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第十話・魔導騎士の誕生と、問題発生

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 静かなリング。
 そこに、侍姿の魔導騎士マーギア・ギアと、美少女セーラー服姿の魔導騎士マーギア・ギアが立っている。

──3…2…1…スタート‼︎
 バトルシステムからマシンボイスが響くと、二つの機体が同時に走り出す。

「笹錦ぃぃぃぃぃ、食らいやがれ‼︎」

 スカートを翻させながら、伊達正明だてまさあきの機体『キララ』が 笹錦康太ささにしきこうたの『雪若丸』に向かって力一杯のドロップキック‼︎

──ドッゴォォォォォォン
 胸部装甲に蹴りを喰らい、雪若丸は後ろにヨロヨロと下がるが、必死に転倒を堪えている。

「伊達。なんと破廉恥な機体を作ったのでござるか」
「美少女は、戦うためにある‼︎」

 離れた距離から、キララは側転からのタンブリングを決めると、着地と同時に雪若丸の足元に水面蹴りを決めようとする。
 だが、水面蹴りの軌道に合わせてキララの蹴りを高速で躱すと、腰を下げてから腰の刀を引き抜いて横一閃‼︎

──ギィィィィィィン
 鈍い金属音が響く。
 頭部が薙ぎ斬られたかと思ったが、キララは背中のディバックを前にずらして刀の攻撃を受け止める。

「侍らしい攻撃だけどさ、それじゃあダメなんだ。美しくない」
「刀の機能美を知らぬのか?」

──ガギィィィィーン
 受け止められた状態から、雪若丸は一歩踏み込んで力任せに刀を横に滑らせる。
 すると、受け止めていたディバックが真っ二つに切断され、キララの肩口が傷ついた。

「な、き、貴様ぁぁぁぁ」

 この攻撃でキララは激昂、次々と雪若丸に向かって殴りかかっていくものの、雪若丸は全ての攻撃を見切って躱していた。

「そもそも、キララの戦闘プログラムは甘すぎるのである。所詮は素人の付け焼き刃、映画で見たアクションばかりでござるよ」
「吐かせ、それなら雪若丸の剣戟はなんなんだよ?」
「拙者、古流剣術を嗜んでいる故に」

──キン
 素早く踏み込んでからの横一閃。
 その攻撃がキララの胴部に直撃し、ゆっくりと膝から崩れ落ちていく。

──ゲームオーヴァー

 マシンボイスが鳴り響くと、キララは起動停止。
 勝者である雪若丸が、刀を納めて一礼した。

………
……


「……うん。戦闘スタイルは問題ないな。伊達は、キララをマテリアルに収納して、メンテナンスしておいてくれ」
「とほほ、了解。いいか笹錦、次こそ勝つ‼︎」
「はっはっはっ。いつでもかかってくるでござるよ」
「笹錦もメンテナンスしろよ‼︎」
「うむでござる」

 二人とも、水晶柱の形の『マテリアル』と命名したケースに魔導騎士マーギア・ギアを収める。
 そしてメンテナンスボタンを押すと、魔導核に追加登録した物質修復レストレーションが発動し、内部の魔導騎士マーギア・ギアが修復されていく。

 ここまで、実に一週間。
 トライ&エラーを繰り返し、ようやく完成形にたどり着いた。
 今週からは、笹錦たち三人と伊勢、小町を加えてのシステムの動作確認中。

 笹錦の侍型『雪若丸』
 伊達の美少女型『キララ』
 この二体の動作テストはこれで終わり。
 次は伊勢さんの不思議形態『びりけん1号』と、津軽の壮年男性執事型『バトラー』のテストが始まる。
 
「それでは、よろしくお願いします。これで俺が勝ったら、デートしてください」
「断るわ。なんで勝負に賭け事持ち込むねん」
「はっはっはっ。美女は口説くものです」
「……ぶっ殺す‼︎」

 なんだか私怨も込めまくって、試合が始まる。
 二人が使っているのは、バトルシステムの二号機。
 俺と小町は、さっき使っていたバトルシステムのチェックを始める。

「う~ん。連続稼働十試合でも、全然問題ないね」
「百試合耐久テストしたいところだけど、そもそも、バトルシステムは販売しないからな。おいそれと使われるのも困るし」
「なんと? このリングは売らないでござるか?」

 笹錦が驚くけど、こいつは稼働に膨大な魔力を必要とするんだよ。
 ゴーレムファクトリーでも、俺と小町の二人しか稼働できなかったぐらいだからな。
 伊勢さんが稼働しようとしたんだけど、魔力不足で動かなかったんだ。

「売らないね。何処かと提携して設置依頼したりとかはするかもしれないけど、基本的には販売はないよ」
「携帯型とかは作らないのか?」
「難しいだろうね。だから、リングを使わない場所での辻バトルとかは、ノーウェポンでやってもらわないと責任持てないな」
「その辺りは、トリセツにしっかりと書き込んでおけばいいと思うでござるよ」

 まあ、禁止したからといって、全てのユーザーが従うとは思っていない。
 だから、トリセツでしっかりと説明はするし、最初に機体をカスタマイズするときには、規約を画面表示させて確認し、サインも取る。
 そこまでしないとならないって、伊勢さんが力説していたから。

「まあ、最悪のケースとしては、軍事利用される可能性があったという事かな」
「あった? 今は無いのでござるか?」
「そもそも、魔導騎士マーギア・ギアを作れるのは社長と小町さんだけだからね。さすがに人が乗って動かせるレベルの魔導騎士マーギア・ギアなんて、作らないだろうし」

 伊勢がそう笑いながら話しているけど、向こうで俺が使っていた機体なら、しっかりと持って帰ってきているからね。
 緊急時にしか使わないし、使うこともないだろうからなぁ。

 
 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 土曜日の午後。
 いつものように体験会のために、公園近くの児童会館へと向かう。
 今日は俺も参加するので。いつものゴーレムファクトリー社員一同での参戦である。
 そして体育室に入って準備をしていると、バンライズの営業の人がやってきたよ。

「十六夜社長、今日こそいいお返事をもらいますよ‼︎」
「やらない。断る。体験会参加なら構いませんが、営業なら断りますからね」
「ということや、亀尾、諦めや」
「え? なんで伊勢さんがここに? お手伝いですか?」

 そう言えば、伊勢さんも元はバンライズの営業だったよな。うちに来る前に2人で来ていたけど、忘れていたよ。

「アホか。うちはゴーレムファクトリーの営業やな。バンライズ辞めてこっちに入ったんや」
「え? まじ? 伊勢さん、業務提携の書類にサインください」
「やるかボケ。社長のサインやないとダメやろが」
「そんなのこっちで書き換えますから」
「はいはい、無視無視。見学ならそっち、体験会参加なら、小町さんとこいきや」

 シッシッと亀尾を追い立てる伊勢。
 その様子を遠目に見ながら、悠はバトルリングのスタンバイ。
 子供たちの体験会には、いつものようにオールインワン機を使うんだけどさ、今日の悠は、ちょっと新しい手を使っていた。

「参加する子供達は集合。今日はこっちから機体を選んでくださいね」

 綾姫が空間収納チェストから取り出したケースには、今までとは違う『純白の魔導騎士マーギア・ギア』が並べられている。
 それを子供達は、各々が愛用している機体を受け取って、小町の元に向かう。
 そこで契約コントラクトして機動契約を施すと、順番に試合が始まるのを待っていた。

「はぁ、今日のは軽いのですね。何かちがうのですか?」
「古紙とか新聞紙とか、要はいらない紙で作ったペーパーゴーレムだからね。出力調整はしっかりとしてあるし、魔導核もエーテルドライバーも使い捨てのやつだから」

 そう説明しても、亀尾はちんぷんかんぷん。
 体験用の機体から感じた重厚さがないので、これは動かないと理解したのである。

「はぁ、そんなものですか」
「そんなものですよ。それじゃあ一回戦、始めますか」

 悠が体験会の開始を告げると、子供たちは順番に試合を開始していた。

………
……


 亀尾は絶句する。
 以前の体験会の機体なら、強度の問題もあるのでメタルフレームなのは理解できる。
 だが、今日の機体は紙製、どこにもサーボも制御装置もない。
 バッテリーと積み込むスペースも感じないし、そもそも動かすと潰れそうなイメージがあった。
 だが、紙製魔導騎士マーギア・ギアは、リングの中で飛び跳ねている。
 しっかりと武器を持って戦闘し、人間のような動作で構えたり攻撃を躱していたりする。

「そ、そんなバカな。どこにサーバが入っているんだ? この重さではバッテリーも搭載していないじゃないか」
「まあ、そんなところですね。そろそろ信用してくれないと困りますが? まあ、そちらとは一切契約しませんから……お次、出番ですよね?」
「え? あ、ああ、ありがとうございます」

 頭を下げてから、バトルリングに魔導騎士マーギア・ギアを置く。
 そして紙製の腕輪に向かって命令を伝えると、その通りに魔導騎士マーギア・ギアは動いている。

「はは……ここまで動力システムを簡素化できるのなら、それこそプラモデルに組み込めば最強じゃないですか。本当に、うちと契約しましょうよ」
「断ります」

 悠も、いい加減に亀尾がしつこいので、適当にあしらうことにしている。
 そして試合が終わると、次の子供の順番なので、亀尾はすぐに観客席へと移動する。

《やるか、これを持って帰れば、俺は主任だ》

 キョロキョロと、いかにも挙動不審な亀尾。
 そして悠がバトルリングに集中しているのを確認すると、こっそりと魔導騎士マーギア・ギアを持って体育館から出ていった。

………
……


 ハアハアハアハア‼︎
 走る走る走る。
 鞄の中に盗み出した魔導騎士マーギア・ギアを収めて、そのままタクシーに飛び乗って駅まで向かう。
 ホテルに戻って着替えるとかはない。
 とにかく、今は、これを持って帰る。
 スマホの電源は落としてある、これなら伊勢からも連絡は来ない筈。
 あとは東京本社に戻って、これを山田開発部長に渡すだけ。
 それでいい。
 あとは、部長がなんとかしてくれる。

 罪悪感はあるものの、こうしなければ、自分の出世は望めない。
 そうだ、これも社命なのだと自分に言い聞かせながら、亀尾は千歳空港へと向かった。

………
……


「……あれ? バンライズの社員さんは?」
「さっきトイレに向かったけど、お腹でも壊したのですかね?」
「北海道の食べ物が合わなかったのかな? まあいいか。それじゃあ、今日の体験会はこれでおしまい。それで、今日はサプライズプレゼントだ‼︎」

 悠が集まった子供たちに話しかける。
 いったい何が起こるのかと、みんなワクワクドキドキとしている。

「今日、みんなが使った魔導騎士マーギア・ギアは、使い捨てのタイプなのです。だから、持って帰ってよし‼︎ 内蔵魔力の問題があるので、あと三時間。夕方の五時ぐらいまでは動くから、自宅で遊ぶなり、ここで遊ぶなり、好きにしていいからね‼︎」
「「「「「やったぁぁぁぁぁ」」」」」」

 搭載してあるエーテルドライバーも簡略型で、強化魔法も五時には解除される。
 そうなると、ただの紙屑に早変わり。
 魔導核だってビー玉に術式を付与したタイプなので、持って帰っても安心。
 
「今日はありがとうございました‼︎」
「また来ます‼︎」
「おねーちゃん、さようなら‼︎」
「今度こそ勝つ‼︎」

 子供達は悠や小町、伊勢、綾姫に挨拶して帰って行く。
 
「さて、亀尾さんが居ないのだが。まさか帰ったのか?」
「さっきから電話しとるんやけど、でーへんわ」
「ふぅん。まあ、今日のやつは持って帰っても構わないから気にしないけどさ。無断で持っていったのなら、今度からはバンライズの関係者は参加禁止ね」

 それは当然。
 使い捨ての廉価版だからこそ、持っていかれても痛くも痒くもないし、むしろ自宅の紙屑を処分してくれるのならありがたいところだろう。
 けど、あれがオリジナルのオールインワン機だったら、盗難届間違いなし。
 今でも連絡して文句を言いたい悠であるが、あれを持って帰ったとしても、五時には紙屑当然の状態になる。
 残念ながら、データ回収どころの話ではなくなる。
 せいぜい、ガッカリしてもらうことでチャラにしてやると、悠は心の中で笑っていた。
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