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第十八話・コロシアムセンターの攻防
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あの魔導騎士部の顧問の誘いを断ってから一週間。
学校では連日、曙顧問の誘いを断りまくり、学校にいてもやることがないので真っ直ぐに帰宅。
札幌駅高架下にある『コロシアムセンター』に通っている。
ちなみにコロシアムセンターは、ゴーレムファクトリーが業務提携しているツクダサーガの直営店であり、フリー対戦が可能なバトルリングが十台も設置されているアミューズメントである。
さらにゴーレムファクトリー直営ショップや喫茶店、メンテナンスルームなども併設されており、魔導騎士を駆る魔導騎士操縦者にとっての聖地、憩いの地、戦場となっている。
よし、解説終わり‼︎
………
……
…
「はっはっはっ。銀河は今日も暇そうでござるなぁ」
段ボールから入荷したばかりの改造キットを取り出しながら、笹錦おじさんが笑っている。
親父の会社の社員の一人で、今はゴーレムファクトリー札幌駅前店の店長を務めている。
「暇っていうか、なんていうか。対戦相手がいなくてなぁ。おじさん、暇になったら相手してくれるか?」
「それは構わんでござるが。手加減はできないでござるよ?」
「むしろ、本気で相手してくれないとなぁ。そんじゃ、バトル申請してくるわ」
「まあ、今日は混んでいるから、のんびりとしているでござるよ」
笹錦さんと俺のバトルだけど、申請はどちらか一人で十分。
とっとと店内にある端末を使ってバトル申請をすると、あとはのんびりと見学。
老若男女問わず、いつでも楽しくバトルができるとあって、なかなか順番が来ない。
すると、店内の一角、三番リングが騒然としている。
──ドゴォォォォォッ
「「「「うぉぉぉぉぁぉぉぉぉ‼︎」」」」
「「「さすがですクィーン‼︎」」」
どうやら常連客が、『勝ち抜きバトル』をやっているらしい。
負け抜け式で、参加費を支払うと『負けるまで』は何度でもバトルができる。
腕に自信のある操縦者なら、参加費だけでかなり遊べてしまう。
──バサッ‼︎
クィーンと呼ばれた女性が、最新型のコントロールヘルムを外して髪をかき上げている。
「おーーーっほっほっほっほっ。まだ私の『ブランシュ』と戦うなんて、十年早いですわ、出直していらっしゃい‼︎」
あ、生徒会長のなんとか先輩だ。
触らぬ神に祟りなし、嫌な予感がするからショップにでも逃げるとするか。
そのまま戦略的撤退を敢行するのだが、変にコソコソしていたのか、あっさりと見つかった。
「そこの貴方….どこかで見たことが……あ?」
「や、やあ。生徒会長にはごきげん麗しく、それでは失礼しまう」
やべ、噛んだ。
そのまま逃げようとしたけれど、ダメだったわ。
──バサッ‼︎
どこからともなく扇子を取り出して開くと、俺に向かって話しかけてきた。
「この前は助けていただき、誠にありがとうございますわ。折角ですので、この私とバトルなど如何ですか? 今日はなかなか楽しいバトルを堪能させてもらっていますけれど、貴方の実力も見てみたいものですわね」
「いや、マジ?」
「ええ。私は日本人ですので、マジなり今ぐらいは理解していますわよ。マジなので、早くやりましょう。今日こそ雌雄を決して差し上げますわ」
今日こそって、まだ対戦したことはないんだけどさ……。チラッとショップを見ると、笹錦さんが笑顔でサムズアップ。
くっそ、やるしかないか。
まあ、最近はここでしかバトってないから、たまには勝ち抜きバトルもありか。
「よし、それじゃあ俺が相手してやるよ」
対戦ボックスに移動して、パワーボックスから取り出したブレイザーをセット。
リストバンド型の制御用腕輪を装着して、バトルリング端末からのびているケーブルを制御用腕輪にセット‼︎
【魔導騎士セット。機体コードAT01ハルバード00021Mドール、ギアネーム・ブレイザー】
大型モニターに、ブレイザーと機体コードが表示される。すると、あちこちの観客から驚きと失笑が聞こえて来る。
Aナンバー、すなわちタイプ・オールインワン。
今の主流はMナンバー、マテリアルシリーズ。
つまり、俺のは古い旧型機ってわけで、悪かったな。
初期型テスト機のタイプ・ハルバードなのでAT01ハルバード。その後の五桁の数字が俺のドライバーコード、Mドールは男性人型って意味。
「うーむ。ザワザワしているなぁ……」
思わず腕を組んで考えていると、お嬢さんの機体の登録も完了した。
【魔導騎士セット。機体コードMD02478Fドール、ギアネーム・ブランシュ】
表示されているコードのうち、MDはマテリアルドライヴ・シリーズ。現在の市販タイプの一つ昔の機体。
02478はドライバーコードで、お嬢さんのパーソナルナンバー。大会などは、このナンバーで参加登録し管理される。
そしてFドールは、女性型を表していて、最後はギアネームと。
俺のナンバーよりも複雑だよなぁ。
「準備はOKかしら?」
「ああ、いくぜ、お嬢さん」
「わっ、私の名前は秋穂波紗香ですわ、では行きますわよ‼︎」
「「バトル、スタート‼︎」」
俺と紗香の掛け声と同時に、バトルリングが輝き、巨大なジオラマを形成する。
◾️◾️◾️◾️BATTLE START ■◾️◾️◾️
──ゴゥゥゥゥゥゥ
廃墟のビル群。
そこを風が抜けている。
今回のバトルステージは『廃墟のビル群』。
魔導騎士よりも高いビルが乱立しているステージで、相手の位置を把握するのが難しい。
制限時間ありのバトルなら、簡単に楽しめる闘技場ステージを選べばいいんだけど、勝ち抜きバトルの場合は、ランダムでステージが形成される。
「まあ、ビル群は初めてだけど、楽しませてもらいますか」
真っ直ぐに道路上を走るブレイザー。
センサーで敵の位置を把握したいところだが、妨害電波が発生しているらしく、視認確認しかできない。
「……これはまた、縛りが多いなぁ」
「そのようですわね‼︎」
──ガギィィィィーン
突然、上空からブランシュが降下して来る。
ビルの屋上からの急降下ドロップキックだが、そんなものは軽くかわして、右後ろ回し蹴りで迎撃する‼︎
──ドゴッ
必殺の一撃。
だが、それを前に転がって躱すと、ブランシュが高速で後退を始める。
──フゥォォォォォォォ
女性らしいフォルムのブランシュが、スカートから圧縮空気を噴き上げて下がる。
「スチームホバーシステム? スカートにかよ」
「おーっほっほっほっほっ。乙女のスカートには、秘密が一杯ですわ。貴方のブレイザーは近接型、ですが私のブランシュはオールマイティ。この距離では、手も足も出ませんわね?」
そう叫びながら、ブランシュは腰に装着してあった銃を引き抜いて構え、そして撃ち始める。
──ドゴォォォォォッ、ドゴォォォォォッ
両手のマグナムリボルバーを乱射しつつ、ブランシュはブレイザーとの間合いを一定に保ちつつ、攻撃を続けている。
「実弾兵器とはな。でも、装弾数六発なら、弾切れになったらおしまいだな」
高速で駆け出し、脚部スラスターを吹かして擬似ホバリングを始めるブレイザー。
だが、ブランシュは使用済みの銃を捨てることなく、エプロンドレスの前ポケットからスピードローダーを取り出して弾を装填した。
「な、なんなって‼︎ そんなのアリかよ」
「言い忘れましたわ、乙女のエプロンにも秘密は一杯ですわ」
「そりゃどうも‼︎」
──ドゴォォォォォッ、ドゴォォォォォッ
再び乱射して来るブランシュ。
だが、至近距離までは届くがブレイザーには着弾しない。
そのまま一気に加速して間合いを詰めると、右手のハルバードを力一杯横凪ぎに振り回す。
──ブゥン‼︎ ガギィィィィーン
だが、ブランシュはハルバードを軽くジャンプして避けると、真っ直ぐにブレイザーの頭部に右膝を打ち込んできた。
「言い忘れましたけど、私は、近接格闘も高いですわよ」
「あー、そうかそうか。どうりで、射撃は下手なわけだ」
「誘導ですわ、相手の虚を作るための攻撃ですわよ」
そう叫んでから、ブランシュは軽くスカートの左右を摘む。カーテジーに似た挨拶をしたかと思うと、突然の前蹴りが飛んでくる。
──ブゥン
それはサイドステップでかわしたが、さらに左回し蹴り、右後ろ回し蹴り、さらに着地しての右旋風脚と、次々と蹴り技が飛んでくる。
しかも、どれもかなり命中精度が高い。
ブレイザーも必死にかわすのがやっとで、反撃に出ることができない。
「さあさあ、楽しい|輪舞『ロンド》の時間ですわ」
前蹴り、回し蹴り、後ろ回し蹴り、旋風脚。
この4つのパターンを複雑な順番で、止まることなく繰り出して来る。
下がる一方でかわしていると、やがてバトルリングのデッドラインまで追い込まれてしまう。
魔導騎士の全身がここを越える
と、リングアウト負けとなる。
「仕方ないか、それじゃあ、やるか。|纏(てん)‼︎」
両腕を使って蹴りを捌く。
これまでの守りとは違い、責めるための守り。
腕と肘を巧みに回転させるように、攻撃を捌く。
『おおおおお‼︎』
すると、先ほどまでは紗香を応援していた観客も、ブレイザーの動きに驚き始める。
「な、なんですの、その技は‼︎」
「技って程じゃない。普通の受け技だよ。ほら、ブランシュの弱点を発見だ‼︎」
──ダン‼︎
回し蹴りを交わした直後、ブレイザーの方を向いたブランシュの背中に自分の背中を合わせるように回り込む。
これで体勢は横向き同士となり、リングアウトは免れる。
「な、なんですって? そんな避け方が」
「本当は、ここから一撃入れるんだけどな。|鳳凰双展翔(ほうおうそうてんしょう)っていう技なんだけど、ブランシュには、これが一番だろ?」
──ダン、ドゴォォォォォッ!
ブランシュの震脚、からの必殺技・鉄山靠。
まともにブランシュは正面で受けてしまい、後方に吹き飛ぶ。
だが、まだゲージは残っている。
「ま、まだまだで……え?」
片膝を突きながらも、まだ立ち上がろうとするブランシュ。
だが、正面に立っていたブランシュが、中腰になって両手で何かを作り出す。
──バジバジバジバジッ
それは魔力の塊。
両手を合わせて凝縮した魔力球を作り出すと、それを両手で力一杯撃ち込んできた‼︎
「魔導砲っ‼︎」
──ドゴォォォォォッ
その一撃で、勝敗は決した。
ブランシュのダメージゲージが振り切れ、ゲームオーバーとなる。
◾️◾️◾️◾️GAME OVER ■◾️◾️◾️
──ウォォォォォォォォ
喝采が響く。
勝負は俺の勝ちだけど、やっちまった。
急いでブレイザーを回収してパワーボックスに収めると、俺はメンテナンスルームに走っていく。
「ち!ちょっと待ちなさい、貴方が勝利者なのよ?」
「すまん、後の試合は棄権だ。急いでメンテしないとやばい‼︎」
秋穂波がまだ何か叫んでいるが、一切無視。
くっそ、魔導砲まで向かうとは思わなかったよ。
まだ、切り札としてとっておきたかったのに。
………
……
…
私、負けましたわ。
逆から読んでも、私、負けましたわ。
久しぶりの敗北です。
ちなみにこの前、学校で不良相手に負けたのはノーカンですわ、ノーカン。
発売前の追加装備システムを使われたら、勝てるものも勝てなくなりますわ。
つまり、フラゲしたアイテムで勝っても、自分の勝利ではない理論です。
わかりやすく言うとですね、『フラゲしたDMの最新弾パックで組んだデッキで大会に出て、スーパーコンボで勝利しても、公式大会はそれを認めない』ですわ。
それにしても、最後の技はなんでしょうか?
飛び道具を魔導騎士の腕に組み込んだとも思えませんし、ひょっとして、開発者の息子だから機体もチートであるとか?
それなら、さっきの試合は無効ですわ‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ふう。
危なくブレイザーの腕が壊れるところだったわ。
まだまだ魔導砲については、細かい調整の余地があるよなぁ。
とりあえずアルミ軽合金で補強と調節もしたので、あとはパワーボックス内での自動練金処理でおっけい。
喉が渇いたから、コーラでも買ってくるか。
──ガチャッ
扉を開くと、大勢の人だかり。
「さ、さっきの技はなんですか?」
「飛び道具? でも、あんな武器はないですよね?」
「教えてください‼︎」
などなど、質問の雨霰なんだが。
当然、魔導砲はシステムに則った技なんだよなぁ。
裏技でもチートでもない。
ただ、どれだけ魔導騎士を使い込んでいるかってところなんだよ。
そうすれば、『わざと用意されている』システムの抜け道に気がつくはずなんだよ?
「悪いな。あれは俺のオリジナルでね、教えるわけにはいかないんだ。それじゃあな」
メンテナンスルームをロックして、喫茶店に移動。
しっかし、本当に疲れるわ。
説明を求めてやってくる人たちが、じゃなくて、バトルご終わった後の疲労感が、洒落にならない。
──ズズズズズ
「試合後のコーラとずんだ餅、美味ぇ‼︎」
疲労を取るのは甘いもの。
そしてコーラ。
「しかし、ブランシュか。なかなかいい動きだったけど、まだまだ改良の余地はあるよなぁ」
「へぇ、私のブランシュのどこに改造の余地があるのか、教えてもらえますか?」
──ゴゴゴゴゴ
うん。
背後から、嫌な予感と秋穂波さんの声が聞こえる。
恐る恐る振り向くと、般若のような顔をした秋穂波が立っていた。
「それに、最後の技。あんなことは、市販機では無理ですわよね? どのようなチートを使ったのですか?」
「チートねぇ。システム的にも内蔵されていて、ただ使い方をみんなが理解していない技だから、チートでもなんでもねーよ。その気になれば、あんたのブランシュでもできるわ」
「ふぅん。なら、やって見せてみなさいよ」
「上等だ、それで納得するんなら、貸してみろって‼︎」
やっべ、またやっちまった。
売り言葉に買い言葉じゃないが、また余計な厄介ごとを抱え込んだような気がするぞ……。
学校では連日、曙顧問の誘いを断りまくり、学校にいてもやることがないので真っ直ぐに帰宅。
札幌駅高架下にある『コロシアムセンター』に通っている。
ちなみにコロシアムセンターは、ゴーレムファクトリーが業務提携しているツクダサーガの直営店であり、フリー対戦が可能なバトルリングが十台も設置されているアミューズメントである。
さらにゴーレムファクトリー直営ショップや喫茶店、メンテナンスルームなども併設されており、魔導騎士を駆る魔導騎士操縦者にとっての聖地、憩いの地、戦場となっている。
よし、解説終わり‼︎
………
……
…
「はっはっはっ。銀河は今日も暇そうでござるなぁ」
段ボールから入荷したばかりの改造キットを取り出しながら、笹錦おじさんが笑っている。
親父の会社の社員の一人で、今はゴーレムファクトリー札幌駅前店の店長を務めている。
「暇っていうか、なんていうか。対戦相手がいなくてなぁ。おじさん、暇になったら相手してくれるか?」
「それは構わんでござるが。手加減はできないでござるよ?」
「むしろ、本気で相手してくれないとなぁ。そんじゃ、バトル申請してくるわ」
「まあ、今日は混んでいるから、のんびりとしているでござるよ」
笹錦さんと俺のバトルだけど、申請はどちらか一人で十分。
とっとと店内にある端末を使ってバトル申請をすると、あとはのんびりと見学。
老若男女問わず、いつでも楽しくバトルができるとあって、なかなか順番が来ない。
すると、店内の一角、三番リングが騒然としている。
──ドゴォォォォォッ
「「「「うぉぉぉぉぁぉぉぉぉ‼︎」」」」
「「「さすがですクィーン‼︎」」」
どうやら常連客が、『勝ち抜きバトル』をやっているらしい。
負け抜け式で、参加費を支払うと『負けるまで』は何度でもバトルができる。
腕に自信のある操縦者なら、参加費だけでかなり遊べてしまう。
──バサッ‼︎
クィーンと呼ばれた女性が、最新型のコントロールヘルムを外して髪をかき上げている。
「おーーーっほっほっほっほっ。まだ私の『ブランシュ』と戦うなんて、十年早いですわ、出直していらっしゃい‼︎」
あ、生徒会長のなんとか先輩だ。
触らぬ神に祟りなし、嫌な予感がするからショップにでも逃げるとするか。
そのまま戦略的撤退を敢行するのだが、変にコソコソしていたのか、あっさりと見つかった。
「そこの貴方….どこかで見たことが……あ?」
「や、やあ。生徒会長にはごきげん麗しく、それでは失礼しまう」
やべ、噛んだ。
そのまま逃げようとしたけれど、ダメだったわ。
──バサッ‼︎
どこからともなく扇子を取り出して開くと、俺に向かって話しかけてきた。
「この前は助けていただき、誠にありがとうございますわ。折角ですので、この私とバトルなど如何ですか? 今日はなかなか楽しいバトルを堪能させてもらっていますけれど、貴方の実力も見てみたいものですわね」
「いや、マジ?」
「ええ。私は日本人ですので、マジなり今ぐらいは理解していますわよ。マジなので、早くやりましょう。今日こそ雌雄を決して差し上げますわ」
今日こそって、まだ対戦したことはないんだけどさ……。チラッとショップを見ると、笹錦さんが笑顔でサムズアップ。
くっそ、やるしかないか。
まあ、最近はここでしかバトってないから、たまには勝ち抜きバトルもありか。
「よし、それじゃあ俺が相手してやるよ」
対戦ボックスに移動して、パワーボックスから取り出したブレイザーをセット。
リストバンド型の制御用腕輪を装着して、バトルリング端末からのびているケーブルを制御用腕輪にセット‼︎
【魔導騎士セット。機体コードAT01ハルバード00021Mドール、ギアネーム・ブレイザー】
大型モニターに、ブレイザーと機体コードが表示される。すると、あちこちの観客から驚きと失笑が聞こえて来る。
Aナンバー、すなわちタイプ・オールインワン。
今の主流はMナンバー、マテリアルシリーズ。
つまり、俺のは古い旧型機ってわけで、悪かったな。
初期型テスト機のタイプ・ハルバードなのでAT01ハルバード。その後の五桁の数字が俺のドライバーコード、Mドールは男性人型って意味。
「うーむ。ザワザワしているなぁ……」
思わず腕を組んで考えていると、お嬢さんの機体の登録も完了した。
【魔導騎士セット。機体コードMD02478Fドール、ギアネーム・ブランシュ】
表示されているコードのうち、MDはマテリアルドライヴ・シリーズ。現在の市販タイプの一つ昔の機体。
02478はドライバーコードで、お嬢さんのパーソナルナンバー。大会などは、このナンバーで参加登録し管理される。
そしてFドールは、女性型を表していて、最後はギアネームと。
俺のナンバーよりも複雑だよなぁ。
「準備はOKかしら?」
「ああ、いくぜ、お嬢さん」
「わっ、私の名前は秋穂波紗香ですわ、では行きますわよ‼︎」
「「バトル、スタート‼︎」」
俺と紗香の掛け声と同時に、バトルリングが輝き、巨大なジオラマを形成する。
◾️◾️◾️◾️BATTLE START ■◾️◾️◾️
──ゴゥゥゥゥゥゥ
廃墟のビル群。
そこを風が抜けている。
今回のバトルステージは『廃墟のビル群』。
魔導騎士よりも高いビルが乱立しているステージで、相手の位置を把握するのが難しい。
制限時間ありのバトルなら、簡単に楽しめる闘技場ステージを選べばいいんだけど、勝ち抜きバトルの場合は、ランダムでステージが形成される。
「まあ、ビル群は初めてだけど、楽しませてもらいますか」
真っ直ぐに道路上を走るブレイザー。
センサーで敵の位置を把握したいところだが、妨害電波が発生しているらしく、視認確認しかできない。
「……これはまた、縛りが多いなぁ」
「そのようですわね‼︎」
──ガギィィィィーン
突然、上空からブランシュが降下して来る。
ビルの屋上からの急降下ドロップキックだが、そんなものは軽くかわして、右後ろ回し蹴りで迎撃する‼︎
──ドゴッ
必殺の一撃。
だが、それを前に転がって躱すと、ブランシュが高速で後退を始める。
──フゥォォォォォォォ
女性らしいフォルムのブランシュが、スカートから圧縮空気を噴き上げて下がる。
「スチームホバーシステム? スカートにかよ」
「おーっほっほっほっほっ。乙女のスカートには、秘密が一杯ですわ。貴方のブレイザーは近接型、ですが私のブランシュはオールマイティ。この距離では、手も足も出ませんわね?」
そう叫びながら、ブランシュは腰に装着してあった銃を引き抜いて構え、そして撃ち始める。
──ドゴォォォォォッ、ドゴォォォォォッ
両手のマグナムリボルバーを乱射しつつ、ブランシュはブレイザーとの間合いを一定に保ちつつ、攻撃を続けている。
「実弾兵器とはな。でも、装弾数六発なら、弾切れになったらおしまいだな」
高速で駆け出し、脚部スラスターを吹かして擬似ホバリングを始めるブレイザー。
だが、ブランシュは使用済みの銃を捨てることなく、エプロンドレスの前ポケットからスピードローダーを取り出して弾を装填した。
「な、なんなって‼︎ そんなのアリかよ」
「言い忘れましたわ、乙女のエプロンにも秘密は一杯ですわ」
「そりゃどうも‼︎」
──ドゴォォォォォッ、ドゴォォォォォッ
再び乱射して来るブランシュ。
だが、至近距離までは届くがブレイザーには着弾しない。
そのまま一気に加速して間合いを詰めると、右手のハルバードを力一杯横凪ぎに振り回す。
──ブゥン‼︎ ガギィィィィーン
だが、ブランシュはハルバードを軽くジャンプして避けると、真っ直ぐにブレイザーの頭部に右膝を打ち込んできた。
「言い忘れましたけど、私は、近接格闘も高いですわよ」
「あー、そうかそうか。どうりで、射撃は下手なわけだ」
「誘導ですわ、相手の虚を作るための攻撃ですわよ」
そう叫んでから、ブランシュは軽くスカートの左右を摘む。カーテジーに似た挨拶をしたかと思うと、突然の前蹴りが飛んでくる。
──ブゥン
それはサイドステップでかわしたが、さらに左回し蹴り、右後ろ回し蹴り、さらに着地しての右旋風脚と、次々と蹴り技が飛んでくる。
しかも、どれもかなり命中精度が高い。
ブレイザーも必死にかわすのがやっとで、反撃に出ることができない。
「さあさあ、楽しい|輪舞『ロンド》の時間ですわ」
前蹴り、回し蹴り、後ろ回し蹴り、旋風脚。
この4つのパターンを複雑な順番で、止まることなく繰り出して来る。
下がる一方でかわしていると、やがてバトルリングのデッドラインまで追い込まれてしまう。
魔導騎士の全身がここを越える
と、リングアウト負けとなる。
「仕方ないか、それじゃあ、やるか。|纏(てん)‼︎」
両腕を使って蹴りを捌く。
これまでの守りとは違い、責めるための守り。
腕と肘を巧みに回転させるように、攻撃を捌く。
『おおおおお‼︎』
すると、先ほどまでは紗香を応援していた観客も、ブレイザーの動きに驚き始める。
「な、なんですの、その技は‼︎」
「技って程じゃない。普通の受け技だよ。ほら、ブランシュの弱点を発見だ‼︎」
──ダン‼︎
回し蹴りを交わした直後、ブレイザーの方を向いたブランシュの背中に自分の背中を合わせるように回り込む。
これで体勢は横向き同士となり、リングアウトは免れる。
「な、なんですって? そんな避け方が」
「本当は、ここから一撃入れるんだけどな。|鳳凰双展翔(ほうおうそうてんしょう)っていう技なんだけど、ブランシュには、これが一番だろ?」
──ダン、ドゴォォォォォッ!
ブランシュの震脚、からの必殺技・鉄山靠。
まともにブランシュは正面で受けてしまい、後方に吹き飛ぶ。
だが、まだゲージは残っている。
「ま、まだまだで……え?」
片膝を突きながらも、まだ立ち上がろうとするブランシュ。
だが、正面に立っていたブランシュが、中腰になって両手で何かを作り出す。
──バジバジバジバジッ
それは魔力の塊。
両手を合わせて凝縮した魔力球を作り出すと、それを両手で力一杯撃ち込んできた‼︎
「魔導砲っ‼︎」
──ドゴォォォォォッ
その一撃で、勝敗は決した。
ブランシュのダメージゲージが振り切れ、ゲームオーバーとなる。
◾️◾️◾️◾️GAME OVER ■◾️◾️◾️
──ウォォォォォォォォ
喝采が響く。
勝負は俺の勝ちだけど、やっちまった。
急いでブレイザーを回収してパワーボックスに収めると、俺はメンテナンスルームに走っていく。
「ち!ちょっと待ちなさい、貴方が勝利者なのよ?」
「すまん、後の試合は棄権だ。急いでメンテしないとやばい‼︎」
秋穂波がまだ何か叫んでいるが、一切無視。
くっそ、魔導砲まで向かうとは思わなかったよ。
まだ、切り札としてとっておきたかったのに。
………
……
…
私、負けましたわ。
逆から読んでも、私、負けましたわ。
久しぶりの敗北です。
ちなみにこの前、学校で不良相手に負けたのはノーカンですわ、ノーカン。
発売前の追加装備システムを使われたら、勝てるものも勝てなくなりますわ。
つまり、フラゲしたアイテムで勝っても、自分の勝利ではない理論です。
わかりやすく言うとですね、『フラゲしたDMの最新弾パックで組んだデッキで大会に出て、スーパーコンボで勝利しても、公式大会はそれを認めない』ですわ。
それにしても、最後の技はなんでしょうか?
飛び道具を魔導騎士の腕に組み込んだとも思えませんし、ひょっとして、開発者の息子だから機体もチートであるとか?
それなら、さっきの試合は無効ですわ‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ふう。
危なくブレイザーの腕が壊れるところだったわ。
まだまだ魔導砲については、細かい調整の余地があるよなぁ。
とりあえずアルミ軽合金で補強と調節もしたので、あとはパワーボックス内での自動練金処理でおっけい。
喉が渇いたから、コーラでも買ってくるか。
──ガチャッ
扉を開くと、大勢の人だかり。
「さ、さっきの技はなんですか?」
「飛び道具? でも、あんな武器はないですよね?」
「教えてください‼︎」
などなど、質問の雨霰なんだが。
当然、魔導砲はシステムに則った技なんだよなぁ。
裏技でもチートでもない。
ただ、どれだけ魔導騎士を使い込んでいるかってところなんだよ。
そうすれば、『わざと用意されている』システムの抜け道に気がつくはずなんだよ?
「悪いな。あれは俺のオリジナルでね、教えるわけにはいかないんだ。それじゃあな」
メンテナンスルームをロックして、喫茶店に移動。
しっかし、本当に疲れるわ。
説明を求めてやってくる人たちが、じゃなくて、バトルご終わった後の疲労感が、洒落にならない。
──ズズズズズ
「試合後のコーラとずんだ餅、美味ぇ‼︎」
疲労を取るのは甘いもの。
そしてコーラ。
「しかし、ブランシュか。なかなかいい動きだったけど、まだまだ改良の余地はあるよなぁ」
「へぇ、私のブランシュのどこに改造の余地があるのか、教えてもらえますか?」
──ゴゴゴゴゴ
うん。
背後から、嫌な予感と秋穂波さんの声が聞こえる。
恐る恐る振り向くと、般若のような顔をした秋穂波が立っていた。
「それに、最後の技。あんなことは、市販機では無理ですわよね? どのようなチートを使ったのですか?」
「チートねぇ。システム的にも内蔵されていて、ただ使い方をみんなが理解していない技だから、チートでもなんでもねーよ。その気になれば、あんたのブランシュでもできるわ」
「ふぅん。なら、やって見せてみなさいよ」
「上等だ、それで納得するんなら、貸してみろって‼︎」
やっべ、またやっちまった。
売り言葉に買い言葉じゃないが、また余計な厄介ごとを抱え込んだような気がするぞ……。
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しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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日本列島、時震により転移す!
黄昏人
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2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
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巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
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とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
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ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
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高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
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バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
セクスカリバーをヌキました!
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とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
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凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
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勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
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だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
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