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第3章・神と精霊と、契約者と

第114話・バトルシーンは突然に……発送完了ですな。

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 クラウンとペルソナの二人が、クリスティナの救出に向かった同時刻。

 リバイアス島の青竜の居城大広間で、聖女ストラトスは玉座に座って、じっと待っていた。
 精霊女王と秩序の女神、そして商神の三柱の加護を持つクリスティナが魔に落ちるのを。
 彼女の胸に施した術式には、リバイアスも知らない効果がもう一つある。
 それは術式の枷が彼女の心臓に到達した時、その心を破壊したのち肉体の構成を根幹から作り替え魔族の世界へと誘うように仕組まれている。
 だが、リバイアスはそのようなことを知らず、クリスティナを魅了し巫女とすることで、異世界の食べものを手に入れられると信じている。
 その隙を、魔族は狙っていた。

 何も知らない一人の少女を洗脳し、敬虔なる青竜の信徒とする。
 そのものに三つの魔導具を持たせ、リバイアスの信頼を得る事により、クリスティナを捉えるべくお膳立てをする。
 全てはリバイアスが仕組んだこと、その時に偶然クリスティナが魔族に目覚め、来るべき魔王降臨の生贄としてその身を捧げるだけ。
 
 勇者の血を受け継ぐ、三柱の神に愛された存在。

 その者が人から魔に堕ち、己の意志により、魔王の封印に向かってその身を捧げる。
 それだけで、魔王は目覚める。
 そう、残された旧魔王派の者達は信じている。
 だからこそ、言葉巧みに海神リバイアスに接触し、彼を使うことでクリスティナの守護者達を彼女から離した。

 リバイアスもまた、魔族に上手く利用されていただけ。
 そしてリバイアスを信奉していた少女も、その手の中の魔導具により魔人化を始めている。

 全ては、計算通り。

 そう、ここまでは。

──カツン……カツン……
 靴音が廊下に響き、大広間の扉がゆっくりと開く。 
 室内にいたストラトスとリバイアスの神官たちは、なぜ扉が勝手に開いたのかわからない。
 むしろ、扉が開くのは当たり前、そう思って扉から意識を切り離す。
 だが、そこに立っていた、扉を開いた男性の姿には、気がついていない。

「どうした、何故、扉が勝手に開いた?」

 あまりにも不自然故に、ストラトスは玉座から立ち上がり、扉の近くにいた警護の冒険者に問いかけるのだが。

「いえ、扉が開いたのですか?」
「そんな馬鹿な……でも、扉が開くのは当たり前ですが」

 ストラトスの問いかけに、頓珍漢な答えを出す冒険者。
 すると彼女は玉座から離れると、急いで杖を構えたのだが。

──ガギィィィン
 その構えた杖が何者かの放った細い布によって跳ね上げられると、虚空を舞いながら近くの男の手の中に収まった。

「き、貴様!! いつからそこにいた?」

 ここでようやくストラトスは、扉を開けたのであろう男性の姿を『認識』することが出来た。その声で周囲の神官達も『認識阻害』の効果から解き放たれると、玉座の前でストラトスと対峙している壮年の男性に気がつく。

「先ほどですが……おおっと、これは失礼。私どもは、【型録通販のシャーリィ】から派遣されてきました。クリスティナ・フェイール様へのお届け物がございましたところ、この地にて不埒な輩によって閉じ込められておりましたので。誠に申し訳ございませんが、クリスティナさまと、我々の従業員もお返しいただけると幸いなのですが」

 右手に金色の細長い布を掴み、左手は胸元に手を当てて軽く頭を下げるジョーカー。そして全ての言葉を紡ぎ終えると、ゆっくりと頭を上げてストラトスからの返答を待つのだが。
 彼女は突然現れたジョーカーの存在に困惑するものの、口角をにんまりと吊り上げて叫んだ。

「異教徒だ!! リバイアスの名の下に、こいつを粛清しなさい」
「ほう。殺せ……ではなく粛清ですか。まだ、聖職者としての思考は残っているようですが」

 ジョーカーが身構えると同時に、壁際に立っていた神官や冒険者達が武器を構え、ジョーカーへ向かって走り出す。
 殺生が禁じられてある聖職者達はメイスを、その他の冒険者達は様々な武器を手にしてジョーカーへの攻撃を繰り出していくのだが。
 彼は手にした金色の細長い布『ラッピングリボン』で全てを受け止め、躱し、まるで教えを乞う子供達を相手するかのように武器を持つ手に当て身を入れていく。

──バジッバジッ
 重い一撃を腕に受けて、次々と武器を落としていく冒険者達。
 それでも引くことはなく、武器を拾おうと走り出したのだが。

──キチキチキチキチッ
 大広間の中に飛び込んできたクラウンが放った魔法により、冒険者達の脚が黄色いベルト状のもので拘束されてしまう。

「ふふっ。シャーリィ特製のポリプロバンド、そんじょそこらの冒険者程度では、外すこともできませんわよ。さあ、次は何方が梱包されたいのです?」

 ポリプロバンドで身動きが取れなくなった冒険者達が、四角い箱状の結界によって閉じ込められる。
 その光景を見た神官や冒険者達が、我先にと大広間から飛び出していく。

「ちょっと待ちなさい!! 契約を履行しなさいよ!!」

 そう叫びつつ後ろへ下がり始めるストラトス。
 すでに彼女以外は、結界によって動けなくなった神官と冒険者のみ。

「さてと。私としては、今回の責任者でもあるリバイアスの鱗でも剥がして帰りたかったのですけれどね。まあ、ここから先は、速やかに神の裁きを受けてもらいましょうか」

 ジョーカーが右手を横に振る。
 すると、ストラトスの周りに二本の透明な物体が召喚される。
 長さ50センチの透明な筒、そこから透き通ったフィルム状の結界が噴き出すと、ストラトスの体の周りをグルグルと高速回転し始める。
 両腕が体に密着したまま固定され、さらには太ももも胸元もグルグルと巻き付けられていく。

「な、何よこれは!!」
「バインド・フィルムと申します。本来は発送時に荷物が崩れないように、段ボールの周りに巻くストレッチフィルムというものなのですが。まあ、私の生み出すフィルムは特殊でして……上位竜の動きも固定できますから」

 その説明の最中、ストラトスは頭以外の全身がフィルムによって固定されその場に倒れ込んでしまう。

「こ、この私にこんなことをして、リバイアスさまの神罰が下るわよ!!」
「これは異なことを。この建物、魔族収監場の壁は『神欺の壁』により神々の目を遮断しています。つまり、ここで貴方がどうなろうとも、リバイアスには感じ取ることもできませんから……それに、貴方の中の魔族の意識は、まだ諦めていないようですが?」

 ジョーカーが問いかけると、ストラトスの顔色が赤くなり、表情も険しくなっていく。

『ちっ。もう少しで、この女の意識も支配下におさめられたものを』
「そうですな。我々以外の相手ならば、騙し倒すことが出来たでしょうなぁ。ですが、我々の目を欺けるものなど、そうそう存在はしませんので。クラウンさん、そちらは終わりましたか?」

 その問いかけに、クラウンは積み上げられた箱型結界の前でパンパンと手の埃を叩き落としている。

「発送準備、完了ですわね。あとは発送伝票を貼り付けるだけですけれど、この結界を剥がさないと、ここから外に飛ばすことが出来ませんけど?」
「それはあとで構いませんよ。この魔族の聖女の梱包をお願いします」
「了解です」

 カツンカツンと靴音を鳴らしつつ、クラウンがバインドフィルムで身動きの取れないストラトスの近くまでやってくる。
 そして右手を翳してフンフンと頷くと、ゆっくりと詠唱を開始しストラトスも透明な四角い結界に包み込んだ。

「まあ、魔族ならこれぐらいは強化した結界じゃないと、逃げられそうですからね。さて、これで終わりですから、最後のツメをお願いします」

 ストラトスの収められた結界箱も他の箱と同じく積んでおくと、ジョーカーが天井目掛けて右手を伸ばし、パチンと指を鳴らした。
 
「さてと。クラウンさん、発送をお願いします。届け先はそうですね……審判の女神の眷属の元へでも」
「待て、待ってください!! なによ審判の女神って。それにここからは転移術式は不可能なのよ!! 飛ばせるものなら飛ばして見なさいって」
「ええ。ですから飛ばしません。ほら……」

 そう呟くジョーカーの元に、灰色の馬車が駆け抜けてくる。

「転移ではなく、直接この私がお届けします。ご安心ください、しっかりと結界は箱には『天地無用』と『割れ物注意』の札をつけておきますので」

 ニッコリと笑いながら告げるジョーカーだが、最後は真顔になって一言。

「クリスティナ様に手を出した無礼、この程度で結んで良かったと思え!」

 そのまま丁寧に馬車の中へ結界箱に封じられたストラトスを始めとした冒険者、神官を積み込むと、あとは任せましたとクラウンに告げて馬車で走り去っていった。

「はぁ、これで終わりなのは良いのですけど。絶対にやりすぎだって、シャーリィさまに怒られますわね。さて、どうしたものでしょうか」

 クラウンはそう呟きつつ、今回のクリスティナ誘拐事件に関する証拠を探し始める。そしてある程度の証拠品を回収すると、ジョーカーのように馬車で走り去っていった。
 
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