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第3章・神と精霊と、契約者と
第119話・クリスマススペシャルな露店?
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年の瀬、12月24日。
あと一週間で新年祭が始まり、王国では盛大なパレードを始め、様々な催し物が街のあちこちで催されます。
その前の日、一年の終わりの日は家族でのんびりと過ごし、翌日の朝には守護神を祀る教会の大聖堂へと一年の最初のお参りが行われ、新しい一年、何事もなく平穏に過ごせますようにと祈りを捧げます。
私はアーレスト家にいた時代は、父には商神アゲ=イナリさまへの感謝を捧げなさいと告げられ、母からはエルフの守護神である精霊女王シャーリィ様にお祈りをと教えられました。
また、新年祭のお参りには、王都にあるメルセデス大聖堂へと赴き、そこに祀られている主神メルセデスさまを始め、十二柱の神々への感謝の気持ちも忘れずにお伝えしています。
まあ、それはあと一週間後ですし、この港町サライですと一番大きな力を持っているのは海神リバイアスさま、次いで主神メルセデスさまの大聖堂があります……まあ、私はメルセデスさまの元へ赴き、加護を頂いた三神だけではなく、全ての神にお参りします。
でも、リバイアスさまは最後ですからね。
「ふぅぅぅぅ、風が冷たいですね。さすがは年の瀬、もう冬も本番どころか、雪がチラチラと舞い降りていますよ」
今日もいつも通りに露店を開きます。
でも、午前と午後で商品が違いまして、午前中はいつも通りの衣料品及び装飾品、ちょっとだけお菓子という組み合わせですけど、午後からは違いますよ。
そう、本日はクリスマスイブ!!
勇者語録曰く、恋人たちの甘いひととき。
そして、恋人たちのいない人たちだけで集まるパーティとかもあるそうですが、とにかくサンタクロースさんに感謝して楽しいひと時を過ごすそうです。
すでにハーバリオスでも定着化しつつありますが、主神を祀る教会などでは民間伝承扱いされていまして、まあ、好きな人は楽しめば良いというスタイルになっています。
「さて、うちはうちで、のんびりと露店を満喫しようかのう。さあ、マキさん、ケイトさん、準備をお願いしますぞ」
「はい。今日は私がクリムゾンさんと一緒に衣類販売、マキさんはクリスティナさんと食品担当です。あと……ちょっと気をつけないとならないのですけど、斜め向かいの露店の方は、ちょっと気難しい方なので……」
少しだけ困った顔のケイトさんが、こっそりと話をしてくれます。
気難しいというのは? 商人なんて大抵、譲れない何かは必ずあります。
そういう意味では、面倒くさ……もとい、気難しいかたは結構いらっしゃいますけど。
「ケイトさん? どんな感じで気難しいのですか? 例えば接客が荒いとか、商品が雑に並んでいるとか? 値付けが煩雑で高すぎるとか?」
「いえいえ、あちらはオーチャン商会の期間限定露店でして。実は王都に本店を持っているのですが、定期的に国内のあちこちへ旅をしながら商売をする、隊商が主体な商会なのですよ」
王都の本店は倉庫のようなもので、そこへは周辺諸国からの輸入品が集まり、それを隊商が各地へ向かい販売するという、面白いスタイルの商売を行なっているそうで。
大抵は、本店と支店を行き来するのが普通なのですが、オーチャン商会は支店を持たずに商売をしているというらしく。
「はぁ、私も個人商隊ですから、同じようなものではないのですか?」
「それがですね……まあ、あのような感じでして」
ため息をつきながら、ケイトさんがオーチャン商会の露店をチラッと見ます。
そこでは、もじゃもじゃヘアーの商人さんが、何やら鉄板の上で料理をしていますよ。
「はぁ。あのねぇ? こう見えても俺は貴族なんだよ? それがまた、なんでこんな冬空の下で、異世界の料理を振る舞わないとならないんだよ……」
ブツブツと文句を言いながら、鉄板の上で何かを焼いています。
見た感じではパスタ? あとはロブスターも見えますし、後ろの方では即席竈の上にズンドウが置いてありますし、そこからは湯気を立てながら程よい香りが流れて来ましたよ。
そんな彼の横では、恰幅のいいお髭を生やした責任者らしい人が、何やらもじゃもじゃさんに何が話しています。
「あの、普通に珍しい料理を作っていますけど、あれも異世界の料理なのですか?」
「はぁ……なるほど、異世界の食材などに詳しいフェイール商店でも、あの方々の料理はわからないのですか……はぁ……」
ため息をつくケイトさん。
何かこう、いつもとは様子が違うようですけれど。
「あの。フェイール商店でも取り扱いのない調味料とかもありますよ。でも、いい匂いがして来ましたよ? ほら、モジャモジャさんが料理を始めて……え?」
実に離れた手つきで、茹ですぎてブヨブヨな麺を炒め始めました。
そして油を上からふんだんにかけてから放置して、野菜を切り始めて……。
普通、下拵えから先にしますよね?
炒めるのは全て準備してからですよね?
え、え、え? 本当にプロの料理人さん?
「毎年恒例、クリスマスに現れては、その場で適当な食材を買い求め、それを使って調理を始める……オーチャン商会のシェフ・スズムシさんと、隊商責任者のマージンさん。今年こそ、ちゃんとした料理を作ってください……」
ああっ、ケイトさんが両手を合わせて神に祈り始めましたよ。
そんなに凄いのですか、あの露店の料理は。
でも、いい匂いもしてますよ?
「あの、クリムゾンさん、ここはお任せしてよろしいでしょうか?」
「なんじゃ? まさかとは思うがあの露店を見てくるのか?」
「はい。商人としての好奇心と言いますか……異世界の料理というのであれば、気になって仕方がありませんから」
「それじゃあ、わしにも買って来てくれるか?」
「構いませんよ。では、行って来ます」
まだお客さんが集まっていない……というか、そこだけ、オーチャン商会の露店だけ人が避けているような気がしますけど。
これは、毎年恒例ゆえに『君主危きに近寄らず』なのかも知れません。
一国の君主たるもの、自ら危険へと赴いてはいけないという、異世界の言葉だそうで。これは勇者語録ではなく、王家に伝わる格言だそうです。
それでは、未知なる料理にレッツチャレンジです。
………
……
…
正直に言います。
あの場所は危険でした。そこにいるだけで何か、お二人の口喧嘩に巻き込まれそうな予感がして来ました。
だから、急いで支払いを済ませて、露店まで走って戻って来ました。
「……おう、これはいい匂いがするな」
「はい、先に後ろで食べていて構いませんよ。私が代わりますから」
「そうか、それじゃあ……」
「では、今は少し手が空いてますから、店長もご一緒にどうぞ」
クリムゾンさんが露店の後ろに下がりました。
するとケイトさんが私にも休憩を進めて来ましたので、私も熱々を頂くことにしました。
「うん、あのスープがいい感じに美味しそうな匂いをあげてますよね」
「それでら、早速いただこうではないか」
「はい、頂きます!!」
──パクっ
ちょっとぶよっとした麺にロブスターの剥し身が絡んで、そこにソースがふんだんに使われていて。
「「じゃりっとしました(したのう)」」
はい、食べ物であってはいけない食感です。
それでも、食べ物は粗末にしてはいけませんよね。
おっと、私はどうやら満腹だったようなので、これは後で食べることにしてアイテムボックスにしまっておきましょう。
そしてクリムゾンさんも満腹だったようで、数口食べてから自前のアイテムボックスに仕舞い込みました。
「あら、店長、もう良いのですか?」
「美味しかった? それなら私たちも後で買って来ますけど、どんな味でした?」
屈託のない笑顔の二人。
そんな二人に、同じような気持ちを味合わせてはいけません。
福利厚生というそうで、ちゃんとご説明しなくては。
「……じゃりっとしましたよ?」
「「あ~」」
この一言で察してくれました。
まだ、あっちの露店では罵詈雑言の嵐が吹き荒れていますけど、気にせずにこちらはこちらで楽しくしましょう。
口直しの一口ケーキを取り出して、口の中に放り込みます。
ふう、ようやく口の中のニガジャリショッパぷよぷよという感覚が消え去ってくれました。
やはり辛そうな顔のクリムゾンさんにもお裾分けをして、ようやく露店を再開できます。
さあ、気合を入れて午後からの露天を頑張ることにしましょう!!!!
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
午後からはコスチュームも変更。
私たち女性陣は、上下とも赤い衣服に着替え、三角の帽子を被ります。
クリムゾンさんは茶系のジャケットで、動物の頭のような被り物を被っての接客……というか、購入されるお客様の列の整理を担当です。
これからの販売は、この四点のみ。
・クリスマスオードブル
・クリスマスケーキ
・グリルドターキー
・長靴入りお菓子とおもちゃの詰め合わせ
ですから、いちいち品出しに困ることもなく、全て後ろには小型取り出しておいて個数と金額のチェック、そして手渡しのみという流れ作業です。
こうすることで余計な手間も省けますし、何よりもお客様をお待たせすることもありません。
「それでは、クリスマス商戦の販売を開始します」
「クリスティナさま、商戦はありませんよ」
「おっと失礼。それでは、クリスマス限定販売を開始します!!」
どうやら私たちの露店から流れてくる匂いに釣られて、仕事帰りの方々も集まり始めました。
冒険者もだんだんと増えて来ましたけれど、あの、血まみれの鎧のままで並ばれると困りますので、一旦、着替えて来てもらえますか?
クリムゾンさんがうまく誘導してくれていますと、あちこちに貴族の馬車が姿を表しできました。
「フェイール商店の商品は、我が商会が買い占める!!」
「貴様らそこをどけ!! こういう買い物は貴族優先だろうが」
「あちらにいらっしゃるサイハーテ男爵家のものです。さあ、君たち、下がりたまえ!!」
「シャトレーゼ伯爵家家宰筆頭、ローズマリーと申します。さて、その辺の貴族の方、ルールは守って楽しい買い物を……ではありませんか?」
ああっ、貴族の方々の中にメルカバリーのシャトレーゼ伯爵まで混ざって来ましたけど、他の貴族家を一蹴する勢いで睨みつけています。
「フェイールさん、お話は柚月さんから伺いましたよ。新年祭はサライで行うと聞いたので、それ用の商品を購入するためにきたのだが」
「誠に申し訳ありません。本日の一般商品の販売は午前中で完了してしまいまして。午後からは、こちらの限定商品の販売のみです。お一人さま五点まで、もしくはお子様の数までとなりますが、どうなさいますか?」
「とまあ、そういう事なので買うのなら並んでくれると助かるのじゃが」
クリムゾンさんが『最後尾』と記された看板を手に、シャトレーゼ伯爵に説明しています。
「そこの店員、そちらの方が何者なのかわかっているのか!! さあ、シャトレーゼ伯爵、そんなやつの戯言に耳を貸してはなりません。貴族は普通の民とは違います、そもそも、流れている血が違うのですから……クリスティナとか言ったな!! さあ、先に貴族の相手をしろ!!」
横からひょこひょこと顔を出して来たサイハーテ男爵の家臣……あ、本人でしたか、これは失礼。
「さて、サイハーテ男爵。君はいつも、商人相手にそのような対応をしているのかな? そもそも貴族の役割、それを君は理解しているのかな?」
「当然でございます。我々貴族は、民を統治し国のために向かわせる監督です。それゆえに何よりも優先されるべきであります。それを行わず、あまつさえ民衆と共に並べなど不敬にもほどがある」
ニヤニヤと笑うサイハーテ男爵。
その横で、シャトレーゼ伯爵がゴキゴキッと拳を鳴らしていますけど。
「民は国の財産。それを守るのが貴族。統治する立場は国であり貴族ではない。まあ、以前からサイハーテ男爵領の民からは陳情書も届いていたから、ちょっと話をしようではないか……クリスティナさん、明日、また伺わせてもらうよ」
「は、はぁ、伯爵様、なぜ私が!」
ガッチリと腕を捕まれてどこかへ連れて行かれるサイハーテ男爵。
その光景を見て、馬車で待っていた他の貴族たちも次々と馬車から飛び出して来て、列の後ろに並び始めましたが。
「あの、ご当主は並ばなくても結構ですよ、従者の方が並んでいただければ」
「そ、そうか……いや、並ばせてもらう」
「そうですな、これも民と共に生きる貴族の勤めですな」
「いやはや、まさかシャトレーゼ伯爵とこのような場所でお会いするとは」
先ほどの光景を見て、他の男爵さまや子爵さまも並び始めましたけど。
ま、まあ、気を取り直して販売を続けることにしましょう。
それにしても、連日でおかしな貴族に会うとは思ってませんでしたよ。
あと一週間で新年祭が始まり、王国では盛大なパレードを始め、様々な催し物が街のあちこちで催されます。
その前の日、一年の終わりの日は家族でのんびりと過ごし、翌日の朝には守護神を祀る教会の大聖堂へと一年の最初のお参りが行われ、新しい一年、何事もなく平穏に過ごせますようにと祈りを捧げます。
私はアーレスト家にいた時代は、父には商神アゲ=イナリさまへの感謝を捧げなさいと告げられ、母からはエルフの守護神である精霊女王シャーリィ様にお祈りをと教えられました。
また、新年祭のお参りには、王都にあるメルセデス大聖堂へと赴き、そこに祀られている主神メルセデスさまを始め、十二柱の神々への感謝の気持ちも忘れずにお伝えしています。
まあ、それはあと一週間後ですし、この港町サライですと一番大きな力を持っているのは海神リバイアスさま、次いで主神メルセデスさまの大聖堂があります……まあ、私はメルセデスさまの元へ赴き、加護を頂いた三神だけではなく、全ての神にお参りします。
でも、リバイアスさまは最後ですからね。
「ふぅぅぅぅ、風が冷たいですね。さすがは年の瀬、もう冬も本番どころか、雪がチラチラと舞い降りていますよ」
今日もいつも通りに露店を開きます。
でも、午前と午後で商品が違いまして、午前中はいつも通りの衣料品及び装飾品、ちょっとだけお菓子という組み合わせですけど、午後からは違いますよ。
そう、本日はクリスマスイブ!!
勇者語録曰く、恋人たちの甘いひととき。
そして、恋人たちのいない人たちだけで集まるパーティとかもあるそうですが、とにかくサンタクロースさんに感謝して楽しいひと時を過ごすそうです。
すでにハーバリオスでも定着化しつつありますが、主神を祀る教会などでは民間伝承扱いされていまして、まあ、好きな人は楽しめば良いというスタイルになっています。
「さて、うちはうちで、のんびりと露店を満喫しようかのう。さあ、マキさん、ケイトさん、準備をお願いしますぞ」
「はい。今日は私がクリムゾンさんと一緒に衣類販売、マキさんはクリスティナさんと食品担当です。あと……ちょっと気をつけないとならないのですけど、斜め向かいの露店の方は、ちょっと気難しい方なので……」
少しだけ困った顔のケイトさんが、こっそりと話をしてくれます。
気難しいというのは? 商人なんて大抵、譲れない何かは必ずあります。
そういう意味では、面倒くさ……もとい、気難しいかたは結構いらっしゃいますけど。
「ケイトさん? どんな感じで気難しいのですか? 例えば接客が荒いとか、商品が雑に並んでいるとか? 値付けが煩雑で高すぎるとか?」
「いえいえ、あちらはオーチャン商会の期間限定露店でして。実は王都に本店を持っているのですが、定期的に国内のあちこちへ旅をしながら商売をする、隊商が主体な商会なのですよ」
王都の本店は倉庫のようなもので、そこへは周辺諸国からの輸入品が集まり、それを隊商が各地へ向かい販売するという、面白いスタイルの商売を行なっているそうで。
大抵は、本店と支店を行き来するのが普通なのですが、オーチャン商会は支店を持たずに商売をしているというらしく。
「はぁ、私も個人商隊ですから、同じようなものではないのですか?」
「それがですね……まあ、あのような感じでして」
ため息をつきながら、ケイトさんがオーチャン商会の露店をチラッと見ます。
そこでは、もじゃもじゃヘアーの商人さんが、何やら鉄板の上で料理をしていますよ。
「はぁ。あのねぇ? こう見えても俺は貴族なんだよ? それがまた、なんでこんな冬空の下で、異世界の料理を振る舞わないとならないんだよ……」
ブツブツと文句を言いながら、鉄板の上で何かを焼いています。
見た感じではパスタ? あとはロブスターも見えますし、後ろの方では即席竈の上にズンドウが置いてありますし、そこからは湯気を立てながら程よい香りが流れて来ましたよ。
そんな彼の横では、恰幅のいいお髭を生やした責任者らしい人が、何やらもじゃもじゃさんに何が話しています。
「あの、普通に珍しい料理を作っていますけど、あれも異世界の料理なのですか?」
「はぁ……なるほど、異世界の食材などに詳しいフェイール商店でも、あの方々の料理はわからないのですか……はぁ……」
ため息をつくケイトさん。
何かこう、いつもとは様子が違うようですけれど。
「あの。フェイール商店でも取り扱いのない調味料とかもありますよ。でも、いい匂いがして来ましたよ? ほら、モジャモジャさんが料理を始めて……え?」
実に離れた手つきで、茹ですぎてブヨブヨな麺を炒め始めました。
そして油を上からふんだんにかけてから放置して、野菜を切り始めて……。
普通、下拵えから先にしますよね?
炒めるのは全て準備してからですよね?
え、え、え? 本当にプロの料理人さん?
「毎年恒例、クリスマスに現れては、その場で適当な食材を買い求め、それを使って調理を始める……オーチャン商会のシェフ・スズムシさんと、隊商責任者のマージンさん。今年こそ、ちゃんとした料理を作ってください……」
ああっ、ケイトさんが両手を合わせて神に祈り始めましたよ。
そんなに凄いのですか、あの露店の料理は。
でも、いい匂いもしてますよ?
「あの、クリムゾンさん、ここはお任せしてよろしいでしょうか?」
「なんじゃ? まさかとは思うがあの露店を見てくるのか?」
「はい。商人としての好奇心と言いますか……異世界の料理というのであれば、気になって仕方がありませんから」
「それじゃあ、わしにも買って来てくれるか?」
「構いませんよ。では、行って来ます」
まだお客さんが集まっていない……というか、そこだけ、オーチャン商会の露店だけ人が避けているような気がしますけど。
これは、毎年恒例ゆえに『君主危きに近寄らず』なのかも知れません。
一国の君主たるもの、自ら危険へと赴いてはいけないという、異世界の言葉だそうで。これは勇者語録ではなく、王家に伝わる格言だそうです。
それでは、未知なる料理にレッツチャレンジです。
………
……
…
正直に言います。
あの場所は危険でした。そこにいるだけで何か、お二人の口喧嘩に巻き込まれそうな予感がして来ました。
だから、急いで支払いを済ませて、露店まで走って戻って来ました。
「……おう、これはいい匂いがするな」
「はい、先に後ろで食べていて構いませんよ。私が代わりますから」
「そうか、それじゃあ……」
「では、今は少し手が空いてますから、店長もご一緒にどうぞ」
クリムゾンさんが露店の後ろに下がりました。
するとケイトさんが私にも休憩を進めて来ましたので、私も熱々を頂くことにしました。
「うん、あのスープがいい感じに美味しそうな匂いをあげてますよね」
「それでら、早速いただこうではないか」
「はい、頂きます!!」
──パクっ
ちょっとぶよっとした麺にロブスターの剥し身が絡んで、そこにソースがふんだんに使われていて。
「「じゃりっとしました(したのう)」」
はい、食べ物であってはいけない食感です。
それでも、食べ物は粗末にしてはいけませんよね。
おっと、私はどうやら満腹だったようなので、これは後で食べることにしてアイテムボックスにしまっておきましょう。
そしてクリムゾンさんも満腹だったようで、数口食べてから自前のアイテムボックスに仕舞い込みました。
「あら、店長、もう良いのですか?」
「美味しかった? それなら私たちも後で買って来ますけど、どんな味でした?」
屈託のない笑顔の二人。
そんな二人に、同じような気持ちを味合わせてはいけません。
福利厚生というそうで、ちゃんとご説明しなくては。
「……じゃりっとしましたよ?」
「「あ~」」
この一言で察してくれました。
まだ、あっちの露店では罵詈雑言の嵐が吹き荒れていますけど、気にせずにこちらはこちらで楽しくしましょう。
口直しの一口ケーキを取り出して、口の中に放り込みます。
ふう、ようやく口の中のニガジャリショッパぷよぷよという感覚が消え去ってくれました。
やはり辛そうな顔のクリムゾンさんにもお裾分けをして、ようやく露店を再開できます。
さあ、気合を入れて午後からの露天を頑張ることにしましょう!!!!
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
午後からはコスチュームも変更。
私たち女性陣は、上下とも赤い衣服に着替え、三角の帽子を被ります。
クリムゾンさんは茶系のジャケットで、動物の頭のような被り物を被っての接客……というか、購入されるお客様の列の整理を担当です。
これからの販売は、この四点のみ。
・クリスマスオードブル
・クリスマスケーキ
・グリルドターキー
・長靴入りお菓子とおもちゃの詰め合わせ
ですから、いちいち品出しに困ることもなく、全て後ろには小型取り出しておいて個数と金額のチェック、そして手渡しのみという流れ作業です。
こうすることで余計な手間も省けますし、何よりもお客様をお待たせすることもありません。
「それでは、クリスマス商戦の販売を開始します」
「クリスティナさま、商戦はありませんよ」
「おっと失礼。それでは、クリスマス限定販売を開始します!!」
どうやら私たちの露店から流れてくる匂いに釣られて、仕事帰りの方々も集まり始めました。
冒険者もだんだんと増えて来ましたけれど、あの、血まみれの鎧のままで並ばれると困りますので、一旦、着替えて来てもらえますか?
クリムゾンさんがうまく誘導してくれていますと、あちこちに貴族の馬車が姿を表しできました。
「フェイール商店の商品は、我が商会が買い占める!!」
「貴様らそこをどけ!! こういう買い物は貴族優先だろうが」
「あちらにいらっしゃるサイハーテ男爵家のものです。さあ、君たち、下がりたまえ!!」
「シャトレーゼ伯爵家家宰筆頭、ローズマリーと申します。さて、その辺の貴族の方、ルールは守って楽しい買い物を……ではありませんか?」
ああっ、貴族の方々の中にメルカバリーのシャトレーゼ伯爵まで混ざって来ましたけど、他の貴族家を一蹴する勢いで睨みつけています。
「フェイールさん、お話は柚月さんから伺いましたよ。新年祭はサライで行うと聞いたので、それ用の商品を購入するためにきたのだが」
「誠に申し訳ありません。本日の一般商品の販売は午前中で完了してしまいまして。午後からは、こちらの限定商品の販売のみです。お一人さま五点まで、もしくはお子様の数までとなりますが、どうなさいますか?」
「とまあ、そういう事なので買うのなら並んでくれると助かるのじゃが」
クリムゾンさんが『最後尾』と記された看板を手に、シャトレーゼ伯爵に説明しています。
「そこの店員、そちらの方が何者なのかわかっているのか!! さあ、シャトレーゼ伯爵、そんなやつの戯言に耳を貸してはなりません。貴族は普通の民とは違います、そもそも、流れている血が違うのですから……クリスティナとか言ったな!! さあ、先に貴族の相手をしろ!!」
横からひょこひょこと顔を出して来たサイハーテ男爵の家臣……あ、本人でしたか、これは失礼。
「さて、サイハーテ男爵。君はいつも、商人相手にそのような対応をしているのかな? そもそも貴族の役割、それを君は理解しているのかな?」
「当然でございます。我々貴族は、民を統治し国のために向かわせる監督です。それゆえに何よりも優先されるべきであります。それを行わず、あまつさえ民衆と共に並べなど不敬にもほどがある」
ニヤニヤと笑うサイハーテ男爵。
その横で、シャトレーゼ伯爵がゴキゴキッと拳を鳴らしていますけど。
「民は国の財産。それを守るのが貴族。統治する立場は国であり貴族ではない。まあ、以前からサイハーテ男爵領の民からは陳情書も届いていたから、ちょっと話をしようではないか……クリスティナさん、明日、また伺わせてもらうよ」
「は、はぁ、伯爵様、なぜ私が!」
ガッチリと腕を捕まれてどこかへ連れて行かれるサイハーテ男爵。
その光景を見て、馬車で待っていた他の貴族たちも次々と馬車から飛び出して来て、列の後ろに並び始めましたが。
「あの、ご当主は並ばなくても結構ですよ、従者の方が並んでいただければ」
「そ、そうか……いや、並ばせてもらう」
「そうですな、これも民と共に生きる貴族の勤めですな」
「いやはや、まさかシャトレーゼ伯爵とこのような場所でお会いするとは」
先ほどの光景を見て、他の男爵さまや子爵さまも並び始めましたけど。
ま、まあ、気を取り直して販売を続けることにしましょう。
それにしても、連日でおかしな貴族に会うとは思ってませんでしたよ。
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