型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第3章・神と精霊と、契約者と

第106話・もう一品を考えて……また、厄介ごとがやってまいりました。

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 サライの商業ギルドを後にして。
 
 勇者さまたちの新年祭参加については見合わせてもらえたようですし、ちょっと妥協しましたけど露店の件も統括からの提案よりも規模を縮小、四店舗での営業となりました。
 
 そして最後の問題は、その四件目の露店で何をするのか。
 ここ、一番大切なところでして。
 フェイール商店としても、大切な商品を何処の馬の骨ともつかない派遣に任せるわけにはいきませんし、かといって適当な、それこそパルフェノンやヘスティア王国で仕入れた商品を任せるというのも、実に味気なく。
 やるなら堂々と、それでいて他店にはない魅力を持つ必要があります。
 
 それで夕方までは、露店を開きつつ店番はブランシュさんと、何故かお暇そうな緒方さんが手伝ってくれました。
 そのため私は、後ろに下がって【シャーリィの魔導書】とアイテムボックス内部の目録を並べて、何かないかと思案していました。

「……新年のお祝い用は紅白の幕を垂らして……お餅? 鏡餅? これを御供えするのですか。はぁ、この新年飾りのセットとやらは購入することにして。お屠蘇? お屠蘇ってお酒? ふむふむ、そのようなものまでセットで別売りで……」

 神社に喝采? 生姜を絞った炭酸飲料とはまた、薬効の高そうなものですね。ほほう、神社とはすなわち神域、それはシャーリィさまの祠のような場所ですか。そこで作られたものなら、かなりのご利益もありそうなのでポチッと。

「姐さん、すまないが下着の在庫を一揃いとジャージの上下、あと、帽子も出してくれるか?」
「サンダルはあります?」
「それはまだ間に合うから問題はない」
「はい、ではこちらを!!」

 ドン、とブランシュさんの横に置いておきますと、ふと、お客様ではない方が二人ほど、私の方にやってきましたが。
 商品はそちらですよ? こちらはバックヤードというところですよ?
 
「初めまして。商業ギルドから、フェイール商店のお手伝いを担当するようにおおせつかったケイトと申します」
「同じく、統括からこちらのお手伝いをするように仰せつかったマキです。まだ派遣期間は確定していませんけど、先に少しでも慣れるようにと言われて、お手伝いに来ました」

 栗色ショートカットのお姉さんがケイトさんで、金髪ロングの奥さま風の方がマキさんですね。

「はい、フェイール商店の店主、クリスティナです。それでは折角ですので、そちらでブランシュさんの仕事を見て、お手伝いをお願いします。ブランシュさんも、それで宜しいですか?」
「ああ、姐さんは手が塞がっているから助かるわ。それじゃあ、まずは俺のやり方を見て、それから自分なりにやってみてくれ。商業ギルドの職員なら、接客対応は可能だろ?」
「お任せください」
「畏まりました」

 どれどれ、私も少し手を休めて、二人の様子を見てみることにしましょう。
 悪意があって近寄ってきたのなら、ブランシュさんが真っ先に反応しているはずですから、この二人は本当に、うちのお店の手伝いとして来てくれたようですね。
 それに、ブランシュさんの接客を見て、やり方を覚えてきたのか自分たちなりに接客を始めました。 
 まあ、代金の受け取りと確認はブランシュさんが行なっていますし、まだ商品の全てを把握しているわけでわはありませんから。
 でも、お客様がジャージを求めた時、一目でその体型に適切なサイズを選択するのはブランシュさんでなくては不可能ですよね。

「ねえ、お兄さん。露店が終わったら一緒に飲まない? いい店を知っているわよ?」
「そうそう、見た感じだと、また冒険者だよね? 前衛? それとも後衛?」
「回復魔法は使える? うちのパーティさ、回復要員が引退しちゃってね。とまう? まだレベルが低いのなら、色々とアドバイスしてあげるよ?」

 んんん?
 お客さんの間から、いきなりブランシュさんを勧誘する女性たち。
 でも、そんな声にはうちのブランシュさんは揺るぎませんよ。

「あ~、すまないが仕事中でね。客じゃないのなら、後ろに下がってくれるか? それと、冒険者になる気もないから諦めてくれ」
「ふ、ふぅぅん。私たちの誘いを断るなんて大した勇気じゃない。この私たちが誰か、わかっているのかしら?」

 頬をヒクヒクと引き攣らせつつ、リーダー格の女性戦士が問い返しています。
 見た感じでは、確かに駆け出しという訳ではなさそうです。
 使い古された武具、頬の傷や腕の傷、掌の大きさは、かなりの重さの武器を扱ってきたのがわかるほどにゴツゴツとしています。

「誰かなんて、知らんよ。さあ、横に退けてくれ」
「な、なんですって……私たちはね、プリズムベッドっていう冒険者クランのメンバーよ? さあ、この名前を聞いた以上、あなたは下がる事はできないわよ? おとなしく、私たちの仲間になりなさい」
「はぁ? 聞いたことがないクランだな……チームじゃないっていう事は、どこかの貴族のお抱え冒険者クランかよ」

 参考までに、公的な冒険者の管理組織がギルド、それに対して個人で集まったものがチームなのですけど、貴族や大商会のお抱えチームをクランと読んでいます。
 有名商会や上位貴族のクランは儲けが良い分、バックアップしてくれる貴族の権利があたかも自分たちの力であるように思う節がありまして。
 こちらの方たちも、恐らくはそういった関係ではなかろうかと。
 それでいて、ヒーラーが足りないからブランシュさんに目をつけた。
 はい、目の付け所はシャープですよ。
 でも、あまりブランシュさんに絡んでいますと、保護者が来ますよ?

「あの、そこで露店の邪魔をすると、困るし」
「はぁ、どこの誰か知らないけれ……へ? 大魔導師さま?」

 先ほど、彼女たちの後方で柚月さんが聞き耳を立てていたことに、彼女たちは気がついていなかったようで。

「その通り。それで、いまは露店で仕事をしていて、貴方ちちはその邪魔をした。それで間違っていないし?」
「待ってください、私たちはですね、クランの回復要員を探していてですね。そこの彼が、パルフェノンで活躍した錬金術師だと聞いてきたのです」
「知らんわ……柚月、すまないが、そいつらに説教を頼む」
「分かったし。クリスっち、あとは任せるし」
「よろしくお願いします」

 うわ、なんでしょうかこの連携プレーは。
 勇者語録の阿吽の課金ってやつですよ、石が切れたらすぐにボタンを押すっていう、常に先のことを見据えた動きっていう……あの、ブランシュさん、その笑いを堪えるのはやめてください。

「ま、まあ、あの連中のことは柚月に任せておけばいい。こっちはこっち、お騒がせして申し訳ない」
「誠に申し訳ありません。せめてご迷惑をお掛けしたお礼に、ここからの販売は全ておまけをつけさせていただきます。また、それ以前に購入された方も、こちらでおまけは差し上げますので!!」

 そう告げてから、アイテムボックスより箱に入ったお菓子を取り出します。
 これはベルメさんから受け取った商品の一つで、この小さな箱の中のさらに小さな包み紙の中身、実は一口サイズのチョコレートなのです。
 しかも、チョコウエハースとかキャラメルとかイチゴとか、聞いたことのない味もあるのですよ。

 ということで、私もまだ味見をしていないので、先に毒味ということで一つをお口の中にポイっと……。

──ムグムグ、モグモグ。
 ゴクッ。

「これはダメですね。おまけには使えないから、仕舞っておきますか」
「いや、姐さんそれで構わないから、早くこっちに回してくれないか?」
「うぇぇ……わかりました、まだ在庫はありますから、この三箱なら」
「一つの種類につき100箱ぐらいあるだろう? ベルメとはそういう取引をしたんだから、間違いはないはずだ。諦めてくれな」
「うぇぇ……はい、それではオマケを配布しますので、こちらに並んでください。これは一口大のチョコレートといいまして、こう、包み紙を外して食べます。そのまま口の中に、こんな感じに」

──ムグムグ、モグモグ
 濃厚なチョコレートの甘さと、この不思議な食感。
 これ、木の実を砕いたものが入ってますよ。 
 この私の見事な食べっぷりに、見ていた方達はゴクリと喉を鳴らしています。

「ゴクッ……と、このように食べてください。三種類を一つずつお配りしますけど、これは暖かいところに置いておくと溶けてしまいますので、できるだけ冷たいところで保存してください」

 そう説明すると、大勢の人が次々と並びました。
 あとは商品を見せてもらってから、三つずつ配るだけ。
 これにはマギさんにもお手伝いをお願いしたので、意外とスムーズに配り終わることができそうです。
 はい、チョコレートの数が減るたびに悲しい顔をしているマキさんとケイトさん、まだありますからお二人にも後でお渡ししますよ。
 
「はぁ。これも入荷できたら、どんなに幸せなことか」
「姐さん、チョコレートは太るから食べすぎないようにな」
「「「余計な一言!!」」」

 思わず三人でツッコミを入れます。
 もう、チョコレートが太ることぐらい、知っていますから。
 わ、私は、ちゃんと節制していますし、エルフ式痩身術を実践していますからね。
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