19 / 28
第十八話・コロシアムセンターの攻防
しおりを挟む
あの魔導騎士部の顧問の誘いを断ってから一週間。
学校では連日、曙顧問の誘いを断りまくり、学校にいてもやることがないので真っ直ぐに帰宅。
札幌駅高架下にある『コロシアムセンター』に通っている。
ちなみにコロシアムセンターは、ゴーレムファクトリーが業務提携しているツクダサーガの直営店であり、フリー対戦が可能なバトルリングが十台も設置されているアミューズメントである。
さらにゴーレムファクトリー直営ショップや喫茶店、メンテナンスルームなども併設されており、魔導騎士を駆る魔導騎士操縦者にとっての聖地、憩いの地、戦場となっている。
よし、解説終わり‼︎
………
……
…
「はっはっはっ。銀河は今日も暇そうでござるなぁ」
段ボールから入荷したばかりの改造キットを取り出しながら、笹錦おじさんが笑っている。
親父の会社の社員の一人で、今はゴーレムファクトリー札幌駅前店の店長を務めている。
「暇っていうか、なんていうか。対戦相手がいなくてなぁ。おじさん、暇になったら相手してくれるか?」
「それは構わんでござるが。手加減はできないでござるよ?」
「むしろ、本気で相手してくれないとなぁ。そんじゃ、バトル申請してくるわ」
「まあ、今日は混んでいるから、のんびりとしているでござるよ」
笹錦さんと俺のバトルだけど、申請はどちらか一人で十分。
とっとと店内にある端末を使ってバトル申請をすると、あとはのんびりと見学。
老若男女問わず、いつでも楽しくバトルができるとあって、なかなか順番が来ない。
すると、店内の一角、三番リングが騒然としている。
──ドゴォォォォォッ
「「「「うぉぉぉぉぁぉぉぉぉ‼︎」」」」
「「「さすがですクィーン‼︎」」」
どうやら常連客が、『勝ち抜きバトル』をやっているらしい。
負け抜け式で、参加費を支払うと『負けるまで』は何度でもバトルができる。
腕に自信のある操縦者なら、参加費だけでかなり遊べてしまう。
──バサッ‼︎
クィーンと呼ばれた女性が、最新型のコントロールヘルムを外して髪をかき上げている。
「おーーーっほっほっほっほっ。まだ私の『ブランシュ』と戦うなんて、十年早いですわ、出直していらっしゃい‼︎」
あ、生徒会長のなんとか先輩だ。
触らぬ神に祟りなし、嫌な予感がするからショップにでも逃げるとするか。
そのまま戦略的撤退を敢行するのだが、変にコソコソしていたのか、あっさりと見つかった。
「そこの貴方….どこかで見たことが……あ?」
「や、やあ。生徒会長にはごきげん麗しく、それでは失礼しまう」
やべ、噛んだ。
そのまま逃げようとしたけれど、ダメだったわ。
──バサッ‼︎
どこからともなく扇子を取り出して開くと、俺に向かって話しかけてきた。
「この前は助けていただき、誠にありがとうございますわ。折角ですので、この私とバトルなど如何ですか? 今日はなかなか楽しいバトルを堪能させてもらっていますけれど、貴方の実力も見てみたいものですわね」
「いや、マジ?」
「ええ。私は日本人ですので、マジなり今ぐらいは理解していますわよ。マジなので、早くやりましょう。今日こそ雌雄を決して差し上げますわ」
今日こそって、まだ対戦したことはないんだけどさ……。チラッとショップを見ると、笹錦さんが笑顔でサムズアップ。
くっそ、やるしかないか。
まあ、最近はここでしかバトってないから、たまには勝ち抜きバトルもありか。
「よし、それじゃあ俺が相手してやるよ」
対戦ボックスに移動して、パワーボックスから取り出したブレイザーをセット。
リストバンド型の制御用腕輪を装着して、バトルリング端末からのびているケーブルを制御用腕輪にセット‼︎
【魔導騎士セット。機体コードAT01ハルバード00021Mドール、ギアネーム・ブレイザー】
大型モニターに、ブレイザーと機体コードが表示される。すると、あちこちの観客から驚きと失笑が聞こえて来る。
Aナンバー、すなわちタイプ・オールインワン。
今の主流はMナンバー、マテリアルシリーズ。
つまり、俺のは古い旧型機ってわけで、悪かったな。
初期型テスト機のタイプ・ハルバードなのでAT01ハルバード。その後の五桁の数字が俺のドライバーコード、Mドールは男性人型って意味。
「うーむ。ザワザワしているなぁ……」
思わず腕を組んで考えていると、お嬢さんの機体の登録も完了した。
【魔導騎士セット。機体コードMD02478Fドール、ギアネーム・ブランシュ】
表示されているコードのうち、MDはマテリアルドライヴ・シリーズ。現在の市販タイプの一つ昔の機体。
02478はドライバーコードで、お嬢さんのパーソナルナンバー。大会などは、このナンバーで参加登録し管理される。
そしてFドールは、女性型を表していて、最後はギアネームと。
俺のナンバーよりも複雑だよなぁ。
「準備はOKかしら?」
「ああ、いくぜ、お嬢さん」
「わっ、私の名前は秋穂波紗香ですわ、では行きますわよ‼︎」
「「バトル、スタート‼︎」」
俺と紗香の掛け声と同時に、バトルリングが輝き、巨大なジオラマを形成する。
◾️◾️◾️◾️BATTLE START ■◾️◾️◾️
──ゴゥゥゥゥゥゥ
廃墟のビル群。
そこを風が抜けている。
今回のバトルステージは『廃墟のビル群』。
魔導騎士よりも高いビルが乱立しているステージで、相手の位置を把握するのが難しい。
制限時間ありのバトルなら、簡単に楽しめる闘技場ステージを選べばいいんだけど、勝ち抜きバトルの場合は、ランダムでステージが形成される。
「まあ、ビル群は初めてだけど、楽しませてもらいますか」
真っ直ぐに道路上を走るブレイザー。
センサーで敵の位置を把握したいところだが、妨害電波が発生しているらしく、視認確認しかできない。
「……これはまた、縛りが多いなぁ」
「そのようですわね‼︎」
──ガギィィィィーン
突然、上空からブランシュが降下して来る。
ビルの屋上からの急降下ドロップキックだが、そんなものは軽くかわして、右後ろ回し蹴りで迎撃する‼︎
──ドゴッ
必殺の一撃。
だが、それを前に転がって躱すと、ブランシュが高速で後退を始める。
──フゥォォォォォォォ
女性らしいフォルムのブランシュが、スカートから圧縮空気を噴き上げて下がる。
「スチームホバーシステム? スカートにかよ」
「おーっほっほっほっほっ。乙女のスカートには、秘密が一杯ですわ。貴方のブレイザーは近接型、ですが私のブランシュはオールマイティ。この距離では、手も足も出ませんわね?」
そう叫びながら、ブランシュは腰に装着してあった銃を引き抜いて構え、そして撃ち始める。
──ドゴォォォォォッ、ドゴォォォォォッ
両手のマグナムリボルバーを乱射しつつ、ブランシュはブレイザーとの間合いを一定に保ちつつ、攻撃を続けている。
「実弾兵器とはな。でも、装弾数六発なら、弾切れになったらおしまいだな」
高速で駆け出し、脚部スラスターを吹かして擬似ホバリングを始めるブレイザー。
だが、ブランシュは使用済みの銃を捨てることなく、エプロンドレスの前ポケットからスピードローダーを取り出して弾を装填した。
「な、なんなって‼︎ そんなのアリかよ」
「言い忘れましたわ、乙女のエプロンにも秘密は一杯ですわ」
「そりゃどうも‼︎」
──ドゴォォォォォッ、ドゴォォォォォッ
再び乱射して来るブランシュ。
だが、至近距離までは届くがブレイザーには着弾しない。
そのまま一気に加速して間合いを詰めると、右手のハルバードを力一杯横凪ぎに振り回す。
──ブゥン‼︎ ガギィィィィーン
だが、ブランシュはハルバードを軽くジャンプして避けると、真っ直ぐにブレイザーの頭部に右膝を打ち込んできた。
「言い忘れましたけど、私は、近接格闘も高いですわよ」
「あー、そうかそうか。どうりで、射撃は下手なわけだ」
「誘導ですわ、相手の虚を作るための攻撃ですわよ」
そう叫んでから、ブランシュは軽くスカートの左右を摘む。カーテジーに似た挨拶をしたかと思うと、突然の前蹴りが飛んでくる。
──ブゥン
それはサイドステップでかわしたが、さらに左回し蹴り、右後ろ回し蹴り、さらに着地しての右旋風脚と、次々と蹴り技が飛んでくる。
しかも、どれもかなり命中精度が高い。
ブレイザーも必死にかわすのがやっとで、反撃に出ることができない。
「さあさあ、楽しい|輪舞『ロンド》の時間ですわ」
前蹴り、回し蹴り、後ろ回し蹴り、旋風脚。
この4つのパターンを複雑な順番で、止まることなく繰り出して来る。
下がる一方でかわしていると、やがてバトルリングのデッドラインまで追い込まれてしまう。
魔導騎士の全身がここを越える
と、リングアウト負けとなる。
「仕方ないか、それじゃあ、やるか。|纏(てん)‼︎」
両腕を使って蹴りを捌く。
これまでの守りとは違い、責めるための守り。
腕と肘を巧みに回転させるように、攻撃を捌く。
『おおおおお‼︎』
すると、先ほどまでは紗香を応援していた観客も、ブレイザーの動きに驚き始める。
「な、なんですの、その技は‼︎」
「技って程じゃない。普通の受け技だよ。ほら、ブランシュの弱点を発見だ‼︎」
──ダン‼︎
回し蹴りを交わした直後、ブレイザーの方を向いたブランシュの背中に自分の背中を合わせるように回り込む。
これで体勢は横向き同士となり、リングアウトは免れる。
「な、なんですって? そんな避け方が」
「本当は、ここから一撃入れるんだけどな。|鳳凰双展翔(ほうおうそうてんしょう)っていう技なんだけど、ブランシュには、これが一番だろ?」
──ダン、ドゴォォォォォッ!
ブランシュの震脚、からの必殺技・鉄山靠。
まともにブランシュは正面で受けてしまい、後方に吹き飛ぶ。
だが、まだゲージは残っている。
「ま、まだまだで……え?」
片膝を突きながらも、まだ立ち上がろうとするブランシュ。
だが、正面に立っていたブランシュが、中腰になって両手で何かを作り出す。
──バジバジバジバジッ
それは魔力の塊。
両手を合わせて凝縮した魔力球を作り出すと、それを両手で力一杯撃ち込んできた‼︎
「魔導砲っ‼︎」
──ドゴォォォォォッ
その一撃で、勝敗は決した。
ブランシュのダメージゲージが振り切れ、ゲームオーバーとなる。
◾️◾️◾️◾️GAME OVER ■◾️◾️◾️
──ウォォォォォォォォ
喝采が響く。
勝負は俺の勝ちだけど、やっちまった。
急いでブレイザーを回収してパワーボックスに収めると、俺はメンテナンスルームに走っていく。
「ち!ちょっと待ちなさい、貴方が勝利者なのよ?」
「すまん、後の試合は棄権だ。急いでメンテしないとやばい‼︎」
秋穂波がまだ何か叫んでいるが、一切無視。
くっそ、魔導砲まで向かうとは思わなかったよ。
まだ、切り札としてとっておきたかったのに。
………
……
…
私、負けましたわ。
逆から読んでも、私、負けましたわ。
久しぶりの敗北です。
ちなみにこの前、学校で不良相手に負けたのはノーカンですわ、ノーカン。
発売前の追加装備システムを使われたら、勝てるものも勝てなくなりますわ。
つまり、フラゲしたアイテムで勝っても、自分の勝利ではない理論です。
わかりやすく言うとですね、『フラゲしたDMの最新弾パックで組んだデッキで大会に出て、スーパーコンボで勝利しても、公式大会はそれを認めない』ですわ。
それにしても、最後の技はなんでしょうか?
飛び道具を魔導騎士の腕に組み込んだとも思えませんし、ひょっとして、開発者の息子だから機体もチートであるとか?
それなら、さっきの試合は無効ですわ‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ふう。
危なくブレイザーの腕が壊れるところだったわ。
まだまだ魔導砲については、細かい調整の余地があるよなぁ。
とりあえずアルミ軽合金で補強と調節もしたので、あとはパワーボックス内での自動練金処理でおっけい。
喉が渇いたから、コーラでも買ってくるか。
──ガチャッ
扉を開くと、大勢の人だかり。
「さ、さっきの技はなんですか?」
「飛び道具? でも、あんな武器はないですよね?」
「教えてください‼︎」
などなど、質問の雨霰なんだが。
当然、魔導砲はシステムに則った技なんだよなぁ。
裏技でもチートでもない。
ただ、どれだけ魔導騎士を使い込んでいるかってところなんだよ。
そうすれば、『わざと用意されている』システムの抜け道に気がつくはずなんだよ?
「悪いな。あれは俺のオリジナルでね、教えるわけにはいかないんだ。それじゃあな」
メンテナンスルームをロックして、喫茶店に移動。
しっかし、本当に疲れるわ。
説明を求めてやってくる人たちが、じゃなくて、バトルご終わった後の疲労感が、洒落にならない。
──ズズズズズ
「試合後のコーラとずんだ餅、美味ぇ‼︎」
疲労を取るのは甘いもの。
そしてコーラ。
「しかし、ブランシュか。なかなかいい動きだったけど、まだまだ改良の余地はあるよなぁ」
「へぇ、私のブランシュのどこに改造の余地があるのか、教えてもらえますか?」
──ゴゴゴゴゴ
うん。
背後から、嫌な予感と秋穂波さんの声が聞こえる。
恐る恐る振り向くと、般若のような顔をした秋穂波が立っていた。
「それに、最後の技。あんなことは、市販機では無理ですわよね? どのようなチートを使ったのですか?」
「チートねぇ。システム的にも内蔵されていて、ただ使い方をみんなが理解していない技だから、チートでもなんでもねーよ。その気になれば、あんたのブランシュでもできるわ」
「ふぅん。なら、やって見せてみなさいよ」
「上等だ、それで納得するんなら、貸してみろって‼︎」
やっべ、またやっちまった。
売り言葉に買い言葉じゃないが、また余計な厄介ごとを抱え込んだような気がするぞ……。
学校では連日、曙顧問の誘いを断りまくり、学校にいてもやることがないので真っ直ぐに帰宅。
札幌駅高架下にある『コロシアムセンター』に通っている。
ちなみにコロシアムセンターは、ゴーレムファクトリーが業務提携しているツクダサーガの直営店であり、フリー対戦が可能なバトルリングが十台も設置されているアミューズメントである。
さらにゴーレムファクトリー直営ショップや喫茶店、メンテナンスルームなども併設されており、魔導騎士を駆る魔導騎士操縦者にとっての聖地、憩いの地、戦場となっている。
よし、解説終わり‼︎
………
……
…
「はっはっはっ。銀河は今日も暇そうでござるなぁ」
段ボールから入荷したばかりの改造キットを取り出しながら、笹錦おじさんが笑っている。
親父の会社の社員の一人で、今はゴーレムファクトリー札幌駅前店の店長を務めている。
「暇っていうか、なんていうか。対戦相手がいなくてなぁ。おじさん、暇になったら相手してくれるか?」
「それは構わんでござるが。手加減はできないでござるよ?」
「むしろ、本気で相手してくれないとなぁ。そんじゃ、バトル申請してくるわ」
「まあ、今日は混んでいるから、のんびりとしているでござるよ」
笹錦さんと俺のバトルだけど、申請はどちらか一人で十分。
とっとと店内にある端末を使ってバトル申請をすると、あとはのんびりと見学。
老若男女問わず、いつでも楽しくバトルができるとあって、なかなか順番が来ない。
すると、店内の一角、三番リングが騒然としている。
──ドゴォォォォォッ
「「「「うぉぉぉぉぁぉぉぉぉ‼︎」」」」
「「「さすがですクィーン‼︎」」」
どうやら常連客が、『勝ち抜きバトル』をやっているらしい。
負け抜け式で、参加費を支払うと『負けるまで』は何度でもバトルができる。
腕に自信のある操縦者なら、参加費だけでかなり遊べてしまう。
──バサッ‼︎
クィーンと呼ばれた女性が、最新型のコントロールヘルムを外して髪をかき上げている。
「おーーーっほっほっほっほっ。まだ私の『ブランシュ』と戦うなんて、十年早いですわ、出直していらっしゃい‼︎」
あ、生徒会長のなんとか先輩だ。
触らぬ神に祟りなし、嫌な予感がするからショップにでも逃げるとするか。
そのまま戦略的撤退を敢行するのだが、変にコソコソしていたのか、あっさりと見つかった。
「そこの貴方….どこかで見たことが……あ?」
「や、やあ。生徒会長にはごきげん麗しく、それでは失礼しまう」
やべ、噛んだ。
そのまま逃げようとしたけれど、ダメだったわ。
──バサッ‼︎
どこからともなく扇子を取り出して開くと、俺に向かって話しかけてきた。
「この前は助けていただき、誠にありがとうございますわ。折角ですので、この私とバトルなど如何ですか? 今日はなかなか楽しいバトルを堪能させてもらっていますけれど、貴方の実力も見てみたいものですわね」
「いや、マジ?」
「ええ。私は日本人ですので、マジなり今ぐらいは理解していますわよ。マジなので、早くやりましょう。今日こそ雌雄を決して差し上げますわ」
今日こそって、まだ対戦したことはないんだけどさ……。チラッとショップを見ると、笹錦さんが笑顔でサムズアップ。
くっそ、やるしかないか。
まあ、最近はここでしかバトってないから、たまには勝ち抜きバトルもありか。
「よし、それじゃあ俺が相手してやるよ」
対戦ボックスに移動して、パワーボックスから取り出したブレイザーをセット。
リストバンド型の制御用腕輪を装着して、バトルリング端末からのびているケーブルを制御用腕輪にセット‼︎
【魔導騎士セット。機体コードAT01ハルバード00021Mドール、ギアネーム・ブレイザー】
大型モニターに、ブレイザーと機体コードが表示される。すると、あちこちの観客から驚きと失笑が聞こえて来る。
Aナンバー、すなわちタイプ・オールインワン。
今の主流はMナンバー、マテリアルシリーズ。
つまり、俺のは古い旧型機ってわけで、悪かったな。
初期型テスト機のタイプ・ハルバードなのでAT01ハルバード。その後の五桁の数字が俺のドライバーコード、Mドールは男性人型って意味。
「うーむ。ザワザワしているなぁ……」
思わず腕を組んで考えていると、お嬢さんの機体の登録も完了した。
【魔導騎士セット。機体コードMD02478Fドール、ギアネーム・ブランシュ】
表示されているコードのうち、MDはマテリアルドライヴ・シリーズ。現在の市販タイプの一つ昔の機体。
02478はドライバーコードで、お嬢さんのパーソナルナンバー。大会などは、このナンバーで参加登録し管理される。
そしてFドールは、女性型を表していて、最後はギアネームと。
俺のナンバーよりも複雑だよなぁ。
「準備はOKかしら?」
「ああ、いくぜ、お嬢さん」
「わっ、私の名前は秋穂波紗香ですわ、では行きますわよ‼︎」
「「バトル、スタート‼︎」」
俺と紗香の掛け声と同時に、バトルリングが輝き、巨大なジオラマを形成する。
◾️◾️◾️◾️BATTLE START ■◾️◾️◾️
──ゴゥゥゥゥゥゥ
廃墟のビル群。
そこを風が抜けている。
今回のバトルステージは『廃墟のビル群』。
魔導騎士よりも高いビルが乱立しているステージで、相手の位置を把握するのが難しい。
制限時間ありのバトルなら、簡単に楽しめる闘技場ステージを選べばいいんだけど、勝ち抜きバトルの場合は、ランダムでステージが形成される。
「まあ、ビル群は初めてだけど、楽しませてもらいますか」
真っ直ぐに道路上を走るブレイザー。
センサーで敵の位置を把握したいところだが、妨害電波が発生しているらしく、視認確認しかできない。
「……これはまた、縛りが多いなぁ」
「そのようですわね‼︎」
──ガギィィィィーン
突然、上空からブランシュが降下して来る。
ビルの屋上からの急降下ドロップキックだが、そんなものは軽くかわして、右後ろ回し蹴りで迎撃する‼︎
──ドゴッ
必殺の一撃。
だが、それを前に転がって躱すと、ブランシュが高速で後退を始める。
──フゥォォォォォォォ
女性らしいフォルムのブランシュが、スカートから圧縮空気を噴き上げて下がる。
「スチームホバーシステム? スカートにかよ」
「おーっほっほっほっほっ。乙女のスカートには、秘密が一杯ですわ。貴方のブレイザーは近接型、ですが私のブランシュはオールマイティ。この距離では、手も足も出ませんわね?」
そう叫びながら、ブランシュは腰に装着してあった銃を引き抜いて構え、そして撃ち始める。
──ドゴォォォォォッ、ドゴォォォォォッ
両手のマグナムリボルバーを乱射しつつ、ブランシュはブレイザーとの間合いを一定に保ちつつ、攻撃を続けている。
「実弾兵器とはな。でも、装弾数六発なら、弾切れになったらおしまいだな」
高速で駆け出し、脚部スラスターを吹かして擬似ホバリングを始めるブレイザー。
だが、ブランシュは使用済みの銃を捨てることなく、エプロンドレスの前ポケットからスピードローダーを取り出して弾を装填した。
「な、なんなって‼︎ そんなのアリかよ」
「言い忘れましたわ、乙女のエプロンにも秘密は一杯ですわ」
「そりゃどうも‼︎」
──ドゴォォォォォッ、ドゴォォォォォッ
再び乱射して来るブランシュ。
だが、至近距離までは届くがブレイザーには着弾しない。
そのまま一気に加速して間合いを詰めると、右手のハルバードを力一杯横凪ぎに振り回す。
──ブゥン‼︎ ガギィィィィーン
だが、ブランシュはハルバードを軽くジャンプして避けると、真っ直ぐにブレイザーの頭部に右膝を打ち込んできた。
「言い忘れましたけど、私は、近接格闘も高いですわよ」
「あー、そうかそうか。どうりで、射撃は下手なわけだ」
「誘導ですわ、相手の虚を作るための攻撃ですわよ」
そう叫んでから、ブランシュは軽くスカートの左右を摘む。カーテジーに似た挨拶をしたかと思うと、突然の前蹴りが飛んでくる。
──ブゥン
それはサイドステップでかわしたが、さらに左回し蹴り、右後ろ回し蹴り、さらに着地しての右旋風脚と、次々と蹴り技が飛んでくる。
しかも、どれもかなり命中精度が高い。
ブレイザーも必死にかわすのがやっとで、反撃に出ることができない。
「さあさあ、楽しい|輪舞『ロンド》の時間ですわ」
前蹴り、回し蹴り、後ろ回し蹴り、旋風脚。
この4つのパターンを複雑な順番で、止まることなく繰り出して来る。
下がる一方でかわしていると、やがてバトルリングのデッドラインまで追い込まれてしまう。
魔導騎士の全身がここを越える
と、リングアウト負けとなる。
「仕方ないか、それじゃあ、やるか。|纏(てん)‼︎」
両腕を使って蹴りを捌く。
これまでの守りとは違い、責めるための守り。
腕と肘を巧みに回転させるように、攻撃を捌く。
『おおおおお‼︎』
すると、先ほどまでは紗香を応援していた観客も、ブレイザーの動きに驚き始める。
「な、なんですの、その技は‼︎」
「技って程じゃない。普通の受け技だよ。ほら、ブランシュの弱点を発見だ‼︎」
──ダン‼︎
回し蹴りを交わした直後、ブレイザーの方を向いたブランシュの背中に自分の背中を合わせるように回り込む。
これで体勢は横向き同士となり、リングアウトは免れる。
「な、なんですって? そんな避け方が」
「本当は、ここから一撃入れるんだけどな。|鳳凰双展翔(ほうおうそうてんしょう)っていう技なんだけど、ブランシュには、これが一番だろ?」
──ダン、ドゴォォォォォッ!
ブランシュの震脚、からの必殺技・鉄山靠。
まともにブランシュは正面で受けてしまい、後方に吹き飛ぶ。
だが、まだゲージは残っている。
「ま、まだまだで……え?」
片膝を突きながらも、まだ立ち上がろうとするブランシュ。
だが、正面に立っていたブランシュが、中腰になって両手で何かを作り出す。
──バジバジバジバジッ
それは魔力の塊。
両手を合わせて凝縮した魔力球を作り出すと、それを両手で力一杯撃ち込んできた‼︎
「魔導砲っ‼︎」
──ドゴォォォォォッ
その一撃で、勝敗は決した。
ブランシュのダメージゲージが振り切れ、ゲームオーバーとなる。
◾️◾️◾️◾️GAME OVER ■◾️◾️◾️
──ウォォォォォォォォ
喝采が響く。
勝負は俺の勝ちだけど、やっちまった。
急いでブレイザーを回収してパワーボックスに収めると、俺はメンテナンスルームに走っていく。
「ち!ちょっと待ちなさい、貴方が勝利者なのよ?」
「すまん、後の試合は棄権だ。急いでメンテしないとやばい‼︎」
秋穂波がまだ何か叫んでいるが、一切無視。
くっそ、魔導砲まで向かうとは思わなかったよ。
まだ、切り札としてとっておきたかったのに。
………
……
…
私、負けましたわ。
逆から読んでも、私、負けましたわ。
久しぶりの敗北です。
ちなみにこの前、学校で不良相手に負けたのはノーカンですわ、ノーカン。
発売前の追加装備システムを使われたら、勝てるものも勝てなくなりますわ。
つまり、フラゲしたアイテムで勝っても、自分の勝利ではない理論です。
わかりやすく言うとですね、『フラゲしたDMの最新弾パックで組んだデッキで大会に出て、スーパーコンボで勝利しても、公式大会はそれを認めない』ですわ。
それにしても、最後の技はなんでしょうか?
飛び道具を魔導騎士の腕に組み込んだとも思えませんし、ひょっとして、開発者の息子だから機体もチートであるとか?
それなら、さっきの試合は無効ですわ‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ふう。
危なくブレイザーの腕が壊れるところだったわ。
まだまだ魔導砲については、細かい調整の余地があるよなぁ。
とりあえずアルミ軽合金で補強と調節もしたので、あとはパワーボックス内での自動練金処理でおっけい。
喉が渇いたから、コーラでも買ってくるか。
──ガチャッ
扉を開くと、大勢の人だかり。
「さ、さっきの技はなんですか?」
「飛び道具? でも、あんな武器はないですよね?」
「教えてください‼︎」
などなど、質問の雨霰なんだが。
当然、魔導砲はシステムに則った技なんだよなぁ。
裏技でもチートでもない。
ただ、どれだけ魔導騎士を使い込んでいるかってところなんだよ。
そうすれば、『わざと用意されている』システムの抜け道に気がつくはずなんだよ?
「悪いな。あれは俺のオリジナルでね、教えるわけにはいかないんだ。それじゃあな」
メンテナンスルームをロックして、喫茶店に移動。
しっかし、本当に疲れるわ。
説明を求めてやってくる人たちが、じゃなくて、バトルご終わった後の疲労感が、洒落にならない。
──ズズズズズ
「試合後のコーラとずんだ餅、美味ぇ‼︎」
疲労を取るのは甘いもの。
そしてコーラ。
「しかし、ブランシュか。なかなかいい動きだったけど、まだまだ改良の余地はあるよなぁ」
「へぇ、私のブランシュのどこに改造の余地があるのか、教えてもらえますか?」
──ゴゴゴゴゴ
うん。
背後から、嫌な予感と秋穂波さんの声が聞こえる。
恐る恐る振り向くと、般若のような顔をした秋穂波が立っていた。
「それに、最後の技。あんなことは、市販機では無理ですわよね? どのようなチートを使ったのですか?」
「チートねぇ。システム的にも内蔵されていて、ただ使い方をみんなが理解していない技だから、チートでもなんでもねーよ。その気になれば、あんたのブランシュでもできるわ」
「ふぅん。なら、やって見せてみなさいよ」
「上等だ、それで納得するんなら、貸してみろって‼︎」
やっべ、またやっちまった。
売り言葉に買い言葉じゃないが、また余計な厄介ごとを抱え込んだような気がするぞ……。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる