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エルフさん、スマホを作る

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 さて。

 話によると昨日の夜の放送は、視聴率が80%を越えたらしい。
 朝起きて、のんびりと外の公園で体術の練習をしていたところに、ADさんが駆けつけてそう教えてくれた。
 その影響なのかどうかはわからないが、私を使ってCMを撮影したいと言う企業からのオファーの電話が朝からひっきりなしに局に掛かっているらしいが、全て無視である。
 魔法は見せ物じゃあなあい。
 昨日のは、一宿一飯を返すためと、この世界での魔法の難しさを教えるためだ。


「はぁ、かなり儲かりますよ? それこそ一生遊んで暮らせるぐらいは」
「はっはっは。私はハイエルフだよ? 基本的には不老不死なので、その私が一生遊んで暮らせる金額が手に入るのかな?」

 ニヤニヤと笑いながら、近くで私の訓練を見ているADに問いかけるが、困った顔で頭を捻っていた。

「あの、その体術の訓練って、何かの流派なのですか? 私の知らない体術のようですが」
「ん? ああ、私のこれは|魔闘流(ミスティック)と言ってね、魔法に使う魔力を体内循環させて身体強化に使っているんだよ。これは魔法使い専用体術で、マスタークラスだとドラゴンも素手で倒せるようになるよ?」
「どっ‼︎ それではアルカさんもドラゴンを素手で?」
「まっさかぁ」

 笑いながら稽古を終えて、|空間収納(チェスト)からタオルを取り出して汗を拭う。

「そうですよね。いくら魔法が強くてもドラゴン相手にはねぇ」
「そもそも、近寄る前に灰にするよ。私は近接戦にまで相手を近寄らせることはしないよ」
「え?」

 そこで驚かれても困るのだが。
 先日、警官や機動隊に囲まれても動じなかった理由がこれである。
 あの程度の戦力なら、片手でもどうとでもなるし、魔闘流を使わなくても結界だけで十分。その結界が通用しない相手のための魔闘流だからね。

「え? じゃないよ。近接戦闘エリアまで接近されてはい、お終いなんて魔法使いは必要ないの。最低限、自衛するぐらいの戦闘力がないと魔法使いは死ぬよ? 盾役の前衛に守ってもらって、後ろから魔法バンバン打って魔力が枯渇したらあとはお願い、そんな魔法使いならいらんって言われるよ?」
「えええ? でも、ファンタジーの魔法使いって、そういうものじゃないのですか?」

 ほう、こっちの世界の魔法使いの概念はそういうものなのか、よく分かったよ。
 でもね、それじゃあ魔導大戦とかでは生きていけなかったのよ? 魔法使いの魔法が封じられた時に、どうやって戦えばいいのかって編み出したのが魔闘流なのだから。
 詠唱を封じられたり外に放出できなくなったなら、無詠唱で体内循環して身体を強化する。
 それこそが魔法使いの本質なんだよ?

「うーん。まあ良いわ。もしも私が本気の戦闘状態になった時には、色々と見えるでしょうけどね?」
「あ、あの、アルカさんの本気って、敵はなんですか?」
「魔王かなぁ……この世界にはいないよね?」
「いませんよそんな人は。では、私はこれで失礼します」
「はいお疲れ様。私もこのあと書類出してから遊んでくるから」

 手をひらひらと振りながら、私は箒に乗って北海道庁へと飛んで行った。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯

 道庁に堂々と向かい、今日は正面入り口から入っていく。すぐに担当官がやってきて知事室まで案内されると、そのまま書類を|空間収納(チェスト)から取り出して土方知事に手渡した。

「はい、これで問題ありません。それでは早急に手続きしますので。終わったらHTN放送局に連絡をしたら良いですか?」
「まあ、それで良いわ。念話の魔導具なんでこの世界にはないのでしょ?」
「まあ、私たちにはスマホがありますからね。それに緊急時には公衆電話もありますので、意外と個人相手に連絡はしやすいのですよ」

 ふぅん。
 なら、そう言うのを作った方が良いのか。
 サンプルさえ手に入れば、|深淵の書庫(アーカイブ)で構造解析して錬金術で作れば良い。その時に魔導具としての回路を組み込めば簡単だろうなぁ。

「なら作ってみるわ。じゃあ帰りますので」
「はい…それではまた……作って? 作れるものなのか?」

 私は、何かおかしい事を言ったのかなぁ。
 まあ、一度HTN放送局に戻って編集局長か高橋さんからサンプルを借りてみよう。
 そうと決まったら即実行、すぐに外に出て箒に乗ると、放送局まで戻っていった。


………
……



 まあ、何事もなく戻ってきたんだけどね。
 それにしても、この目の前の公園は広くて良いなぁ。ここに塔を建てたら、見栄えがいいよなぁ。


「あ、アルカさん、もう戻られましたか」

 ちょうど公園に着地して周囲を見渡していると、高橋アナが放送局から走ってくるのが見えた。

「ええ。書類は提出しましたので、あとは今日は暇で……いや、魔導具を作るので塔に篭るだけですね。何かありましたか?」
「実はですね、あちこちの企業の方が、是非ともアルカさんにCM出演をお願いしたいと申していまして」
「あ、全部断ってくれて構わないわよ。そう言うのに興味ないので」

 私が断る事をわかっているらしく、高橋さんはすぐにスマホで連絡をしてくれた。
 あ、ちょうどいいや。

「あの、高橋さん、そのスマホとやらはどうやって手に入れるのですか?」
「あ~、アルカさんも連絡手段が必要ですよね? 購入するのなら現金で買えますけれど、契約しないと使えないのですよ。それで、アルカさんはまだ日本国籍でないので契約できないのです」

 あ、なるほどね。
 なら、その本体だけ買って、あとは解析して魔導具にすればいいや。

「そうですか。でしたら、今後の研究の為に本体だけ購入して欲しいのですよ。二日分の報酬が20万ありますし、足りなければ帝国金貨で支払いますので」
「研究用でしたら、放送に使う小道具で余っているものがあるかもしれませんから、それで良ければ提供出来ますよ」

 おや、それは助かります。
 
「それでは、一つ都合つけてもらえると助かります。あと。今日は生放送はないのですか?」
「ええ。残念ですけれど、今日は特番をねじ込める時間帯がないのですよ。人気番組の枠ですとスポンサーが良い顔をしませんから」

 まあ、今日1日ぐらいなら、別にのんびりしていても構わないか。

「それでは、私も塔に篭るとしますか……そう言えば、ここの公園はどなたの所有物?」
「ここはうちの局の所有地ですよ。公園として普通に開放してますから、市の所有と勘違いされていますけれどね」

 ナイス‼︎
 それならここにテントを建てることもできるか。

「では、今日からは局内ではなくここにテントを立てたいのですよ。許可はもらえますか?」
「え? ここにですか?」
「ええ。どうしてもあの閉鎖的な空間が慣れません。木造や石造りならまだ馴染めたかもしれませんが、なんと言うか、自然ではないので」
「ちょっと局まで戻って確認してきますね」

 そう告げて、高橋さんは駆け足で局まで戻っていく。まあ、テントが張れるならそれでいいんだけれどね。
 

 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯
 
 
 夕方。
 公園の隅の方の区画でのテント設営許可が出た。
 すぐさま指定された場所に移動し、まずは|石壁(ウォール)で四方を囲む壁を作る。
 その一箇所を解除して木製の扉を作り、壁全体には結界の魔石を組み込んでいく。
 そして石壁で囲った敷地内の中心にテントを建てると、これで私の領土が完成した。

 土地を借りる条件として、たまに特番に出ることと壁を作る所を録画させて欲しいと言うことなので、全て許可を出しておいた。

「……うわぁ、建築法一切無視か。壁とは言え、鉄骨も何も組まないで大丈夫なのか?」

 編集局長さんが手を挙げて質問しているので、簡単に説明する。

「空間座標に固定したからね。ついでに|永久化(パーマネンス)も施したから、私以外は動かせないし解除もできないわよ」
「へぇ。それって便利な魔法だね。他にも便利な魔法はあるかい?」
「うーん。他にもと言われても、すぐには思いつかないわよ。何か聞いてくれたら答えられるけれど」

 普段から使っている魔法なので、使えて当たり前。なので何が便利かと言われても、全て便利としか答えられない。

「まあ、それならそれて。また何かあったら教えてくださいね」

 それだけ告げて、編集局長は帰っていく。
 あ、また編集局長の名前聞くの忘れてた、まあ良いか。
 それよりも、ここからが本番だよ。カメラさん用意は良いかい?

……


「それじゃあ、まず、このスマホとやらを解析します」

 |深淵の書庫(アーカイブ)で魔法陣を形成、その中に受け取ったスマホを置いておく。

「|深淵の書庫(アーカイブ)、対象物の解析を開始。同時に魔導具として再構築するので、必要な素材を計算してください」
『ピッ……』

 すぐさま|深淵の書庫(アーカイブ)の球形魔法陣に魔法文字が走り始める。
 そして次々と表示された材料を、私は|空間収納(チェスト)から取り出して魔法陣に投げ込んでいく。

 白龍の鱗
 オーガの角
 ミスリル鉱石とアダマンタイト鉱石
 精神感応鉱石クルーラ
 直径25cmの魔晶石
 千年大樹の蔦と、綿妖精の鱗粉
 
 それらの材料を投入すると、いよいよ再構築が開始される。
 魔法陣の中では、スマホとやらがゆっくりと形成され、やがて預かったものと全く同じスマホが完成した。

──ヒュン
 |深淵の書庫(アーカイブ)が閉じられたので、私は魔導スマートフォンに|魂登録(オンリーワン)を施し、所有者登録をした。

「あ、あの、それってスマホですよね?」
「そうよ、ADさん。これは魔導具として作ったスマートフォンで、電源は必要ないわよ。全て内部に組み込んだ圧縮魔晶石から発する魔力によって動くし、人が身につけているだけで自動で魔力はチャージされるわ」

──ゴクッ
 誰かが喉を鳴らす。

「そ、それは通話も可能なのですか?」
「通話? あ、それも可能みたい。こっちの世界の放送法とやらには触れないように、電波帯は使用しないで魔力波長によって通話が可能になるわよ」
「そ、それは……どう言う理屈なのですか?」
「さぁ? Wi-Fiとやらの電波を受信して、なんか変換して通話もインターネットとか言うのも使えるみたい」

 説明すればするほど、スタッフが同様の色を見せる。なんかおかしいものを作ったのかなぁ?

「そ。そのですね、スマホには容量というのがあるのですが、それは何GBなのでしょう?」
「さぁ? 画像などは全て魔晶石に収められるようですし、ギガバイトの意味もわからないけれど……この元になったスマートフォンの100倍は、行けますよ?」

 元になったスマホの容量は256GB、つまりは。

「に、25.6テラバイト? え? 何それ?」
「さぁ? その辺りはよくわからないわよ。でもこれで電話できるわよね?」
「あ、あの、番号を登録しないとならないので、それは無理ですね」
「番号? あ~、そこかぁ。でも、Wi-Fi使うのなら番号はいらないように作ったから大丈夫よ。登録方法はね……」

 取り敢えず、実験的にADさんのスマホと、私のスマホをリンクしてみる。
 これは|魂の護符(ソウルプレート)を仲介してのリンクになるので、一度ADさんの|魂の護符(ソウルプレート)を発行し、その波長を魔導スマートフォンに登録する。
 これで、あとは私が魔導スマートフォンからADさんの|魂の護符(ソウルプレート)に向けて発信すると、その波長をスマホに転送する。

──プルルルルルルル
 試しに掛けてみると、ちゃんとADさんのスマホが着信音を鳴らした。

「う、うわぁ、これはどう言う理屈ですか?」
「魔法よ。波長変換で、魔法の念話と同じ。対象者の|魂の護符(ソウルプレート)に向けて魔力波を送り込み、それを|魂の護符(ソウルプレート)が出力媒体としてスマホに転送しているだけよ」
「ガチャッ……もしもし」
「はい、聞こえるでしょ?」

 これにはスタッフ全員が驚いていた。
 すぐさま仕事で必要なスタッフには|魂の護符(ソウルプレート)を発行したので、これでいつでもスマホで連絡が来る。

 その日の夕方には高橋アナと編集局長の|近藤烈(こんどういさむ)にも|魂の護符(ソウルプレート)を発行して登録したので、これで、仕事についてはいつでも連絡ができる。
 また、|魂の護符(ソウルプレート)を持っていない人からは、高橋アナもしくは近藤局長を経由してもらう事で合意した。

「あ、これ大量に作ったら売れると思う?」
「相手が|魂の護符(ソウルプレート)を持っていることが前提ですので、難しいですね」

 なんだ残念。
 じゃあ、これ以外の魔導具で売れるものを作ることにしようかな。

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