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第3章・神と精霊と、契約者と

第110話・勇者の帰還と、竜の神託

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 クリスマス商戦を前に。

 すでに仕入れるものの発注準備は全て完了です。
 クリスマスケーキ、オードブルはすでに発注書に書き込んでありますし、あとは個数を指定するだけ。
 問題なのは、あとはプレゼント用のおもちゃ。
 異世界では、クリスマスの日に神様の加護を貰えるわけではなく、サンタクロースという聖者さんがプレゼントを配布するそうですから。

「それで、こんなに大量の発注リストがあるっていうことか。先に注文した方が、クラウンや朝番のペルソナが困らないんじゃ無いのか?」

 机の上の書類を見て、ブランシュさんが呆れています。
 それも一理あります。

「この発注書は、明日の分ですね。今日の夕方便のものは、すでに発注済みですよ。纏めてとなりますと流石に大量すぎますし、食料品がメインなので気分的にはあまり長期間の保存はしたく無いのですよ。因みに今回の目玉はこれ、電電ファームのローストビーフと、ディバーゴのチョコレートケーキ。それに、フルーツをふんだんに使ったゼリーもありますし、当日はこの、異世界の聖者サンタクロースの衣装を着て、販売するのですよ」

 その衣装はすでに届いています。
 しかも、さすがは異世界の型録通販シャーリィです、この赤い衣装は着た瞬間にサイズが自動補正されますし、しかも対冷気プロテクションの効果まで付与されています。
 これを着ている限りは、外露店での寒さにも負けることはありません。

「それにほら!! 子供達のお土産用は、この紙製の長靴に入ったお菓子の詰め合わせですよ。こんなものをもらったら、もう子供達も嬉しくて夜も眠れないかもしれませんからね」
「あ~、因みにだが、クリスマスっていつだ?」
「勇者様のカレンダーでは、一週間後の十二月の二十四日がクリスマスイブというそうで。まあ、その日はあまり関係ありませんし、翌日の二十五日にクリスマスパーティーがあるそうですからね」
「それじゃあ、二十五日の朝からの販売か。それまでは、福袋を作る作業もありだよなぁ」
「それも手配しておきます」

 参考までに、サライの港湾施設付近の宿や酒場でも、十二月二十五日には勇者の祭典ということでお祭りをするようですが。 
 でも、町を挙げての大きなお祭りではありませんし、それから一週間後には新年祭が始まります。
 その準備の一休みということで、みんなで楽しく集まってご飯を食べるというのが本命のようですけれどね。

──コンコン
 そんなことを考えながらブランシュさんと打ち合わせをしていますと、ドアがノックされました。

『クリスっち、あーしだけど』
「柚月さん、どうぞ入ってください!!」
「ち~っす。お邪魔しまーす」

 いつもと同じ元気な柚月さんですけれど、服装はいつものラフな格好ではなく、勇者用にあしらわれた正装です。
 白いローブ姿に鍔広の帽子、肩からは魔導書が収められた肩掛けが腰まで伸びています。
 よく物語などでみる勇者の、それも大魔導師の服装そのままですね。

「もう、出発ですか?」
「にしし、そーいうこと。まあ、三日もしたら帰ってくるし。クリスマスパーティまでは戻って来れるように調整したから、多分大丈夫」
「そうですか。では、王都まで無事に帰れることをお祈りします」
「うん、まあ。どうせ戻ってもやることは予め連絡が来たから、それをちゃっちゃと終わらせて戻ってくるから大丈夫だし」

 王都で国王様との謁見、そしてメメント大森林を魔族から取り戻した報告。
 その後で、仮封印状態らしい宝剣エクスカリバーの正式な封印の儀式を行い、ハーバリオス王国の守護結界を活性化させる……と、やることが多すぎではありませんか。
 柚月さんが指を折りながら説明してくれましたけど、それだけでもう、お腹がいっぱいになりそうですよ。

「……と、大きな仕事は三つだし、そのあとは祝勝会とかに参加するだけだし。だから、そのあとで早く戻ってくるようにするし」
『柚月さ~ん、どこに行ったのですかぁ~』

 廊下の向こうから、武田さんの声も聞こえてきました。
 どうやら帰還の準備ができたようです。

「あーしはクリスっちのところだし。今行くから待つし」
「私も皆さんにご挨拶しますね。本当に勇者の皆さんには、色々とお世話になっていましたから」
「そう? むしろ、あーしたちの方がクリスっちのお世話になっているし」
「いえいえ、そんな……」

 少し照れてしまいますけど、それを顔には出さずに宿の外で待っている紀伊國屋さんたちの元へ向かいます。
 すでに柚月さん以外の三人と、早馬でやって来た伝来の方がそこで待っていました。

「ようやく来ましたか……おや、フェイールさんとご一緒だったのですね?」  
「そういうこと。ということで、それじゃあ王都に向かうし」

 紀伊國屋さんが柚月さんを見て困った顔をしていますけど、何かあったのでしょうね。

「それてまは、私たちはこれで失礼します。一週間後には、またサライまで来る予定ですので」
「日本酒、ありがとうな。なくなったら連絡するから、その時はよろしく」
「コンセント、また追加で欲しくなったら連絡をください。それ用の素材は集めてきてありますので。お礼はコーラとピザとチョコレートとポテチでお願いします」
「また、みんなで無茶をいうし……」

 皆さんの笑顔が素敵です。
 やっぱり勇者とは、『人のためにあるべし』というよりも、『自分も含めてみんなの為に』っていう方が素敵です。
 だって、皆さん顔がイキイキしていますから。

「それじゃあ、飛ぶし」

──フワリ
 柚月さんの魔法が発動し、勇者の四人が空に舞い上がります。
 そして手を振ったと思ったら、高速で王都の方向へと飛んで行きました。

「皆さーん!! お気をつけてくださいね~」

 大声で叫びましたけど、まあ、届いているとは思えません。
 これでまた少しだけ、寂しくなりますね。
 さて、気分を切り替えましょう。
 夕方便の荷物が到着するまでは、今日も露店を頑張るとしますか!!

 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯

………
……


 クリスティナ……。
 私の元へくるのです……
 貴方は、海神リバイアスの巫女に選ばれました……
 明日の朝、日の出と同時に教会まで来るのです……
 良いですね。
 貴方は、神の巫女に選ばれたのです……

………
……


──ガバッ!!
「え、なに今の声は」

 昨日は柚月さんたちを見送ってから、いつものように露店を開いていました。
 ケイトさんやマキさんもお手伝いしてくれましたし、運が良いことにミュラーゼン連合王国からやって来た船乗りさんたちが、食料とか着替えを大量に購入してくださいました。
 元々、封印空間の中の大聖堂に送ろうとしていた食料や生活用品ですから、船という狭い空間でも十分に役立つとかで。
 しかも、ジャージは軽くて動きやすく、さらに保温効果も高いと纏めて大量に購入されましたよ。
 それで今日は少し早めに食事をとって体を休めていたのです。
 まだ外は暗く、朝日が昇るまでは時間がありそうですけど。
 ふと横を見ると、ベッドサイドのテーブルの前で、ノワールさんが窓の外をじっと眺めていました。

「……あの忌々しい青竜のアホですわ。そもそも、クリスティナさまを巫女にだなんて図々しいにも程があります。しかも『来るのです』って……お願いがあるのなら、直接、ここにきて頭を下げなさいって」
「あ、あの、ノワールさん? 今の話し方からしますと、私が夢の中で聞いた た神託の声の主が、海神リバイアスさまなのですか?」

 そう問いかけますと、ノワールさんが頷いてくれました。

「ええ。全くなにを考えて、クリスティナさまに巫女になれと言い出したのやら。明日の昼間は、ブランシュに頼んで私が昼間の警護に付きますわ。あの自己中心派なリバイアスは、きっと信徒をここによこすに決まっていますから」
「まさか、無理やり私を連れて行くのですか?」
「おそらくは、そうでしょうね……それにしても、このタイミングで仕掛けてくるとは、なかなか考えていますね。柚月さんたちがいたら、絶対に手出しなんてできなかったでしょうから」

 なぜ手出しできなかったかと思ったら、ノワールさん曰く、大魔導師は対ドラゴン用の魔術と守りの術が使えるからだそうで。
 つまり、柚月さんを敵に回さないように、勇者たちが帰還するタイミングを待っていたということになります。

「そ、それでは私は、どうなるのです?」
「ご安心を。そのためのノワールです。お嬢様は、安心してお休みください」
「は、はい。それでは……」

 まだ眠いので、もう少しだけ眠ることにします。朝日が昇るまでは寝ていても構いませんよね。
 それに、なんだか、だんだんと眠くなって来ましたよ……いえ、これは睡魔ではなく……。
 ノワールさん……あら……どうして彫像に戻って……。

 ばたん。
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