上 下
5 / 14

エルフさん、逃げて匿ってもらう

しおりを挟む
 さて。
 この世界の地理なんて全く分からない。
 なら、高橋さんに聞きましょうそうしましょう。

「高橋さん、どこか安全に逃げられる場所はないですか?」
「警察も動いていますから無理ですね。でも、安全かどうかはわかりませんが、一箇所だけ心当たりがあります」
「そこで良いわよ、案内して」

 そのまま高橋さんの案内で、街道……路上を高速で飛んでいく。
 兎にも角にも、異世界からやってきた私を印象付けるために派手に、大きく目立つように移動する。
 暫くして、後方からパトカーのサイレンが聞こえてくるがそんなものは一切無視。
 目指すは平岸の高台、HTN放送局本社ビル。
 たとえ警察でも、捜査令状なくては中には入ることはできない。

 そのついでに、高橋さんとしては放送局を味方にして異世界の来訪者と友好に付き合っていることをアピールしたいとの申し出である。
 
「……中々、|強か(したたか)ね。でもそう言うところは好きですよ」
「ありがとうございます。先に社にはメールが入れてありますので、すぐに飛び込めるように手筈は整えてありますから」
「おーけーおーけー。それではレッツゴー」

 魔法の箒に魔力を充填して加速すると、目の前に巨大な建物が見えてきた。
 そして真っ直ぐに正面玄関に向かうと、そのまま中に飛び込んでいった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 最初は不審者の通報から始まった。
 すぐに所轄警察署に連絡が入り、担当警察官が近くの自然公園に向かったところ、報告にあった『怪しい格好の危なそうな女』が浮かんでいた。
 ああ、そうだ、浮かんでいたんだよ。

「ちょっと職務質問させて貰っていいかな? 何か身分を証明するものは持っているか? それと持ち物のチェックをさせて貰いたい」
「もしも武器を持っているのなら速やかに出すことだ」

 この手の奴は、コスプレ衣装とか道具とか言って長物やモデルガンを所持している場合がある。まあ、その手の報告は結構きているから、厳重注意ではいおしまいが関の山なんだが。

「身分証明はこれで良いか? それと武器なんだけど、身を守るためのダガーとショートソード、あとはこの杖しかない。杖は大切なものだから渡せないが、ショートソードとダガーなら渡せる」

 いきなりロングコートのしたから、ダガーとショートソーダが出てくる。
 それにしても精巧な作りだ、最近のコスプレ衣装は金掛かっているんだなぁ。


「田辺さん、これ違法ですよ。しっかりと刃がついています。ダガーもこの長さはダメですね。銃刀法違反の現行犯が適応されます」

 ボソッと矢代警部が耳打ちしてくれる。
 なら、仕事をするとしますか。
 幸いなことに、目の前の女は言葉遣いはどうあれ、従順に見える。
 彼女が差し出した身分証明だが、そもそもどこの文字なのかもわからない。
 最近はスマホで検索できるので、すぐに鑑識にデータを送って調べてもらうことにした。
 しかし、俺の知る限りの国の文字でないことは明らかだ。

「これは何処の国の文字かな?」
「いゃあ、それが覚えていなくてねぇ。そもそも、ここって日本国の北海道の札幌の豊平の公園だよね?それが何処かも私は知らないのよ」
「なんだ君は? パスポートはないのか? それにその服装、大きな耳もあれか? 今流行りのコスプレとかいうやつだな?」

 日本語は流暢に話せているが、我が国の文化についてはまだ知らないか。
 けれど、気のせいか話している言葉と口の動きが違うような気がする。

「うーん、パスポートって何? 私そんなの持っていないよ。ここに来たのだって、時空転移現象で来たんじゃないかって思っているからね」
「……何をわからないことを。パスポートを所持していないというのなら、一度警察に来て貰って、詳しい話を聞かせてもらうけどいいかな?」

 最悪の場合、入管に連絡して本国に送還する必要もあるか。
 だが、どこの国から来たのかも理解できていないのはどう言うことだ?
 それにパスポートも所持していない。
 雰囲気から察すると、本当にパスポートも知らない感じだ。
 これは厄介なことになるなぁ。
「ついていくのは構わないけれど。何処にいくのかな?」
「警察署だよ。豊平警察署、しばらくはそこで話をさせてもらうけれど」
「へぇ。それじゃあ、ついていくよ」

 そのまま連れて行こうとしたが、パトカーに乗らずに自分で飛んでいくと言うじゃないか。しかも目の前で、何処にでも売っている箒に座ってふわりと浮かんだ。
 まさかガチの魔法使いか?
 いや、取り敢えずは応援だ、署に連絡して対応を待とう。
 途中から、この女が北海道知事と話がしたいとまで言いだす始末、やれやれ、本物のキチ◯◯がもしくは若手の俳優志望者か、それともお笑い芸人か?
 そんなことを考えていると、こいつは公園に戻るじゃないか?
 しかもテントを張って、その中に潜っていく。
 慌てて捕まえようとするが、目に見えない壁に阻まれてしまう。

「やれやれ、朝まで監視するしかないのか……」

 今晩は徹夜になる、そう考えていたのだが、突然署長から撤退命令が出た。
 管轄が俺たちから別部署に移るらしい。
 俺たちも入れ違いにやってきた北海道警察機動隊が包囲すると、周りに非常線まで張り巡らしている。
 ああ、報道関係が勝手に接近しないためか。
 それにしても、あの変なコスプレネーチャンは一体何者なんだろう。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


「はじめまして。HTN放送北海道本社の常呂です。朝のニュースを拝見させてもらいました」
「こちらこそ。機動隊に追われている異世界の賢者、アルカ・トラスです。お会いできて光栄です」

 確か、こっちの挨拶はガッチリと握手だったよなぁ。なので差し出された手を握って握手を返すと、椅子に座って話を聞くことにした。

「今、私たちの住んでいる日本はですね、異世界からやってきた貴方に興味津々なのですよ。何処の世界から、どうやって来たのか、異世界は本当にあるのかとかね」
「それはどうも。まあ、私は嘘をついてはいないし、必要なら魔術でもなんでも見せてあげるわよ。今の私に必要なのは、帰るための手段を探すこととこっちの世界で生きる術を身につけることなのですから」

 そう。
 私は、この世界の貨幣を持っていない。
 買い物をするにもお金は必要だし、住むための場所も欲しい。
 テントが建てられる土地さえあれば、私はそこに魔法のテントを建てることができるので、それさえクリアすれば後はどうとでもなる。

「それじゃあ、私たちと契約しませんか?」
「契約?」
「はい。アルカさんは我がHTN放送局と契約し、うちの番組に出て貰って異世界のことについて話して貰ったり魔法を見せてもらう。
 当然、出演料は支払いますし、必要でしたら、住む場所も提供しますが?」

 ふむふむ。
 実に都合の良い話ではある。
 さて、この話になるべきか否か、ここが運命の分かれ道なのかもしれない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

解体新書から始まる、転生者・杉田玄白のスローライフ~わし、今度の人生は女の子なのじゃよ~

呑兵衛和尚
ファンタジー
杉田玄白。 享年、享年八十三歳。 徳を積んだ功績により、異世界転生を果たす。 与えられたチート能力は二つ。 神によって作られた御神体、そして神器『解体新書(ターヘルアナトミア)』。 回復魔法という概念のない世界で、蘭学医の杉田玄白が神器を武器に世界を癒す。 男であった自分の肉体を捨て、知識としてしか知らない女性の体を得て。 さまざまな困難も、蘭学医ならば大丈夫w 己の好奇心を満たすため二つのチート能力を駆使して、杉田玄白が異世界を探訪する。 注)毎週月曜日、午前10時の更新です。

機動戦艦から始まる、現代の錬金術師

呑兵衛和尚
ファンタジー
有限会社・異世界トラックのミスにより死亡した俺だけど、神様からチートスキルを貰って異世界転生することになった。 けど、いざ転生する直前に、異世界トラックが事故を隠蔽していたことが発覚、神様の粋な計らいで俺は生き返ることになりました。 チートアイテム『機動戦艦』を所有したまま。   しかも、俺の凡ミスで肉体は女性になり、本当の体は荼毘に付されて手遅れ。 もう一つのチートスキル『伝承級錬金術』と『機動戦艦』を操り、この現実世界を面白おかしく生き延びてやる……生き延びたいよなぁ。

女性が少ない世界へ異世界転生してしまった件

りん
恋愛
水野理沙15歳は鬱だった。何で生きているのかわからないし、将来なりたいものもない。親は馬鹿で話が通じない。生きても意味がないと思い自殺してしまった。でも、死んだと思ったら異世界に転生していてなんとそこは男女500:1の200年後の未来に転生してしまった。

白梅奇縁譚〜後宮の相談役は、仙術使いでした〜

呑兵衛和尚
キャラ文芸
こことは違う、何処かの世界。 神泉華大国という国の西方にある小さな村の女の子『白梅』が、世界を知るために旅に出たのが、物語の始まりです。 娘はまだ生まれて間も無く、この村の外れに捨てられていました。それを不憫に思ったお人よし集団の村人により育てられ、やがて娘は旅に出ます。 ところが旅先で偶然、この国の官吏である洪氏を救うことにより命運は大きく揺らぎ、白梅は後宮の部署の一つである『東廠』にて働くことになりました。 彼女の仕事は、後宮の相談役。 尸解仙、つまり仙女である白梅ですが、それほど頭が切れるわけではありません。 それでも、身につけた仙術と体術と戦術を駆使して、後宮でのんびりと暮らすことを決めたのですが。 皇后候補たちの権力争い、後宮に満ちる瘴気、そして敵国の貴妃の後宮入りなどなど、彼女にはゆっくりとする暇もありません。 白梅にとって、本当に心穏やかな日々は来るのでしょうか。 いえ、来ません。 注)イメージイラストは、AI生成ツールを使用して作成しました。

異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚
ファンタジー
 それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。  ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。  俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。  ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。  しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!   神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。  ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。 『オンラインゲームのアバターに変化する能力』 『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』  アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。 ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。  終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。  それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。 「神様、【魂の修練】って一体何?」  そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。  しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。  おいおい、これからどうなるんだ俺達。

レンタルショップから始まる、店番勇者のセカンドライフ〜魔導具を作って貸します、持ち逃げは禁止ですので〜

呑兵衛和尚
ファンタジー
 今から1000年前。  異形の魔物による侵攻を救った勇者がいた。  たった一人で世界を救い、そのまま異形の神と共に消滅したと伝えられている……。  時代は進み1000年後。  そんな勇者によって救われた世界では、また新たなる脅威が広がり始めている。  滅亡の危機にさらされた都市、国からの援軍も届かず領主は命を捨ててでも年を守る決意をしたのだが。  そんなとき、彼の目の前に、一軒の店が姿を現した。  魔導レンタルショップ『オールレント』。  この物語は、元勇者がチートスキルと勇者時代の遺産を駆使して、なんでも貸し出す商店経営の物語である。    

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

処理中です...