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第十一話・破壊されたのは、なんですか?
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千歳発東京行きの飛行機は、16時20分に羽田空港に到着した。
「早くこれを届けないと……」
亀尾は急いでタクシーを拾うと、真っ直ぐに会社へと向かった。バスやJRを待っている時間が惜しい、とにかく急いで本社に戻らなくてはならないという思いだけが、今の彼を動かしている。
亀尾の鞄の中には、盗み出した魔導騎士が入っている。
急いで会社に戻って、山田開発部長にこれを渡さないとならないという焦る気持ちを、どうにか必死に抑えようとしていたが。
彼がやったことは犯罪。
それも、開発中の商品を盗み出すという、表沙汰になったが最後、メーカーが大打撃を受けるのは必須である。
「これを渡すだけ。そうすれば、あとの窓口は山田開発部長になる。言い訳は大丈夫、あとは部長に任せるだけ……」
まるで念仏を唱えるかのように、亀尾はブツブツとかばんを抱えて呟いている。
そしてバンライズ本社に到着したのが、17時15分。
少し道が混雑していたのでこの時間になってしまったのだが、亀尾は運転手に一万円を渡して釣りはいらないと叫ぶと、急いでビルの中に飛び込んだ。
まだ17時半まえなら、山田開発部長は退社していないはず。
ここまで来ると慌てず騒がず、亀尾は山田開発部長のいるフロアへと向かったのである。
………
……
…
──チン
フロアに到着して山田開発部長のオフィスに向かう。
ちょうど帰宅準備を終えた山田が出てくると、山田は亀尾をチラリと見る。
「おや、亀尾じゃないか。今日はこれで帰るのだが、何か吉報があるのなら聞こうじゃないか」
「ハァハァハァハァ……こ、これが、ゴーレムファクトリーの魔導騎士です。この腕輪が送信機です」
急いでカバンから魔導騎士を取り出すと、亀尾は腕に送信機をつけて操作する。
──キュィン
すると、魔導騎士タイプ・ソードマスターは静かな音を立てて動き出すと、ジャンプして亀尾の肩に飛び乗った。
5時までしか魔力は持たないことを、亀尾は知らない。それ以降は紙屑となるのだが、それは子供達が遊んでいたことが前提の条件。
亀尾のように、ずっとカバンの中に隠してあったのなら、魔導核の中の魔力が自然消耗するまでには時間が掛かるのである。
「こ、これがそうなのか‼︎ 亀尾くん、これは私にも扱えるのか?」
「残念ながら、登録の変更などは専用のオペレーターしかできません。ですが、私が登録されていますから、私の自由に扱うことができます」
「でかしたぞ‼︎ 明日、いや、今すぐに開発部に向かうぞ、ついてきたまえ‼︎」
「はいっ‼︎」
急いでエレベーターに乗ると、開発部のあるフロアに向かう。
そしてまだ居残りで研究を続けている社員のもとに向かうと、山田開発部長は亀尾が持ち帰った魔導騎士を机の上に置いた。
──ゴン
「山田部長、それって、まさかの魔導騎士ですか?」
「うむ。ちょっとツテがあってだね、亀尾くんに受け取ってもらって来たのだよ。亀尾くん、動作を頼む」
「了解です」
すぐさま魔導騎士を稼働させる。
先ほどよりも動きが鈍いように亀尾は感じたが、今はデモンストレーションを行わなくてはならない。
普通に人間の動きを真似したり、映画のアクションよ空手の型を試したり。
その一挙一投足をカメラで録画しながら、開発部の研究員たちは、その動きをじっと眺めている。
「明日からは、この魔導騎士を解析してくれたまえ。できるなら夏までに、東京ゲームショウまでには我がバンライズ製の魔導騎士、いや、機動騎士と名付けよう‼︎ それを発表する」
大見得を切る山田。
それに研究員たちは瞳を輝かせている。
彼らには悪意も何も無い、純粋に開発畑の人間なので、初めて見る魔導騎士のシステムに興味津々なだけである。
「それじゃあ、これは外して預けておきます。今のところ動かせるのは俺だけですので、明日からは、開発部で手伝います‼︎」
「よく言った‼︎ 君がいてくれるなら、我が社は安泰だ‼︎ よし、今日は私の奢りだ、ここにいる開発部社員で飲みに行こうではないか‼︎」
──ドッ‼︎
一気に盛り上がる開発部社員。
そして魔導騎士は厳重にケースに収めてからロッカーに仕舞い込まれる。
その日、亀尾は、生まれて初めて美味い酒を飲んだ。
楽しかった。
これで、自分は主任に昇格する。
これから、明るい薔薇色の生活が始まると、信じていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
体験会翌日。
悠は、最後のチェックを行なっている。
完成した素体の動作安全テスト、人に向かって攻撃した場合の安全装置の作動テスト、この二つを終わらせることで、商品化のためのテストは終わる。
「……津軽、伊達。対人テストなんだから、そこで魔導騎士同士で闘わせるなって」
アルバイトの津軽と伊達には、朝から対人テストを行ってもらっていたのだが、また何か言い争って魔導騎士で決着をつけようとしている。
「止めるな十六夜。男には、やらねばならぬ時がある」
「いくら十六夜でも、男同士の決闘に口出しは無用だ」
「まあ、構わんよ。午前中のバイト代は無しな……」
「津軽、対人テストだ‼︎」
「任せろ、だからバイト代はよろしく頼む‼︎」
相変わらずのノリである。
笹錦は午前中は配達があるらしく、夕方からなら参加できるらしい。
まあ、それまでにある程度の目処は立てた方がいいだろう。
「せや、社長。魔導騎士の発表は、いつ、どこでやるん?」
「秋の東京ゲームショウ……と思ったけど、それより前には公表する。夏、コミケ前には公開するよ」
「そんじゃ、そのタイミングに合わせて、札幌市内の放送局関係に手紙を出しておくわ。発表会の日時が決まったら、教えてや」
「了解。なるべく早くスケジュールを組み込むよ。あと、プロモーションビデオも作るから」
対人動作チェックをやりつつ、スケジュールを考える。
秋の東京ゲームショウにも参戦したいところだし、夏前には公開したい。
しかし、プロモーションビデオか。
自分で話したのは良いのだが、何処かに映像関係に詳しい知り合いが……。
「いたなぁ。個人で動画撮るのが趣味のVtuberが」
「ん? 俺のことか?」
津軽三郎太。
Vtuber名は『小豆三太郎』、ゲーム関係の配信をしているから、意外といけるか?
「なぁ津軽、魔導騎士のプロモーション動画って作れるか?」
「ん? どれぐらいの時間で?」
「夏前には欲しいところだな。予算100万でいけるか?」
「魔導騎士の貸し出し、バトルリングも使う。カメラや機材は俺のを使うから構わんし、暇人の伊達が手伝ってくれるなら、間に合わせてやるよ」
「よし、それで良いから頼む。必要機材や魔導騎士の貸し出しについては、綾姫を通してくれると大丈夫だ。綾姫、今の話は聞いていたな?」
そう綾姫に問いかけると、両手を握ってフンスとガッツポーズ。
「お任せください。津軽さん、伊達さん、プロモーションビデオ撮影についてのサポートを担当しますので、よろしくお願いします」
「綾姫さんが手伝ってくれるなら100人力だな」
「そんじゃ、簡単な企画書とコンテを切って持ってくるわ。三日でコンテまで上げてやるから待ってろ」
「三日? 化け物か?」
「まあ、散々、魔導騎士で遊んでたからさ、こいつで動画を撮りたいなあって思っていたんだよ」
それは力強い。
あとは口出ししないで任せておくか。
俺は、こっちに専念すれば良いだけになったし、気が楽だよ。
──バギ‼︎
「うおぁぁぁぁ」
突然の伊勢の悲鳴。
何があったのかと慌ててみると、砕け散ったスマホが転がっている。
「……何があったんだ?」
「いや、なんやら電話が来てたみたいだから、びりけん1号に持って来させたら、うっかりパワーあげて破壊してもた.…」
「うん、乙。この時間だと、近所のショップは閉まっているから、明日だな」
「社長、魔導スマホ作らへんか?」
「電波法違反になるから、ダメだな」
惜しい。
そういう手もあるなぁと思ったけど、今は魔導騎士が優先な。
一段落したら、スマホ事業に突撃するのもありなのかな。
………
……
…
翌朝。
伊勢が電話越しに喧嘩をしている。
「だ、か、ら、な。うちは知らんわ。勝手に持っていって、俺の運命が掛かっているから魔導騎士を寄越せって、あんたアホか? 死ね」
──プッッ
それだけを叫んで、伊勢がスマホを切った。
「朝っぱらから穏やかじゃないな。何があったんだ?」
「ほら、一昨日の体験会で、ペーパーギアを勝手に持って帰ったアホいるやろ。会社に持っていって解析しようとしたら、昨日の朝には動かなくなってしもたらしくてな。もう一騎、なんとしても手に入れろって言われたらしくてな」
「それで泣きついてきたのか。本当に懲りない性格しているな」
「せやな。警察行った方が良いんとちゃうか?」
「無視していいよ。次に電話きたら、しつこくするなら警察に連絡するって脅して構わないよ」
持っていった魔導騎士は所詮は紙だし、解析なんてできるはずがないから気にすることもない。
でも、本当にしつこかったら訴えて良いレベルだけど、こっちも発表前だから、あまり波風立てたくはないからなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──プッッ
伊勢が電話を切ると、亀尾は絶望感に襲われた。
先日の朝。
二日酔いをどうにか耐え切り、出社して開発部に向かったまでは良かったものの、解析班に頼まれて魔導騎士を動かそうとしたが、うんともすんともいわなくなっていた。
「え? なんで?」
「おいおい、亀尾さん、早く頼みますよ」
「ちょっと待ってください。おい、早く動けよ‼︎」
腕輪に話しかけても、全く動く気配がない。
それどころか、昨日の夕方に動けよデモンストレーションしていたときは、魔導騎士本体も腕輪ももっと硬かったはず。
それなのに、今は、普通の紙細工のようにふにゃふにゃである。
「おはよう諸君。どうかね調子は?」
「あ、部長、おはようございます。実は……」
研究員の一人が、現在の状況を説明する。
それを聞いていた山田部長の顔が険悪になるが、怒鳴り散らしたりはしない。
「ふん、まあ、動かないのなら仕方がない。バラして調べられるか?」
「やってみます」
「午後には一報いれてくれ、亀尾、君も協力したまえよ」
それだけを伝えて、山田部長は開発部から出ていく。
その後の細かい調査では、亀尾が持ち帰った魔導騎士の中には。サーボもメタルフレームも何もなく、制御システムもどこにもなかった。
分厚い紙細工の人形に、ビー玉が二つとサイコロが一つだけ埋め込まれていたのである。
「……誰かがすり替えたんじゃねえか?」
「可能性はあるよな。この紙もビー玉も、普通に売っているものだし。こんなものが動くはずがないからなぁ」
「亀尾、これって、前からこんな感じなのか?」
そう問いかけられると、ふと、疑問が頭をよぎる。
いつもの体験会は、普通のメタルフレームの機体を使っていた。
だが、亀尾が盗み出した日は、紙で作ったとか適当なことを話していた。
「まさかとは思いますが、すり替えられていた可能性があります」
俺が盗むことを見越して、とは口が裂けても言えない。だけど、それを研究員が部長に報告した。
そして午後には、俺は山田部長のオフィスに呼び出された。
「亀尾、開発部からの報告では、あれは紙屑とビー玉が集まったものじゃないか。昨日動かした本物、お前が隠したのか?」
「まさか。一昨日、研究員がケースに入れて保管していましたよね? 俺は手をつけていませんし、その場には部長もいましたよね?」
「まあ、な。となると、何者かが侵入して盗み出したか、もしくは研究員が他社に売り飛ばした可能性があるか……別部署で解析した方が無難だが、あれはもう手元にはない」
嫌な予感しかしない。
まさか、また盗んでこいと?
「なあ、亀尾。もう一度、北海道に行ってこい。もう一機必要なのは、理解できるよな」
「ですが、俺は顔を覚えられています」
「ふうむ。そうなると、顔がばれていないやつを飛ばした方がいいか。伊勢でもいれば、やつにやらせてもよかったんだが」
伊勢さん?
そうだよ、伊勢さんがいたよ。
「部長、明日の朝までお待ちください。一人だけ、心当たりがあります」
「ほう? それなら明日まで待つとしようじゃないか」
山田部長との話を終えて、亀尾はスマホで朝に連絡しようとした。
だが、今度は伊勢の電話が繋がらない。
一瞬繋がったような気がしたが、そのあとは、電源が入っていないというメッセージが流れてくる。
頼むよ伊勢。
俺の出世は、お前にかかっているんだからさ。
「早くこれを届けないと……」
亀尾は急いでタクシーを拾うと、真っ直ぐに会社へと向かった。バスやJRを待っている時間が惜しい、とにかく急いで本社に戻らなくてはならないという思いだけが、今の彼を動かしている。
亀尾の鞄の中には、盗み出した魔導騎士が入っている。
急いで会社に戻って、山田開発部長にこれを渡さないとならないという焦る気持ちを、どうにか必死に抑えようとしていたが。
彼がやったことは犯罪。
それも、開発中の商品を盗み出すという、表沙汰になったが最後、メーカーが大打撃を受けるのは必須である。
「これを渡すだけ。そうすれば、あとの窓口は山田開発部長になる。言い訳は大丈夫、あとは部長に任せるだけ……」
まるで念仏を唱えるかのように、亀尾はブツブツとかばんを抱えて呟いている。
そしてバンライズ本社に到着したのが、17時15分。
少し道が混雑していたのでこの時間になってしまったのだが、亀尾は運転手に一万円を渡して釣りはいらないと叫ぶと、急いでビルの中に飛び込んだ。
まだ17時半まえなら、山田開発部長は退社していないはず。
ここまで来ると慌てず騒がず、亀尾は山田開発部長のいるフロアへと向かったのである。
………
……
…
──チン
フロアに到着して山田開発部長のオフィスに向かう。
ちょうど帰宅準備を終えた山田が出てくると、山田は亀尾をチラリと見る。
「おや、亀尾じゃないか。今日はこれで帰るのだが、何か吉報があるのなら聞こうじゃないか」
「ハァハァハァハァ……こ、これが、ゴーレムファクトリーの魔導騎士です。この腕輪が送信機です」
急いでカバンから魔導騎士を取り出すと、亀尾は腕に送信機をつけて操作する。
──キュィン
すると、魔導騎士タイプ・ソードマスターは静かな音を立てて動き出すと、ジャンプして亀尾の肩に飛び乗った。
5時までしか魔力は持たないことを、亀尾は知らない。それ以降は紙屑となるのだが、それは子供達が遊んでいたことが前提の条件。
亀尾のように、ずっとカバンの中に隠してあったのなら、魔導核の中の魔力が自然消耗するまでには時間が掛かるのである。
「こ、これがそうなのか‼︎ 亀尾くん、これは私にも扱えるのか?」
「残念ながら、登録の変更などは専用のオペレーターしかできません。ですが、私が登録されていますから、私の自由に扱うことができます」
「でかしたぞ‼︎ 明日、いや、今すぐに開発部に向かうぞ、ついてきたまえ‼︎」
「はいっ‼︎」
急いでエレベーターに乗ると、開発部のあるフロアに向かう。
そしてまだ居残りで研究を続けている社員のもとに向かうと、山田開発部長は亀尾が持ち帰った魔導騎士を机の上に置いた。
──ゴン
「山田部長、それって、まさかの魔導騎士ですか?」
「うむ。ちょっとツテがあってだね、亀尾くんに受け取ってもらって来たのだよ。亀尾くん、動作を頼む」
「了解です」
すぐさま魔導騎士を稼働させる。
先ほどよりも動きが鈍いように亀尾は感じたが、今はデモンストレーションを行わなくてはならない。
普通に人間の動きを真似したり、映画のアクションよ空手の型を試したり。
その一挙一投足をカメラで録画しながら、開発部の研究員たちは、その動きをじっと眺めている。
「明日からは、この魔導騎士を解析してくれたまえ。できるなら夏までに、東京ゲームショウまでには我がバンライズ製の魔導騎士、いや、機動騎士と名付けよう‼︎ それを発表する」
大見得を切る山田。
それに研究員たちは瞳を輝かせている。
彼らには悪意も何も無い、純粋に開発畑の人間なので、初めて見る魔導騎士のシステムに興味津々なだけである。
「それじゃあ、これは外して預けておきます。今のところ動かせるのは俺だけですので、明日からは、開発部で手伝います‼︎」
「よく言った‼︎ 君がいてくれるなら、我が社は安泰だ‼︎ よし、今日は私の奢りだ、ここにいる開発部社員で飲みに行こうではないか‼︎」
──ドッ‼︎
一気に盛り上がる開発部社員。
そして魔導騎士は厳重にケースに収めてからロッカーに仕舞い込まれる。
その日、亀尾は、生まれて初めて美味い酒を飲んだ。
楽しかった。
これで、自分は主任に昇格する。
これから、明るい薔薇色の生活が始まると、信じていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
体験会翌日。
悠は、最後のチェックを行なっている。
完成した素体の動作安全テスト、人に向かって攻撃した場合の安全装置の作動テスト、この二つを終わらせることで、商品化のためのテストは終わる。
「……津軽、伊達。対人テストなんだから、そこで魔導騎士同士で闘わせるなって」
アルバイトの津軽と伊達には、朝から対人テストを行ってもらっていたのだが、また何か言い争って魔導騎士で決着をつけようとしている。
「止めるな十六夜。男には、やらねばならぬ時がある」
「いくら十六夜でも、男同士の決闘に口出しは無用だ」
「まあ、構わんよ。午前中のバイト代は無しな……」
「津軽、対人テストだ‼︎」
「任せろ、だからバイト代はよろしく頼む‼︎」
相変わらずのノリである。
笹錦は午前中は配達があるらしく、夕方からなら参加できるらしい。
まあ、それまでにある程度の目処は立てた方がいいだろう。
「せや、社長。魔導騎士の発表は、いつ、どこでやるん?」
「秋の東京ゲームショウ……と思ったけど、それより前には公表する。夏、コミケ前には公開するよ」
「そんじゃ、そのタイミングに合わせて、札幌市内の放送局関係に手紙を出しておくわ。発表会の日時が決まったら、教えてや」
「了解。なるべく早くスケジュールを組み込むよ。あと、プロモーションビデオも作るから」
対人動作チェックをやりつつ、スケジュールを考える。
秋の東京ゲームショウにも参戦したいところだし、夏前には公開したい。
しかし、プロモーションビデオか。
自分で話したのは良いのだが、何処かに映像関係に詳しい知り合いが……。
「いたなぁ。個人で動画撮るのが趣味のVtuberが」
「ん? 俺のことか?」
津軽三郎太。
Vtuber名は『小豆三太郎』、ゲーム関係の配信をしているから、意外といけるか?
「なぁ津軽、魔導騎士のプロモーション動画って作れるか?」
「ん? どれぐらいの時間で?」
「夏前には欲しいところだな。予算100万でいけるか?」
「魔導騎士の貸し出し、バトルリングも使う。カメラや機材は俺のを使うから構わんし、暇人の伊達が手伝ってくれるなら、間に合わせてやるよ」
「よし、それで良いから頼む。必要機材や魔導騎士の貸し出しについては、綾姫を通してくれると大丈夫だ。綾姫、今の話は聞いていたな?」
そう綾姫に問いかけると、両手を握ってフンスとガッツポーズ。
「お任せください。津軽さん、伊達さん、プロモーションビデオ撮影についてのサポートを担当しますので、よろしくお願いします」
「綾姫さんが手伝ってくれるなら100人力だな」
「そんじゃ、簡単な企画書とコンテを切って持ってくるわ。三日でコンテまで上げてやるから待ってろ」
「三日? 化け物か?」
「まあ、散々、魔導騎士で遊んでたからさ、こいつで動画を撮りたいなあって思っていたんだよ」
それは力強い。
あとは口出ししないで任せておくか。
俺は、こっちに専念すれば良いだけになったし、気が楽だよ。
──バギ‼︎
「うおぁぁぁぁ」
突然の伊勢の悲鳴。
何があったのかと慌ててみると、砕け散ったスマホが転がっている。
「……何があったんだ?」
「いや、なんやら電話が来てたみたいだから、びりけん1号に持って来させたら、うっかりパワーあげて破壊してもた.…」
「うん、乙。この時間だと、近所のショップは閉まっているから、明日だな」
「社長、魔導スマホ作らへんか?」
「電波法違反になるから、ダメだな」
惜しい。
そういう手もあるなぁと思ったけど、今は魔導騎士が優先な。
一段落したら、スマホ事業に突撃するのもありなのかな。
………
……
…
翌朝。
伊勢が電話越しに喧嘩をしている。
「だ、か、ら、な。うちは知らんわ。勝手に持っていって、俺の運命が掛かっているから魔導騎士を寄越せって、あんたアホか? 死ね」
──プッッ
それだけを叫んで、伊勢がスマホを切った。
「朝っぱらから穏やかじゃないな。何があったんだ?」
「ほら、一昨日の体験会で、ペーパーギアを勝手に持って帰ったアホいるやろ。会社に持っていって解析しようとしたら、昨日の朝には動かなくなってしもたらしくてな。もう一騎、なんとしても手に入れろって言われたらしくてな」
「それで泣きついてきたのか。本当に懲りない性格しているな」
「せやな。警察行った方が良いんとちゃうか?」
「無視していいよ。次に電話きたら、しつこくするなら警察に連絡するって脅して構わないよ」
持っていった魔導騎士は所詮は紙だし、解析なんてできるはずがないから気にすることもない。
でも、本当にしつこかったら訴えて良いレベルだけど、こっちも発表前だから、あまり波風立てたくはないからなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──プッッ
伊勢が電話を切ると、亀尾は絶望感に襲われた。
先日の朝。
二日酔いをどうにか耐え切り、出社して開発部に向かったまでは良かったものの、解析班に頼まれて魔導騎士を動かそうとしたが、うんともすんともいわなくなっていた。
「え? なんで?」
「おいおい、亀尾さん、早く頼みますよ」
「ちょっと待ってください。おい、早く動けよ‼︎」
腕輪に話しかけても、全く動く気配がない。
それどころか、昨日の夕方に動けよデモンストレーションしていたときは、魔導騎士本体も腕輪ももっと硬かったはず。
それなのに、今は、普通の紙細工のようにふにゃふにゃである。
「おはよう諸君。どうかね調子は?」
「あ、部長、おはようございます。実は……」
研究員の一人が、現在の状況を説明する。
それを聞いていた山田部長の顔が険悪になるが、怒鳴り散らしたりはしない。
「ふん、まあ、動かないのなら仕方がない。バラして調べられるか?」
「やってみます」
「午後には一報いれてくれ、亀尾、君も協力したまえよ」
それだけを伝えて、山田部長は開発部から出ていく。
その後の細かい調査では、亀尾が持ち帰った魔導騎士の中には。サーボもメタルフレームも何もなく、制御システムもどこにもなかった。
分厚い紙細工の人形に、ビー玉が二つとサイコロが一つだけ埋め込まれていたのである。
「……誰かがすり替えたんじゃねえか?」
「可能性はあるよな。この紙もビー玉も、普通に売っているものだし。こんなものが動くはずがないからなぁ」
「亀尾、これって、前からこんな感じなのか?」
そう問いかけられると、ふと、疑問が頭をよぎる。
いつもの体験会は、普通のメタルフレームの機体を使っていた。
だが、亀尾が盗み出した日は、紙で作ったとか適当なことを話していた。
「まさかとは思いますが、すり替えられていた可能性があります」
俺が盗むことを見越して、とは口が裂けても言えない。だけど、それを研究員が部長に報告した。
そして午後には、俺は山田部長のオフィスに呼び出された。
「亀尾、開発部からの報告では、あれは紙屑とビー玉が集まったものじゃないか。昨日動かした本物、お前が隠したのか?」
「まさか。一昨日、研究員がケースに入れて保管していましたよね? 俺は手をつけていませんし、その場には部長もいましたよね?」
「まあ、な。となると、何者かが侵入して盗み出したか、もしくは研究員が他社に売り飛ばした可能性があるか……別部署で解析した方が無難だが、あれはもう手元にはない」
嫌な予感しかしない。
まさか、また盗んでこいと?
「なあ、亀尾。もう一度、北海道に行ってこい。もう一機必要なのは、理解できるよな」
「ですが、俺は顔を覚えられています」
「ふうむ。そうなると、顔がばれていないやつを飛ばした方がいいか。伊勢でもいれば、やつにやらせてもよかったんだが」
伊勢さん?
そうだよ、伊勢さんがいたよ。
「部長、明日の朝までお待ちください。一人だけ、心当たりがあります」
「ほう? それなら明日まで待つとしようじゃないか」
山田部長との話を終えて、亀尾はスマホで朝に連絡しようとした。
だが、今度は伊勢の電話が繋がらない。
一瞬繋がったような気がしたが、そのあとは、電源が入っていないというメッセージが流れてくる。
頼むよ伊勢。
俺の出世は、お前にかかっているんだからさ。
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国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
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凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
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