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第3章・神と精霊と、契約者と
第129話・久しぶりの東方諸国へ……あ、まだですか
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朝一番で、アルルカンさんが配達に来てくれました。
まあ、いつも通りの事務的ぶっきらぼうさんなので、こちらも事務的に対処。
私としてはペルソナさんたちのように普通に話をしてみたいと思ったのですが、こちらから話を振っても溜息をついたり、『早く納品させろ』とか『支払いだ、早くしろ』とか。
柚月さんに向かっては舌打ちした挙句『邪魔だな』と暴言まで吐いたのですよ?
信じられますか?
「まあまあ、もうあいつは帰ったし、あーしも気にしていない……っていうか、ちょっと別の方向で気になったことがあったし」
「へ? そうなのですか?」
「ま、まあ、こればっかりは予測の域を脱していないから何とも言えないし。それよりも旅行券は手に入ったし?」
「はい。ガンバナニーワ王国への往復チケットを二組。クリムゾンさんはエセリアルナイトなので特別同行者扱いだそうですから。あとは商業ギルドに話をして、裁縫ギルドとの打ち合わせが終わったかどうか、確認しないとなりませんね」
衣類と布団の購入可能量、これを確認しないとなりません。
それと綿羊の綿毛、これの買取についても。
品不足で困っているそうですし、なによりも綿羊の綿毛は上質。貴族用の着衣や布団には最適だと柚月さんも教えてくれましたから。
………
……
…
──サライ・商業ギルド
そんなこんなで、露店準備の前にギルドにやってきました。
真っ直ぐにカウンターに向かい、ギルドマスターを呼んでもらいます。
すると、すぐに奥にある応接室に案内されましたよ。
「おはようございます、フェイールさん」
「はい、おはようございます。昨日お話しした、衣類と布団の件で確認に伺いました……」
総話をしますと、ソファーには一人の女性が座っていましたよ。
先客だったようです。
「ああ、その件でちょうど、裁縫ギルドのギルドマスターにも来てもらっていたところだよ。こちらがサライ裁縫ギルドの統括のトゥーレさんだ」
「初めまして、フェイールさん。あなたのお店の商品について、色々と噂は聞いていますわ」
立ち上がって会釈してますので、こちらも丁寧にご挨拶を。
「ありがとうございます。フェイール商店の店主を務めています、クリスティナ・フェイールです。それで、衣類と布団はどれぐらい必要でしょうか?」
「そうねぇ……それぞれ500組。依頼については老若男女、どの世代にも喜ばれるものをご用意できるかしら? まあ、それが無理なら、こちらの綿と羊毛の在庫がありますから、それを職人に購入して貰いますから、無理をなさらなくても大丈夫ですよ?」
ニッコリと笑いながら説明してくれました。
なんと、サライの裁縫ギルドには素材の在庫があったのですか。
「そうでしたか、それならこの年末は乗り切れそうですね。こちらでも素材の仕入れの目処がつきましたけれど、それは必要ありませんね?」
「ちょっと待ってくれ、それはどこから仕入れてくるのだ? このハーバリオス近郊の国に向かうとしても、片道の馬車移動だけでも一月は掛かるぞ?」
「そのあたりは、商人の秘密ですので。こちらとしてはまだ確定情報ではありませんけれど、いまから素材の仕入れに向かえば夕方には報告ができるかと思いますが?」
そう返答しますと、商業ギルドマスターもトゥーレさんも驚愕したような顔をしていますが。
まあ、仕入れてくるとは予想していなかったのでしょう。
「ちょ、ちょっと待って、貴方は何を仕入れてくるつもりなの?」
「綿羊の綿毛です。まあ、無かったら羊毛が綿を仕入れてくる予定ですけれど? そちらの買取は可能ですよね?」
「ほう、綿羊の毛が手に入るのか。あれは今年の夏、王都にやってきた商人が少数だけもたらしたもので、まだかなり貴重なものなのだが。それが手に入ると?」
商業ギルドのマスターも驚きの顔をしています。
そして気のせいでしょうか、トゥーレさんは顔色が青くなっています。
「先ほどのご説明通り、確定ではありません。ですが、衣料品関係でその量でしたら、明日には納品可能です」
「あ、明日ですって、貴方何を言っているのかわかっているの? 貴族が身につけるものなのよ? それを、そんな量を一日だなんて……どうやって運んでくるのよ? それもどこから?」
あ、トゥーレさんが私の目の前までやってきて、根掘り葉掘り聞き出そうとしています。ですが、これは商人の秘密、迂闊に説明するわけにはいきません。
「それは企業秘密です。500組ずつなら、私のアイテムボックスに全て収まりますので、ご安心ください」
「え、の、な、そんなアイテムボックスがあるはず……あ、勇者が手伝ってくれるのね? そうでしょう?」
まあ、私の留守は柚月さんにお願いしますし、商品の一部も彼女のアイテムボックスに預けますから。
「はい。大賢者・柚月さんのアイテムボックスに商品を買ってもらいますから。流石は勇者仕様、無限収納で時間停止までありますから」
「は、は、はぁ……」
「ということなので、裁縫ギルドからの綿と羊毛のギルド買取の件は、フェイール商店が素材を仕入れて戻ってくるまで待たせて貰うよ。どこにも在庫がないというのに、このサライの裁縫ギルドにはこれだけの量があるのはちょっと考えさせて貰うので」
キリッとした顔でトゥーレさんに説明するギルドマスター。
ほほう、トゥーレさんは独自ルートを使って商品をかき集め、商業ギルドに卸そうとしていましたか。
「あの、裁縫ギルドなら職人さんはいますよね? そちらの方に衣類を作ってもらわないのですか?」
「……もう頼んでいるわよ。それでもね、素材が余っているから買取を頼みにきたのよ……まあ、その辺りはうちのギルドの事なので、貴方に心配をおかけするわけにはいきませんので」
「これは失礼を。では、私はそろそろ仕入れに向かいます。衣類と布団500組は、戻って来次第、必要なら仕入れて来ますので」
「うむ、よろしくお願いします」
そのまま応接室を後にして、露店で柚月さんに合流。
普段使いの商品をお預けしてから、それではいざ、ガンバナニーワ王国へ出発です。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──サライ・裁縫ギルド
商業ギルドから戻って来たトゥーレは、頭を抱えていた。
朝早くに裁縫ギルド裏手の工房におもむき、密かに製作していた衣類や毛布などの製作状況を確認するところまでは良かった。
素材はふんだんにあるし、職人たちに年末用の追加手当などを支払ったとしても、十分に利益を出せる計算は出ていた。
もっとも、品薄であることをいいことに値段の付け方はかなり高額。
貴族もその立場上……買わないという選択肢はない。
そこを見越しての強気な値段設定であったが、それはフェイール商店が衣類や布団などを仕入れてくることなどを予測していなかった値段設定。
ここに来て、その強気な値段設定が裏目に出てしまう。
裁縫ギルドの商品よりも格安で、しかも異世界の勇者御用達の商品である以上、貴族たちはサライ裁縫ギルドの商品などには目もくれず、こぞってフェイール商店の商品を購入するに決まっている。
しかも、素材の仕入れが間に合った場合は、それを裁縫ギルドに納品してくるという話になってしまうなど、トゥーレの作戦が全て裏目に出てしまっている。
この素材不足の時期に、フェイール商店が懇意で遠路はるばる素材を仕入れてくるというのなら、それを断ることなど不可能。
それでなくとも綿や羊毛は過剰在庫状態、来年春の綿花の一番摘みの時期までには全て売り尽くさないと不良在庫になってしまうのに、さらにフェイール商店からの納品となると赤字は確定……。
すでに八方塞がりの状態になっていた。
「あ~っ、どうすればいいのよ! いくら追加で職人を雇っても、衣服なんて作れる時間は限りがあるじゃない。なんとしても今日中に、全ての素材を商品化しないと赤字確定なのよ!!」
頭を抱えるトゥーレ。
いっそ、堂々と綿や羊毛は過剰在庫状態です、それらを使った商品を販売します。そこそこに割高ですが裁縫ギルドが衣類などをご用意しますと言えるなら、どれだけ気が楽だったであろうか。
「……何か打開策はないの? ねぇ、キュープラ、貴方も何か考えなさいよ」
「はぁ。私はサブギルドマスターではありますが、この計画については最初は反対していたではありませんか?」
「分かっているわよ!!」
サブマスターのキュープラ・カーンがため息混じりにそう呟くと、トゥーレは爪を噛みながら室内を右往左往し始める。
そして頭の中に浮かび上がった言葉。
もしも、フェイール商店が事故にあって仕入れができなくなったら。
殺すなんてことはしない、でも事故なら仕方ないわよね。
怪我する程度は仕方がないじゃない。
そう頭の中をよぎるものの、それを実行するべきかどうか、さらに頭を悩ませることになってしまった。
まあ、いつも通りの事務的ぶっきらぼうさんなので、こちらも事務的に対処。
私としてはペルソナさんたちのように普通に話をしてみたいと思ったのですが、こちらから話を振っても溜息をついたり、『早く納品させろ』とか『支払いだ、早くしろ』とか。
柚月さんに向かっては舌打ちした挙句『邪魔だな』と暴言まで吐いたのですよ?
信じられますか?
「まあまあ、もうあいつは帰ったし、あーしも気にしていない……っていうか、ちょっと別の方向で気になったことがあったし」
「へ? そうなのですか?」
「ま、まあ、こればっかりは予測の域を脱していないから何とも言えないし。それよりも旅行券は手に入ったし?」
「はい。ガンバナニーワ王国への往復チケットを二組。クリムゾンさんはエセリアルナイトなので特別同行者扱いだそうですから。あとは商業ギルドに話をして、裁縫ギルドとの打ち合わせが終わったかどうか、確認しないとなりませんね」
衣類と布団の購入可能量、これを確認しないとなりません。
それと綿羊の綿毛、これの買取についても。
品不足で困っているそうですし、なによりも綿羊の綿毛は上質。貴族用の着衣や布団には最適だと柚月さんも教えてくれましたから。
………
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…
──サライ・商業ギルド
そんなこんなで、露店準備の前にギルドにやってきました。
真っ直ぐにカウンターに向かい、ギルドマスターを呼んでもらいます。
すると、すぐに奥にある応接室に案内されましたよ。
「おはようございます、フェイールさん」
「はい、おはようございます。昨日お話しした、衣類と布団の件で確認に伺いました……」
総話をしますと、ソファーには一人の女性が座っていましたよ。
先客だったようです。
「ああ、その件でちょうど、裁縫ギルドのギルドマスターにも来てもらっていたところだよ。こちらがサライ裁縫ギルドの統括のトゥーレさんだ」
「初めまして、フェイールさん。あなたのお店の商品について、色々と噂は聞いていますわ」
立ち上がって会釈してますので、こちらも丁寧にご挨拶を。
「ありがとうございます。フェイール商店の店主を務めています、クリスティナ・フェイールです。それで、衣類と布団はどれぐらい必要でしょうか?」
「そうねぇ……それぞれ500組。依頼については老若男女、どの世代にも喜ばれるものをご用意できるかしら? まあ、それが無理なら、こちらの綿と羊毛の在庫がありますから、それを職人に購入して貰いますから、無理をなさらなくても大丈夫ですよ?」
ニッコリと笑いながら説明してくれました。
なんと、サライの裁縫ギルドには素材の在庫があったのですか。
「そうでしたか、それならこの年末は乗り切れそうですね。こちらでも素材の仕入れの目処がつきましたけれど、それは必要ありませんね?」
「ちょっと待ってくれ、それはどこから仕入れてくるのだ? このハーバリオス近郊の国に向かうとしても、片道の馬車移動だけでも一月は掛かるぞ?」
「そのあたりは、商人の秘密ですので。こちらとしてはまだ確定情報ではありませんけれど、いまから素材の仕入れに向かえば夕方には報告ができるかと思いますが?」
そう返答しますと、商業ギルドマスターもトゥーレさんも驚愕したような顔をしていますが。
まあ、仕入れてくるとは予想していなかったのでしょう。
「ちょ、ちょっと待って、貴方は何を仕入れてくるつもりなの?」
「綿羊の綿毛です。まあ、無かったら羊毛が綿を仕入れてくる予定ですけれど? そちらの買取は可能ですよね?」
「ほう、綿羊の毛が手に入るのか。あれは今年の夏、王都にやってきた商人が少数だけもたらしたもので、まだかなり貴重なものなのだが。それが手に入ると?」
商業ギルドのマスターも驚きの顔をしています。
そして気のせいでしょうか、トゥーレさんは顔色が青くなっています。
「先ほどのご説明通り、確定ではありません。ですが、衣料品関係でその量でしたら、明日には納品可能です」
「あ、明日ですって、貴方何を言っているのかわかっているの? 貴族が身につけるものなのよ? それを、そんな量を一日だなんて……どうやって運んでくるのよ? それもどこから?」
あ、トゥーレさんが私の目の前までやってきて、根掘り葉掘り聞き出そうとしています。ですが、これは商人の秘密、迂闊に説明するわけにはいきません。
「それは企業秘密です。500組ずつなら、私のアイテムボックスに全て収まりますので、ご安心ください」
「え、の、な、そんなアイテムボックスがあるはず……あ、勇者が手伝ってくれるのね? そうでしょう?」
まあ、私の留守は柚月さんにお願いしますし、商品の一部も彼女のアイテムボックスに預けますから。
「はい。大賢者・柚月さんのアイテムボックスに商品を買ってもらいますから。流石は勇者仕様、無限収納で時間停止までありますから」
「は、は、はぁ……」
「ということなので、裁縫ギルドからの綿と羊毛のギルド買取の件は、フェイール商店が素材を仕入れて戻ってくるまで待たせて貰うよ。どこにも在庫がないというのに、このサライの裁縫ギルドにはこれだけの量があるのはちょっと考えさせて貰うので」
キリッとした顔でトゥーレさんに説明するギルドマスター。
ほほう、トゥーレさんは独自ルートを使って商品をかき集め、商業ギルドに卸そうとしていましたか。
「あの、裁縫ギルドなら職人さんはいますよね? そちらの方に衣類を作ってもらわないのですか?」
「……もう頼んでいるわよ。それでもね、素材が余っているから買取を頼みにきたのよ……まあ、その辺りはうちのギルドの事なので、貴方に心配をおかけするわけにはいきませんので」
「これは失礼を。では、私はそろそろ仕入れに向かいます。衣類と布団500組は、戻って来次第、必要なら仕入れて来ますので」
「うむ、よろしくお願いします」
そのまま応接室を後にして、露店で柚月さんに合流。
普段使いの商品をお預けしてから、それではいざ、ガンバナニーワ王国へ出発です。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──サライ・裁縫ギルド
商業ギルドから戻って来たトゥーレは、頭を抱えていた。
朝早くに裁縫ギルド裏手の工房におもむき、密かに製作していた衣類や毛布などの製作状況を確認するところまでは良かった。
素材はふんだんにあるし、職人たちに年末用の追加手当などを支払ったとしても、十分に利益を出せる計算は出ていた。
もっとも、品薄であることをいいことに値段の付け方はかなり高額。
貴族もその立場上……買わないという選択肢はない。
そこを見越しての強気な値段設定であったが、それはフェイール商店が衣類や布団などを仕入れてくることなどを予測していなかった値段設定。
ここに来て、その強気な値段設定が裏目に出てしまう。
裁縫ギルドの商品よりも格安で、しかも異世界の勇者御用達の商品である以上、貴族たちはサライ裁縫ギルドの商品などには目もくれず、こぞってフェイール商店の商品を購入するに決まっている。
しかも、素材の仕入れが間に合った場合は、それを裁縫ギルドに納品してくるという話になってしまうなど、トゥーレの作戦が全て裏目に出てしまっている。
この素材不足の時期に、フェイール商店が懇意で遠路はるばる素材を仕入れてくるというのなら、それを断ることなど不可能。
それでなくとも綿や羊毛は過剰在庫状態、来年春の綿花の一番摘みの時期までには全て売り尽くさないと不良在庫になってしまうのに、さらにフェイール商店からの納品となると赤字は確定……。
すでに八方塞がりの状態になっていた。
「あ~っ、どうすればいいのよ! いくら追加で職人を雇っても、衣服なんて作れる時間は限りがあるじゃない。なんとしても今日中に、全ての素材を商品化しないと赤字確定なのよ!!」
頭を抱えるトゥーレ。
いっそ、堂々と綿や羊毛は過剰在庫状態です、それらを使った商品を販売します。そこそこに割高ですが裁縫ギルドが衣類などをご用意しますと言えるなら、どれだけ気が楽だったであろうか。
「……何か打開策はないの? ねぇ、キュープラ、貴方も何か考えなさいよ」
「はぁ。私はサブギルドマスターではありますが、この計画については最初は反対していたではありませんか?」
「分かっているわよ!!」
サブマスターのキュープラ・カーンがため息混じりにそう呟くと、トゥーレは爪を噛みながら室内を右往左往し始める。
そして頭の中に浮かび上がった言葉。
もしも、フェイール商店が事故にあって仕入れができなくなったら。
殺すなんてことはしない、でも事故なら仕方ないわよね。
怪我する程度は仕方がないじゃない。
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