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エルフさん、日本人になる

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 北海道庁での会議の翌日早朝。

 平岸にあるHTN本社社屋横にある公園には、大勢の人が集まっていた。

 昨晩遅く、土方知事からHTNの近藤局長宛に入った連絡は、アルカ・トラスの日本国国籍修得習得が完了したので、明日届けにいくというもの。
 すぐさま近藤はアルカの元を訪れた。明日はアルカが日本国民になる儀式があるので参加して欲しいという報告を行ったのである。


………
……



「それで、この公園に特設ステージなんて作っていたのね。別に知事室で受け取ってもよかったのに」

 賢者の正装をしたアルカは、眠い目を擦りつつステージの上で魔法の箒に座ってプカプカと浮いている。

「これでアルカさんの身は、日本政府が守ります。国民を守るのは国の義務ですから」

 興奮した口調で両手で拳を握りつつ、高橋アナがそう叫ぶ。

「はいはい。それはそれで助かりますからね。でも、国民になったら、自分で家を建てる必要とかもあるわよね? いつまでも此処を借りているわけにもいかないし……どうしましょうか?」
「あ~、その件なんだけど、うちの社長が、この公園の一角の土地をアルカさんに譲渡するってさ。アルカさんがうちの番組に出るだけで、スポンサー料とかとんでもない利益率があごっていますからね」

 そう話しつつ、近藤局長がアルカの元にやって来た。

「え? ここ、私の土地になるのですか? 賢者の塔をこっちに移しても問題ない?」
「そこは如何だろうなぁ。建築基準法とかあるし、耐震構造とかも考えないとならないからなぁ」
「あらら。こっちの世界は、そこまで細かいのですか。よくわからない部分がありますが、大抵は魔法で何とでもなりますよ?」
「う~ん。その魔法についての説明がしっかりとできないし、使えるのがアルカさんだけだからなぁ。今暫くはテントで我慢してもらえますか?」

 ああ、この世界では『事象』を『論理的に説明し、理解』できるものしか認めないのでしたよね。
 魔法については『事象』として理解できても、それを論理的に説明しても理解できなかったのですよね。
 物理法則とか言うものも、昔はそう言う感じで理解されていなかったらしいですが、研究されて一般的になって、ようやく取り入れられたのでしたっけ。

「テントでもなんでも構いませんよ。必要なのは『扉』であって、そこと賢者の塔がある空間を接続するだけですからね」

 にっこりと微笑みつつ、アルカは近藤に説明する。
 やがて式典の準備も完了すると、来賓客が次々と集まってきた。
 北海道知事、道議会議員、HTN代表取締役は当然として、日本国総理大臣、その関係者、警備のための自衛隊と警察、機動隊etc....

 それはもう、盛大な式典になるのでしょうね。
 放送許可はHTNのみと言うことにはできなかったらしく、他の民放やKHK(国民放送協会)、はては外国の報道なども集まったようです。

 よく見ると、来賓席にはその諸外国の方も座っていますね。
 あら、彼らが国から派遣された大使でしたか。
 そんなこんなで、式典は無事に始まりました。

………
……


 はい、終わりました。
 無事に、そして超法規的に私は日本国国民になったようです。
 実感は全くありませんよ、ええ、ここから、これから湧いてくるのでしょうね。

 全て終わって後片付けが始まりましたが、私は自宅の庭でのんびりとしています。
 土方知事と、総理大臣の天生太郎というかたが、お話があるそうで。


「今後のアルカさんの活動についてですが。アルカさん、政治に関わる気はありませんか?」

 土方知事が間髪入れずに問いかける。
 日本国民になった瞬間に、私に政治家になれと?

「ええっと、私の住んでいた世界にも『貴族院』というものがありましてですね。貴族が集まって、国の事を話し合い、法案を作ったり実際に人を派遣しての事業を行ったりしています」
「その、貴族院のような事をやる気はないか? 我が国初めての魔法が使える政治家だ。まあ、国民になってすぐに慣れるものではないから、まずは下地を作ってから……道議会議員になってみては?」

 ふむふむ。
 天生さんという方の説明をずっと聞いていますと、私の立場がどうにも難しいそうで。
 一般企業に入るにしては、こっちの世界の常識を学び直す必要がある。
 その上で、アルカさんの魔法という才能を生かし切れないどころか、それを利用しようとする輩がこれからも多く出るだろうと。
 それなら、いっその事、政治家として様々な知識を学んでみてはどうかと。

「ふぅ。いきなりのことですから、色々と考えないとなりません。この国の法を学ぶことがも必要ですし、その上で、私たちの世界と比較して、より良い世界へと舵を取り直すこともできるかどうかも考える必要はありますから」
「今はそれで構いませんよ。アルカさんは既に帰化日本人と同じく日本国籍を取得しています。参政権はもうあります。けれど、まだ下地がない。今暫くは、普通に一般の市民として生活し、日本を見てください」

 つまり、暫くはこのままで、色々と学ぶことが大切であると。
 その上で、興味があったらどうぞというところでしょう。

「お二人のご意見、ありがたく思います。では、今暫くはのんびりとさせててもらいます。その上で、興味がでてら、その時はご連絡差し上げます」
「ありがとう。それじゃあ、俺はこれからは天生さんと会議があるから、これで失礼する」
「日本国は、異世界から帰化した貴方の味方ですよ。何かありましたら、ここに連絡をください」

 天生は名刺を取り出してアルカに手渡す。
 それを|空間収納(チェスト)に収納すると、アルカは2人を見送った。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 これは夢。
 アルカの住んでいた国の名前は、カナン森林王国。
 周辺国家は強大であり、絶対的な武力を持つ。
 それらの国でさえ、魔族の侵攻には手も足も出なかった。
 
 やがて、カナン森林王国を包んでいた結界も破壊される。
 四代目女王フランシア・ミム・カナン率いる騎士団も魔族の侵攻を止めることはできず、遂には落城した。

 私は戦った。
 最後の瞬間まで、戦い抜いた。
 でも、魔族四天王の前には稚技にも等しい。
 身体が引き裂かれそうになる。

[ハルマイア、その賢者は厄介だ。甦りの秘術を使っている、死んでも暫くしたら再生する』
『そうか、なら、こいつは死んでも帰って来れない場所に幽閉すれば良いさ』

 何を話しているのか、魔族の言葉は理解できない。
 私の倒れている場所に魔法陣が広がる。
 それはゆっくりと球状に作られていくと、私の体を分解し始めた。

『ミョランド、それはなんだ? 見たこともない術式だぞ』
『遺跡で見つけたものだよ。対象者を異世界に送り出すんだとさ』
『へぇ。そいつはなんでいうんだ?』
『|異界牢獄術式(アルカ・トラス)だとさ。異世界にある、絶対牢獄の名前らしい。おい、賢者よ、お前とはこれでお別れだ。せいぜい、アルカ・トラスで苦しむことだな……』

 記憶が破壊される。
 私の名前は? 国は?
 女王よ、私が戻るまで……お待ちください。
 私が、私の名前は……
 ああ、魔族が呼んでいたな。
 確か……

 アルカ・トラスと。

 女王さま、私が必ず……王国を……お救いします。


──ガバッ‼︎
 目が覚める。
 なんだろう、何か大切な夢を見ていたような気がする。
 思い出せない。
 けれど、私はやらなくてはならないことがある。

 この国を変える。
 もうすぐ、私の研究が形となる。

『|転移門(ゲート)』

 私がきた世界と、この世界を繋ぐ門。
 これが完成した暁には、わたしの故郷の者たちを、こっちの世界に流すことができる。
 流す?
 逃すではなく?
 門を使って過去につなぐこともできるはずだ。
 だから、私は、世界を変える。
 過ぎ去った、滅亡の歴史を直すことはでかないかももしれない。

 だったら、この地に、私たちの世界の民を受け入れるための器を作るのが早い。
 その為には、こっちの世界での力が必要だ。

 その為に、私は十年走り続けた。
 さあ、まずは踏み出そう。


 無所属新人の、アルカ・トラスです‼︎ 私はこの世界を変える為に立候補しました。私はこの世界の科学は理解しきっていません。ですが、魔法は誰よりも理解し、行使することができます。

 私は、魔法で世界を変えます‼︎


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