上 下
52 / 278
第3章・神と精霊と、契約者と

第104話・真っ赤なお鼻の〜デルヴィアランダースさんですか?

しおりを挟む
 朝、ペルソナさんから商品の追加と新しい型録をお預かりしました。
 
 異世界ではそろそろ年末年始だとかで、その前には遥か西方の地の聖人を祀る祝日があり、その数日後には、一年の終わりを告げる鐘がなり響き、蕎麦なる食事を食べるそうで。
 そしても夜が明けると、新しい年を祝うお祭りが……それぞれの家庭で行われるとか。

「あの、新年祭とは、街をあげて盛大にお祝いするのではないのですか? ハーバリオス王国では、新年祭とはその名の通り、新しい年がやってくるのを祝うお祭りであり、これから始まる新しい一年に祈りを捧げるのが慣わしです。お祭り期間中に各都市の神殿、教会へ向かい、神に祈りを捧げる……そして一年の努力が認められたものには、神が新たな加護を授けるという……」
「ん~、そこまで厳粛じゃないし。 新年を祝うお祭りだけど、三ヶ日って言って、その日は仕事をお休みするし。まあ、ここ最近は休まないで敢えて仕事をして、儲けを出す店もあるけど」

 ほほう、お休みですか。
 私たち商人にとっては最高の稼ぎ時なので、休むなんてとんでもないです。
 店舗を構える店にせよ露店にせよ、教会へと足を伸ばしてくれた旅人やお客相手に商売するのが慣わしですからね。
 あ、ちなみにブランシュさんは部屋の外で、のんびりと読書しています。
 私たちの話は突然、大きく舵を切って横道にされるので、黙って聞いていると疲れるとかで。

「う~ん。まあ、それはそれで、いろいろあるということで。このお節とかも、三が日の間は竈を休めるために保存の効く料理を詰めたものだし。このひとつ一つに意味があって、例えば数の子は子孫繁栄、エビは長寿を願って食べるし」
「願掛けでしたか……効果はあるのですか?」
「それこそ、神のみぞ知る。食べるだけでは叶わないけど、やる気は出てくるし」
「へぇ~、面白い風習ですね……この期間限定商品の『お節料理』というとのも、そういう効果があるのですよね?」

 いえいえ、ちょっと待ってください。
 私が異世界から購入した商品には、全て様々な魔法的付与が加算されますよね? つまり、このお節料理も願掛けというレベルではなく、【長寿の加護】とか【悪病退散】、【金運上昇】の加護が加算されるのではないですか?
 
「まあ、あーしたちは三が日は、地球に帰りたいし。その時になったら、クリスっちに旅行券を売ってもらいたいし」
「構いませんよ。帰省っていうやつですよね? その時期が来たら、声を掛けてくれると助かります」
「うんうん。それじゃあ、早速注文したいものを説明するから、発注書の用意をするし」
「え? 今から購入するのですか? 食品は傷んで……と、勇者の加護があるのですよね。時間停止のアイテムボックスが」
「にしし。そういうことだし」

 ということですので、早速ですが柚月さんの注文をまとめることにしました。
 クリスマスケーキとか、赤い衣装とか。
 サンタクロースという聖者が、子供たちのところにプレゼントをまだできてくれるなんて、実にロマンが溢れていますよね。
 まあ、私はそのからくりを知ってしまいましたが。

 サンタクロースは、私たちの世界から帰還した大魔術師の末裔で、天を駆ける神獣デルヴィアランダースに魔導具のソリを引かせているのですよ。
 プレゼントの入っている袋はアイテムボックスの加護でしょうし、子供達が欲しいものはおそらく、両親が子供たちに聞いて、それを郵便によってサンタクロースの元に発注しているのですよ。

「……まあ、サンタクロースは夢を届けるのが仕事だし」
「なるほど!! つまり、サンタクロースは【型録通販のシャーリィ】の従業員さんという可能性が、いえ、おそらくはそれが正解かと思われます。なかなか、手広くお仕事をなされていますね、シャーリィさまは」
「ん~、そうやって話を聞くと、そんな気もしてくるし。確かに、一晩で世界を一周なんて回れないし」
「でも、指定先配達の方々が多ければ、一つの町なら数人で回ることもできます。認識阻害の効果で、人知れず渡すことも可能ですよ!!」

 えーっと。このような時に叫ぶ言葉が、確かあります。

「そうです、W.Z.B.W、証明終了です」
「んんん? 聞いたことないし? まあ、クリスっちも、このタイミングで色々な商品を購入して、販売すると儲かるし」
「う~ん、それがですね、実はカクカクシカジカということがありまして」
「カクカクシカジカじゃ、わからないし?」
「え?」

 いえ、勇者語録では、カクカクシカジカは説明を簡略化して相手に伝える話術だと……最新版の勇者語録、間違いだらけじゃないですか? 勇者に詳しい吟遊詩人のライ・ディーンさんの記録って書いてありましたのにり
 ですから、私は、ヴェルディーナ王国の件をもう一度説明しました。
 そして、まだかなりの補給物資が残っていることを伝えますと、柚月さんは腕を組んで考えています。

「……うん、それは新年祭で全て売り切れるし」
「ほ、は、はぁ? どうやって売るのですか?」
「福袋。ほら、型録通販のシャーリィにも、確かそういうページがあったし」

 柚月さんの言葉で、私は急いで【シャーリィの魔導書】を開きます。
 するとありました、確かにありましたよ!!
 【期間限定、型録通販のシャーリィ福袋】というものが!!
 
「つまり、これを買って……どうするのですか?」
「違うし。フェイール商店の在庫商品を、この福袋のように中身が見えないように詰めて販売するし。普段の利率よりも低くなるけど、それはおめでたい商品だから」
「福袋、フェイール商店の福袋を作るということですか?」
「そう。値段は全て同じで、何が入っているかは運任せ。あと、おひとり様何点って、購入制限をかけないと、買い占められる可能性もあるし」

 はい、それについては大丈夫です。
 先日も、異世界の商人テン・バイヤーさんなる方のことを武田さんに教わりましたから。しっかりと数は制限します。
 あと、発売日の前には必ず宣伝すること。
 ビッグ・ウェーブさんが朝一番で並んでくれるそうなので。

──コンコン
 そんな話をして盛り上がっていますと、部屋の扉がノックされました。

『フェイールさん、宿の前にお客さまが来たますけど?』
「お客? はて? 私がここにいることを知っている方ですか?」

 そう考えると、あのオフトール兄さんのことを思い出しました。
 まさか、また嫌がらせに来たのではないでしょうか?
 そう考えて窓に近寄り、そっと外を眺めますと。
 
「あら? 商業ギルドのマスターですか。それに、この町の商人さんも集まってますけと?」
「それじゃあ、あーしたちは荷物を纏めてくるし。明日の朝一番で、王都に向かうから」
「畏まりました。この期間限定品につきましては、明日の朝の納品で宜しいですか?」
「構わないし。では、よろしく~」

 手をひらひらと振りながら、柚月さんが部屋から出ていきます。
 では、商業ギルドの方の話を聞いてくることにしましょう。

………
……


「新年祭に、フェイール商店も出店して欲しいと?」
「うむ。前回のフェイール商店の商品を見た貴族様が、今回もあの商店は出店するのかと問い合わせが殺到していてな。それで、どうにかお願いしたいというところなのだよ」

 前回の開港祭の時、フェイール商店が勇者さまたちと一緒に露店を開き、異世界の商品を販売していましたよね?
 今回も、貴族をはじめとした大勢の人が新年祭のためにサライに集まってくるそうなので、また露店を開いて欲しいということだそうです。
 実は、このサライの港から沖合には海神リバイアスさまを祀る祠があり、そして町の中にはリバイアス教の教会もあります。
 船乗りなら誰でも知っている、海運と事故避けのご利益がある神様なので、港町にはそれはもう、大きな教会があるのですよ。
 それ故に、近隣の小さな港町からも船が大量に集まり、港から沖合に至るまで、びっしりと船が並ぶそうなのです。

「……う~ん。新年祭は、メルカバリーでのんびりとしたかったのですけれど」
「そこをなんとか、頼む!!」

 私を拝んでも、何も出ませんよ。
 そう言いたくなるぐらい、目の前のギルドマスターをはじめとした人々が頭を下げていますし、よく見ると、教会の司祭さままでいるではないですか。

「はぁ、分かりました、では新年祭の間だけ、露店を開くことにします。そのあとはメルカバリーで用事がありますので、すぐに移動しますからね?」
「構わん構わん。それでは、勇者様の露店、その話も詰めておいてくださいね。では、失礼します」

 んんん?
 それってつまり、柚月さんたちの露店も開けっていうことですか?

「いや、それは無理ですって。柚月さんたちは明日、王都に帰るじゃないですか。それからまたすぐに来るとしても、時間は間に合いませんよ?」
「まあまあ、そこはフェイールさんからも頼んでくれると助かる。こちらとしては、最悪、勇者様たちの露天がなくても、フェイール商店の露店がこう、どーんと10件ほど並んでくれると助かるからさ。それでは」
「……ん? 10件? ちょっと待ってください、そんなに人を雇えるほど人脈はありませんって……おーい!!」

 話をしたら満足そうに帰っていくギルドマスター。
 いや、どこまでも自分勝手で、困るのですけど。
 はぁ……どうしましょうか。
しおりを挟む
感想 652

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。