、白いローブに赤の飾り帯ストラを下げています。
 え、ストラは司祭が身につけるもの、つまりは患者様!!

「ええか、あのカンクーの街はな、我々ナンバ商会が取り仕切っているんや。リューガ商会にはな、小指の先ほどの儲けも分ける気はないわ」
「なんじゃと……まあ、所詮は古いアコギな商売をしているナンバ屋じゃからなぁ。新しいところで商売しないと、もう潰れそうで辛いんじゃろうななぁ!」
「ふっふっふっ……しばらくいい運動していなかったからなぁ……ここは本気でやらせてもらいますわ」

 あ、エルダーノームさんがローブをゆっくりと脱ぎ、軽く一振りしてからまた着直しましたよ、何かの儀式でしょうか……って、いきなり殴りかかりましたが……あれ? 頭を上から抑えられて、拳が届いていませんよ!!

「お嬢、早いところ問屋へ向かわねば。こんなところにいると、巻き添えをくらいますぞ」
「あ、そ、そうですね……商業ギルドはどのあたりでしょうか」

 何分にも、ガンバナニーワの王都中央なんて来たことがありません。
 そもそも商業ギルドがどこにあるのかさえも、私は知らないのですから。
 そう考えていても埒があきません。
 では開けましょうということで、通りすがりの商人風の方にお尋ねします。

「あの、申し訳ありません。商業ギルドを探しているのですけれど」
「商業ギルド? どっちの?」
「え、どっちって、二つもあるとか?」
「ええ。この橋のあっちとこっちにありますよ。あっちが旧王政時代の商業ギルドでナンバ屋さん。あっちが新王政時代の商業ギルドでサイバシ屋さんですよ。どっちに行きたいのですか?」
「うわ、あ、あのですね、綿羊の綿毛を仕入れたかったのですけど」

 目的を説明したら、多分適切な方を教えてくれますよね。

「それならナンバ屋さんかな。この橋をグワって進んでドーンってでかい建物がある場所にぶつかるので。そこを右に曲がって道なりにズズズイッていってから、冒険者ギルドが右手に見える角をもいっちょ右にチョイって曲がって、あとはビャ~って進んだ先にありますので」
「……え、魔法語? いえ違いますよね?」
「ん、もいっちょ説明する?」
「はい、お願いします」

 聞き直して確認すること3回。
 お礼を告げてから目的地に向かい、途中で迷ってまた書き直すこと二回。
 そうしてようやく辿り着きましたよ、ガンバナニーワ王国旧王政商業ギルド・ナンバ屋さん。

 え、ナンバ屋さんって、さっき橋の上で喧嘩をしていた方々ですか?
 何か嫌な予感がしてきましたけれど。
 意を決して堂々と入って行きます。
 すると中は普通の商業ギルド、カウンターがあり壁には様々な商品や素材の卸値や相場が張り付けられています。
 そのまま受付に向かい、順番待ちの木の番号札を受け取ってから丸テーブルに着いて一息。
 歩き疲れたし喉も渇いたので、アイテムボックスから飲み物を二つ取り出してクリムゾンさんにも手渡して、グイッと一飲み。

「ぷは~。やっぱり炭酸はすっきりします」
「お嬢や、これはなんという飲み物じゃ?」
「開港祭の時の縁日で売っていたラムネです。まだ在庫が少しあったのを思い出したのですよ」

 他にもクリスマス用のメリーシャンっていう炭酸飲料もまだ箱単位で残ってます。決して自分で飲むためではなく、お正月にも販売できると思って買い込んであったのですよ。

 そういうことで、のんびりと順番待ちをしているのは良いのですが、気のせいか数人の商人さんがこちらをチラッチラッと見ているではないですか。

「12番の木札をお持ちの方、6番カウンターへどうぞ」
「はい、はーい!!」

 呼び出されたので視線を交わすようにいそいそと移動。
 そしてカウンターに着いたらギルドカードを提示します。

「ハーバリオスから来ましたフェイール商店の店主、クリスティナ・フェイールです」
「え……ハーバリオス? あの魔王国の向こうの? 死の砂漠を越えてきたのですか?」

──ザワッ……ザワザワッ……
 あ、受付さん声が大きいです。
 まあ、越えてきたというか飛んできたと言いますか。

「まあ、別ルートと言いますか、そんな感じです」
「そ、それは遠路はるばるご苦労様です。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
「綿羊の綿毛を購入したいのですが。商業ギルドからの販売はございますか? なければ卸問屋もしくは取り扱い商会への紹介状をいただきたく思いまして」

 商人として、正式な取引を求めます。
 ここは多少時間がかかるかも知れませんが、一月や二月もかかるものではありませんし。
 紹介状は即日発行してくれますから。

「当ギルドでの取り扱いはございます。今の在庫はこれぐらいで、卸し単価はこのように」

 羊皮紙に記された数値を確認。
 う~ん、やはり必要量の二割程度しかありませんか。
 これを全て購入すると、後々が面倒になりそうですけど。

「では、この半量を買い取ります。それとですね、綿羊の綿毛を取り扱っている商会か卸問屋への紹介状を頂けると助かるのですが」
「はい。それでは金額はこのように。荷物はすぐにご用意しますけど、裏に馬車を回して貰えますか?」
「アイテムボックス持ちです」
「では、支払い後にご案内します。受け取りの間に紹介状はご用意しておきますので」

 実に淡々と話が進みます。
 そのまま支払いを終えて裏に回り、綿毛を受け取ってアイテムボックスへ。
 倉庫の管理人さんが、私が綿毛をアイテムボックスに収めているのを見て、『ウチで働かないか!!』と誘ってきましたが丁寧にお断りしまして。
 それで再びカウンターに戻り、紹介状を受け取ってきました。

「それでですね、問屋さんと商会はどのあたりにありますか?」
「布問屋はギルドを出て右手に曲がりまして。そのままブワーッと行ってから十字路を左にグワーッと曲がって頂けますと、すぐにラボラー子爵邸が見えますのでその手前をも一度右にガッて曲がって進んでください。その先にありますので」
「……あの、商会さんは?」
「その布問屋さんへ向かう道をですね、たまらないでまっすぐにガーッて進んでいきますと、すぐ先に十字路があります。そこの真ん中にアゲ=イナリさまの像が立っていますので、それを見て右手にシュッと曲がった先にあります」

 ………魔法語?
 距離の単位が不明瞭。
 ま、まあ、まずは布問屋さんへレッツゴーです。
 
しおりを挟む
感想 656

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームはエンディングを迎えました。

章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。 これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。 だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。 一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

ある国立学院内の生徒指導室にて

よもぎ
ファンタジー
とある王国にある国立学院、その指導室に呼び出しを受けた生徒が数人。男女それぞれの指導担当が「指導」するお話。 生徒指導の担当目線で話が進みます。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。