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第十五話・蛇の道は蛇なれど、タチの悪さは蛇以上
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ワーディス王国王都。
ヨルムンガンド・オンラインの舞台であるマグナ・カルタ世界に存在する王国であり、ユーザーたちが最初にスタートする国。
それ故に、この国の王都には大勢のユーザーたちが集まっている。
ゲーム開始時には三つの領地からスタートするのだが、利便性に気づいたユーザーたちは馬車なり徒歩なり魔法なりで、王都ワーディアルへとやってくる。
全ての都市への定期運行馬車があり
全ての都市から様々な物流が集まり
全ての都市の過半数のクエストが集まる。
それ故に、この都市をベースキャンプとして活動するユーザーは多いものの、クエストには期日があるものも少なくはないため、地方のクエストなどは現地で受け、そのまま報告する方が効率が良い。
何よりも、地方から王都に送られてくるものは輸送費分が加算されて高価となり、現地で購入した方が手軽に手に入りやすい素材などもあるため、交易商人を楽しむユーザーにとっては、中継点の一つでしかないことがある。
まあ、初期で馬車などを手に入れられたら、安く仕入れて王都で売り飛ばす『大航海時代』のように荒稼ぎできるのも魅力ではある。
また、ハウジングシステムが初期から実装されており、アパートのような集合住宅や一軒家もあちこちに存在しているため、ギルドを結成したユーザーたちは金を出し合い、拠点を得ることができる。
他の初期三都市にもハウジングシステムはあるものの、規模や個数が少ないため、ギルド本部は王都でという風潮がある。
なお、ほとんど知られていないのだが、ハーメルンの地方都市であるルーベンベルグは王都並みのハウジングシステムを有しており、都市城塞外にはユーザーたちによって開拓された『島崎組ユーザー自治区』なる街も存在する。
一プレイヤーが広大な領地を手に入れたものの管理に手が回らず杜撰となった結果、他のユーザーにとっては居心地のいい場所になりつつあるという。
公式はそれを阻止する気なのか、ルーベンベルグは今回の大規模クエストの舞台となり、繁栄が消滅、どちらかの選択を強いられることになっていた。
………
……
…
──王都ワーディアル・スラム地区
治安が良く対人戦闘禁止の王都の中で、唯一、スラム地区だけは対人設定が自動的に解除される。
当然ながら、対人戦ギルドや赤ネーム、つまり犯罪者たちにとってはこの地区はパラダイスであり、血気盛んな奴らが集まっている。
「おう、ここに集まっていたか」
そのスラム地区にある大きな宿から出てきたザナドゥは、神聖同盟のメンバーが根城にしている酒場にやってきた。
「誰かと思ったら、ザナドゥかよ。なにか良い儲け話でもあったのか?」
「あれか? 前から話していたオワリとかいう街、手に入りそうになったのか?」
ギルドマスターであるザナドゥだが、崇め奉られているわけでは無く。
ただ、この世界で好き勝手に生きる、誰にも束縛されないで愉しむという目的のために集まった同士であり、ギルドシステムによる恩恵を受けるために参加しているものが大半である。
「まあ、近いな。ここにいる連中の中で、ルーベンベルグ領主とその腰巾着のリアル情報を知っている奴はいるか?」
その場にいるユーザーに、嬉しそうに問いかけるザナドゥだが。
「あのなぁ。いくらザナドゥでも、ユーザーのリアル情報を調べるのはご法度なのは知っているだろうが?」
「たとえ知っていても、教えるわけにはいかないなぁ」
「あれか? この前までいたリアル部下みたいに、こき使って捨てるための手駒にでもするのか?」
真面目に答える奴、笑い飛ばす奴、そんな輩が大勢いるが、やはり最低限のルールは理解している。
だが、ザナドゥは臆することなく一言。
「あいつら、【R・I・N・G】クエストを進めている。すでにヒントをいくつか手に入れているから、それを横から掻っ攫う」
「……マジかよ」
「俺の知り合いも【R・I・N・G】クエストが発動したらしいが、謎が全くわからなくて放置しているって話していたなぁ」
「でも、なんでそいつらがクエストを進めているって知っているんだ?」
その問いかけに、ザナドゥが右手を横に伸ばす。
すると、その腕の上に黒いフクロウが二羽、姿を表した。
「シャドウオウル、俺の【闇魔法】で召喚した使い魔だ。これを奴等の屋敷に忍び込ませて、情報を聞き出した」
「へぇ、それじゃあ本当らしいな」
実際にシャドウオウルで情報を聞き取ることができるのは、リアルタイムで一時間に一度、5分だけ。
だから、複数のシャドウオウルを駆使し、時間差で聞き取りをすることである程度の時間をカバーすることができるのだが。
ザナドゥの【闇魔法】レベルは4なので、同時に4体までしか使徒は召喚できないのだが、そのうちの一体はすでにハルナの屋敷に常駐させていた。
「ああ。【R・I・N・G】が手に入ったら、俺は莫大な現金を手に入れる。もしも有益な情報が手に入ったら、それは高額で買わせてもらうがどうだ!!」
「高額……ねぇ。まあ、気が向いたら調べるさ」
「俺は乗った!!」
「俺は降りるわ。やっぱり、それは犯罪行為だからな」
などなど、いろいろな意見あるがザナドゥは満足である。
ここで【R・I・N・G】の話を持ち出した理由は、ハルナたちの情報を本気で手に入れるためじゃなく、自分の手駒に使える奴を選抜したかったから。
そもそも、【R・I・N・G】の情報を持っているユーザーの正体を知ったら、ザナドゥに報告せずに彼女らに擦り寄った方が得策である。
協力するから分け前をくれ、それを持ちかけ、運が良ければ儲け話にも繋がられる。わざわざ危険なことに手を染めるよりも確実かもしれない。
だから、ザナドゥはそういう奴にシャドウオウルを潜ませ、うまく接触させてリアルなどの話も聞き出せないかと、『囮』として使えるものを探すために話したのである。
「そうか……まあ、それなら仕方ない。もしも手伝ってくれるやつがいたら、いつでも情報を持ってきてくれ、フレンドコールで連絡をくれれば、いつでも会えるようにしておくからな」
そう告げてから、ザナドゥは酒場を後にするが、店から出てすぐに、足元から『シャドウスネーク』を召喚すると、それを酒場の中、隅の方に配置した。
「まあ、良くて1人、もしくは2人。そんなところだろうさ」
ボソリと呟くザナドゥ。
そして宿に戻る前に情報屋のところにも顔を出し、【R・I・N・G】クエストについての情報がないか尋ねに行ったのだが、何もないと告げられ手数料だけを取られ、ややご立腹であったのはいうまでもない。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──王都ワーディアル、ギルド黄道十二宮本部
王都中央にある三階建ての大きな屋敷。
ここが、ヨルムンガンド・オンラインの世界である『マグナ・カルタ』の謎を解き明かすために集まったギルド『黄道十二宮』の本部。
常にユーザーが2人、それ以外にもギルドランクを上げて雇った上級NPCが三人、この本部には待機している。
──ガチャッ
円卓の間と呼ばれている、十二人の幹部の部屋、そこに『アクエリアス』の称号を持つ女性が入ってくると、自分の席に座り周りを見渡す。
「あら? 今日はライブラだけなの?」
椅子に座り、のんびりとコンソールを操作しているライブラ話しかけつつ、アクエリアスはフードを取る。
金髪碧眼、まだ幼い顔の少女がアクエリアス、それとは対照的に、禿頭丸メガネの老人がライブラ。
リアルタイムで毎日発行される『ヨルムンガンド・タイムス』を手に、何か新しい情報がないかと、ライブラは新聞を読んでいた。
「うむ。して、昨日は何かあったのか? 【R・I・N・G】クエストの進行も最近は停滞しているようだが?」
「最近も何も、まだ始まって一ヶ月じゃない。そんなに早く、世界の謎なんて、見つかるわけないじゃないのよ」
「他のギルドでは、ギルドメンバー総掛かりでクエストに集中。我が黄道十二宮も、【R・I・N・G】クエストの一つであろうと予測している『大規模討伐クエスト』に参加しているというのに、お前ときたら……」
はぁ、と渋い顔をしてため息をつくライブラ。
「私は、別ルートで情報を集めているのよ……それでね、神聖同盟が動いたわよ」
──ピクッ
ライブラの眉根が少し上がる。
対人ギルドがリアル報酬付きイベントに参加するなど、賞金目当て以外には考えられないのだが。
問題は、奴らのやり方である。
「有益な情報があった、ということか」
「ええ。ルーベンベルグの領主ハルナ、彼女がクエストを進行させているわ。どの詩篇なのかわからないけど、わたしたちの詩篇と重なるならばうちのギルドに取り込んでも構わないと思わない?」
そう告げてから、アクエリアスはギルドコマンドで情報画面をオープンする。
そこには、彼女が集めた【R・I・N・G】クエストの詩篇が、大量に並べられている。
その数、ざっと46。
いくつかの詩篇については、全く繋がりのないユーザーが別々に所持しているパターンも確認できている。それ故に、二つの詩篇の組み合わせであるにも関わらず、同じ組み合わせのクエストを保有するユーザーが何人もいると考え、アクエリアスは詩篇集めを必死に頑張っていた。
「なるほどな。未だ、うちの詩篇と同じ組み合わせのユーザー情報は集まらず。そのルーベンベルグのハルナとやらの詩篇は手に入ったのか?」
「まだ。だって、神聖同盟に潜伏させていた仲間から聞いたのも、ついさっきだもん。それと、彼ら、ハルナのリアル情報を探し始めたわ」
──パチン
その話で、ライブラは顔に手を当てる。
「なんと愚かな。リアルに手を出すことは、己の首を絞めるというのに」
「まぁね。だから、私も動くことにしたのよ……ハルナの情報が、彼らにとって必要無くなれば良い話なのですからね」
「まあ、我らが先に、【R・I・N・G】を手にすれば良い。それで、何か方法はあるのか?」
「もう、動いているわよ。だから、私もしばらくは、ここに来れなくなるから」
そう告げて、アクエリアスは席を立つ。
「まあ、アクエリアスがそう告げるのなら構わんか。あらごとにだけはしないようにな」
「そうね。でも、仕掛けられたらやり返すぐらいは、構わないよね?」
手を振りながら、アクエリアスは部屋から出る。
そしてすぐにフレンド画面を開き、数名の仲間に指示を出した。
………
……
…
──ファミリーレストラン・モトシャリアン
最近は、私が個人的に昼ごはんを食べに行っても、あちこちの席で聞き耳を立てている客があちこちにいたんだよ。
だから、明日花との打ち合わせは、サイバリアンの同系列チェーン店である『モトシャリアン』にした。
サイバリアンから少し離れるし、こっちは中華レストランなのでワインを頼むことはできないけど、紹興酒もあるし喫煙可の席もあるから、酒飲みタバコ呑みには良いかも。
そう思って、待ち合わせしていたんだけど、明日花が青い顔をして入ってきた。
「おーい!こっちだよ~」
「あ、いたいた! 小町ちゃん大変だよ!!」
急いで先に着く明日花。
そして周りを気にしつつ、一つの手紙を取り出して目の前に差し出す。
「うちのポストに、こんなのが入っていたんだけど……」
「見て良い?」
「うん」
何か? 宗教勧誘か何かかなと思って、中から手紙を取り出して読む。
そこにはきれいに印刷された文字で、こう書いてあった。
『神聖同盟が、アスナとハルナ、二人のリアル情報を調べています。
【R・I・N・G】についての情報を手に入れるために動きました。
領主館での会話は、使徒を通じて全て聞かれています。
注意してください。 』
絶句。
神聖同盟の事はそうだけど、それを教えてくれるこの人も、明日花がアスナだってわかっているという事だよね?
そして屋敷に使徒?
どこから紛れ込み……って、トリビアに憑依していたやつが、そのままトリビアから離れて屋敷に残っていたのか。
これは失念した。
「ね、どうする? どうしようか?」
「そうだねぇ……今度からは、情報交換は別の場所でするしかないなぁ」
「でも。どこがあるの?」
「いや、いくらでもある。うちの領地、オワリの街にはまだ未開放の家やアパートもたくさんあるから、そこかに別のアジトを用意すれば良いだけ。防御結界の強度はパーティーのみにして、ついでに憑依についての対抗策も探そう」
やることが増えましたが。
はぁ、クエストに集中させてほしいんだけどさ。
そう考えていたら、明日花もため息をついている。
「せっかく、EX地図の解析が出来たのに……」
「そうかぁ」
タバコを取り出して火をつけ、そして手が止まる。
「え? 解析、終わったの?」
「うん。解析できたら、あの地図に【移動しますか】っていうボタンが出てきたよ?」
「じゃあ、条件が揃ったら、あとは向かって儀式で終わり?」
「そうそう。そのことを言いたかったんだけど、このことがあったからさ」
トントンと明日花が手紙を指で叩く。
ここからは、慎重に動かないと危険だよなぁ。
ヨルムンガンド・オンラインの舞台であるマグナ・カルタ世界に存在する王国であり、ユーザーたちが最初にスタートする国。
それ故に、この国の王都には大勢のユーザーたちが集まっている。
ゲーム開始時には三つの領地からスタートするのだが、利便性に気づいたユーザーたちは馬車なり徒歩なり魔法なりで、王都ワーディアルへとやってくる。
全ての都市への定期運行馬車があり
全ての都市から様々な物流が集まり
全ての都市の過半数のクエストが集まる。
それ故に、この都市をベースキャンプとして活動するユーザーは多いものの、クエストには期日があるものも少なくはないため、地方のクエストなどは現地で受け、そのまま報告する方が効率が良い。
何よりも、地方から王都に送られてくるものは輸送費分が加算されて高価となり、現地で購入した方が手軽に手に入りやすい素材などもあるため、交易商人を楽しむユーザーにとっては、中継点の一つでしかないことがある。
まあ、初期で馬車などを手に入れられたら、安く仕入れて王都で売り飛ばす『大航海時代』のように荒稼ぎできるのも魅力ではある。
また、ハウジングシステムが初期から実装されており、アパートのような集合住宅や一軒家もあちこちに存在しているため、ギルドを結成したユーザーたちは金を出し合い、拠点を得ることができる。
他の初期三都市にもハウジングシステムはあるものの、規模や個数が少ないため、ギルド本部は王都でという風潮がある。
なお、ほとんど知られていないのだが、ハーメルンの地方都市であるルーベンベルグは王都並みのハウジングシステムを有しており、都市城塞外にはユーザーたちによって開拓された『島崎組ユーザー自治区』なる街も存在する。
一プレイヤーが広大な領地を手に入れたものの管理に手が回らず杜撰となった結果、他のユーザーにとっては居心地のいい場所になりつつあるという。
公式はそれを阻止する気なのか、ルーベンベルグは今回の大規模クエストの舞台となり、繁栄が消滅、どちらかの選択を強いられることになっていた。
………
……
…
──王都ワーディアル・スラム地区
治安が良く対人戦闘禁止の王都の中で、唯一、スラム地区だけは対人設定が自動的に解除される。
当然ながら、対人戦ギルドや赤ネーム、つまり犯罪者たちにとってはこの地区はパラダイスであり、血気盛んな奴らが集まっている。
「おう、ここに集まっていたか」
そのスラム地区にある大きな宿から出てきたザナドゥは、神聖同盟のメンバーが根城にしている酒場にやってきた。
「誰かと思ったら、ザナドゥかよ。なにか良い儲け話でもあったのか?」
「あれか? 前から話していたオワリとかいう街、手に入りそうになったのか?」
ギルドマスターであるザナドゥだが、崇め奉られているわけでは無く。
ただ、この世界で好き勝手に生きる、誰にも束縛されないで愉しむという目的のために集まった同士であり、ギルドシステムによる恩恵を受けるために参加しているものが大半である。
「まあ、近いな。ここにいる連中の中で、ルーベンベルグ領主とその腰巾着のリアル情報を知っている奴はいるか?」
その場にいるユーザーに、嬉しそうに問いかけるザナドゥだが。
「あのなぁ。いくらザナドゥでも、ユーザーのリアル情報を調べるのはご法度なのは知っているだろうが?」
「たとえ知っていても、教えるわけにはいかないなぁ」
「あれか? この前までいたリアル部下みたいに、こき使って捨てるための手駒にでもするのか?」
真面目に答える奴、笑い飛ばす奴、そんな輩が大勢いるが、やはり最低限のルールは理解している。
だが、ザナドゥは臆することなく一言。
「あいつら、【R・I・N・G】クエストを進めている。すでにヒントをいくつか手に入れているから、それを横から掻っ攫う」
「……マジかよ」
「俺の知り合いも【R・I・N・G】クエストが発動したらしいが、謎が全くわからなくて放置しているって話していたなぁ」
「でも、なんでそいつらがクエストを進めているって知っているんだ?」
その問いかけに、ザナドゥが右手を横に伸ばす。
すると、その腕の上に黒いフクロウが二羽、姿を表した。
「シャドウオウル、俺の【闇魔法】で召喚した使い魔だ。これを奴等の屋敷に忍び込ませて、情報を聞き出した」
「へぇ、それじゃあ本当らしいな」
実際にシャドウオウルで情報を聞き取ることができるのは、リアルタイムで一時間に一度、5分だけ。
だから、複数のシャドウオウルを駆使し、時間差で聞き取りをすることである程度の時間をカバーすることができるのだが。
ザナドゥの【闇魔法】レベルは4なので、同時に4体までしか使徒は召喚できないのだが、そのうちの一体はすでにハルナの屋敷に常駐させていた。
「ああ。【R・I・N・G】が手に入ったら、俺は莫大な現金を手に入れる。もしも有益な情報が手に入ったら、それは高額で買わせてもらうがどうだ!!」
「高額……ねぇ。まあ、気が向いたら調べるさ」
「俺は乗った!!」
「俺は降りるわ。やっぱり、それは犯罪行為だからな」
などなど、いろいろな意見あるがザナドゥは満足である。
ここで【R・I・N・G】の話を持ち出した理由は、ハルナたちの情報を本気で手に入れるためじゃなく、自分の手駒に使える奴を選抜したかったから。
そもそも、【R・I・N・G】の情報を持っているユーザーの正体を知ったら、ザナドゥに報告せずに彼女らに擦り寄った方が得策である。
協力するから分け前をくれ、それを持ちかけ、運が良ければ儲け話にも繋がられる。わざわざ危険なことに手を染めるよりも確実かもしれない。
だから、ザナドゥはそういう奴にシャドウオウルを潜ませ、うまく接触させてリアルなどの話も聞き出せないかと、『囮』として使えるものを探すために話したのである。
「そうか……まあ、それなら仕方ない。もしも手伝ってくれるやつがいたら、いつでも情報を持ってきてくれ、フレンドコールで連絡をくれれば、いつでも会えるようにしておくからな」
そう告げてから、ザナドゥは酒場を後にするが、店から出てすぐに、足元から『シャドウスネーク』を召喚すると、それを酒場の中、隅の方に配置した。
「まあ、良くて1人、もしくは2人。そんなところだろうさ」
ボソリと呟くザナドゥ。
そして宿に戻る前に情報屋のところにも顔を出し、【R・I・N・G】クエストについての情報がないか尋ねに行ったのだが、何もないと告げられ手数料だけを取られ、ややご立腹であったのはいうまでもない。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──王都ワーディアル、ギルド黄道十二宮本部
王都中央にある三階建ての大きな屋敷。
ここが、ヨルムンガンド・オンラインの世界である『マグナ・カルタ』の謎を解き明かすために集まったギルド『黄道十二宮』の本部。
常にユーザーが2人、それ以外にもギルドランクを上げて雇った上級NPCが三人、この本部には待機している。
──ガチャッ
円卓の間と呼ばれている、十二人の幹部の部屋、そこに『アクエリアス』の称号を持つ女性が入ってくると、自分の席に座り周りを見渡す。
「あら? 今日はライブラだけなの?」
椅子に座り、のんびりとコンソールを操作しているライブラ話しかけつつ、アクエリアスはフードを取る。
金髪碧眼、まだ幼い顔の少女がアクエリアス、それとは対照的に、禿頭丸メガネの老人がライブラ。
リアルタイムで毎日発行される『ヨルムンガンド・タイムス』を手に、何か新しい情報がないかと、ライブラは新聞を読んでいた。
「うむ。して、昨日は何かあったのか? 【R・I・N・G】クエストの進行も最近は停滞しているようだが?」
「最近も何も、まだ始まって一ヶ月じゃない。そんなに早く、世界の謎なんて、見つかるわけないじゃないのよ」
「他のギルドでは、ギルドメンバー総掛かりでクエストに集中。我が黄道十二宮も、【R・I・N・G】クエストの一つであろうと予測している『大規模討伐クエスト』に参加しているというのに、お前ときたら……」
はぁ、と渋い顔をしてため息をつくライブラ。
「私は、別ルートで情報を集めているのよ……それでね、神聖同盟が動いたわよ」
──ピクッ
ライブラの眉根が少し上がる。
対人ギルドがリアル報酬付きイベントに参加するなど、賞金目当て以外には考えられないのだが。
問題は、奴らのやり方である。
「有益な情報があった、ということか」
「ええ。ルーベンベルグの領主ハルナ、彼女がクエストを進行させているわ。どの詩篇なのかわからないけど、わたしたちの詩篇と重なるならばうちのギルドに取り込んでも構わないと思わない?」
そう告げてから、アクエリアスはギルドコマンドで情報画面をオープンする。
そこには、彼女が集めた【R・I・N・G】クエストの詩篇が、大量に並べられている。
その数、ざっと46。
いくつかの詩篇については、全く繋がりのないユーザーが別々に所持しているパターンも確認できている。それ故に、二つの詩篇の組み合わせであるにも関わらず、同じ組み合わせのクエストを保有するユーザーが何人もいると考え、アクエリアスは詩篇集めを必死に頑張っていた。
「なるほどな。未だ、うちの詩篇と同じ組み合わせのユーザー情報は集まらず。そのルーベンベルグのハルナとやらの詩篇は手に入ったのか?」
「まだ。だって、神聖同盟に潜伏させていた仲間から聞いたのも、ついさっきだもん。それと、彼ら、ハルナのリアル情報を探し始めたわ」
──パチン
その話で、ライブラは顔に手を当てる。
「なんと愚かな。リアルに手を出すことは、己の首を絞めるというのに」
「まぁね。だから、私も動くことにしたのよ……ハルナの情報が、彼らにとって必要無くなれば良い話なのですからね」
「まあ、我らが先に、【R・I・N・G】を手にすれば良い。それで、何か方法はあるのか?」
「もう、動いているわよ。だから、私もしばらくは、ここに来れなくなるから」
そう告げて、アクエリアスは席を立つ。
「まあ、アクエリアスがそう告げるのなら構わんか。あらごとにだけはしないようにな」
「そうね。でも、仕掛けられたらやり返すぐらいは、構わないよね?」
手を振りながら、アクエリアスは部屋から出る。
そしてすぐにフレンド画面を開き、数名の仲間に指示を出した。
………
……
…
──ファミリーレストラン・モトシャリアン
最近は、私が個人的に昼ごはんを食べに行っても、あちこちの席で聞き耳を立てている客があちこちにいたんだよ。
だから、明日花との打ち合わせは、サイバリアンの同系列チェーン店である『モトシャリアン』にした。
サイバリアンから少し離れるし、こっちは中華レストランなのでワインを頼むことはできないけど、紹興酒もあるし喫煙可の席もあるから、酒飲みタバコ呑みには良いかも。
そう思って、待ち合わせしていたんだけど、明日花が青い顔をして入ってきた。
「おーい!こっちだよ~」
「あ、いたいた! 小町ちゃん大変だよ!!」
急いで先に着く明日花。
そして周りを気にしつつ、一つの手紙を取り出して目の前に差し出す。
「うちのポストに、こんなのが入っていたんだけど……」
「見て良い?」
「うん」
何か? 宗教勧誘か何かかなと思って、中から手紙を取り出して読む。
そこにはきれいに印刷された文字で、こう書いてあった。
『神聖同盟が、アスナとハルナ、二人のリアル情報を調べています。
【R・I・N・G】についての情報を手に入れるために動きました。
領主館での会話は、使徒を通じて全て聞かれています。
注意してください。 』
絶句。
神聖同盟の事はそうだけど、それを教えてくれるこの人も、明日花がアスナだってわかっているという事だよね?
そして屋敷に使徒?
どこから紛れ込み……って、トリビアに憑依していたやつが、そのままトリビアから離れて屋敷に残っていたのか。
これは失念した。
「ね、どうする? どうしようか?」
「そうだねぇ……今度からは、情報交換は別の場所でするしかないなぁ」
「でも。どこがあるの?」
「いや、いくらでもある。うちの領地、オワリの街にはまだ未開放の家やアパートもたくさんあるから、そこかに別のアジトを用意すれば良いだけ。防御結界の強度はパーティーのみにして、ついでに憑依についての対抗策も探そう」
やることが増えましたが。
はぁ、クエストに集中させてほしいんだけどさ。
そう考えていたら、明日花もため息をついている。
「せっかく、EX地図の解析が出来たのに……」
「そうかぁ」
タバコを取り出して火をつけ、そして手が止まる。
「え? 解析、終わったの?」
「うん。解析できたら、あの地図に【移動しますか】っていうボタンが出てきたよ?」
「じゃあ、条件が揃ったら、あとは向かって儀式で終わり?」
「そうそう。そのことを言いたかったんだけど、このことがあったからさ」
トントンと明日花が手紙を指で叩く。
ここからは、慎重に動かないと危険だよなぁ。
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これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
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