上 下
70 / 274
第3章・神と精霊と、契約者と

第122話・新担当はオラオラ系? そして元貴族の嗜みですから。

しおりを挟む
 あうあう、昨日は飲みすぎてしまったようです。

 いえ、私は途中からメアリーシャンという名前の、アルコールの入っていないシャンパン風味とやらのジュースも飲んでいたのですよ。
 それはもう飲みやすくて、それでいて酔わないジュースですからグイグイと飲んでいたのですけど、どうやら途中から間違ってクリムゾンさんにお渡ししたチューハイというものを飲んでしまったようで。
 しかも、それすら飲みやすくてついつい、気付かないうちに飲みすぎて。

──ガンガンガ~ン、ガンガンガン
 頭が痛いです。
 なんとなく酔いという悪魔の影が迫ってきそうです。

──ギンギンギーン、ギンギンギン
 これはもう、私の中の反省という正義が怒りの炎をあげそうです。

「はふう。アルコールって毒の一種なので、飲みすぎた場合は錬金術ギルドで販売している『毒消し薬』で酔いが覚めるはずですよね……」

 あとで薬を買ってくることにしましょう。
 本来なら私のような個人商隊トレーダーにとっては、旅をするときの魔法薬は必需品です。
 でも、今まではブランシュさんが用意してくれたので、私自身が購入に向かうことはなかったのですよ。

──カランカラーン
 そして身支度を整えていますと、どうやらシャーリィの配達馬車が到着したようです。ペルソナさんとクラウンさん、ジョーカーさんは再教育とか研修とかいうのでしばらくは担当から外れたそうでしたから、今日からは別の方が届けにきてくれます。

 急いで宿から外に出ますと、紺色のジャケットに身を包んだ黒髪の男性? っていう感じの方が待っています。

「あの、シャーリィの方ですか?」
「ん? ああ、そうだが。君がクリスティナ・フェイールで間違いはないか?」

 そう問われたので、アイテムボックスから【シャーリィの魔導書】を取り出して提示しました。すると、そこに手をかざして何かを読み取ると、少しだけ頷いてます。

「確認した。それじゃあ荷物を渡すが、アイテムボックスにすぐに収納できるか?」
「はい。今、荷下ろしの手伝いにクリムゾンさんが来ますので」
「いや、それは必要ない。関係者以外に手伝ってほしくはなくてね。そいつはエセリアルナイトで君の護衛だろ? シャーリィとは無関係だからな」
「あ、そ、そうですか。では、お願いします」

 なんと言いますか、その。
 ペルソナさんやクラウンさんは笑顔で雑談もしたこともありますし、ジョーカーさんは少しだけしか会ったことはありませんけど、優しいおじさまって感じで親しみやすかったのですけれど。
 この方は、なんというかぶっきらぼうで、無口といいますか、業務以外に興味がないように思えていますが。
 そのまま淡々と、言葉を交わすことなく荷物を受け取っています。
 それでも30分後には全てを受け取りましたので、あとは支払いだけですね。

 なお、馬車の傍で暇そうに腕を組んでいるクリムゾンさんは、万が一のために周辺チェック、不審者が近寄らないか確認しているようで。
 認識阻害の効果がありますから、大丈夫ですよ。

「……これで全部だ。納品リストに差異はないか確認を頼む」
「あ? は、はい」

 アイテムボックスから羊皮紙を取り出し、発注書と照らし合わせます。
 いつもなら、お手伝いのブランシュさんたちがちゃっちゃとチェックしていましたから、私自身がチェックするのは久しぶりで。
 そのまま全てをチェックし、間違いがないことを確認しました。

「はい、間違いはありません、すべて納品されています」
「了解。それじゃあ支払いを頼む」
「では、いつも通りにチャージからお願いします」

 再びシャーリィの魔導書を取り出して、チャージからの支払いを終えて全ては完了しました。すると、配達員の方がアイテムボックスを開き、小さな箱と新しい型録をで渡してくれます。

「この箱の中身は、シャーリィさまから預かってきたものだ。カタログは来年一月分の新年特大号と、あとは新しい定番商品のカタログ、そして『ご自宅便』という、自分で使ったりするための便利な型録だ。それじゃあ、失礼する」
「はい、ありがとうございます……あの、お名前はなんと言いますか?」

 そう問いかけますと、男性は御者台に乗りながら一言だけ。

「アルルカン。それじゃあ、またの取引を待っている」

──ガラガラガラガラ
 馬車が走り出します。
 そしてようやく、その後ろ姿に黒い尻尾があったことに気がつきました。
 
「アルルカンさんは、獣人さんでしたか。それにしても、無口というかなんというか、う~ん。実に事務的な方です」

 腕を組んで思わず唸ってしまいましたが、まさに実務オンリーの方なのだなぁという印象です。
 さて、この私の周りに集まりつつある商人の皆さん、今日はまぁ露店の時間ではありませんから、販売は致しませんよ?
 あと二刻ほどお待ちくださいね。

………
……


 朝一の納品が終わり、ちょっと遅れた朝食を食べていると、のんびりと柚月さんが食堂に姿を現しました。
 
「ち~っす。あーし参上したし。朝定食を一つ、お願いするし」
「おはようございます」
「うむ、おはようじゃ」
「それで、今日の予定は? あーしの力が必要なら、なんでもいうし」

 ふむふむ。
 今日の予定は、昨日のクリスマス商戦のぶり返しですね。
 昨日購入した方が気に入ってくれて、また買いに来ることもあります。
 それも、普段の商品の取り扱いと一緒に行いますし。
 あとは、午前中はマキさんとケイトさんにはこの前の引き続きで、貸し倉庫で福袋を作ってもらう予定でもありますから。

「えーっと。露店と福袋作成、どちらが良いです?」
「んんん? ん~と。どうしようかなぁ~」

 ちょうど朝定食も届いたので、柚月さんは食べながら考えています。
 私としてはどちらでも構いませんし、でも、柚月さんならどちらでもお任せできそうなので。

「露店は商品の出し入れが大変そうだから、あーしは福袋を作ってくるし」
「よろしくお願いします。では、食後に倉庫に行って荷物を下ろしますね。私はそのあとは、クリムゾンさんとのんびりと露店を捌いてきますので」
「任せるし!!」

 ニシシと笑いながらVサインする柚月さん。
 さて、それでは食事を終わらせたら、ちゃっちゃとやってしまいましょう。
 
………
……


 柚月さんに福袋作成の監督をお任せして。
 私はのんびりと露店を……。

「嬢ちゃん!! 昨日ここで買ったチキン、あれを二つくれ!!」
「うちはケーキとかいうやつを頂戴。子供たちが喧嘩しちゃってね」
「なあ、あの長靴のお菓子、まだあるか? 中のおまけが欲しいって頼まれてさぁ」
「はい、少々お待ちください。今、お持ちしますので」

 急いで商品の収められた箱を並べて、流れるように販売します。
 昨日の本番ほどではありませんが、やっぱり気に入った方は買いに来てくれるようですし、今日がクリスマス本番ということで、パーティをする方も多いそうで。
 そんなこんなで販売していますと、ふと、路地のほうからコチラを見ている子供達の視線を感じます。
 
「ん? あの子たちはどこの子じゃ?」
「リバイアス教会の孤児院の子供たちですね。そういえば、リバイアスさんのことですから、てっきり無理難題をふっかけてきて、全て10個ずつ納品しとか神託を授けてきそうですけど」
「それはないなぁ……そもそも、リバイアス殿は留守じゃろ? 今は眷属の神が代行で神の執務を行なっていると思うが?」
「そうなのですか?」

 それは初耳です。
 
「うむ。それで、どうするつもりじゃ?」
「どうするもこうするも、やることは一つじゃないですか」

 私ができること。
 商人である以上、商品を無償奉仕するなどあってはいけません。
 けれど、私としても子供たちには少しでも幸せになって欲しいという気持ちはありますし、何よりもアーレスト家にいた時代、父から散々教えられたことがあります。

 初代アーレスト様が残した家訓。
 すなわち、【ノブレスオブリージュ】。

 これは貴族の義務であり、【貴族たるもの、徳を高くするべし】という意味合いがあります。
 騎士家ならば弱気を助け強気をくじく。
 豪農家ならば、食材を与え、飢えるものがないよう。
 そして商家ならば、損する事を恐れず民に奉仕する。
 
 まあ、守っていないどころか、逆のことをしでかしている貴族もおおいそうですか。

──オイデオイデ!!
 子供たちを手招きします。
 すると、ニコッと笑ってタタタタと走ってきました。

「何か御用ですか?」
「お仕事がありますか?」
「んーと。お仕事かな? 君たちはこの街のリバイアス教会の子供かな?」

 そう問いかけると、にっこりと笑いながら頷いています。
 
「教会には、全部で何人いるのかな?」
「んと。子供なら15人かな。あとは司祭長さんとか、修道女さんとか」
「ふむふむ。それじゃあ、これを届けてくれるかな?」

 オードブルを五つ、ケーキも五つ、チキンも五つ。
 あとはそうですね、長靴のお菓子は15個出しましょう。
 それらを次々と出しますと、流石に運びきれないと分かったのか?何人かの子供達が教会へと走って行きました。
 届けてあげるのも良いのですけど、露店を放置するわけには行きませんし、クリムゾンさんに店番を頼むというのも違いますから。

 そして少し経ちますと、シスターが子供たちを連れてやってきました。
 
「子供たちからお話を伺いました。フェイールさん、ありがとうございます」
「いえいえ、お気にせずどうぞこちらをお持ちください。皆様に、創造神さまと精霊女王の加護がありますように」
「はい。フェイールさんにも、リバイアス神の加護がありますように」

 丁寧に右手で小さな輪を描き、両手を合わせて頭を下げてくれます。
 そのあとは、皆さんで寄付の品々を持って行ってもらったので、私もホッと一安心。リバイアスさまの加護というところで、どうしようかと思いましたけど、素直に受け取りましたよ。
 
 来年も、あの子供達に良いことがありますように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

機動戦艦から始まる、現代の錬金術師

呑兵衛和尚
ファンタジー
有限会社・異世界トラックのミスにより死亡した俺だけど、神様からチートスキルを貰って異世界転生することになった。 けど、いざ転生する直前に、異世界トラックが事故を隠蔽していたことが発覚、神様の粋な計らいで俺は生き返ることになりました。 チートアイテム『機動戦艦』を所有したまま。   しかも、俺の凡ミスで肉体は女性になり、本当の体は荼毘に付されて手遅れ。 もう一つのチートスキル『伝承級錬金術』と『機動戦艦』を操り、この現実世界を面白おかしく生き延びてやる……生き延びたいよなぁ。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

連帯責任って知ってる?

よもぎ
ファンタジー
第一王子は本来の婚約者とは別の令嬢を愛し、彼女と結ばれんとしてとある夜会で婚約破棄を宣言した。その宣言は大騒動となり、王子は王子宮へ謹慎の身となる。そんな彼に同じ乳母に育てられた、乳母の本来の娘が訪ねてきて――

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。