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第一話・世界初のフルダイブゲーム?
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夕焼けが、綺麗に海を照らしている。
丘の上に立つと、潮騒と一緒に人々の声が聞こえてくる。
もう、日が暮れる。
早く帰らなきゃ。
「明日花!! そろそろ帰ろうよ?」
「や~っ!! もう少し、あれを見ているの!!」
夕陽が海に沈む瞬間。
それが、明日花の好きな景色。
私も彼女の横に座って、二人で夕陽が沈むのを見ていた。
明日花のお気に入りの、白のワンピース。
それも段々と赤く染まっていく。
「えへへ。海とお揃いだよ?」
「ずるいなぁ。私も白いのを着ようかなぁ」
「小町ちゃんは、白よりも青がよく似合うよ。海の色だから」
「そっか。じゃあ、私は青色でいいよ!!」
そして日が暮れるころ、私と明日花のお母さんが迎えにくる。
そんな、小さな日常が大好きだった。
そんな、静かな島が、大好きだった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
日本初、世界初のフルダイブ式VRMMORPG、【ヨルムンガンド・オンライン】。そのファーストロットの予約に私が当選したのは、まさに奇跡としか言いようがない。
元々はダメ元で友人分と二つの申し込みをしたのだけれど、そもそもの当選確率が宝くじレベル。
それに当選したのだから、まさに生まれてから蓄えていた運を全て使い切ったと言っても、過言ではないと思いませんか?
このヨルムンガンド・オンラインを開発したのは、神戸にある【株式会社ユメミライ】っていうメーカーでね。
人間の五感全てを電脳空間に再現できるシステムの開発を、見てユメカガク研究所】っていう研究機関が成功。そのノウハウが集約されたのが、この電脳空間に作り出した世界を舞台としたファンタジーゲームということらしい。
そう、ゲーム専門サイトにも公式サイトにも公開されていたからさ。
そのフルダイブ機能の殆どは、ソフトの販売と同時に売り出されたヘッドギア型の専用電脳モジュールシステム『ヘッドセット』にインストールされていて、それを制御用ソフトがインストールされている『ボックス』って言う端末をパソコンに接続するだけで、装着者はゲームの世界にリンクすることができるようになる。
「さて。まずは制御用ソフトがインストールされている端末を、パソコンに接続して……」
届いたばかりの『ヨルムンガンド・オンライン・スターターセット』を開梱して、同封されている簡単な手引き書を確認しつつ、『ボックス』をパソコンに接続。
そのボックスにある『カードスロット』に、私のパーソナルデータをセーブするための『パーソナルカード』をセットする。
すぐに読み込みが開始するけど、まだ個人データの書き込みは始まらない。
「今の隙に……まずは一服」
タバコを咥えて火をつける。
紫檀の香りとまではいかないけど、私の好きなタバコの香りが部屋に広がる。
まあ、かなりマニアックなタバコだし、その銘柄を吸う女性ってどうよ?みたいな感じで私はあまりモテない。
それに研究畑一筋で生きていたから、こんな贅沢なゲームの抽選にも当たったんだろうなぁ。
発売当日なんて、取扱店に当日販売分がないかって殺到していたし、買取しますよってプレートを出している人もいたんだけどさ。
──ピピピピッ、ピッピッ
カードの読み込みも終わり。
ここからは、購入時に発行されたデータを入力しなくてはならない。
「まずは、ベッドセットを装着して脳波を読み取り登録……右手の指紋と、網膜パターン。あとは、パーソナルカード用の初期登録ID……」
当選者にだけ送られる、個人ID。
これがない限りは、本体を購入してもゲームのインストールさえもできないからね。
「読み込みコマンド……音声入力か。リアライズ・スタート」
これも、あらかじめ登録されているボイスコード。
これにより、私の全てがパーソナルカードに書き込まれていく。
なお、後日販売予定のベッドセット一体型端末『リアライザー』っていうのは、このカードを挿入するスロットもあるし、屋外とかでも手軽にリンクできるんだって。
解せぬよね?
「ええっと、ゲームに関する同意データ? ここからはマウスで操作……」
カチッ、カチッ、カチッ
マウスをクリックする音が、室内に響く。
暗い室内で、煌々と光るモニター。
そこに接続されている、ヘッドギアタイプの電脳モジュールと、その制御システムであるボックスの赤い読み込みランプが点滅している。
その明かりが、部屋の中には開梱のち放置された段ボールやら包装紙をチカチカと垂らしている。
あちこちに投げ捨てられ、さらに脱ぎ捨てられた衣類やら、洗われていない服が放り込まれた選択カゴまで照らすのはどうよ?
あとで洗濯するから待っててよ。
そして一通りのランプが止まり、オールグリーンに輝く。
「……ふう。初期設定はこれで終わり。インストール自体はボックスが自動的にプログラムをダウンロードするだけだから早いんだけど、この、初期設定だけは手動だからなぁ」
そう呟きつつ、私は作業が終わるのを、じっと待っていた。
………
……
…
|本田小町(ほんだこまち)、24歳。
北海道中央大学の大学院電脳学科に所属、専攻は『脳科学』。
その彼女が待ちに待っていたオンラインゲームが発売されたのは、今から一週間前。
世界初のフルダイブ式MMO RPG【ヨルムンガンド・オンライン】。
それを開発したのは、日本の合同企業『株式会社ユメミライ』。
日米でフルダイブ技術競争が激化する中、それを実用レベルで完成させることに成功し、ゲームという形で公開した会社である。
それと時同じく、アメリカのフルダイブ研究機関が発表したものも、同じフルダイブ式MMO RPGである【E・F・O~悠久の開拓者】。
日本とアメリカ、二つのフルダイブ式ゲームの発表は、更なる驚きを見せる。
二つのゲーム世界はリンクしており、一定の手順を行うことで、相互の世界を旅することができるという。
これには世界中のゲームユーザーやフルダイブに関係している研究者たちは驚きを禁じ得ず、インターフェースがどうなっているのか、制御プログラムがどう働くのかなど注目の的になっていた。
だが、それ以上の情報は黙秘。
全てはゲームの世界を旅して欲しいと言う日米のゲームマネージャーの言葉を信じ、ゲームのファーストロットが発売された。
………
……
…
──東京都内・某住宅街
「あとは、キャラクターメイキングか。フルダイブ接続の開始は四日後の五月一日、それまではオフラインのチュートリアルを楽しむことしかできないとはねぇ……」
小町はゲーミングチェアに胡座をかいて、咥えタバコでモニターを見る。
時折、眼鏡の鼻当てをぐいっと押し上げて視界をクリアにし、横に置いてある作り置きのサンドイッチを頬張る。
そして食べようとして置いてあったパンの表面が固くなっていることに、小町は気がついた。
「固っ。私は一体、何時間こうやってモニターを見ていたのやら……って、始まったわね。まずはステータスのボーナスポイント……って、何よこれ?」
──シュルルルル
画面の上にはパチスロのような回転式ドラムがゆっくりと回っている。
二つのドラムに表示されているのは0から9までの数値。
つまり、ボーナスポイントは0から始まり、99まで表示されるようになっている。
「ええっと、ボタンを押すとドラムが高速回転して、もう一度押すとゆっくりと停止、そしてステータスのボーナスチャレンジは最大三回まで挑戦可能……うへぇ、三回目に00が出たら、ボーナスポイント0って、完全に詰みじゃないのよ。まあ、その場合はリセットしてやり直し……って、リセットしたら、次のキャラクターメイキングまで一ヶ月のフリーズタイム? 嘘でしょ?」
キャラクターメイキングは、二回まではやり直しがきく。
三回目には完成しなくてはならず、それをリセットしてやり直す場合は、一ヶ月間のリスタート期間が発生する。
そうマニュアルに書いてあるのを確認して、小町は頭を押さえて考える。
恐る恐る、スロットの停止ボタンを押そうとして。
ふと、画面下部の左右にある『< >』のボタンに気がつく。
「これは?」
停止ボタンを押す前に、小町は>をクリック。
すると、画面が切り替わり、【スキル習得画面】に切り替わる。
さらに次のページは【初期アイテム習得画面】になり、その次はボーナスポイントのスロット画面に戻った。
「……普通は、ステータスを決めてから、スキルを習得、そしてアイテムの順番よね? でも、これってどこからでもできるって言うこと?」
改めて、箱の中に放り投げてあったゲームマニュアルを読み直す。
確かに、このオンラインゲームのキャラクターメイキングは、ステータス、スキル、アイテム、どこからやっても問題はない。
ただし、ステータスを決定してからの方が、スキルなどの補正ボーナスが得やすくなり、年齢設定や種族設定はアイテムの習得によっても左右される。
種族は、アイテムチェックで『アバター』として得なくてはならないから。
「そして、スキルは完全ランダム習得? へ? 好きなスキルをポイントを払って手に入れるわけじゃないの?」
さらには。
「初期装備もアイテムも、全てランダム? はぁ? これってどう言うことなのよ?」
慌てて画面を切り替えて、Googleを起動。
すぐさまオンラインゲームのタイトルで検索すると。
【ヨルムンガンド観光協会】
というタイトルの情報サイトを発見。
ここには『取引掲示板』という項目があり、ゲーム開始直後にアイテムを交換したい人が集まり、取引や情報交換を行なっているらしい。
「はぁ……これはまた、なんと自由奔放と言うかなんと言うか。それでいてシステム的には完全にランダムとは……でも、この不自由さが面白いわよ!!」
再び画面を切り替え、ボーナスポイント決定画面を引っ張り出すが、すぐに右クリックでアイテム習得画面に切り替える。
「まずは、アイテム!! そう、装備とかが決まってからじゃないと、スキル配分もできないわよね? ここから……って、ちょっと待って?」
アイテム習得ボタンを押す直前。
小町は考える。
それならば、先に決めるのはスキルでは無いのか?
それによって欲しいアイテムなども自ずと決まってくるし、それこそステータス配分についての考察も難しくは無い。
改めて画面をヨルムンガンド観光協会、通称『ヨル観』の取引掲示板に切り替え、どのようなものが取引されているのか調べる。
「ふむ。武器や防具はまあ、当たり前にあるわよね……って聖剣? へ? いきなりランダムアイテムで聖剣も手に入るの? 装備のランクもあるし、かと思えばポーションとか、割り箸? なんでオンラインゲームのアイテムに割り箸なんてあるのよ? しかも高いわ!!」
このオンラインゲームの前情報は、いくつものゲームサイトに流れている。
曰く、世界初のフルダイブ式MMOである
曰く、自由度が高すぎる故に、難易度が高い
曰く、夢が詰まっている
この情報プラス、デモとして流れていた現実世界のようなファンタジー映像
酒場があって、楽しそうに談話をしている人々。
鍛冶場でハンマーを振るうドワーフや、草原で魔法を詠唱しているエルフ。
そして幼い少女のような戦士が、自分の身長よりもデカい大剣を振り回し、ドラゴンに挑む。
屈強な老齢の騎士は巨大な盾を構え、ドラゴンのブレスを弾き飛ばす。
まさにファンタジーというイメージの集大成が集まっている。
そして、動画を見直して小町は理解した。
「そっか、ファンタジーだから箸はないのか。だから割り箸って、おかしいだろ運営。そこ、力入れる場所なの?」
考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。
──グゥゥゥゥゥゥゥ
そして、考えるとお腹が減ってくる。
「はぁ、何か食べないと……」
そう呟きつつ冷蔵庫を開けてから。
小町は、四日ぶりに家から出かけることを決めた。
丘の上に立つと、潮騒と一緒に人々の声が聞こえてくる。
もう、日が暮れる。
早く帰らなきゃ。
「明日花!! そろそろ帰ろうよ?」
「や~っ!! もう少し、あれを見ているの!!」
夕陽が海に沈む瞬間。
それが、明日花の好きな景色。
私も彼女の横に座って、二人で夕陽が沈むのを見ていた。
明日花のお気に入りの、白のワンピース。
それも段々と赤く染まっていく。
「えへへ。海とお揃いだよ?」
「ずるいなぁ。私も白いのを着ようかなぁ」
「小町ちゃんは、白よりも青がよく似合うよ。海の色だから」
「そっか。じゃあ、私は青色でいいよ!!」
そして日が暮れるころ、私と明日花のお母さんが迎えにくる。
そんな、小さな日常が大好きだった。
そんな、静かな島が、大好きだった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
日本初、世界初のフルダイブ式VRMMORPG、【ヨルムンガンド・オンライン】。そのファーストロットの予約に私が当選したのは、まさに奇跡としか言いようがない。
元々はダメ元で友人分と二つの申し込みをしたのだけれど、そもそもの当選確率が宝くじレベル。
それに当選したのだから、まさに生まれてから蓄えていた運を全て使い切ったと言っても、過言ではないと思いませんか?
このヨルムンガンド・オンラインを開発したのは、神戸にある【株式会社ユメミライ】っていうメーカーでね。
人間の五感全てを電脳空間に再現できるシステムの開発を、見てユメカガク研究所】っていう研究機関が成功。そのノウハウが集約されたのが、この電脳空間に作り出した世界を舞台としたファンタジーゲームということらしい。
そう、ゲーム専門サイトにも公式サイトにも公開されていたからさ。
そのフルダイブ機能の殆どは、ソフトの販売と同時に売り出されたヘッドギア型の専用電脳モジュールシステム『ヘッドセット』にインストールされていて、それを制御用ソフトがインストールされている『ボックス』って言う端末をパソコンに接続するだけで、装着者はゲームの世界にリンクすることができるようになる。
「さて。まずは制御用ソフトがインストールされている端末を、パソコンに接続して……」
届いたばかりの『ヨルムンガンド・オンライン・スターターセット』を開梱して、同封されている簡単な手引き書を確認しつつ、『ボックス』をパソコンに接続。
そのボックスにある『カードスロット』に、私のパーソナルデータをセーブするための『パーソナルカード』をセットする。
すぐに読み込みが開始するけど、まだ個人データの書き込みは始まらない。
「今の隙に……まずは一服」
タバコを咥えて火をつける。
紫檀の香りとまではいかないけど、私の好きなタバコの香りが部屋に広がる。
まあ、かなりマニアックなタバコだし、その銘柄を吸う女性ってどうよ?みたいな感じで私はあまりモテない。
それに研究畑一筋で生きていたから、こんな贅沢なゲームの抽選にも当たったんだろうなぁ。
発売当日なんて、取扱店に当日販売分がないかって殺到していたし、買取しますよってプレートを出している人もいたんだけどさ。
──ピピピピッ、ピッピッ
カードの読み込みも終わり。
ここからは、購入時に発行されたデータを入力しなくてはならない。
「まずは、ベッドセットを装着して脳波を読み取り登録……右手の指紋と、網膜パターン。あとは、パーソナルカード用の初期登録ID……」
当選者にだけ送られる、個人ID。
これがない限りは、本体を購入してもゲームのインストールさえもできないからね。
「読み込みコマンド……音声入力か。リアライズ・スタート」
これも、あらかじめ登録されているボイスコード。
これにより、私の全てがパーソナルカードに書き込まれていく。
なお、後日販売予定のベッドセット一体型端末『リアライザー』っていうのは、このカードを挿入するスロットもあるし、屋外とかでも手軽にリンクできるんだって。
解せぬよね?
「ええっと、ゲームに関する同意データ? ここからはマウスで操作……」
カチッ、カチッ、カチッ
マウスをクリックする音が、室内に響く。
暗い室内で、煌々と光るモニター。
そこに接続されている、ヘッドギアタイプの電脳モジュールと、その制御システムであるボックスの赤い読み込みランプが点滅している。
その明かりが、部屋の中には開梱のち放置された段ボールやら包装紙をチカチカと垂らしている。
あちこちに投げ捨てられ、さらに脱ぎ捨てられた衣類やら、洗われていない服が放り込まれた選択カゴまで照らすのはどうよ?
あとで洗濯するから待っててよ。
そして一通りのランプが止まり、オールグリーンに輝く。
「……ふう。初期設定はこれで終わり。インストール自体はボックスが自動的にプログラムをダウンロードするだけだから早いんだけど、この、初期設定だけは手動だからなぁ」
そう呟きつつ、私は作業が終わるのを、じっと待っていた。
………
……
…
|本田小町(ほんだこまち)、24歳。
北海道中央大学の大学院電脳学科に所属、専攻は『脳科学』。
その彼女が待ちに待っていたオンラインゲームが発売されたのは、今から一週間前。
世界初のフルダイブ式MMO RPG【ヨルムンガンド・オンライン】。
それを開発したのは、日本の合同企業『株式会社ユメミライ』。
日米でフルダイブ技術競争が激化する中、それを実用レベルで完成させることに成功し、ゲームという形で公開した会社である。
それと時同じく、アメリカのフルダイブ研究機関が発表したものも、同じフルダイブ式MMO RPGである【E・F・O~悠久の開拓者】。
日本とアメリカ、二つのフルダイブ式ゲームの発表は、更なる驚きを見せる。
二つのゲーム世界はリンクしており、一定の手順を行うことで、相互の世界を旅することができるという。
これには世界中のゲームユーザーやフルダイブに関係している研究者たちは驚きを禁じ得ず、インターフェースがどうなっているのか、制御プログラムがどう働くのかなど注目の的になっていた。
だが、それ以上の情報は黙秘。
全てはゲームの世界を旅して欲しいと言う日米のゲームマネージャーの言葉を信じ、ゲームのファーストロットが発売された。
………
……
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──東京都内・某住宅街
「あとは、キャラクターメイキングか。フルダイブ接続の開始は四日後の五月一日、それまではオフラインのチュートリアルを楽しむことしかできないとはねぇ……」
小町はゲーミングチェアに胡座をかいて、咥えタバコでモニターを見る。
時折、眼鏡の鼻当てをぐいっと押し上げて視界をクリアにし、横に置いてある作り置きのサンドイッチを頬張る。
そして食べようとして置いてあったパンの表面が固くなっていることに、小町は気がついた。
「固っ。私は一体、何時間こうやってモニターを見ていたのやら……って、始まったわね。まずはステータスのボーナスポイント……って、何よこれ?」
──シュルルルル
画面の上にはパチスロのような回転式ドラムがゆっくりと回っている。
二つのドラムに表示されているのは0から9までの数値。
つまり、ボーナスポイントは0から始まり、99まで表示されるようになっている。
「ええっと、ボタンを押すとドラムが高速回転して、もう一度押すとゆっくりと停止、そしてステータスのボーナスチャレンジは最大三回まで挑戦可能……うへぇ、三回目に00が出たら、ボーナスポイント0って、完全に詰みじゃないのよ。まあ、その場合はリセットしてやり直し……って、リセットしたら、次のキャラクターメイキングまで一ヶ月のフリーズタイム? 嘘でしょ?」
キャラクターメイキングは、二回まではやり直しがきく。
三回目には完成しなくてはならず、それをリセットしてやり直す場合は、一ヶ月間のリスタート期間が発生する。
そうマニュアルに書いてあるのを確認して、小町は頭を押さえて考える。
恐る恐る、スロットの停止ボタンを押そうとして。
ふと、画面下部の左右にある『< >』のボタンに気がつく。
「これは?」
停止ボタンを押す前に、小町は>をクリック。
すると、画面が切り替わり、【スキル習得画面】に切り替わる。
さらに次のページは【初期アイテム習得画面】になり、その次はボーナスポイントのスロット画面に戻った。
「……普通は、ステータスを決めてから、スキルを習得、そしてアイテムの順番よね? でも、これってどこからでもできるって言うこと?」
改めて、箱の中に放り投げてあったゲームマニュアルを読み直す。
確かに、このオンラインゲームのキャラクターメイキングは、ステータス、スキル、アイテム、どこからやっても問題はない。
ただし、ステータスを決定してからの方が、スキルなどの補正ボーナスが得やすくなり、年齢設定や種族設定はアイテムの習得によっても左右される。
種族は、アイテムチェックで『アバター』として得なくてはならないから。
「そして、スキルは完全ランダム習得? へ? 好きなスキルをポイントを払って手に入れるわけじゃないの?」
さらには。
「初期装備もアイテムも、全てランダム? はぁ? これってどう言うことなのよ?」
慌てて画面を切り替えて、Googleを起動。
すぐさまオンラインゲームのタイトルで検索すると。
【ヨルムンガンド観光協会】
というタイトルの情報サイトを発見。
ここには『取引掲示板』という項目があり、ゲーム開始直後にアイテムを交換したい人が集まり、取引や情報交換を行なっているらしい。
「はぁ……これはまた、なんと自由奔放と言うかなんと言うか。それでいてシステム的には完全にランダムとは……でも、この不自由さが面白いわよ!!」
再び画面を切り替え、ボーナスポイント決定画面を引っ張り出すが、すぐに右クリックでアイテム習得画面に切り替える。
「まずは、アイテム!! そう、装備とかが決まってからじゃないと、スキル配分もできないわよね? ここから……って、ちょっと待って?」
アイテム習得ボタンを押す直前。
小町は考える。
それならば、先に決めるのはスキルでは無いのか?
それによって欲しいアイテムなども自ずと決まってくるし、それこそステータス配分についての考察も難しくは無い。
改めて画面をヨルムンガンド観光協会、通称『ヨル観』の取引掲示板に切り替え、どのようなものが取引されているのか調べる。
「ふむ。武器や防具はまあ、当たり前にあるわよね……って聖剣? へ? いきなりランダムアイテムで聖剣も手に入るの? 装備のランクもあるし、かと思えばポーションとか、割り箸? なんでオンラインゲームのアイテムに割り箸なんてあるのよ? しかも高いわ!!」
このオンラインゲームの前情報は、いくつものゲームサイトに流れている。
曰く、世界初のフルダイブ式MMOである
曰く、自由度が高すぎる故に、難易度が高い
曰く、夢が詰まっている
この情報プラス、デモとして流れていた現実世界のようなファンタジー映像
酒場があって、楽しそうに談話をしている人々。
鍛冶場でハンマーを振るうドワーフや、草原で魔法を詠唱しているエルフ。
そして幼い少女のような戦士が、自分の身長よりもデカい大剣を振り回し、ドラゴンに挑む。
屈強な老齢の騎士は巨大な盾を構え、ドラゴンのブレスを弾き飛ばす。
まさにファンタジーというイメージの集大成が集まっている。
そして、動画を見直して小町は理解した。
「そっか、ファンタジーだから箸はないのか。だから割り箸って、おかしいだろ運営。そこ、力入れる場所なの?」
考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。
──グゥゥゥゥゥゥゥ
そして、考えるとお腹が減ってくる。
「はぁ、何か食べないと……」
そう呟きつつ冷蔵庫を開けてから。
小町は、四日ぶりに家から出かけることを決めた。
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