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レンタル19・転移門って、夢に見たアレですよね。
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──札幌市・魔導レンタルショップ『オールレント』
長閑な昼下がり。
ここ最近は、ランチ目当てでやってくる常連がいるので、昼休みにもルーラーは働いているのだが。
今日は、午後から臨時休業であるので、喫茶カウンターに陣取っているのは朽木と飯田の二人だけ。
「ルーラーさんや、コーヒーのおかわりを頼む」
「おい朽木。このあとルーラーさんは出掛けるって話をしていただろうが」
「お? そうだったか?」
まるで話を聞いていないそぶりの朽木に、飯田もルーラーも、笑うしか無い。
ちょうどコーヒーポットを空けたかったので、ルーラーは朽木と飯田のコーヒーカップに残ったコーヒーを注ぎ入れる。
「今日このあとは、ひばりが永田町に向かわないとならなくてな。わし一人じゃとフリーの客まで手が回らんから、臨時休業するだけじゃよ」
「ほら、な。ルーラーさんが残っているんだから、構わないだろ?」
「そういう話じゃ無いんだがなぁ……全く、ルーラーさん、済まないね」
申し訳なさそうなそぶりで、右手で謝るようにしている飯田と、コーヒーを飲みつつのんびりとしている朽木。
そこに、出かける準備を終えたひばりがやってくる。
大量の手荷物を持ってボックス席までやってくると、いそいそと荷物を|収納(ポータル)バッグにしまい直す。
「随分とまあ、荷物が一杯だな。お土産か何かか?」
「朽木さん、そんなはずないでしょう? これはルーラーさんが新しく作った魔導具のサンプルですよ。これを検証して貰って、認可が取れるかどうか審査を受けないとならないのですから」
「なんだ、そんなことか」
「これで審査が通らないと、新型増毛ポーションは販売できませんからね?」
そのひばりの言葉に、朽木がオイオイと近寄っていく。
「あ、あれはどうしても必要だからな。なんとしても認可を取ってきてくれ!!」
「はいはい。前のバージョンではダメなのですか?」
「アレもいいんだが。効果時間がなぁ……」
「はいはい。それでは師匠、行って参ります!!」
「うむ。気をつけてな」
そう告げてから、ルーラーはひばりの目の前に魔法陣を起動させる。
──ブゥン
ゆっくりと古代魔法語で描かれた魔法陣が現れると、そこに大理石の門が姿を現した。
「では!!」
その小型の凱旋門のような門をひばりがくぐり抜けると、その姿がスッと消えた。
「おおお? おいルーラーさん、ひばりちゃんが消えたぞ!!」
「これは……一体、なんなんだ?」
朽木が立ち上がって、門の上をペチペチと叩く。
「それは転移門じゃよ。目的地と門をつなぐ魔法術式によって生み出された魔導具でな。今、この門は永田町の国会議事堂前に繋がっているぞ」
「へぇ、ここから行けるのか?」
「あ、おい朽木!!」
ひょいと朽木が門の中を覗き込む。
そして飯田が止める間も無く、朽木は門の向こうに消えていった。
「うわぁぁぁ、ルーラーさん、朽木が消えたぞ!!」
「まあ、向こうにも門はあるので。そこを通れば帰って来れるから安心じゃよ」
「そ、そうなのか……」
ルーラーの説明を聞いて、飯田は一安心。
そして十分後に、朽木幹申し訳なさそうな顔で門から出てきた。
「はぁ……これは参ったわ」
「朽木、お前はもう少し、好奇心を抑えたほうがいいぞ!!」
「あ~、怒鳴るな怒鳴るな。向こうでひばりちゃんにもガッツリと怒られたわ」
やれやれとカウンターに戻ってきたので、ルーラーは新しく入れ直したコーヒーを朽木のカップに注いだ。
「まあ、あの門の出口は、国会議事堂の敷地内にある『魔導対策省』の建物の中に繋がっておるからなぁ。関係者以外は立ち入り禁止じゃから、ひばりに見つかって怒られたんじやろ?」
そうルーラーが問いかけると、朽木は申し訳なさそうに頭を下げる。
まさか朽木が門から出てくるとは思っていなかったらしく、ひばりも朽木に注意喚起したのである。
「しかし。出口が決まっているとは、実に残念だな。これでどこにでも行けるのなら、それこそ旅行し放題じゃないか?」
「あ~。漫画のアレか。確かに夢だなぁ……」
「いや、わしがいったことある場所なら空間を繋げることはできるが?」
あっさりと朽木と飯田のノスタルジー感をひっくり返すルーラー。
この一言には、二人とも呆然としてしまう。
「いや待てルーラーさん。今、俺は国会議事堂の近くまで行ったぞ?」
「そりゃあ、転移座標をそこに設定したからな。その門はな、ここから指定した場所に門を作り出し、その間を行き来することができるのでな。国会議事堂近くに作ったものは、そのまま|永続化(パーマネント)の術式を施して消えなくしたものじゃよ」
つまり。
固定化した門とは簡単に行き来可能。
ルーラーが行ったことある場所には、座標指定することでその場に門を作り出すことができる。
ちょっと手間がかかっているが、目的地限定ではあるが自由に旅行ぐらいは簡単にできる。
「そうか……って、ルーラーさん、これがあればどんなところにも旅をすることができるのじゃないか?」
「まあ、ルーラーさんの言ったことある場所限定だがな」
「……まあ、不可能じゃないが」
少し困った顔のルーラー。
こっちの世界に来てからは、あまり旅行などしたことはない。
来た当初は日本国先の習得から始まり、魔法等関連法案などの法律施行に関する手伝い、魔導具開発などなどと忙しい時間を過ごしていたから。
そしてオールレントが軌道に乗ってからも、この札幌市でのんびりとしていた。
そもそも、観光旅行などという概念は、ルーラーの世界には存在しない。
普通の人間は生まれたら死ぬまで、街の近くに仕事で行くことはあっても観光など行わない。
貴族が慰安の為に旅に出ることはあるが、それは温泉で体を休めたり大聖堂のある王都に向かい、洗礼を受けたり。
それ故に、ルーラーにも観光旅行という感覚は欠如していた。
「よし、それなら早速いこうじゃないか!!」
「待て待て。二時から予約客が来るのじゃからな。旅行に行きたいというのなら、明日の朝にしてくれ。明日は日曜日で休みじゃからな」
「よし!! 飯田。今から本屋に行って観光ガイドを買ってくるぞ」
「なんだそりゃ?」
行き先もわからないのに、観光ガイドを買いに行こうとする朽木。
また面倒臭いことを考えたなぁと、飯田は半ば呆れ果てて着いていくことにした。
そしてルーラーは、午後の予約客のためにコーヒーを落とし直すと、しばらくの間、一人の時間を楽しむ事にした。
長閑な昼下がり。
ここ最近は、ランチ目当てでやってくる常連がいるので、昼休みにもルーラーは働いているのだが。
今日は、午後から臨時休業であるので、喫茶カウンターに陣取っているのは朽木と飯田の二人だけ。
「ルーラーさんや、コーヒーのおかわりを頼む」
「おい朽木。このあとルーラーさんは出掛けるって話をしていただろうが」
「お? そうだったか?」
まるで話を聞いていないそぶりの朽木に、飯田もルーラーも、笑うしか無い。
ちょうどコーヒーポットを空けたかったので、ルーラーは朽木と飯田のコーヒーカップに残ったコーヒーを注ぎ入れる。
「今日このあとは、ひばりが永田町に向かわないとならなくてな。わし一人じゃとフリーの客まで手が回らんから、臨時休業するだけじゃよ」
「ほら、な。ルーラーさんが残っているんだから、構わないだろ?」
「そういう話じゃ無いんだがなぁ……全く、ルーラーさん、済まないね」
申し訳なさそうなそぶりで、右手で謝るようにしている飯田と、コーヒーを飲みつつのんびりとしている朽木。
そこに、出かける準備を終えたひばりがやってくる。
大量の手荷物を持ってボックス席までやってくると、いそいそと荷物を|収納(ポータル)バッグにしまい直す。
「随分とまあ、荷物が一杯だな。お土産か何かか?」
「朽木さん、そんなはずないでしょう? これはルーラーさんが新しく作った魔導具のサンプルですよ。これを検証して貰って、認可が取れるかどうか審査を受けないとならないのですから」
「なんだ、そんなことか」
「これで審査が通らないと、新型増毛ポーションは販売できませんからね?」
そのひばりの言葉に、朽木がオイオイと近寄っていく。
「あ、あれはどうしても必要だからな。なんとしても認可を取ってきてくれ!!」
「はいはい。前のバージョンではダメなのですか?」
「アレもいいんだが。効果時間がなぁ……」
「はいはい。それでは師匠、行って参ります!!」
「うむ。気をつけてな」
そう告げてから、ルーラーはひばりの目の前に魔法陣を起動させる。
──ブゥン
ゆっくりと古代魔法語で描かれた魔法陣が現れると、そこに大理石の門が姿を現した。
「では!!」
その小型の凱旋門のような門をひばりがくぐり抜けると、その姿がスッと消えた。
「おおお? おいルーラーさん、ひばりちゃんが消えたぞ!!」
「これは……一体、なんなんだ?」
朽木が立ち上がって、門の上をペチペチと叩く。
「それは転移門じゃよ。目的地と門をつなぐ魔法術式によって生み出された魔導具でな。今、この門は永田町の国会議事堂前に繋がっているぞ」
「へぇ、ここから行けるのか?」
「あ、おい朽木!!」
ひょいと朽木が門の中を覗き込む。
そして飯田が止める間も無く、朽木は門の向こうに消えていった。
「うわぁぁぁ、ルーラーさん、朽木が消えたぞ!!」
「まあ、向こうにも門はあるので。そこを通れば帰って来れるから安心じゃよ」
「そ、そうなのか……」
ルーラーの説明を聞いて、飯田は一安心。
そして十分後に、朽木幹申し訳なさそうな顔で門から出てきた。
「はぁ……これは参ったわ」
「朽木、お前はもう少し、好奇心を抑えたほうがいいぞ!!」
「あ~、怒鳴るな怒鳴るな。向こうでひばりちゃんにもガッツリと怒られたわ」
やれやれとカウンターに戻ってきたので、ルーラーは新しく入れ直したコーヒーを朽木のカップに注いだ。
「まあ、あの門の出口は、国会議事堂の敷地内にある『魔導対策省』の建物の中に繋がっておるからなぁ。関係者以外は立ち入り禁止じゃから、ひばりに見つかって怒られたんじやろ?」
そうルーラーが問いかけると、朽木は申し訳なさそうに頭を下げる。
まさか朽木が門から出てくるとは思っていなかったらしく、ひばりも朽木に注意喚起したのである。
「しかし。出口が決まっているとは、実に残念だな。これでどこにでも行けるのなら、それこそ旅行し放題じゃないか?」
「あ~。漫画のアレか。確かに夢だなぁ……」
「いや、わしがいったことある場所なら空間を繋げることはできるが?」
あっさりと朽木と飯田のノスタルジー感をひっくり返すルーラー。
この一言には、二人とも呆然としてしまう。
「いや待てルーラーさん。今、俺は国会議事堂の近くまで行ったぞ?」
「そりゃあ、転移座標をそこに設定したからな。その門はな、ここから指定した場所に門を作り出し、その間を行き来することができるのでな。国会議事堂近くに作ったものは、そのまま|永続化(パーマネント)の術式を施して消えなくしたものじゃよ」
つまり。
固定化した門とは簡単に行き来可能。
ルーラーが行ったことある場所には、座標指定することでその場に門を作り出すことができる。
ちょっと手間がかかっているが、目的地限定ではあるが自由に旅行ぐらいは簡単にできる。
「そうか……って、ルーラーさん、これがあればどんなところにも旅をすることができるのじゃないか?」
「まあ、ルーラーさんの言ったことある場所限定だがな」
「……まあ、不可能じゃないが」
少し困った顔のルーラー。
こっちの世界に来てからは、あまり旅行などしたことはない。
来た当初は日本国先の習得から始まり、魔法等関連法案などの法律施行に関する手伝い、魔導具開発などなどと忙しい時間を過ごしていたから。
そしてオールレントが軌道に乗ってからも、この札幌市でのんびりとしていた。
そもそも、観光旅行などという概念は、ルーラーの世界には存在しない。
普通の人間は生まれたら死ぬまで、街の近くに仕事で行くことはあっても観光など行わない。
貴族が慰安の為に旅に出ることはあるが、それは温泉で体を休めたり大聖堂のある王都に向かい、洗礼を受けたり。
それ故に、ルーラーにも観光旅行という感覚は欠如していた。
「よし、それなら早速いこうじゃないか!!」
「待て待て。二時から予約客が来るのじゃからな。旅行に行きたいというのなら、明日の朝にしてくれ。明日は日曜日で休みじゃからな」
「よし!! 飯田。今から本屋に行って観光ガイドを買ってくるぞ」
「なんだそりゃ?」
行き先もわからないのに、観光ガイドを買いに行こうとする朽木。
また面倒臭いことを考えたなぁと、飯田は半ば呆れ果てて着いていくことにした。
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