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エルフさん、警察に囲まれる
しおりを挟む「これは何処の国の文字かな?」
|魂の護符(ソウルプレート)を手にした騎士が私に問いかけるが、私は頭を捻ってしまう。
自分の国の名前も思い出せなくて必死のに、なんで今、そういうことを聞いてくるかなぁ。
「いゃあ、それが覚えていなくてねぇ。そもそも、ここって日本国の北海道の札幌の豊平の公園だよね?それが何処かも私は知らないのよ」
「なんだ君は? パスポートはないのか? それにその服装、大きな耳もあれか? 今流行りのコスプレとかいうやつだな?」
コスプレってナンジャラホイ?
「うーん、パスポートって何? 私そんなの持っていないよ。ここに来たのだって、時空転移現象で来たんじゃないかって思っているからね」
「……何をわからないことを。パスポートを所持していないというのなら、一度警察に来て貰って、詳しい話を聞かせてもらうけどいいかな?」
此処では人目につくからということかな?
まあ、ずっと立ち話でも疲れるのかもしれないけれど。
「ついていくのは構わないけれど。何処にいくのかな?」
「警察署だよ。豊平警察署、しばらくはそこで話をさせてもらうけれど」
「へぇ。それじゃあ、ついていくよ」
クルッと箒を回して横に座ると、フワッと浮かび上がる。
その光景に騎士たちは驚いているようだが、この世界には魔術は存在していないのか。
『ピッ……この世界の魔力値はかなり低く、魔術を行使できる存在は皆無です』
なるほど、だから驚いているのか。
「そ、それはなんだね? そんな所で手品をして誤魔化さないで、こっちについてきたまえ」
「手品が何かわからないけどね、ちゃんとついていくから先導してよ」
騎士たちが前後にいるので、その間をふわふわと飛んでいく。
すると、あちこちから集まってきたらしい人々が、私を見て何かを構えている。
「騎士殿、あれは何かな? 周りの人が構えているあれは? シールドにしては小さいし、魔導具とも思えないけれど」
「あ、あれはスマホで写メ撮っているんだろうさ」
「スマホ? 写メ? それはなにかな?」
「……それすら知らない国から来たのかよ。あんた、本当に何処の国から来たんだよ。妙に日本語は流暢に話しているけど」
ふむ。
気のせいか、あまり詳しく話したら逆に気まずそうな気もしてきた。
「言語を翻訳する魔術があるんだよ。スピークランゲージって言う魔術でね、一度でも聞いたことのある言語なら、普通に会話ができるようになるし、リードランゲージという魔術なら、文字の読みも難しくはない」
「はいはい、また魔術なのだね。後で詳しく話を聞かせてもらうよ」
そのまま騎士についていくが、街道にやってくると奇妙な乗り物らしきものが走り回っている。
その手前にある白黒の乗り物に騎士たちは乗っていく。
「ほら、君もその手品をやめて此処に乗りなさい」
「それはお断りする。私は自前の箒で飛んでいくので気にしないで」
「そうは行かないんだよ、このままだとあんたは不法滞在者もしくは密航者として扱わないとならないんだから。いうことを聞かないと実力行使させてもらうがいいかな?」
突然雰囲気が変わる。
なるほど、自分たちの都合を聞かない場合は実力行使で行く、よくある自分勝手な貴族のやり方だな。
だが、その程度で私は驚かない。
「ほう。まあ、貴方たちの言い分も理解できる。だけど、その実力行使とやらは愚策だよ、見たこともない国で、知らない騎士の命令で、安全が確認できないものに無理やり乗せるなんてごめん被る。できるならやってごらんよ」
「なら、公務執行妨害の現行犯として逮捕させてもらうよ」
そう宣言して私を捕まえようとするが、惜しい。
──ビシッ
私の周りには、常に結界が張り巡らされている。
私に害意を持つものは、この結界によって阻まれる。
「こ、これはなんだ‼︎」
「敵性結界だよ、私に害意があるものを排除する結界さ。ほら、分かったら私を捕まえようとしないで先導してくださいよ」
「こんな奇妙なことで抵抗を続けるのなら、君の罪も重くなるのがわからないのか‼︎」
「いや、だから私の罪って何だよ?」
いい加減、話が合わなくてイライラしてくる。
けれど、それは向こうも同じことなんだろう。
「|深淵の書庫(アーカイブ)起動。こっちの世界の法や文化、風習をサーチして」
『ピッ……この土地の記憶からサーチします……』
結界の外では、ついに棍棒のようなものを引き抜いて殴っている姿が見えるのだが、そんなのはお構いなしにサーチ結果をじっと待つ。
『ピッ……サーチ完了。知識のオーブを形成します』
すぐさま両手を合わせてそっと引く。
するとそこには、白く光る魔法の球が形成された。
知識のオーブといい、この中に今サーチして貰ったデータが詰まっている。
「そ、それはなんだ‼︎ 爆弾か‼︎」
「爆弾って知らないんだけどなぁ……」
──ポシュッ
両手でオーブを掴み、魔力として吸収する。
すると、この日本という国の文化がなんとなく理解できてきた。
法については専門分野のため、書物から取り込まないと無理だけれど、今、この場で話をするための知識はなんとなく理解できた。
「あ~、なるほど理解したわ。それじゃあ、この街の一番偉い人に話してくれない? 異世界からの来訪者を名乗るハイエルフが、空間を越えてやってきたって。その対処を聞くといいよ」
「何を勝手なことを。そんなことができるはずがないだろう」
──ファンファン
すると、先ほどの音がいくつも近寄ってくる。
気がつくと、白黒の乗り物……パトカーが幾台も集まってきて、私の周りを取り囲んだ。
「あ~あんたらじゃ頭固すぎるからさ、さっきの話を上の人に伝えてよ。貴方達が魔法に興味があるのなら、多少は教えても構わないと思っているけれど、そうじゃないのなら私は別の国に行くからさ」
「別の国だと? やっぱり密入国者か」
さっきよりもガッチリと周りを囲まれて逃げ場がないように見える。
けれど、空があるから上昇すれば良い。空なら何処までも飛んでいけるから。
「はぁ。どうして私の話を信じてもらえないのですか? 魔法が存在しない世界なのは理解できましたけれど、だからといって一方的じゃないですか」
「だから警察で話を聞くといっているだろうが」
「……もういいわ、話ならそっちの公園で説明するから、あんたたちが理解できようが理解できなかろうが、こっちは真実しか話しませんからそのつもりで」
──ヒュゥゥゥゥ
高度を上げて、もう一度公園の中まで戻る。
私が最初にやってきた場所にゆっくりと着地すると、警察がまた走ってきて私を包囲する。
もう立ち話も面倒なので、|空間収納(チェスト)から椅子とテーブルを取り出して座ると、ティーセットを用意、水の玉を作り出して加熱するとハーブティーを入れる。
その一連の動きを、周りの警察はカメラを回して動画を撮って記録している。
「……もう一度聞くが、君は何処の国の人間だ?」
「この地球上には存在しない異世界。私の名前はアルカ・トラス、亡国の賢者だ。この世界に来た理由はわからないが、すくなくとも私に敵対しない限りは攻撃はしないことをお約束します」
さぁ、私の言葉を何処まで信用しますか?
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